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6 ある老翁-1-
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「ではこちらを。念のためご確認ください」
朝早くに、ウォーレスの使いの男がやって来た。
野性的な彼とちがい、こちらは身だしなみもしっかりしていて紳士的だ。
「たしかに頂戴した」
受取書に署名して男に渡す。
引き換えに得た金貨銀貨はかなりの量だ。
「では私はこれで」
男は用件を終えるとすぐに退散した。
癒着の原因を生むから、お金を扱う役目はたとえカイロウといえども親しくならないほうがいい。
彼はそのことをよく心得ているようだった。
袋いっぱいの貨幣をカイロウは3つに分けた。
ひとつはダージへの支払いの分。
前回未払いになっているので余裕を見て確保しておく。
もうひとつは自身の衣食住のためだ。
これは必要最低限でよい。
一切の娯楽に興味がない彼には、生きていけるだけのお金があればいい。
そして最後のひとつ。
これが最も重要だ。
報酬の大半はこちらに分配されている。
カイロウはそれをバッグに詰めた。
ベッドの裏に隠しておいた拳銃を取り出し、懐に隠す。
彼が自ら作製したものだから、しっかりと手に馴染む。
半年は遊んで暮らせるほどの金額だから、万が一のことがあってはならない。
そういう状況にならないに越したことはないが、いざとなれば彼は躊躇いなく引き金を引く。
日が充分に昇るのを待ってから彼は出かけた。
昼間なら強盗の類もおとなしくしているだろう。
もっとも今日は霧が濃いせいで、外はお世辞にも明るいとはいえない。
こういう時は人通りも少ないので注意が必要だ。
できるだけ見通しの良い、広い場所を選んで歩く。
いくつかの露店が並んでいた。
売り物は質の悪い野菜や肉が大半を占める。
こんなものでも火を通せば食用には堪えられるからと、店側も価格設定は強気だ。
当然、買う客はほとんどいない。
行く人々の多くが足を止めるのは、近くにある雑貨店だ。
雑貨といっても並んでいるのは防具の類ばかりだ。
濃霧対策用のゴーグル付きヘッドギアが人気らしく、品薄状態が続いている。
他には賊が多いことから甲冑のような重厚なものもある。
いずれはこういう防具も必要になるかもしれない、とカイロウは思った。
その後もいくつかの店を横目に通りを過ぎると、正面の広場に人だかりができていた。
(ああ、また宗教の類か)
彼は特段、気にも留めない。
社会が行き詰まると形而上の存在にすがりたくなるのは人間の悲しい習性だ。
クジラは具体的に目に見える存在だが、手の届かないところにいるという点では神と同じだ。
(なにがお恵みだ……!)
娘を奪われた彼にとって、クジラを崇める宗教団体は誘拐犯を賛美しているようにしか見えなかった。
審判の日がどうだとか、天の光が霧を吹き飛ばしてくれるだとか、彼にはお為ごかし以外の何ものでもない。
「こんなところにいても気分が悪くなるだけだ」
最後はとうとう不満を声に出してしまい、カイロウは人だかりに背を向けた。
そちらを見ないようにして通り過ぎたため、彼はコルドーが傍にいることに気付かなかった。
朝早くに、ウォーレスの使いの男がやって来た。
野性的な彼とちがい、こちらは身だしなみもしっかりしていて紳士的だ。
「たしかに頂戴した」
受取書に署名して男に渡す。
引き換えに得た金貨銀貨はかなりの量だ。
「では私はこれで」
男は用件を終えるとすぐに退散した。
癒着の原因を生むから、お金を扱う役目はたとえカイロウといえども親しくならないほうがいい。
彼はそのことをよく心得ているようだった。
袋いっぱいの貨幣をカイロウは3つに分けた。
ひとつはダージへの支払いの分。
前回未払いになっているので余裕を見て確保しておく。
もうひとつは自身の衣食住のためだ。
これは必要最低限でよい。
一切の娯楽に興味がない彼には、生きていけるだけのお金があればいい。
そして最後のひとつ。
これが最も重要だ。
報酬の大半はこちらに分配されている。
カイロウはそれをバッグに詰めた。
ベッドの裏に隠しておいた拳銃を取り出し、懐に隠す。
彼が自ら作製したものだから、しっかりと手に馴染む。
半年は遊んで暮らせるほどの金額だから、万が一のことがあってはならない。
そういう状況にならないに越したことはないが、いざとなれば彼は躊躇いなく引き金を引く。
日が充分に昇るのを待ってから彼は出かけた。
昼間なら強盗の類もおとなしくしているだろう。
もっとも今日は霧が濃いせいで、外はお世辞にも明るいとはいえない。
こういう時は人通りも少ないので注意が必要だ。
できるだけ見通しの良い、広い場所を選んで歩く。
いくつかの露店が並んでいた。
売り物は質の悪い野菜や肉が大半を占める。
こんなものでも火を通せば食用には堪えられるからと、店側も価格設定は強気だ。
当然、買う客はほとんどいない。
行く人々の多くが足を止めるのは、近くにある雑貨店だ。
雑貨といっても並んでいるのは防具の類ばかりだ。
濃霧対策用のゴーグル付きヘッドギアが人気らしく、品薄状態が続いている。
他には賊が多いことから甲冑のような重厚なものもある。
いずれはこういう防具も必要になるかもしれない、とカイロウは思った。
その後もいくつかの店を横目に通りを過ぎると、正面の広場に人だかりができていた。
(ああ、また宗教の類か)
彼は特段、気にも留めない。
社会が行き詰まると形而上の存在にすがりたくなるのは人間の悲しい習性だ。
クジラは具体的に目に見える存在だが、手の届かないところにいるという点では神と同じだ。
(なにがお恵みだ……!)
娘を奪われた彼にとって、クジラを崇める宗教団体は誘拐犯を賛美しているようにしか見えなかった。
審判の日がどうだとか、天の光が霧を吹き飛ばしてくれるだとか、彼にはお為ごかし以外の何ものでもない。
「こんなところにいても気分が悪くなるだけだ」
最後はとうとう不満を声に出してしまい、カイロウは人だかりに背を向けた。
そちらを見ないようにして通り過ぎたため、彼はコルドーが傍にいることに気付かなかった。
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