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第1章
21.マガルムーク
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◇
丈の短いシダ植物が足元でカサカサと揺れる。
街道と呼ぶにはずいぶんと寂れた道なき道。
前を見ても後ろを見回しても、ひとっ子ひとり見当たらないほど。目の前に広がっているのは、自然のままの荒れ果てた原野だった。
ただ、こんな場所でもかろうじて人の往来の痕跡は見て取れる。草木を踏み均した跡が、最近誰かがこの道を通ったことを物語っているからだ。
時折、遠くのほうから聞こえてくるのは、ホウホウという鳥らしき鳴き声。
その鳴き声が荒涼とした原野に響き渡り、よりいっそう寂しげな雰囲気を漂わせていた。
俺とラウフローラはそんな鳴き声を聞きながら、まるで未開の原野を突っ切るように、ただ北を向いて黙々と歩みを進めている最中だった。
「ちょっとだけ肌寒くなってきたか?」
「確かに3,4度ほど気温が下がっているわね。緯度はそこまで変わらないから、この風と大陸内部の気候のせいでしょ」
頭からすっぽりと被ったローブの胸元を絞め、冷たく感じる風から身を守る。
現在、俺たちが居るのはウーラアテネがある格納庫から300キロメートルほど北に移動した地点だ。
白鷺騎士団がキメラを討伐したあと、俺はリアード村に駐在させていたピットAを、そのまま北方面の調査に向かうよう指示していた。
この世界のことを知るにはエルセリア王国からの情報だけでは不十分と感じていたからだ。
北に行けばマガルムークという国が存在し、樹海を越えた西にはドゥワイゼ帝国があるらしい。
大陸東部一帯では、そのふたつにエルセリア王国を合わせた三か国が主要な国家になるとの話だった。
次点で、南洋に浮かぶ島々の集合体であるラーカンシア諸島連邦か。
勢力的にはそこまで大きくなさそうだが、商業国家というのが大きい。けっして軽視していい存在ではないと見るべきだろう。
ドゥワイゼ帝国を越えて、さらに西のほうへ行けば小国家群もあるようだが、今のところすぐに関係してくる可能性が高いのは、この四か国くらいか。
特にマガルムークは格納庫から距離的にも近い。
位置的に言えば、北のマガルムークと南のエルセリア王国に挟まれているような場所に格納庫が位置している感じだ。
どこからどこまでがエルセリア王国の領土であり、どこからがマガルムークなのかもわからない現状でははっきりしたことは言えないが、俺の中ではすぐ隣にある国という認識。
そのマガルムークが現在情勢不安定だという情報が住人たちの話の中に何度か出てきた。
現にここ数週間、マガルムークからの避難民が港町ポートラルゴへと流れ着いているのを確認している。
ただ、そこまで大量に人が流れてきているわけでもなく、避難民が話している内容は又聞きの又聞きといった話ばかりで、実際に何が起きているのか掴めていないのが現状。
それらの断片的な情報をかき集めたかぎりでは、どうやらマガルムークの王都であるドガの町で内乱が起こり、王が亡くなったらしいのだが。
それ以上の詳しい情報はいくら待っても出てこなかった。
おそらく通信機器などない世界だ。きちんとした情報が隣国に伝わるまで2,3か月かかってもおかしくはない。
急ぎ、マガルムークで何が起きたのか確かめるためには、どうしても自ら足を運ぶ必要があった。
「この辺はまだ温帯に入るのか?」
通信衛星からの情報では、この惑星はほぼ地球と変わらない気候らしい。
極点に近付くにつれ寒くなっていき、赤道付近は熱帯性気候。
地軸の傾きが23.4度で恒星から届く熱エネルギー量も変わらないという、まるで地球とは双子のような惑星らしい。
まあ、そうでなければ地球と似たような生態系が作られる可能性は極めて低いように思えるが。
「ええ、そうね。ドガの町はかなり北に位置しているって話だから、もしかしたら亜寒帯に入るのかも知れないけど。でも、今回ドガまで行くつもりはないんでしょ?」
「ああ。そこまで深く侵入するつもりはない。ただ、できればドガで何が起きたのか、現在どうなっているのかぐらいの情報は持ち帰りたいところだ。ま、それもケースバイケースだな」
