蒼いクジラとネジ巻き人間

JEDI_tkms1984

文字の大きさ
上 下
17 / 101

7 胡乱-2-

しおりを挟む
「あ、そうだ! すっかり忘れてましたわ」

 ダージは腰袋から数枚の金属板を取り出した。

「銅板か? 今回は頼んでいないハズだが――」

「いや、そうじゃねえんですよ。このあいだ拾ってきたものなんですがね」

 彼は作業台に銅板を並べ、それを一枚ずつ裏返した。

「ほら、手を加えた跡があるでしょう? そういやダンナが似たようなものを作っていたのを思い出しましてね」

 カイロウは訝しげにそれを手に取った。

「何か心当たりはありますかい? いや、なけりゃいいんだ。でもどうにも引っかかっちまいまして……」

「………………」

 金属板を手にしたまま、カイロウはそれをじっと凝視した。

「あの、ダンナ…………?」

 ダージは額に手を当てた。

 これはまた彼の気に障ることをしてしまったのではないか。

 カイロウには技師としてのプライドがある。

 ガレキの山から拾ってきたものを、あなたが作っているものに似ていると言われれば気分を害するのは当然ではないか。

 なぜそこまで気を回せないのか。

 彼は自分の軽々しさがつくづく嫌になった。

「す、すみません……そういうつもりじゃ……!」

 ダージはその場に膝をついた。

 己の迂闊さが招いたことだが、それゆえに彼は謝り方というものも分からなかった。

 下手な謝罪をすれば火に油を注ぎかねない。

 どうにか怒りを鎮めなければ、と思っていたところに、

「なんで座っているんだ?」

 カイロウがとぼけた口調で問うた。

「…………はい?」

 こちらも気の抜けた返事をしてしまう。

「ああ、さっき落としたネジを探してくれているのか」

 彼がそう言ったので、ダージは慌てて作業台の下にもぐってネジを拾い上げた。

「ああ、あの、怒ってるワケじゃないんですかい……?」

「どうして怒る必要があるんだ?」

 両者の会話は噛み合わない。

 ダージはその理由を言おうとしてやめた。

 頭の中を整理する前に質問が飛んできたからだ。

「それより、拾ってきたと言ったな?」

「は、はい」

「どこで?」

「第3の聖地――と言えば分かりますかい?」

「いや、分からない」

「ここから北に2時間ほど歩いたところにある丘ですわ。丘と言っても恵みの雨が降り積もってできたものですがね」

 カイロウは金属板を何度も返して観察した。

 いくつかは割れ欠けていて、無数の小さな傷がついていた。

 先の尖ったもので何度も引っ掻いたような跡や、高熱でひしゃげた部分もある。

「そうか…………」

 裏側に刻まれた記号を指先でなぞる。

 これには見覚えがあった。

「きみは優れた調達屋だと思っているし、信頼もしている。だからきっといろんなものを目利きできるだろう」

「はあ…………?」

 脈絡もなく褒められ、ダージは返答に窮した。

 こういう手口は彼の苦手とするところだ。

 良いも悪いもハッキリ言ってもらったほうが分かりやすい。

「そこで訊くが、これは誰かが捨てていったものだろうか?」

 彼はしばらく考えてかぶりを振った。

「それはないでしょうな。拾う奴はいても、わざわざあそこに捨てに行く奴なんざいませんぜ」

「そうなのか?」

「こういう事情はオレたちだけの秘密なんですが、ダンナには特別にお教えしますわ。さっきのお礼だ」

 彼は少し得意気に言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

処理中です...