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新たなる脅威篇
2 プラトウへ-6-
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「あれ! あれがさっき言ったアラタ山ですよ! 石がたくさん採れるんですけど中が迷路みたいになってて――」
座席のベルトをはずして立ち上がったシェイドは窓に張り付くようにして言った。
その口調は無邪気な少年そのもので、従者たちは転んで怪我でもしないかとおろおろしている。
幾度もの爆撃とシェイドの巻き起こしたアメジスト色のドラゴンはプラトウを蹂躙したが、それで地形が大きく変わることはない。
初めて訪れた者には辺境によくある、何もないだだっ広い世界に見える。
だが山々の連なりから位置や方角を確認していた彼にとっては、似たり寄ったりの稜線も全て区別がついた。
「へぇ~……」
はしゃぎこそしないがライネも興味深そうに窓からの景色を眺めていた。
彼女はエルドラン近郊の育ちで生まれた時から周囲を高層ビルに囲まれた生活をしていたから、山や海は新鮮に映る。
ただ自然豊かな情景とは言い難く、実際は砲火の痕が生々しく残った風景である。
こうなる前のプラトウはどうだったのだろうか、とライネは複雑な想いを抱いた。
「ここまで来たら、あともう少しですよ!」
輸送車はなだらかな起伏を数回越えて採掘場を迂回した。
今はほとんどの採掘場が崩落の危険から入場禁止になっていて、あちこちに簡易の柵が立てられている。
周囲は草木を焼き払われ、焦げ茶色に変色した土が無秩序に裸出していた。
「到着しました」
ハンドルを握るのはプラトウの役人だ。
拠点と避難所を何度も往復している彼はこの光景を見慣れているから特段の反応はしない。
それがシェイドにとっては衝撃だった。
なぜならそこはかつてプラトウで最も賑わっていた街だったからだ。
多くの商店が立ち並び、往来の絶えなかった通りは影も形もない。
特徴的な構造の大通りも、象徴であった噴水も今は瓦礫の下へと姿を消した。
あるのは荒れ果てた大地に取り残されたように建っている避難所だけだ。
「こんなふうになってたんですね……」
あの時。
襲撃を受けた直後、ミンの死を看取った時はまだかろうじて街の輪郭はあったハズだ。
その輪郭を吹き飛ばしたのが自分の魔法だということに彼は気付いていなかった。
輸送車は避難所裏手の倉庫に回り込んだ。
待っていた数名の作業員が小走りでやってくる。
「皆さまはここでお待ちを――」
「僕たちも手伝います」
先を言わせまいとさえぎったシェイドは跳ねるように降車した。
後部には食料や生活用品が満載されている。
無造作に積み上げられたそれらを現地の作業員と協力して倉庫に運び込む。
「見た目のわりに力あるじゃんか」
自分の背丈ほどもある穀物袋を抱えて歩くシェイドを見てライネは言った。
得意の力仕事とあって彼女はもうアシュレイの言いつけを忘れている。
「ずっと石を集めてましたから。これよりもっと重い時もあったんで――」
「敬語!」
「――あった……んだよ?」
「ん~、なんかぎこちないけど、まあいいや!」
快活に笑う彼女はゆうにシェイドの数倍の物資を担いでいる。
(なんだこの2人…………)
従者たちはその様子を離れたところから見ていた。
力仕事をシェイドがすること自体どうなのかと思っていた彼らだが、さらにライネのこの態度である。
良くも悪くも前政権からのあまりの変わりぶりについていけていない。
倉庫内には衣類や消耗品等がまばらに置かれてある。
面積にしては備蓄が少なく、物資が充分ではないことが分かった。
「どうかなさいましたか?」
浮かない顔のシェイドに従者のひとりが声をかける。
「ちょっと考えてたんです」
あらかた運び終えた彼は背伸びをした。
