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新たなる脅威篇
5 復讐の始まり-7-
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東の空が時おり赤く光るのをフェルノーラは見ていた。
手にした銃はライネから預かったものとは別物。
兵士たちから借りたもので、単純な構造のために民間人でも扱える代物だ。
とはいえ軍人が用いる武器だからドールを一撃で粉砕する程度の威力はある。
「ほんとにいいのか?」
ライネが問う。
拳を鳴らしながら彼女はフェルノーラに向きなおった。
子どもや老人、傷病者は病院船に運び込まれている最中だ。
健康な者も非戦闘員であるため後続の艦へ乗り込むよう勧められているが、ここに残って戦いたいという者も多い。
「私は戦えるから」
あなたには負けない、と言っているようだった。
彼女には銃を用いた実戦の経験がある。
あの時とはまるで立場が逆だが、自分を守るための戦いであるという意味では同じだ。
「そっか――」
微苦笑したライネは周囲を見回した。
自ら武器をとり、戦おうとしているプラトウの民は40人ほど。
資材や輸送車を塹壕代わりにかまえる彼らは場慣れしているようにも見える。
それもそのハズで、大半が重鎮たちとともにエルドランへ急襲をかけた者たちだ。
銃の扱いにも心得がある。
イエレドが読んだとおり、シェイドは前に出ていた。
奇跡を起こした若き皇帝がいることで、民の士気は上がっている。
(アタシも負けてられねえか……)
ライネは少し前、イエレドとひそかに交わした言葉を思い返した。
「連中の狙いはシェイド様とこの町の両方だろう」
「シェイドく――様だけじゃないってこと?」
「先帝の信奉者は多い。シェイド様を亡き者にし、さらに発端となったプラトウを焼き尽くして新政権を根から断つ――過激派はそれくらいはやる」
「今でさえこんなひどい状況なのにそこまでやるのかよ……」
「この町は新政権の象徴でもあるからな」
「全員をどこかに避難させて、完全に復興したら戻って来るってことはできないの?」
「それだけの余裕があればいいが……それに離れたくないという人もいるだろう」
イエレドは大息した。
今は国中が疲弊している。
ペルガモンの暴政や叛乱の傷が癒えておらず、あらゆるものが足りない。
人もモノも、人の心も――。
たとえシェイドの出身地といえども、辺境の小さな町に割く余裕はない。
我が国の困窮ぶりを知ってか知らでか、あるいは郷土愛によるものか。
民は戦うことを選んだ。
(………………)
シェイドは呼吸を整え、指先へと意識を集中する。
ミストが集まっているハズだが、皮膚ではそれを感じ取れない。
辺りを見回す。
空気が張りつめている。
音は少しずつ大きくなっている。
光はより強さを増している。
正体不明の敵が近づいてきている証拠だった。
「…………」
深く息を吸い込む。
いつも、いつでも覚悟はできていた。
あの時と同じように、同郷の者は戦うと言っている。
だがもし被害が大きくなるようなら、シェイドは自分を差し出して幕引きを図るつもりだった。
その身がどうなるかは考えるまでもないが、それでプラトウが助かるなら安いものだと。
(――なんて考えてる顔ね)
横目でちらりと見やったフェルノーラは瞬時に彼の考えを見抜いた。
だとしたら少しばかり面白くない。
プラトウの命運が彼たったひとりに懸かっているのだとしたら、自分たちの存在は何だというのだ。
「来たぞ!」
誰かが叫んだとき、砲弾はすでに放たれていた。
手にした銃はライネから預かったものとは別物。
兵士たちから借りたもので、単純な構造のために民間人でも扱える代物だ。
とはいえ軍人が用いる武器だからドールを一撃で粉砕する程度の威力はある。
「ほんとにいいのか?」
ライネが問う。
拳を鳴らしながら彼女はフェルノーラに向きなおった。
子どもや老人、傷病者は病院船に運び込まれている最中だ。
健康な者も非戦闘員であるため後続の艦へ乗り込むよう勧められているが、ここに残って戦いたいという者も多い。
「私は戦えるから」
あなたには負けない、と言っているようだった。
彼女には銃を用いた実戦の経験がある。
あの時とはまるで立場が逆だが、自分を守るための戦いであるという意味では同じだ。
「そっか――」
微苦笑したライネは周囲を見回した。
自ら武器をとり、戦おうとしているプラトウの民は40人ほど。
資材や輸送車を塹壕代わりにかまえる彼らは場慣れしているようにも見える。
それもそのハズで、大半が重鎮たちとともにエルドランへ急襲をかけた者たちだ。
銃の扱いにも心得がある。
イエレドが読んだとおり、シェイドは前に出ていた。
奇跡を起こした若き皇帝がいることで、民の士気は上がっている。
(アタシも負けてられねえか……)
ライネは少し前、イエレドとひそかに交わした言葉を思い返した。
「連中の狙いはシェイド様とこの町の両方だろう」
「シェイドく――様だけじゃないってこと?」
「先帝の信奉者は多い。シェイド様を亡き者にし、さらに発端となったプラトウを焼き尽くして新政権を根から断つ――過激派はそれくらいはやる」
「今でさえこんなひどい状況なのにそこまでやるのかよ……」
「この町は新政権の象徴でもあるからな」
「全員をどこかに避難させて、完全に復興したら戻って来るってことはできないの?」
「それだけの余裕があればいいが……それに離れたくないという人もいるだろう」
イエレドは大息した。
今は国中が疲弊している。
ペルガモンの暴政や叛乱の傷が癒えておらず、あらゆるものが足りない。
人もモノも、人の心も――。
たとえシェイドの出身地といえども、辺境の小さな町に割く余裕はない。
我が国の困窮ぶりを知ってか知らでか、あるいは郷土愛によるものか。
民は戦うことを選んだ。
(………………)
シェイドは呼吸を整え、指先へと意識を集中する。
ミストが集まっているハズだが、皮膚ではそれを感じ取れない。
辺りを見回す。
空気が張りつめている。
音は少しずつ大きくなっている。
光はより強さを増している。
正体不明の敵が近づいてきている証拠だった。
「…………」
深く息を吸い込む。
いつも、いつでも覚悟はできていた。
あの時と同じように、同郷の者は戦うと言っている。
だがもし被害が大きくなるようなら、シェイドは自分を差し出して幕引きを図るつもりだった。
その身がどうなるかは考えるまでもないが、それでプラトウが助かるなら安いものだと。
(――なんて考えてる顔ね)
横目でちらりと見やったフェルノーラは瞬時に彼の考えを見抜いた。
だとしたら少しばかり面白くない。
プラトウの命運が彼たったひとりに懸かっているのだとしたら、自分たちの存在は何だというのだ。
「来たぞ!」
誰かが叫んだとき、砲弾はすでに放たれていた。
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