今回、俺自らが赴くことになったのは、エルセリア王国内での諜報活動により、この世界の危険度がある程度判明したからだ。
むろん、いずれにせよ俺自身も動かざるを得ないとは思っていたのだが。
それに、現地人に変装させたエルパドールによる調査の結果、外見のせいで不審がられるのを心配をしなくていいとわかった点も大きい。
見た目だけなら地球人とこの惑星の人間はほとんど差異がないはず。俺が堂々と出歩いても何も問題はないってわけだ。
ただし、ひとつだけ気になることもあった。
ポートラルゴを調査しているときに気付いたことだが、ピットを対象に近付け過ぎると監視に気付く人間がたまに居るのだ。
といっても、ぼんやりと違和感を抱く程度らしく、今のところピットの存在に気付かれたわけではないが。
以前にも同じように白鷺騎士団のザッカートとかいう男に勘付かれたっぽいことを考えれば、単に勘がいいだけでは済まされないレベルのように思う。
どのような方法で認識しているのか定かではないが、ピットの存在を感知している可能性が高い。
だとすれば、リアード村でも同様に違和感を抱かれていたのかも知れない。住人たちの死角に配置していたので、見つかってはいないはずだが。
だだ、そうなってくると、これまでのように安易に住人たちに接近させるのは危険な気がする。
そういうわけで、ピットはあまり人間に接近させないようにし、ある程度距離を保った位置からの偵察に変更していた。
「村が見えてきたわよ」
俺の思考を遮るように放たれたラウフローラの言葉を耳にし、遠くをうかがうように目を細めて前方を見る。
ラウフローラがそう言うのなら間違いないのだろう。
俺の肉眼ではまだ村があると確認するのも難しく、小さな豆粒ほどにも見えなかったが、ここまで来ると村へと続く街道のようなものがはっきりと見えてきた。
「アケイオス、聞こえるか? どうやら目当ての村が見えてきたみたいだぞ」
『はい。こちらでも確認できております』
「そうか。俺たちはこのまま進み村の中に侵入するので、アケイオスは予定どおり適当な場所に隠れていてくれ」
『了解です』
いささか機械的とも思える口調で、アケイオスが俺の命令に答えてくる。
現時点では必要性を感じないため、アケイオスにはそこまで詳細な性格設定を施していない。
強化外殻を保つために外見を変更できないので、アケイオスには裏で活躍してもらうしかないからだ。
そういう理由もあって、アケイオスとは途中から別行動を取っていた。
といっても、エアバイクに乗ってすぐ後ろを付いてきているはずだが。
アケイオスは俺とラウフローラだけでは対処しきれなかった場合の保険だ。
さすがにそんな場面にそうそう出くわすとも考えていないが、万が一の場合もある。一番、戦闘力が高いアケイオスをそばに待機させておく必要があった。
「さあ、行きましょ」
ラウフローラの言葉に黙って頷く。
なだらかな丘陵を下るように村へと伸びた街道を、俺は目的地目指してゆっくりと進んでいった。
◇
「待て! 見たところ冒険者のようだが、お前らどこから来た?」
村の入口でひとりの男に誰何されたことで、俺たちはその場に立ち止まざるを得なくなっていた。
正直なところ、このまま何事もなく村に潜入できると思っていたのだが、いささか甘い考えだったのかも知れない。
おかしなところがないように万全の準備を整えたつもりだったが、もしかしたらエレンシア風の服装がいけなかったのかも知れないと、目の前に男の格好を見てようやく気付いた始末だ。
「ああ。南のエルセリア王国からやってきたんだ」
マガルムークとエルセリア王国は現在敵対関係にはないはず。
港町ポートラルゴに避難民が入ってきているように、人の流入がまったくないわけでもない。
商人は普通に行き来しているという情報だって掴んでいるぐらいだ。それでも隣国からやってきた人間だと知られれば、警戒心を持たれるのも充分に理解しているつもりだが。
現時点でマガルムーク内の村の名前も地理も、ほとんど何もかもがわかっていないような状況。下手にマガルムークの人間だと偽らないほうが無難だろうと、判断したってわけだ。
細かい点まで突っ込んで聞かれれば、答えに窮してしまい、余計に怪しまれるばかり。結果的に身も蓋もない事態になりかねないと考えていた。