「これくらいじゃ何の役にも立ってないな、って――」
「そんなことはありませんよ。避難所生活をしている人たちに必要な物を届ける――助かる人は大勢いるんですから」
従者は目を細めて言った。
彼も相当な量の荷物を何度も運んでいるハズだが息ひとつ切らせていない。
「そうなんでしょうか?」
シェイドはまだ納得できないでいる。
対症療法的な行為ではなく、復興を実感できるような行動をしたいという想いは強い。
「そうですね、せっかく避難所に来ているのですから慰問をされるというのはいかがですか? このまま帰るのも勿体ないでしょう」
「いもん?」
「簡単に言えばお見舞いです。お顔を見せるだけでもいいんですよ」
と、軽く言われたので彼ははたしてそれに意味があるのかと考えた。
顔を見せるだけなら誰の助けにもならないし、何の役にも立たない。
「皇帝が慰問されるなら、ここでの生活を余儀なくされている人々はきっと活気を取り戻すと思います」
「そうなんですか?」
「皇帝はこちらのご出身でしょう? 同郷の人であればなおのこと慰問の意味はあるかと思いますよ。ましてや――」
彼は慌てて言葉を切った。
その後には、”同じ犠牲者であるあなたなら彼らの心に寄り添うことができるだろう”と続くハズだった。
「はい……?」
「いえ、なんでもありません! と、とにかく、お顔を出されるだけで大きな意義があるのですよ!」
言を重ねる従者に彼は考えを改めることにした。
役立つかどうかとは別に、プラトウの生存者と話したいという想いが強くなったからだ。
数分後。
搬入を終え、輸送車を待機させるように言ってからシェイドたちは正面扉をくぐった。
急ごしらえであるためか入り口付近の警備はなく、彼らはすんなりと施設に入ることができた。
中は外観からくる印象よりもずっと狭い。
物資や修繕に使うと思われる資材等が雑然と置かれているせいだ。
(あとで片付けてやろうかな?)
木材につまずきそうになったライネは足先でそれをどけた。
「すみません」
すぐ傍にある受付で用件を伝えることになっている。
従者が慰問に来た旨を伝えると、担当者は困った様子で責任者に取り次いだ。
「はい、えっと……慰問ですか?」
責任者の女は怪訝そうな表情で問う。
「ええ、こちらのシェイド様が――」
名を呼ばれた彼は会釈した。
「ええっ!?」
女は頓狂な声をあげた。
シェイドが新皇帝となったことは当然、知れ渡っている。
彼とともに叛乱軍として戦った有志は既にここプラトウに帰ってきており、復興に力を入れながらも武勇伝を語り歩いている。
こんな辺境の町から圧政を終わらせた救世主が現れ、新たな皇帝として君臨した!
この歴史的な快挙にプラトウは大いに沸いた――というワケにはいかなかった。
襲撃の傷は想像以上に深く、彼らは明日も分からぬ生活を送っている。
快哉を叫ぶ余裕も、凱旋を讃えるゆとりも、ここにはなかった。
「分かりました。そういうことでしたら……あちらの共同スペースへお願いできますか? 利用者は皆、そちらにおられますので」
ライネは首をかしげた。
皇帝が来た、となれば普通は大騒ぎになるものだ。
その姿を一目見ようと人垣ができてもおかしくはない。
ところが資材を運んでいる者や何かの用事で歩き回っている者たちは、ちらりと見やるだけで声もあげない。
(顔は知ってるハズなのにねえ……)
彼女はその理由をシェイドに威厳や存在感がない所為だと思った。
案内された共有スペースは物置部屋を無理やり片付けたように雑然としていた。
広間には様式もばらばらのテーブルとイスが数組配置されている。
その間隔は狭く、快適な状況とは言い難い。
薄い壁で仕切られた向こう側は寝室用となっていて、簡易のベッドが隙間なく敷き詰められている以外は目立ったものはない。
「これは思った以上に深刻な状況のようですね」
