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異世界では本気の恋をしたい
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仕事の終わりが見えない夜。
早崎あかねことわたしは、部署の中で1つだけ点いている蛍光灯の下で黙々とパソコンのキーを叩いていた。
社内には誰もいない。
時刻はもう夜中の2時を過ぎている。
15連勤の疲れが体を蝕んでいるのがわかるけど、手を止めることは許されない。
上司に押し付けられたレポート、明日の会議のための資料、まだやるべきことは山積みだ。
「はぁ……」
溜息が自然と漏れた。
「わたしは何やってるんだろう……?」
34歳、彼氏いない歴=年齢。
仕事ばかりして気づいたらこんな歳になっていた。
結婚どころか恋愛の経験すらない。
日常は、上司にこき使われる毎日だ。
それでも、心のどこかで頑張れば認められるんだと信じていた。
そう思い続けて、気づけば34歳になっていた。
「もう……辞め……たい」
そう呟いた瞬間、視界がぐらりと揺れた。
頭の中が真っ白になり、キーボードの上に力なく倒れ込む。
「……え?」
それがわたしの最後の記憶だった。
目を開けると、目の前には見知らぬ天井。
いつものオフィスの冷たい光ではなく、柔らかい太陽の光が差し込んでいる。
慌てて体を起こすと、目に飛び込んできたのは豪華な天蓋付きのベッド、そしてアンティークな調度品の数々。
「……ここはどこ?」
思わず口に出してしまう。
どう見てもオフィスではない。
何かの夢だろうか。
自分の手を見下ろすと、明らかに小さく、そして華奢になっている。
長い茶色の髪が肩にかかっているのを感じた。
慌てて目の前にあった鏡の中の自分の顔を見ると、そこには16歳くらいの少女の顔が映っていた。
綺麗な栗色の髪の毛。
整った柳眉。
端正な顔立ち。
薄桃色の唇。
同性の自分も思わず見惚れてしまう顔が鏡の中にはあった。
「え、えっ!?」
驚きのあまり声が出ない。
わたしは確か、オフィスで倒れて……これは夢?
それとも、わたしは死んだの?
「アリア様、ご準備はできましたか?」
突然、扉が開き、メイド服を着た女性が入ってきた。
彼女はにこやかに微笑みながら、わたしの目の前に歩み寄ってくる。
「カイン様がお待ちになってしまいますわ。公爵家のご子息を男爵家の令嬢が待たすなど許されませんよ」
「……カイン様?」
頭が混乱している。
何が起きているのか全くわからない。
でも、今のわたしは「アリア」という名前らしい。
どうやら、この体は「アリア・フィンドラル」という16歳の男爵家の令嬢らしい。
「転生……したの?」
まるで、ネット小説の設定のような展開に驚愕しつつも、現実に起きていることを受け入れるしかなかった。
あれから数日が経った。
わたしはどうやら、本当に異世界に転生してしまったらしい。
転生前の記憶はまだ鮮明に残っているけど、今のわたしはアリアとしてこの世界に生きていかないといけない。
この世界は魔法が存在する中世風のファンタジー世界。
王国には様々な貴族が存在し、わたしもその一人である男爵家の娘として生活している。
家族は父と母、そして兄がいる。
彼らとの関係は良好で、特に両親はわたしをとても大切にしてくれている。
そんな日常の中、ひと際目立つ存在がいた。それが、カイン・ローランドさまだ。
金髪碧眼で、誰もが羨む美貌を持つ、17歳の公爵家の御曹司。
学園では多くの女子が彼に憧れている。
噂では彼が少し変わり者だとか言われているけど、そんなこと気にするまでもないほど、彼は完璧な貴族の青年だった。
そんな彼が、なぜかわたしに特別な興味を持っているらしい。
「アリア、明日も一緒にお茶をしないか?」
「えっ……?」
信じられないことに、カインさまはわたしに頻繁に声をかけてくる。
もちろん、わたしのような普通の令嬢に対してだ。
特に理由もなく話しかけてくるし、一緒に過ごす時間が増えてきた。
そのたびに、周囲の視線が痛い。
特に伯爵家の令嬢ガーネット・ゴーマンさんは、わたしに対して明らかな敵意を向けてくる。
彼女はカインさまに憧れている一人で、わたしが彼と親しくしていることを快く思っていないようだ。
「アリアさんって、何も取り柄がないのに、よくカイン様にお付き合いできるわね」
ガーネットさんの言葉は、まるで針のようにわたしの心に刺さる。