「エルセリア王国の人間か。だが、エルセリア王国の冒険者がこのディララの村にいったい何用で来た?」
冒険者というのは、ファンタジー世界における冒険者の認識で間違っていない。
魔物の肉を狩る狩人のような仕事もするし、商人などの護衛もする。
基本的に依頼を受けて金さえ貰えれば、何でもするって感じの職業らしいが、人殺しと国同士の戦争に参加することだけは一応タブーということになっているらしい。
おそらく冒険者という職業が、国を跨いで仕事をする機会が多いからだろう。
一定の武力を有している他国の冒険者に潜入され、破壊工作でも起こされた日にはたまったもんじゃない。
どうやらそのための制限のようで、もし戦争にでもなれば他国の冒険者はひとところにまとめられ、戦争が終結するまで拘束されるという話だった。
まあ、そんなことを言ってもひとたび祖国が攻められれば、冒険者を辞めてでも戦争に参加するやつがけっこう多いらしいのだが。
魔物に関して言えば、獣と魔物の間には明確な生物学的定義がなさそうな感じだった。
キメラのように人間に対して害を及ぼす存在を区別するために、便宜上魔物という別の名前で呼んでいるだけだろう。
「塩の購入だ」
「塩か……」
「ああ。こちらの情勢が悪いとかで、商人がうちの村にまったく塩を売りにこなくなったんでな。俺たち兄弟が村を代表して、直接ここまで塩の買い付けにきたって感じだ」
「ん、歩きでか?」
「ああ、100人そこそこの村だ。この先どうなるかわからんが、現時点ではそこまで大量に塩を必要としていないのでな」
エルセリア王国内で塩が不足しているという話は以前からかなり出ていた話だ。
マガルムークは岩塩の産地らしく、エルセリア王国はけっこうな割合をマガルムークからの輸入に頼っている様子だった。
セレネ公国がエルセリア王国に対し塩の交易を持ち掛ける予定なのも、その話があったからだ。
といっても、エルセリア王国内でも海塩による塩の生産を行っている様子はある。ただ、供給量はかなり少なそうだった。
おそらく値段的にみても岩塩のほうがはるかに安価であり、関係性の良好なマガルムークからの輸入に頼ったほうが手っ取り早いという判断を、エルセリア王国としては下しているのだろう。
「悪いが、売るのは無理だな」
丈の短いシダ植物が足元でカサカサと揺れる。
街道と呼ぶにはずいぶんと寂れた道なき道。
前を見ても後ろを見回しても、ひとっ子ひとり見当たらないほど。目の前に広がっているのは、自然のままの荒れ果てた原野だった。
ただ、こんな場所でもかろうじて人の往来の痕跡は見て取れる。草木を踏み均した跡が、最近誰かがこの道を通ったことを物語っているからだ。
時折、遠くのほうから聞こえてくるのは、ホウホウという鳥らしき鳴き声。
その鳴き声が荒涼とした原野に響き渡り、よりいっそう寂しげな雰囲気を漂わせていた。
俺とラウフローラはそんな鳴き声を聞きながら、まるで未開の原野を突っ切るように、ただ北を向いて黙々と歩みを進めている最中だった。
「ちょっとだけ肌寒くなってきたか?」
「確かに3,4度ほど気温が下がっているわね。緯度はそこまで変わらないから、この風と大陸内部の気候のせいでしょ」
頭からすっぽりと被ったローブの胸元を絞め、冷たく感じる風から身を守る。
現在、俺たちが居るのはウーラアテネがある格納庫から300キロメートルほど北に移動した地点だ。
白鷺騎士団がキメラを討伐したあと、俺はリアード村に駐在させていたピットAを、そのまま北方面の調査に向かうよう指示していた。
この世界のことを知るにはエルセリア王国からの情報だけでは不十分と感じていたからだ。
北に行けばマガルムークという国が存在し、樹海を越えた西にはドゥワイゼ帝国があるらしい。
大陸東部一帯では、そのふたつにエルセリア王国を合わせた三か国が主要な国家になるとの話だった。
次点で、南洋に浮かぶ島々の集合体であるラーカンシア諸島連邦か。
勢力的にはそこまで大きくなさそうだが、商業国家というのが大きい。けっして軽視していい存在ではないと見るべきだろう。
ドゥワイゼ帝国を越えて、さらに西のほうへ行けば小国家群もあるようだが、今のところすぐに関係してくる可能性が高いのは、この四か国くらいか。
特にマガルムークは格納庫から距離的にも近い。
