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新たなる脅威篇
4 暗躍-3-
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新皇帝がプラトウ出身の子どもだという事実はここにもしっかり届いていたようだ。
避難者たちはシェイドを温かく出迎えた。
返す笑顔に力はない。
石集めをしていた頃から野盗の類には何度か出くわしている。
その出自は様々だ。
多くは公に居場所を失った者たち。
罪を犯し、町に戻ればたちまち役人に掴まって即、死刑となるような輩だ。
彼らは山野に隠れ潜み、通行人から金品を強奪する。
どうやら賊にも流儀があるらしく、大人しく目的の物を差し出せば危害までは加えない。
しかし激しく抵抗しようものならたちまち命のやりとりに発展する。
「彼は気付いてないみたい」
遅れてやってきたライネにフェルノーラが囁いた。
襲われたという事実に気が動転しているシェイドは、地元の人間なら簡単に辿り着ける結論に至っていない。
「そっか――」
彼女が同行してくれてよかった、とライネは思った。
地理に詳しいこともだが、シェイドを含め自分たちに好意的に動いてくれるのはありがたい。
「…………」
ちらりとイエレドを見やる。
何かを探すように周囲を窺っている。
(やっぱり…………!)
自分の勘は正しかった、と彼女は思った。
ケッセルもフェルノーラもその勘を後押ししている。
必ず尻尾をつかんでやる、と。
ライネはぐっと拳を握りしめた。
「これは……ここでいいんですか?」
避難者と言葉を交わしながらシェイドは物資の運搬を手伝っている。
予定外のことが起こり、整理されていない物資に一部損壊しているものもあり作業は難航していた。
ライネたちはそれを手伝いながらイエレドへの監視を続けた。
「こーんな若いのに立派だねえ。きっとたくさん苦労したんだねえ」
「とんでもねえ魔法の力があるんだってよ。世の中分からねえなあ」
「ウチらから王様が出たんだと。こりゃ誇りだわな。こんなこと後にも先にもありゃせんぜ」
身分を感じさせない働きぶりに避難者たちは温かい言葉を送った。
(…………?)
プラトウ訛りが強く、ライネには断片的にしか理解できない。
もちろん聞き取れるシェイドは恥ずかしそうに俯いているし、そんな彼の反応を楽しむようにフェルノーラも微苦笑している。
穏やかな空気が満ちている。
知らずライネの頬もゆるむ。
(あれも人望の成せる業ってやつかね。ま、慕われてるようでなによりだな)
少なくともここには彼の命を狙っていそうな輩はいないと安心する。
「よっし! ここにあるのはこれで全部だな!」
カーゴルームが空になっているのを確認する。
この避難所には車両格納用のスペースが併設されておらず、周囲には重機や資材が点在しているため、輸送車を離れた場所に停める必要があった。
おかげで物資を運び込むのに道を隔てて数十メートルの距離を往復する羽目になる。
現地の若者たちの助けも借り、運搬作業をおおかた終えた頃には日が沈みかけていた。
額の汗を拭いながらライネは赤と青が等しく入り混じった空を見上げる。
エルドランとは全然ちがうな、と彼女は思った。
あちらはそもそも視界を遮るものが多すぎる。
それに空気もきれいとはいえず、わざわざ天を仰ごうという気にはなれない。
「今日はたくさん動かれましたからお疲れでございましょう」
運搬を手伝っていた従者が言う。
「僕はまだ――」
大丈夫だ、と答える声に張りはない。
朝から働きづめだったうえに、いろいろなことが起こり過ぎて心労が重なっていた。
「明日もございます。どうかご無理をなさらぬように」
その時、施設の方向からフェルノーラが小走りでやってきた。
「食事の用意ができたわ。作業の続きは明日にでも――」
言い終わる前にシェイドの脇を影が走り抜けた。
「…………!?」
その残像を追った彼が見たのは、フェルノーラに掴みかからんと迫るライネの姿だった。
「伏せろッ!」
血相を変えて走ってくるライネに、情況が呑み込めない彼女は何もできない。
「伏せろって!!」
ライネはぶつかるようにしてフェルノーラを抱きすくめた。
もつれるようにして倒れる2人。
その頭上をドールの乗ったバイクが通り過ぎる。
直後に銃声!