先ほどの従者が耳打ちした。
「食事をする場所と寝泊まりをする場所がきちんと分かれていません。あれでは充分に休むことはできないでしょう」
彼は問題点を指摘するというよりも、シェイドに自信をつけさせる意味でそう言った。
つまり慰問には大きな力があるということだが、彼には半分も伝わっていない。
「おお、シェイド君じゃないか!」
大きな声で呼びながら男が走り寄ってくる。
ぼろぼろの作業着に油かなにかの大きな染みが広がっている。
従者たちは咄嗟にシェイドの前に割り込んで接触を阻止した。
「オレだよ。覚えてるだろ? 一緒に戦った――」
言われて彼は思い出す。
叛乱軍の決起会で真っ先にシェイドを支持した男だ。
戦いにあっては勇猛果敢、エルドラン突入時もフェルノーラに続いてガンシップに乗り込んできたから印象に残っていた。
「はい、覚えてます! あ、大丈夫ですよ」
警戒する従者を下がらせ、シェイドはにこりと笑った。
「そうか、きみはもうこの国の王様になったんだよな!」
豪快に笑った男は直後にわずか表情を曇らせた。
同郷の者が出世するのは喜ばしいことだが、同時に手の届かない存在となったことに彼は寂しさを感じたようだ。
「王様だなんて……僕はまだ国のために何もできてませんし」
「いやいや、こうして顔を見せてくれるだけでも嬉しいぜ。こっちはほら、あんな感じだからよ」
入り口から見えるだけでも、およそ50人ほどが集まっている。
食事をとる者、何事かを書き記している者、テーブルゲームに興じている者など、暮らしぶりはさまざまだ。
しかし避難所の生活が長いからか、人々の顔は暗い。
「よかったら声をかけてやってくれよ。みんな喜ぶだろうさ」
陽気に笑う男に、従者のひとりは露骨に嫌そうな顔をした。
いくら出身地が同じとはいえ、今や身分も立場も天地ほどの開きがある。
前政権のやり方が抜けていない彼は、言葉遣いを改めさせようとしたがすんでのところで思い止まった。
シェイドはスペース内を見回した。
生活者の中には介助を必要とする者も多く、スタッフもそちらに手を取られているからかシェイドたちには注意を払っていない様子だ。
(あの人…………)
たまたま目についた車椅子の老人に声をかけようとした時、
「あなた、いつの間に来てたの?」
物資を運んでいる少女がシェイドに近づいてきた。
座席のベルトをはずして立ち上がったシェイドは窓に張り付くようにして言った。
その口調は無邪気な少年そのもので、従者たちは転んで怪我でもしないかとおろおろしている。
幾度もの爆撃とシェイドの巻き起こしたアメジスト色のドラゴンはプラトウを蹂躙したが、それで地形が大きく変わることはない。
初めて訪れた者には辺境によくある、何もないだだっ広い世界に見える。
だが山々の連なりから位置や方角を確認していた彼にとっては、似たり寄ったりの稜線も全て区別がついた。
「へぇ~……」
はしゃぎこそしないがライネも興味深そうに窓からの景色を眺めていた。
彼女はエルドラン近郊の育ちで生まれた時から周囲を高層ビルに囲まれた生活をしていたから、山や海は新鮮に映る。
ただ自然豊かな情景とは言い難く、実際は砲火の痕が生々しく残った風景である。
こうなる前のプラトウはどうだったのだろうか、とライネは複雑な想いを抱いた。
「ここまで来たら、あともう少しですよ!」
輸送車はなだらかな起伏を数回越えて採掘場を迂回した。
今はほとんどの採掘場が崩落の危険から入場禁止になっていて、あちこちに簡易の柵が立てられている。
周囲は草木を焼き払われ、焦げ茶色に変色した土が無秩序に裸出していた。
「到着しました」
ハンドルを握るのはプラトウの役人だ。
拠点と避難所を何度も往復している彼はこの光景を見慣れているから特段の反応はしない。
それがシェイドにとっては衝撃だった。
なぜならそこはかつてプラトウで最も賑わっていた街だったからだ。