位置的に言えば、北のマガルムークと南のエルセリア王国に挟まれているような場所に格納庫が位置している感じだ。
どこからどこまでがエルセリア王国の領土であり、どこからがマガルムークなのかもわからない現状でははっきりしたことは言えないが、俺の中ではすぐ隣にある国という認識。
そのマガルムークが現在情勢不安定だという情報が住人たちの話の中に何度か出てきた。
現にここ数週間、マガルムークからの避難民が港町ポートラルゴへと流れ着いているのを確認している。
ただ、そこまで大量に人が流れてきているわけでもなく、避難民が話している内容は又聞きの又聞きといった話ばかりで、実際に何が起きているのか掴めていないのが現状。
それらの断片的な情報をかき集めたかぎりでは、どうやらマガルムークの王都であるドガの町で内乱が起こり、王が亡くなったらしいのだが。
それ以上の詳しい情報はいくら待っても出てこなかった。
おそらく通信機器などない世界だ。きちんとした情報が隣国に伝わるまで2,3か月かかってもおかしくはない。
急ぎ、マガルムークで何が起きたのか確かめるためには、どうしても自ら足を運ぶ必要があった。
「この辺はまだ温帯に入るのか?」
通信衛星からの情報では、この惑星はほぼ地球と変わらない気候らしい。
極点に近付くにつれ寒くなっていき、赤道付近は熱帯性気候。
地軸の傾きが23.4度で恒星から届く熱エネルギー量も変わらないという、まるで地球とは双子のような惑星らしい。
まあ、そうでなければ地球と似たような生態系が作られる可能性は極めて低いように思えるが。
「ええ、そうね。ドガの町はかなり北に位置しているって話だから、もしかしたら亜寒帯に入るのかも知れないけど。でも、今回ドガまで行くつもりはないんでしょ?」
「ああ。そこまで深く侵入するつもりはない。ただ、できればドガで何が起きたのか、現在どうなっているのかぐらいの情報は持ち帰りたいところだ。ま、それもケースバイケースだな」
今回、俺自らが赴くことになったのは、エルセリア王国内での諜報活動により、この世界の危険度がある程度判明したからだ。
むろん、いずれにせよ俺自身も動かざるを得ないとは思っていたのだが。
それに、現地人に変装させたエルパドールによる調査の結果、外見のせいで不審がられるのを心配をしなくていいとわかった点も大きい。
見た目だけなら地球人とこの惑星の人間はほとんど差異がないはず。俺が堂々と出歩いても何も問題はないってわけだ。
ただし、ひとつだけ気になることもあった。
ポートラルゴを調査しているときに気付いたことだが、ピットを対象に近付け過ぎると監視に気付く人間がたまに居るのだ。
といっても、ぼんやりと違和感を抱く程度らしく、今のところピットの存在に気付かれたわけではないが。
以前にも同じように白鷺騎士団のザッカートとかいう男に勘付かれたっぽいことを考えれば、単に勘がいいだけでは済まされないレベルのように思う。
どのような方法で認識しているのか定かではないが、ピットの存在を感知している可能性が高い。
だとすれば、リアード村でも同様に違和感を抱かれていたのかも知れない。住人たちの死角に配置していたので、見つかってはいないはずだが。
だだ、そうなってくると、これまでのように安易に住人たちに接近させるのは危険な気がする。
そういうわけで、ピットはあまり人間に接近させないようにし、ある程度距離を保った位置からの偵察に変更していた。
「村が見えてきたわよ」
俺の思考を遮るように放たれたラウフローラの言葉を耳にし、遠くをうかがうように目を細めて前方を見る。
ラウフローラがそう言うのなら間違いないのだろう。
俺の肉眼ではまだ村があると確認するのも難しく、小さな豆粒ほどにも見えなかったが、ここまで来ると村へと続く街道のようなものがはっきりと見えてきた。
「アケイオス、聞こえるか? どうやら目当ての村が見えてきたみたいだぞ」
『はい。こちらでも確認できております』
「そうか。俺たちはこのまま進み村の中に侵入するので、アケイオスは予定どおり適当な場所に隠れていてくれ」
『了解です』
いささか機械的とも思える口調で、アケイオスが俺の命令に答えてくる。
現時点では必要性を感じないため、アケイオスにはそこまで詳細な性格設定を施していない。
強化外殻を保つために外見を変更できないので、アケイオスには裏で活躍してもらうしかないからだ。