転生前のわたしなら、そんな嫌味に傷ついていただろう。
でも、今のわたしは違う。
34歳の元社畜OLとして培った忍耐力が、わたしを強くしてくれていた。
「そんなことないと思いますけど?」
「何ですって?」
わたしは微笑んで、ガーネットに向かって淡々と答えた。
わたしには特別な才能なんてないかもしれないけど、少なくともカインがわたしを選んだのは事実だ。
それだけで、わたしは充分に満足している。
その日も、カインさまと一緒に散歩をしていた。
広々とした庭園の中、花々が咲き誇っている。
「アリア、今日も一段と美しいな」
「そんな……からかわないでください」
カインさまの褒め言葉に、わたしは照れくさくて目を逸らす。
転生してから、彼の優しい言葉に何度も救われてきた。
彼がわたしを見初めてくれたことが、今のわたしの救いだ。
「いや、本気だよ」
カインはわたしの顔をじっと見つめながら、真剣な眼差しでそう言った。
「アリア、君のことをもっと知りたい。君ともっと一緒にいたい」
彼の言葉に、胸が高鳴る。
転生前は34歳のOLとして、恋愛なんて無縁だったわたしが、今こうしてカインさまに惹かれているなんて信じられない。
でも、わたしはもう一度生き直すチャンスを得た。
今度こそ、幸せを掴みたいと強く思った。
「わたしも……カインさまと一緒にいたい……です」
そう答えた瞬間、カインさまの顔が柔らかくほころんだ。
「ありがとう、アリア」
彼の言葉が、わたしの心を温かく包み込む。
だけど、そんな幸せな時間が続くことを、ガーネットさんが許すはずもなかった……
◆◆◆
翌朝、わたしは窓から差し込む柔らかな日差しで目を覚ました。
シルクのシーツが肌に心地よく、こんな朝がずっと続けばいいのにと心の中でそっと願う。
同時に昨日の散歩のことを思い出すと、顔が自然と赤くなってしまった。
カインさまの真剣な眼差し、あの優しい声、そしてわたしの胸に残る温かさ。
彼と一緒にいると、わたしは今まで感じたことのない幸福に包まれる。
「はぁ……」
自然と溜息が出てしまう。
恋なんて自分には縁のないものだと思っていた。
今まで仕事一筋で生きてきたし、恋愛経験もまるでなかった。
でも、カインさまは違う。
彼といると、まるで物語の主人公になったような気分になる。
おとぎ話のような恋が現実に起きているなんて……
「アリア様、そろそろお支度を」
ノックをして部屋に入ってきたメイドのリリィが、優しく声をかけてきた。
わたしは夢見心地のまま、彼女に髪を整えてもらいながら今日の予定を考えた。
カインさまとまたお茶をする約束をしている。
それだけで、胸が高鳴る。
「リリィ、今日はどんなドレスがいいかしら?」
「カイン様とのお茶会でございますね。それなら、このピンクのドレスはいかがでしょう? アリア様のお肌にとても映えると思います」
リリィの勧めに従い、ピンクのドレスに着替える。
フリルとレースがふんだんに使われたドレスは、普段のわたしには少し甘すぎるけれど、今日は特別な日だから。
この世界に転生してから、初めてこんなにも心が躍っているのを感じる。
翌日。
カインさまとお茶をする庭園は、まるで絵画のように美しい場所だった。
噴水がキラキラと輝き、花々が咲き誇る中、白いテーブルセットが置かれている。
カインさまはすでにそこに座って、わたしを待っていた。
「アリア、今日もとても綺麗だ」
カインさまが微笑んで言う。
その一言だけで、わたしの顔は熱くなった。
「ありがとうございます……カインさまも、とても素敵です」
なんとか言葉を返すものの、恥ずかしさでまともに目を合わせることができない。
でも、カインさまはそんなわたしを見て優しく微笑む。
「君といると、時間があっという間に過ぎていくよ。今日も君とどう過ごそうかと考えるだけで楽しみだった」
その言葉に、わたしの心は完全にとろけてしまう。
こんなふうに優しくされるのは、初めてのことだ。
「わたしも……カインさまと一緒に過ごせることが、本当に嬉しいです」
そう答えた瞬間、わたしたちの間にふわりと甘い空気が流れた。
幸せでいっぱいのこの瞬間、誰にも邪魔されず、ただカインさまと二人きりでいられることが何よりも嬉しかった。
でも、その静寂を破ったのは――。
「まぁ、カイン様とアリアさんじゃないですか」
背筋が凍るような声が聞こえた。
振り返ると、そこにはガーネットさんが立っていた。
彼女はいつものように美しい姿で、堂々とした態度でこちらに歩み寄ってくる。
「ガーネットさん……」
