アメジストの軌跡

JEDI_tkms1984

文字の大きさ
上 下
65 / 115
新たなる脅威篇

3 急襲!-6-

しおりを挟む
「フェル、あいつを疑ってるんだろ?」

 肩越しに振り返って洞窟の奥を示す。

 シェイドにぴったりと付くように立っている従者――イエレドだ。

「どうして?」

「さっきあいつが避難所に行くって言った時、慌てて止めてたじゃん」

「………………」

 すぐには答えない。

 フェルノーラはまだ質問に対する適切な回答を持っていなかったからだ。

「――分からない」

 だから彼女はこう返した。

「分からない、って?」

「なんとなくそんな感じがしただけ。悪いことを考えていそうな大人――っていうのかしら」

 どこか他人事のように返した彼女はしばらくして思い出したように、

「でもどうして私が”疑ってる”なんて思ったの?」

 含みのある訊き方をした。

「アンタと同じさ。分からねえけどなんか引っかかるんだ。ここに来たときから落ち着かない感じだし」

「ふうん……」

 フェルノーラは気付かれないようにイエレドを観察した。

 おかしなところはない。

 彼女の言うように今も落ち着きなく辺りを見回しているが、それもシェイドの護衛のためと考えれば自然な動作だ。

「中央の人なんでしょう? みんな彼の味方だと思っていたけどそうじゃないの?」

 彼女がそう問うとライネは難しい顔をした。

「アタシもよくは知らないけど、ちょっとややこしいらしいね」

「ややこしい?」

「皆が皆、シェイド君を良く思ってるワケじゃないってさ。あ、本人には内緒だぞ? 絶対、気にするから」

「ええ、分かってるわ」

 やはり彼は変わらないな、とフェルノーラは思った。

「そういうこともあってさ、こうやってぞろぞろ付いてきてんだよ。みんな相当な実力者らしいからヘタなことはできないだろうけどさ」

「あなたもそうなの?」

 と、少し意地悪な口調で訊く。

 ライネはわざと間を置いて、

「試してみる?」

 と大袈裟に指の関節を鳴らしてみせた。

 その仕草にフェルノーラは微苦笑する。

「さっき見ていたから分かってるわ」

 ”見ていた”という表現は正確ではない。

 彼女は従者に守られ、迫るドールの群れから目を離せなかった。

 だからライネが単身で切り込んでいったのを見たのはほんのわずかな時間だ。

 しかしそのわずかな時間で――。

 彼女がいとも容易くドールを蹴り壊す瞬間を確かに目撃していた。

(私も少しくらいなら魔法を使えるけど、彼女の前では何の役にも立ちそうにないわね……)

 フェルノーラは漠然とだが危機感を抱き始めていた。

 ペルガモン政権が倒れたことで苛政からは解放されたが、国境に近いこともあって隣国と衝突する可能性は残っている。

 傷の癒えていないプラトウは敵からの攻撃に備えるどころか、人々の生活もままならない。

 この状況下では自分の身は自分で守らなければならないのだが、彼女にはそれだけの力はない。

 一部では神格化されているシェイドも、ここでの活動を終えれば護衛を連れてエルドランに引き上げてしまう。

 そうなればプラトウはどうなるだろうか――?

「………………」

 たった数体のドールにさえ蹂躙されてしまうかもしれない。

「おーい? 聞いてるかー?」

 そんなことを考えていたものだから彼女はライネが呼んでいるのに気付かなかった。

「……あ、えっと……なにかしら?」

 ばつが悪くなったフェルノーラはわざとらしく髪をかきあげた。

「これ、渡しておくよ。そんなの使わなくていいようにアタシたちがいるんだけどね。ま、念のためさ」

 押し付けられるようにして手渡されたのは子どもでも片手で覆い隠せそうなほどの小さな銃だった。

(護身用……?)

 従者たちが使っていたものとは大きさも形状も異なっている。

「念のため持っておけって言われたんだけどさ。アンタが持っておいたほうがいいと思ってね」

「あなたはどうするの?」

「アタシはそういうの苦手なんだ。構えて撃つなんて面倒なことするより殴ったほうが早いしな」

 無邪気に笑うライネだが、けして好戦的な少女ではないとフェルノーラには分かっていた。

 彼女は遠慮がちにそれを受け取る。

 叛乱軍に加わっていた時に支給された銃のほうが、これより大きく性能も優れていた。

 それだけに心許ないのだが、今回は正規の軍を相手にするワケではないからこれでも足りる。

 しばらくして洞窟の前に2台の車両がやってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...