そういう理由もあって、アケイオスとは途中から別行動を取っていた。
といっても、エアバイクに乗ってすぐ後ろを付いてきているはずだが。
アケイオスは俺とラウフローラだけでは対処しきれなかった場合の保険だ。
さすがにそんな場面にそうそう出くわすとも考えていないが、万が一の場合もある。一番、戦闘力が高いアケイオスをそばに待機させておく必要があった。
「さあ、行きましょ」
ラウフローラの言葉に黙って頷く。
なだらかな丘陵を下るように村へと伸びた街道を、俺は目的地目指してゆっくりと進んでいった。
◇
「待て! 見たところ冒険者のようだが、お前らどこから来た?」
村の入口でひとりの男に誰何されたことで、俺たちはその場に立ち止まざるを得なくなっていた。
正直なところ、このまま何事もなく村に潜入できると思っていたのだが、いささか甘い考えだったのかも知れない。
おかしなところがないように万全の準備を整えたつもりだったが、もしかしたらエレンシア風の服装がいけなかったのかも知れないと、目の前に男の格好を見てようやく気付いた始末だ。
「ああ。南のエルセリア王国からやってきたんだ」
マガルムークとエルセリア王国は現在敵対関係にはないはず。
港町ポートラルゴに避難民が入ってきているように、人の流入がまったくないわけでもない。
商人は普通に行き来しているという情報だって掴んでいるぐらいだ。それでも隣国からやってきた人間だと知られれば、警戒心を持たれるのも充分に理解しているつもりだが。
現時点でマガルムーク内の村の名前も地理も、ほとんど何もかもがわかっていないような状況。下手にマガルムークの人間だと偽らないほうが無難だろうと、判断したってわけだ。
細かい点まで突っ込んで聞かれれば、答えに窮してしまい、余計に怪しまれるばかり。結果的に身も蓋もない事態になりかねないと考えていた。
「エルセリア王国の人間か。だが、エルセリア王国の冒険者がこのディララの村にいったい何用で来た?」
冒険者というのは、ファンタジー世界における冒険者の認識で間違っていない。
魔物の肉を狩る狩人のような仕事もするし、商人などの護衛もする。
基本的に依頼を受けて金さえ貰えれば、何でもするって感じの職業らしいが、人殺しと国同士の戦争に参加することだけは一応タブーということになっているらしい。
おそらく冒険者という職業が、国を跨いで仕事をする機会が多いからだろう。
一定の武力を有している他国の冒険者に潜入され、破壊工作でも起こされた日にはたまったもんじゃない。
どうやらそのための制限のようで、もし戦争にでもなれば他国の冒険者はひとところにまとめられ、戦争が終結するまで拘束されるという話だった。
まあ、そんなことを言ってもひとたび祖国が攻められれば、冒険者を辞めてでも戦争に参加するやつがけっこう多いらしいのだが。
魔物に関して言えば、獣と魔物の間には明確な生物学的定義がなさそうな感じだった。
キメラのように人間に対して害を及ぼす存在を区別するために、便宜上魔物という別の名前で呼んでいるだけだろう。
「塩の購入だ」
「塩か……」
「ああ。こちらの情勢が悪いとかで、商人がうちの村にまったく塩を売りにこなくなったんでな。俺たち兄弟が村を代表して、直接ここまで塩の買い付けにきたって感じだ」
「ん、歩きでか?」
「ああ、100人そこそこの村だ。この先どうなるかわからんが、現時点ではそこまで大量に塩を必要としていないのでな」
エルセリア王国内で塩が不足しているという話は以前からかなり出ていた話だ。
マガルムークは岩塩の産地らしく、エルセリア王国はけっこうな割合をマガルムークからの輸入に頼っている様子だった。
セレネ公国がエルセリア王国に対し塩の交易を持ち掛ける予定なのも、その話があったからだ。
といっても、エルセリア王国内でも海塩による塩の生産を行っている様子はある。ただ、供給量はかなり少なそうだった。
おそらく値段的にみても岩塩のほうがはるかに安価であり、関係性の良好なマガルムークからの輸入に頼ったほうが手っ取り早いという判断を、エルセリア王国としては下しているのだろう。
「悪いが、売るのは無理だな」
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