わたしは思わず彼女の名前を口にしてしまった。
心の中で「また来たの?」と思わずにはいられない。
ガーネットさんはカインさまに熱烈な思いを抱いているのは知っていたけれど、彼女がこんなにしつこく現れるとは予想外だった。
「カイン様、今日も素晴らしいお天気ですね。アリアさんとお茶なんて、とても楽しそうですわ。私もご一緒させていただいても構いませんか?」
その言葉に、わたしは内心焦った。
もちろん、ガーネットさんがここにいることで、わたしの穏やかな時間が奪われるのは嫌だ。
でも、貴族の礼儀として無下に断るわけにもいかない。
カインさまは一瞬黙り込んだが、次の瞬間、彼の口から意外な言葉が出てきた。
「申し訳ないが、今日はアリアと二人で過ごしたいんだ。ガーネット、また今度にしてくれないか?」
「……えっ?」
驚いたのはわたしだけじゃなかった。
ガーネットさんも一瞬固まったように見えた。
彼女は美しい顔にわずかな戸惑いを浮かべ、すぐに微笑みに戻したが、その笑みにはどこか無理があった。
「……そうですか、カイン様がそう仰るのなら」
そう言って、彼女はしぶしぶ立ち去っていった。
わたしはカインさまの決断に驚いていた。
まさかガーネットさんに対して、こんなに明確に「NO」を言うとは思ってもみなかった。
でも、それ以上に胸が熱くなった。
カインさまがわたしを優先してくれたことが、何よりも嬉しかった。
「カインさま……ありがとうございます」
「気にすることはないよ、アリア。僕は君と過ごす時間が一番大切なんだ。誰にも邪魔されたくないんだ」
彼の言葉に、わたしはさらに顔を赤くしてしまった。
彼の優しさと真剣さが、まるで夢のようで――いや、今わたしがいるこの世界そのものが夢みたいなものなのかもしれない。
その夜、ベッドに入ってもわたしの心は高揚したままだった。
カインさまがわたしを選んでくれたという事実。
ガーネットさんの存在は確かに厄介だけれど、それでもカインさまはわたしを守ってくれる。
そんな彼の優しさに包まれて、安心して眠りにつくことができた。
でも、次の日からガーネットさんの妨害がさらに激化することを、わたしはまだ知らなかった。
◆◆◆
朝の光が窓から差し込み、わたしは幸せな夢から目を覚ました。
昨日のカインさまとのひとときが、まるで魔法のように心に残っている。
彼の優しい笑顔、温かい言葉、そして彼と過ごした時間が、わたしの心を幸せでいっぱいにしていた。
しかし、その幸せな時間が長く続かないことを、わたしはまだ知らなかった。
学園内に向かう途中、心地よい風が髪を撫でていく。
幸せな気分で歩いていると、突然ガーネットさんの姿が目に入った。
彼女は広場の片隅でわたしをじっと見つめており、その冷たい視線にわたしは背筋が凍りついた。
ガーネットさんの表情に浮かぶ憎しみの色が、わたしに不安をもたらす。
「アリアさん、少しお話ししませんか?」
彼女の声には、鋭いトゲが潜んでいた。
わたしは無理に笑顔を作りながらも、心の中で警戒心を強めた。
「ガーネットさん?」
ガーネットさんはじわじわとわたしに近づいてくる。
その表情には、何かを決意したかのような強い意志が込められていた。
わたしの心は次第に高鳴り、冷や汗が背中を伝う。
「今日は、何か用があるのでしょうか?」
「実は、アリアさん、あなたに言いたいことがあるんです……」
ガーネットさんの言葉には、まるで冷徹な刃のような響きがあった。
「私と一緒に来ていただけませんか? ここではなく、もっと静かな場所でお話ししたいんです」
その提案に、わたしの心は急激に不安でいっぱいになった。
彼女が何を考えているのか、わたしには正確には分からなかったが、ガーネットさんの表情からは危険な気配が漂っていた。
「申し訳ありませんが、今日は……」
「そうですか。残念ですね、アリアさん」
その言葉が終わると同時に、ガーネットさんの顔が歪み、狂気の色が浮かんでいた。
彼女の手には小さな短剣が握られており、その刃が光を反射して、まるで暗闇の中の光のように冷たく輝いていた。
「な、何を……!」
「アリアさん、カインさまと別れてください。でないと、あなたをここで殺します」
その言葉に、わたしは震えながらも強い決意を抱いた。
わたしの心に過去の記憶が蘇る。
日本で男性に告白する勇気が持てず、恋愛を恐れ続けた日々が鮮やかに浮かび上がる。
わたしが彼氏を作れなかったのは、自分の卑屈さからだったのだ。
でも、転生した今は違う。
