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7 胡乱-4-
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翌日、カイロウは手土産を提げてレキシベル工業を訪ねた。
工員はさらに増えたらしい。
室内の設備が足りないのか、建物の外で作業している姿がそこかしこにあった。
「カイロウと言います。ウォーレス様にお会いしたいのですが」
受付で用件を伝え、彼の到着を待つ。
第一声は何だろうか、と想像してみる。
訪問予定日は今日ではないから、まずそのことに触れるだろうか。
あるいは受注品が思いのほか早く出来上がったと勘違いして喜ぶだろうか。
もしかしたら来訪自体に驚くかもしれない。
「………………」
いずれの場合であっても即座にあのワードを否定する準備をしておく。
怪訝そうな表情でウォーレスがやって来た。
「待たせたな、ド――」
「私は技師だ。医者じゃない」
用意をしておいて良かった、とカイロウは思った。
こうやって釘を刺しておけば彼も呼び方を改めるだろう。
「一体どうしたことなんだ? 予定にはまだ早すぎると思うが」
カイロウの技量は知っているつもりだが、彼の腕前は早さではなく正確さだ。
そのために納期ぎりぎりの完成となることもしばしばあるが、精度の高さには変えられない。
「相談したいことがあって来たんだ。いつもの部屋を借りてもいいか?」
「かまわないが……」
ウォーレスは疑念を強くした。
この男は自分から何かを切り出すことは滅多にしない。
ましてや今のように行動を急かすような性分ではない。
何か問題でもあったのかもしれない、と彼は身構えた。
部屋へ通すなり、カイロウは例の金属板をテーブルに並べた。
「これは……?」
彼に製造を依頼していたパーツと酷似していたため、ウォーレスは早くも完成したのかと思った。
が、よく見るとそうではないとすぐに分かる。
傷だらけの失敗作だ。
手に取って裏返した彼は瞬時に顔色を変えた。
「これをどこで?」
「取引している調達屋が拾ってきた。数日前にクジラから降ってきたものらしい」
「クジラから……?」
そう言われてもウォーレスにはピンとこない。
彼くらい成功してゆとりのある者は、クジラの恩恵にすがらなくとも生きていける。
調達屋と直接交渉する機会もないから、そのあたりの感覚には疎かった。
「たしかなのか?」
「信頼できる人物だ。ウソはつかない」
「ふむ……」
ウォーレスはあごに手を当てて唸った。
しばらく何事かを考えていた彼はデスクの内線機器を事務方につないだ。
「すまないが今から言う納品記録を持って来てくれないか。期間は5年前から現在までで、記号は――」
内線を切り、再びテーブルの前に腰をおろした彼は小さく息を吐いた。
「これはうちの製品だ。きみが製造し、うちが仕上げと検査をして国に納めたものに間違いない」
そう言い、金属板に刻まれた文字を指差す。
「ここの記号は製造する会社、年代ごとに異なる。頭の4ケタはレキシベルを表すマークだ。これを刻んで納品するんだ」
「やはりそうか……」
カイロウはようやく得心した。
彼は自分が手掛けたパーツにはそれと分かるようにサインを刻む。
それがそのままレキシベル工業に渡り、政府に納品されるため、引き渡したパーツの行方について彼は知り得なかった。
サインした後に別の文字が刻まれるなら、流れからしてレキシベルか政府のどちらかが施したものだと推測できる。
それがどちらであるのか、ウォーレスの説明でようやく判明した。
部屋をノックする者があった。
「失礼します。納品データ持ってきましたよ」
数名の男がファイルを運び込む。
5年分の記録であるため、元々厚いファイルは十数冊に及んだ。
「ああ、ありがとう」
男たちを下がらせ、ファイルから履歴をたどる。
パーツにはロットごとにエラーチェック用のマークも合わせて刻印されており当然、その組み合わせはレキシベルしか知り得ない。
外部の人間には偽造できないハズだから、刻まれた文字と記録が一致すれば、間違いなくレキシベルから納品されたものと証明できる。