多くの商店が立ち並び、往来の絶えなかった通りは影も形もない。
特徴的な構造の大通りも、象徴であった噴水も今は瓦礫の下へと姿を消した。
あるのは荒れ果てた大地に取り残されたように建っている避難所だけだ。
「こんなふうになってたんですね……」
あの時。
襲撃を受けた直後、ミンの死を看取った時はまだかろうじて街の輪郭はあったハズだ。
その輪郭を吹き飛ばしたのが自分の魔法だということに彼は気付いていなかった。
輸送車は避難所裏手の倉庫に回り込んだ。
待っていた数名の作業員が小走りでやってくる。
「皆さまはここでお待ちを――」
「僕たちも手伝います」
先を言わせまいとさえぎったシェイドは跳ねるように降車した。
後部には食料や生活用品が満載されている。
無造作に積み上げられたそれらを現地の作業員と協力して倉庫に運び込む。
「見た目のわりに力あるじゃんか」
自分の背丈ほどもある穀物袋を抱えて歩くシェイドを見てライネは言った。
得意の力仕事とあって彼女はもうアシュレイの言いつけを忘れている。
「ずっと石を集めてましたから。これよりもっと重い時もあったんで――」
「敬語!」
「――あった……んだよ?」
「ん~、なんかぎこちないけど、まあいいや!」
快活に笑う彼女はゆうにシェイドの数倍の物資を担いでいる。
(なんだこの2人…………)
従者たちはその様子を離れたところから見ていた。
力仕事をシェイドがすること自体どうなのかと思っていた彼らだが、さらにライネのこの態度である。
良くも悪くも前政権からのあまりの変わりぶりについていけていない。
倉庫内には衣類や消耗品等がまばらに置かれてある。
面積にしては備蓄が少なく、物資が充分ではないことが分かった。
「どうかなさいましたか?」
浮かない顔のシェイドに従者のひとりが声をかける。
「ちょっと考えてたんです」
あらかた運び終えた彼は背伸びをした。
「これくらいじゃ何の役にも立ってないな、って――」
「そんなことはありませんよ。避難所生活をしている人たちに必要な物を届ける――助かる人は大勢いるんですから」
従者は目を細めて言った。
彼も相当な量の荷物を何度も運んでいるハズだが息ひとつ切らせていない。
「そうなんでしょうか?」
シェイドはまだ納得できないでいる。
対症療法的な行為ではなく、復興を実感できるような行動をしたいという想いは強い。
「そうですね、せっかく避難所に来ているのですから慰問をされるというのはいかがですか? このまま帰るのも勿体ないでしょう」
「いもん?」
「簡単に言えばお見舞いです。お顔を見せるだけでもいいんですよ」
と、軽く言われたので彼ははたしてそれに意味があるのかと考えた。
顔を見せるだけなら誰の助けにもならないし、何の役にも立たない。
「皇帝が慰問されるなら、ここでの生活を余儀なくされている人々はきっと活気を取り戻すと思います」
「そうなんですか?」
「皇帝はこちらのご出身でしょう? 同郷の人であればなおのこと慰問の意味はあるかと思いますよ。ましてや――」
彼は慌てて言葉を切った。
その後には、”同じ犠牲者であるあなたなら彼らの心に寄り添うことができるだろう”と続くハズだった。
「はい……?」
「いえ、なんでもありません! と、とにかく、お顔を出されるだけで大きな意義があるのですよ!」
言を重ねる従者に彼は考えを改めることにした。
役立つかどうかとは別に、プラトウの生存者と話したいという想いが強くなったからだ。
数分後。
搬入を終え、輸送車を待機させるように言ってからシェイドたちは正面扉をくぐった。
急ごしらえであるためか入り口付近の警備はなく、彼らはすんなりと施設に入ることができた。
中は外観からくる印象よりもずっと狭い。
物資や修繕に使うと思われる資材等が雑然と置かれているせいだ。
(あとで片付けてやろうかな?)