1人の愛する男性に出会えた今はもう違う。
過去の自分との決別を誓いながら、わたしははっきりと答えた。
「わたしはカインさまを愛しています。この気持ちはたとえ殺されようと変わりません。たとえ命を落とすことになっても、私の心は変わらない」
その言葉が終わると同時に、ガーネットさんの目が一層鋭くなり、彼女は短剣を再び振り上げた。
その姿に、わたしの心は恐怖でいっぱいになった。
しかし、カインさまが一歩前に出て、わたしの前に立ちはだかった。
「アリア、下がって!」
彼の声は強く、そして優しい。
カインさまは身を挺してわたしを守ろうとしていた。
ガーネットさんの攻撃がカインさまの身体をかすめ、その瞬間、彼の盾のような魔法の防御が光り、短剣の攻撃を防いでいた。
「カインさま!」
わたしの心は崩れそうになりながらも、彼の背中を見守るしかなかった。
カインさまは果敢にガーネットさんと対峙し、彼女の攻撃を防ぐと、すぐに学園内の騎士団を呼ぶ指示を出した。
学園騎士団が到着すると、ガーネットさんはすぐに取り押さえられて捕縛された。
彼女はまだ暴れようとし、怒りの声を上げ続けていたが、その姿にはかつての威圧感は微塵もなかった。
「ガーネット、君の行動は許されるものではない。厳重に処罰されるべきだ」
カインさまの冷静な言葉に、ガーネットさんはただ呆然と立ち尽くし、手に負えない状況に圧倒されていた。
彼女の暴力行為が広く知られることとなり、学園内での評判も急速に悪化していった。
その夜、カインさまとわたしは静かな時間を過ごすことができた。
学園内の騒動も落ち着き、二人だけの時間が戻ってきた。
「アリア、平気かい?」
カインさまが優しく声をかけ、わたしの手を取ってその温もりを感じさせてくれた。
その瞬間、わたしの心は完全に安堵でいっぱいになった。
過去の自分との決別を果たし、カインさまと共に新たな未来を歩む決意を新たにした。
「カインさま、ありがとうございます。わたし、もう迷いません」
カインさまの微笑みに、わたしの心は幸福でいっぱいになった。
ガーネットさんの脅威が去り、わたしとカインさまは無事に結ばれる未来を迎える準備が整った。
その後、ガーネットさんは学園内での暴力行為のため、厳重に処罰されることになった。
彼女の行動がもたらした影響は大きく、多くの人々が彼女の凶行に対して厳しい目を向けた。
一方、わたしとカインさまは、静かな幸せな日々を取り戻し、彼との関係はますます深まっていった。
未来には、二人の愛と絆がさらに強まっていくことを信じて。
わたしは、心からの幸せを感じながら、これからの未来を歩んでいくのだった。
〈Fin〉
早崎あかねことわたしは、部署の中で1つだけ点いている蛍光灯の下で黙々とパソコンのキーを叩いていた。
社内には誰もいない。
時刻はもう夜中の2時を過ぎている。
15連勤の疲れが体を蝕んでいるのがわかるけど、手を止めることは許されない。
上司に押し付けられたレポート、明日の会議のための資料、まだやるべきことは山積みだ。
「はぁ……」
溜息が自然と漏れた。
「わたしは何やってるんだろう……?」
34歳、彼氏いない歴=年齢。
仕事ばかりして気づいたらこんな歳になっていた。
結婚どころか恋愛の経験すらない。
日常は、上司にこき使われる毎日だ。
それでも、心のどこかで頑張れば認められるんだと信じていた。
そう思い続けて、気づけば34歳になっていた。
「もう……辞め……たい」
そう呟いた瞬間、視界がぐらりと揺れた。
頭の中が真っ白になり、キーボードの上に力なく倒れ込む。
「……え?」
それがわたしの最後の記憶だった。
目を開けると、目の前には見知らぬ天井。
いつものオフィスの冷たい光ではなく、柔らかい太陽の光が差し込んでいる。
慌てて体を起こすと、目に飛び込んできたのは豪華な天蓋付きのベッド、そしてアンティークな調度品の数々。
「……ここはどこ?」
思わず口に出してしまう。
どう見てもオフィスではない。
何かの夢だろうか。
自分の手を見下ろすと、明らかに小さく、そして華奢になっている。
長い茶色の髪が肩にかかっているのを感じた。
慌てて目の前にあった鏡の中の自分の顔を見ると、そこには16歳くらいの少女の顔が映っていた。
綺麗な栗色の髪の毛。
整った柳眉。
端正な顔立ち。
薄桃色の唇。
同性の自分も思わず見惚れてしまう顔が鏡の中にはあった。
「え、えっ!?」
驚きのあまり声が出ない。
わたしは確か、オフィスで倒れて……これは夢?