シェイドがようやく状況を理解した時には、既に戦いは始まっていた。
どこからか現れたドールたちが周囲を旋回していた。
数名の従者がシェイドを守るように展開する。
「さっきの連中だな……シェイド様、私たちの傍から離れませんように!」
奇襲とはいえ二度目、しかも先ほどとちがってここは見通しが良い。
応戦するには有利な状況――のハズだった。
「僕も……僕も戦います!」
言いつつ躍り出た理由は敵の多さだ。
少なくとも50体はいる。
それらが四方から一斉に攻めてきたら いくら手練れでも対処は難しいだろう。
シェイドは右手にミストを掬い集めた。
仮に敵が少なくても従者に全てを任せるほど彼は臆病ではない。
「くれぐれも――」
無理をしないように、と誰かが言った時、彼らは現れた。
避難者たちはシェイドを温かく出迎えた。
返す笑顔に力はない。
石集めをしていた頃から野盗の類には何度か出くわしている。
その出自は様々だ。
多くは公に居場所を失った者たち。
罪を犯し、町に戻ればたちまち役人に掴まって即、死刑となるような輩だ。
彼らは山野に隠れ潜み、通行人から金品を強奪する。
どうやら賊にも流儀があるらしく、大人しく目的の物を差し出せば危害までは加えない。
しかし激しく抵抗しようものならたちまち命のやりとりに発展する。
「彼は気付いてないみたい」
遅れてやってきたライネにフェルノーラが囁いた。
襲われたという事実に気が動転しているシェイドは、地元の人間なら簡単に辿り着ける結論に至っていない。
「そっか――」
彼女が同行してくれてよかった、とライネは思った。
地理に詳しいこともだが、シェイドを含め自分たちに好意的に動いてくれるのはありがたい。
「…………」
ちらりとイエレドを見やる。
何かを探すように周囲を窺っている。
(やっぱり…………!)
自分の勘は正しかった、と彼女は思った。
ケッセルもフェルノーラもその勘を後押ししている。
必ず尻尾をつかんでやる、と。
ライネはぐっと拳を握りしめた。
「これは……ここでいいんですか?」
避難者と言葉を交わしながらシェイドは物資の運搬を手伝っている。
予定外のことが起こり、整理されていない物資に一部損壊しているものもあり作業は難航していた。
ライネたちはそれを手伝いながらイエレドへの監視を続けた。
「こーんな若いのに立派だねえ。きっとたくさん苦労したんだねえ」
「とんでもねえ魔法の力があるんだってよ。世の中分からねえなあ」
「ウチらから王様が出たんだと。こりゃ誇りだわな。こんなこと後にも先にもありゃせんぜ」
身分を感じさせない働きぶりに避難者たちは温かい言葉を送った。
(…………?)
プラトウ訛りが強く、ライネには断片的にしか理解できない。
もちろん聞き取れるシェイドは恥ずかしそうに俯いているし、そんな彼の反応を楽しむようにフェルノーラも微苦笑している。
穏やかな空気が満ちている。
知らずライネの頬もゆるむ。
(あれも人望の成せる業ってやつかね。ま、慕われてるようでなによりだな)
少なくともここには彼の命を狙っていそうな輩はいないと安心する。
「よっし! ここにあるのはこれで全部だな!」
カーゴルームが空になっているのを確認する。
この避難所には車両格納用のスペースが併設されておらず、周囲には重機や資材が点在しているため、輸送車を離れた場所に停める必要があった。
おかげで物資を運び込むのに道を隔てて数十メートルの距離を往復する羽目になる。
現地の若者たちの助けも借り、運搬作業をおおかた終えた頃には日が沈みかけていた。
額の汗を拭いながらライネは赤と青が等しく入り混じった空を見上げる。
エルドランとは全然ちがうな、と彼女は思った。
あちらはそもそも視界を遮るものが多すぎる。
それに空気もきれいとはいえず、わざわざ天を仰ごうという気にはなれない。
「今日はたくさん動かれましたからお疲れでございましょう」
運搬を手伝っていた従者が言う。
「僕はまだ――」
大丈夫だ、と答える声に張りはない。
朝から働きづめだったうえに、いろいろなことが起こり過ぎて心労が重なっていた。
「明日もございます。どうかご無理をなさらぬように」
その時、施設の方向からフェルノーラが小走りでやってきた。
「食事の用意ができたわ。作業の続きは明日にでも――」
言い終わる前にシェイドの脇を影が走り抜けた。
「…………!?」
その残像を追った彼が見たのは、フェルノーラに掴みかからんと迫るライネの姿だった。
「伏せろッ!」
血相を変えて走ってくるライネに、情況が呑み込めない彼女は何もできない。
「伏せろって!!」
ライネはぶつかるようにしてフェルノーラを抱きすくめた。
もつれるようにして倒れる2人。
その頭上をドールの乗ったバイクが通り過ぎる。
直後に銃声!
シェイドがようやく状況を理解した時には、既に戦いは始まっていた。
どこからか現れたドールたちが周囲を旋回していた。
数名の従者がシェイドを守るように展開する。
「さっきの連中だな……シェイド様、私たちの傍から離れませんように!」
奇襲とはいえ二度目、しかも先ほどとちがってここは見通しが良い。
応戦するには有利な状況――のハズだった。
「僕も……僕も戦います!」
言いつつ躍り出た理由は敵の多さだ。
少なくとも50体はいる。
それらが四方から一斉に攻めてきたら いくら手練れでも対処は難しいだろう。
シェイドは右手にミストを掬い集めた。
仮に敵が少なくても従者に全てを任せるほど彼は臆病ではない。
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