木材につまずきそうになったライネは足先でそれをどけた。
「すみません」
すぐ傍にある受付で用件を伝えることになっている。
従者が慰問に来た旨を伝えると、担当者は困った様子で責任者に取り次いだ。
「はい、えっと……慰問ですか?」
責任者の女は怪訝そうな表情で問う。
「ええ、こちらのシェイド様が――」
名を呼ばれた彼は会釈した。
「ええっ!?」
女は頓狂な声をあげた。
シェイドが新皇帝となったことは当然、知れ渡っている。
彼とともに叛乱軍として戦った有志は既にここプラトウに帰ってきており、復興に力を入れながらも武勇伝を語り歩いている。
こんな辺境の町から圧政を終わらせた救世主が現れ、新たな皇帝として君臨した!
この歴史的な快挙にプラトウは大いに沸いた――というワケにはいかなかった。
襲撃の傷は想像以上に深く、彼らは明日も分からぬ生活を送っている。
快哉を叫ぶ余裕も、凱旋を讃えるゆとりも、ここにはなかった。
「分かりました。そういうことでしたら……あちらの共同スペースへお願いできますか? 利用者は皆、そちらにおられますので」
ライネは首をかしげた。
皇帝が来た、となれば普通は大騒ぎになるものだ。
その姿を一目見ようと人垣ができてもおかしくはない。
ところが資材を運んでいる者や何かの用事で歩き回っている者たちは、ちらりと見やるだけで声もあげない。
(顔は知ってるハズなのにねえ……)
彼女はその理由をシェイドに威厳や存在感がない所為だと思った。
案内された共有スペースは物置部屋を無理やり片付けたように雑然としていた。
広間には様式もばらばらのテーブルとイスが数組配置されている。
その間隔は狭く、快適な状況とは言い難い。
薄い壁で仕切られた向こう側は寝室用となっていて、簡易のベッドが隙間なく敷き詰められている以外は目立ったものはない。
「これは思った以上に深刻な状況のようですね」
先ほどの従者が耳打ちした。
「食事をする場所と寝泊まりをする場所がきちんと分かれていません。あれでは充分に休むことはできないでしょう」
彼は問題点を指摘するというよりも、シェイドに自信をつけさせる意味でそう言った。
つまり慰問には大きな力があるということだが、彼には半分も伝わっていない。
「おお、シェイド君じゃないか!」
大きな声で呼びながら男が走り寄ってくる。
ぼろぼろの作業着に油かなにかの大きな染みが広がっている。
従者たちは咄嗟にシェイドの前に割り込んで接触を阻止した。
「オレだよ。覚えてるだろ? 一緒に戦った――」
言われて彼は思い出す。
叛乱軍の決起会で真っ先にシェイドを支持した男だ。
戦いにあっては勇猛果敢、エルドラン突入時もフェルノーラに続いてガンシップに乗り込んできたから印象に残っていた。
「はい、覚えてます! あ、大丈夫ですよ」
警戒する従者を下がらせ、シェイドはにこりと笑った。
「そうか、きみはもうこの国の王様になったんだよな!」
豪快に笑った男は直後にわずか表情を曇らせた。
同郷の者が出世するのは喜ばしいことだが、同時に手の届かない存在となったことに彼は寂しさを感じたようだ。
「王様だなんて……僕はまだ国のために何もできてませんし」
「いやいや、こうして顔を見せてくれるだけでも嬉しいぜ。こっちはほら、あんな感じだからよ」
入り口から見えるだけでも、およそ50人ほどが集まっている。
食事をとる者、何事かを書き記している者、テーブルゲームに興じている者など、暮らしぶりはさまざまだ。
しかし避難所の生活が長いからか、人々の顔は暗い。
「よかったら声をかけてやってくれよ。みんな喜ぶだろうさ」
陽気に笑う男に、従者のひとりは露骨に嫌そうな顔をした。
いくら出身地が同じとはいえ、今や身分も立場も天地ほどの開きがある。
前政権のやり方が抜けていない彼は、言葉遣いを改めさせようとしたがすんでのところで思い止まった。
シェイドはスペース内を見回した。
生活者の中には介助を必要とする者も多く、スタッフもそちらに手を取られているからかシェイドたちには注意を払っていない様子だ。
(あの人…………)
たまたま目についた車椅子の老人に声をかけようとした時、
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物資を運んでいる少女がシェイドに近づいてきた。
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