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13 復讐鬼-1-
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次の日からカイロウは”ドクター”としての彼を辞めた。
施設には今も四肢を失った患者が運び込まれてくるが、コルドーやリエを中心にスタッフが施術にあたっている。
彼らもまた優秀な技術者だ。
カイロウに及びはしないが、人員と時間さえあれば彼に近づくことはできる。
実際、義肢の完成度は高い。
スタッフの多くが彼の傍で技術を盗み、腕を磨いてきた結果だ。
どうにも患者の身体に適合しない場合でも、カイロウが事前にパーツを確保していたおかげで対応できる。
少なくとも1ヵ月くらいなら、彼が不在でも施設は不自由しないだろう。
それを確認した彼はレキシベル工業に赴いた。
受付は顔を覚えていて、すぐにウォーレスに取り次いだ。
「どうしたドクター、また調べものか?」
平素は豪放磊落な彼はカイロウの姿を認めるなり緊張した顔つきになった。
「いや、ちがう。今日は仕事と世間話だ」
そう言い、いつものバッグからいつもの品を取り出す。
「納期までまだ半月以上あるぞ?」
ウォーレスは怪訝そうに言った。
仕事の早さと正確性は認めているが、これはいくらなんでも早すぎだ。
もしや、と思っていくつかを手に取って見定める。
「うむ…………」
品質に問題はなかった。
まさしく彼が知るとおりの腕前だ。
「どうやってこんなに早く仕上げたんだ?」
「仕事をひとつ削った」
「大丈夫なのか?」
ウォーレスは彼がいくつかの仕事をかけもちしていることは聞いていたが、その内容までは知らない。
副業を切ったのだとしたら、いよいよ正式に雇用しようかと提案しようとしたが、
「断っておくが、ここで働くつもりはないぞ」
それより先にカイロウが釘を刺した。
「残念だな」
世辞ではない。
副業を辞めるだけでこれだけの品質のものをこの早さで仕上げることができるなら、いくら出しても足りないくらいだ。
自社の発展を一番に考える彼にとって、カイロウは手離してはならない存在だった。
「………………」
そしてそれはカイロウ自身も分かっていることだった。
この男は驕慢ではなかったが、己の技量には誇りを持っていた。
レキシベルには多大な貢献をしてきたという自負がある。
顔を合わせるたびにウェーレスが社員登用を持ちかけてくるものだから、嫌でもそんな考えを抱いてしまう。
だからこそこれからする話は、自分を買ってくれたレキシベルを裏切るようで心辛かった。
「なあ、ウォーレス。その……ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」
珍しいじゃないか、といつもなら軽口を叩くところだった。
カイロウという人物は雑談や世間話を積極的にするタイプではない。
したがって彼との会話はビジネスかそれに付随する事柄ばかりである。
しかもいつも単刀直入に切り出し、言葉も飾らないからウォーレスとしても会話のテンポには心地良さを感じている。
その彼が普段になく言い淀んでいる。
それなりの付き合いをしていれば、これは只事ではないと容易に想像がついた。
「何か深刻そうだな?」
このところのカイロウの様子について、彼は抱いていた違和感について振り返った。
前回はクジラ絡みだった。
国に納めたハズの部品が恵みの雨となって降ってきた。
物品が循環しているのではないかという話になり、国は部品を何に使っているのかという疑問が生じた。
彼は気にしないようにしていたが、あの時の口ぶりからカイロウは知りたがっているように見えた。
そして今日である。
副業を蹴ってまで納品を急いだからには、相当な理由があるにちがいない。
施設には今も四肢を失った患者が運び込まれてくるが、コルドーやリエを中心にスタッフが施術にあたっている。
彼らもまた優秀な技術者だ。
カイロウに及びはしないが、人員と時間さえあれば彼に近づくことはできる。
実際、義肢の完成度は高い。
スタッフの多くが彼の傍で技術を盗み、腕を磨いてきた結果だ。
どうにも患者の身体に適合しない場合でも、カイロウが事前にパーツを確保していたおかげで対応できる。
少なくとも1ヵ月くらいなら、彼が不在でも施設は不自由しないだろう。
それを確認した彼はレキシベル工業に赴いた。
受付は顔を覚えていて、すぐにウォーレスに取り次いだ。
「どうしたドクター、また調べものか?」
平素は豪放磊落な彼はカイロウの姿を認めるなり緊張した顔つきになった。
「いや、ちがう。今日は仕事と世間話だ」
そう言い、いつものバッグからいつもの品を取り出す。
「納期までまだ半月以上あるぞ?」
ウォーレスは怪訝そうに言った。
仕事の早さと正確性は認めているが、これはいくらなんでも早すぎだ。
もしや、と思っていくつかを手に取って見定める。
「うむ…………」
品質に問題はなかった。
まさしく彼が知るとおりの腕前だ。
「どうやってこんなに早く仕上げたんだ?」
「仕事をひとつ削った」
「大丈夫なのか?」
ウォーレスは彼がいくつかの仕事をかけもちしていることは聞いていたが、その内容までは知らない。
副業を切ったのだとしたら、いよいよ正式に雇用しようかと提案しようとしたが、
「断っておくが、ここで働くつもりはないぞ」
それより先にカイロウが釘を刺した。
「残念だな」
世辞ではない。
副業を辞めるだけでこれだけの品質のものをこの早さで仕上げることができるなら、いくら出しても足りないくらいだ。
自社の発展を一番に考える彼にとって、カイロウは手離してはならない存在だった。
「………………」
そしてそれはカイロウ自身も分かっていることだった。
この男は驕慢ではなかったが、己の技量には誇りを持っていた。
レキシベルには多大な貢献をしてきたという自負がある。
顔を合わせるたびにウェーレスが社員登用を持ちかけてくるものだから、嫌でもそんな考えを抱いてしまう。
だからこそこれからする話は、自分を買ってくれたレキシベルを裏切るようで心辛かった。
「なあ、ウォーレス。その……ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」
珍しいじゃないか、といつもなら軽口を叩くところだった。
カイロウという人物は雑談や世間話を積極的にするタイプではない。
したがって彼との会話はビジネスかそれに付随する事柄ばかりである。
しかもいつも単刀直入に切り出し、言葉も飾らないからウォーレスとしても会話のテンポには心地良さを感じている。
その彼が普段になく言い淀んでいる。
それなりの付き合いをしていれば、これは只事ではないと容易に想像がついた。
「何か深刻そうだな?」
このところのカイロウの様子について、彼は抱いていた違和感について振り返った。
前回はクジラ絡みだった。
国に納めたハズの部品が恵みの雨となって降ってきた。
物品が循環しているのではないかという話になり、国は部品を何に使っているのかという疑問が生じた。
彼は気にしないようにしていたが、あの時の口ぶりからカイロウは知りたがっているように見えた。
そして今日である。
副業を蹴ってまで納品を急いだからには、相当な理由があるにちがいない。
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