全ての金属板との照合を終え、ウォーレスは複雑な表情で言った。
工員はさらに増えたらしい。
室内の設備が足りないのか、建物の外で作業している姿がそこかしこにあった。
「カイロウと言います。ウォーレス様にお会いしたいのですが」
受付で用件を伝え、彼の到着を待つ。
第一声は何だろうか、と想像してみる。
訪問予定日は今日ではないから、まずそのことに触れるだろうか。
あるいは受注品が思いのほか早く出来上がったと勘違いして喜ぶだろうか。
もしかしたら来訪自体に驚くかもしれない。
「………………」
いずれの場合であっても即座にあのワードを否定する準備をしておく。
怪訝そうな表情でウォーレスがやって来た。
「待たせたな、ド――」
「私は技師だ。医者じゃない」
用意をしておいて良かった、とカイロウは思った。
こうやって釘を刺しておけば彼も呼び方を改めるだろう。
「一体どうしたことなんだ? 予定にはまだ早すぎると思うが」
カイロウの技量は知っているつもりだが、彼の腕前は早さではなく正確さだ。
そのために納期ぎりぎりの完成となることもしばしばあるが、精度の高さには変えられない。
「相談したいことがあって来たんだ。いつもの部屋を借りてもいいか?」
「かまわないが……」
ウォーレスは疑念を強くした。
この男は自分から何かを切り出すことは滅多にしない。
ましてや今のように行動を急かすような性分ではない。
何か問題でもあったのかもしれない、と彼は身構えた。
部屋へ通すなり、カイロウは例の金属板をテーブルに並べた。
「これは……?」
彼に製造を依頼していたパーツと酷似していたため、ウォーレスは早くも完成したのかと思った。
が、よく見るとそうではないとすぐに分かる。
傷だらけの失敗作だ。
手に取って裏返した彼は瞬時に顔色を変えた。
「これをどこで?」
「取引している調達屋が拾ってきた。数日前にクジラから降ってきたものらしい」
「クジラから……?」
そう言われてもウォーレスにはピンとこない。
彼くらい成功してゆとりのある者は、クジラの恩恵にすがらなくとも生きていける。
調達屋と直接交渉する機会もないから、そのあたりの感覚には疎かった。
「たしかなのか?」
「信頼できる人物だ。ウソはつかない」
「ふむ……」
ウォーレスはあごに手を当てて唸った。
しばらく何事かを考えていた彼はデスクの内線機器を事務方につないだ。
「すまないが今から言う納品記録を持って来てくれないか。期間は5年前から現在までで、記号は――」
内線を切り、再びテーブルの前に腰をおろした彼は小さく息を吐いた。
「これはうちの製品だ。きみが製造し、うちが仕上げと検査をして国に納めたものに間違いない」
そう言い、金属板に刻まれた文字を指差す。
「ここの記号は製造する会社、年代ごとに異なる。頭の4ケタはレキシベルを表すマークだ。これを刻んで納品するんだ」
「やはりそうか……」
カイロウはようやく得心した。
彼は自分が手掛けたパーツにはそれと分かるようにサインを刻む。
それがそのままレキシベル工業に渡り、政府に納品されるため、引き渡したパーツの行方について彼は知り得なかった。
サインした後に別の文字が刻まれるなら、流れからしてレキシベルか政府のどちらかが施したものだと推測できる。
それがどちらであるのか、ウォーレスの説明でようやく判明した。
部屋をノックする者があった。
「失礼します。納品データ持ってきましたよ」
数名の男がファイルを運び込む。
5年分の記録であるため、元々厚いファイルは十数冊に及んだ。
「ああ、ありがとう」
男たちを下がらせ、ファイルから履歴をたどる。
パーツにはロットごとにエラーチェック用のマークも合わせて刻印されており当然、その組み合わせはレキシベルしか知り得ない。
外部の人間には偽造できないハズだから、刻まれた文字と記録が一致すれば、間違いなくレキシベルから納品されたものと証明できる。
全ての金属板との照合を終え、ウォーレスは複雑な表情で言った。
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