それとも、わたしは死んだの?
「アリア様、ご準備はできましたか?」
突然、扉が開き、メイド服を着た女性が入ってきた。
彼女はにこやかに微笑みながら、わたしの目の前に歩み寄ってくる。
「カイン様がお待ちになってしまいますわ。公爵家のご子息を男爵家の令嬢が待たすなど許されませんよ」
「……カイン様?」
頭が混乱している。
何が起きているのか全くわからない。
でも、今のわたしは「アリア」という名前らしい。
どうやら、この体は「アリア・フィンドラル」という16歳の男爵家の令嬢らしい。
「転生……したの?」
まるで、ネット小説の設定のような展開に驚愕しつつも、現実に起きていることを受け入れるしかなかった。
あれから数日が経った。
わたしはどうやら、本当に異世界に転生してしまったらしい。
転生前の記憶はまだ鮮明に残っているけど、今のわたしはアリアとしてこの世界に生きていかないといけない。
この世界は魔法が存在する中世風のファンタジー世界。
王国には様々な貴族が存在し、わたしもその一人である男爵家の娘として生活している。
家族は父と母、そして兄がいる。
彼らとの関係は良好で、特に両親はわたしをとても大切にしてくれている。
そんな日常の中、ひと際目立つ存在がいた。それが、カイン・ローランドさまだ。
金髪碧眼で、誰もが羨む美貌を持つ、17歳の公爵家の御曹司。
学園では多くの女子が彼に憧れている。
噂では彼が少し変わり者だとか言われているけど、そんなこと気にするまでもないほど、彼は完璧な貴族の青年だった。
そんな彼が、なぜかわたしに特別な興味を持っているらしい。
「アリア、明日も一緒にお茶をしないか?」
「えっ……?」
信じられないことに、カインさまはわたしに頻繁に声をかけてくる。
もちろん、わたしのような普通の令嬢に対してだ。
特に理由もなく話しかけてくるし、一緒に過ごす時間が増えてきた。
そのたびに、周囲の視線が痛い。
特に伯爵家の令嬢ガーネット・ゴーマンさんは、わたしに対して明らかな敵意を向けてくる。
彼女はカインさまに憧れている一人で、わたしが彼と親しくしていることを快く思っていないようだ。
「アリアさんって、何も取り柄がないのに、よくカイン様にお付き合いできるわね」
ガーネットさんの言葉は、まるで針のようにわたしの心に刺さる。
転生前のわたしなら、そんな嫌味に傷ついていただろう。
でも、今のわたしは違う。
34歳の元社畜OLとして培った忍耐力が、わたしを強くしてくれていた。
「そんなことないと思いますけど?」
「何ですって?」
わたしは微笑んで、ガーネットに向かって淡々と答えた。
わたしには特別な才能なんてないかもしれないけど、少なくともカインがわたしを選んだのは事実だ。
それだけで、わたしは充分に満足している。
その日も、カインさまと一緒に散歩をしていた。
広々とした庭園の中、花々が咲き誇っている。
「アリア、今日も一段と美しいな」
「そんな……からかわないでください」
カインさまの褒め言葉に、わたしは照れくさくて目を逸らす。
転生してから、彼の優しい言葉に何度も救われてきた。
彼がわたしを見初めてくれたことが、今のわたしの救いだ。
「いや、本気だよ」
カインはわたしの顔をじっと見つめながら、真剣な眼差しでそう言った。
「アリア、君のことをもっと知りたい。君ともっと一緒にいたい」
彼の言葉に、胸が高鳴る。
転生前は34歳のOLとして、恋愛なんて無縁だったわたしが、今こうしてカインさまに惹かれているなんて信じられない。
でも、わたしはもう一度生き直すチャンスを得た。
今度こそ、幸せを掴みたいと強く思った。
「わたしも……カインさまと一緒にいたい……です」
そう答えた瞬間、カインさまの顔が柔らかくほころんだ。
「ありがとう、アリア」
彼の言葉が、わたしの心を温かく包み込む。
だけど、そんな幸せな時間が続くことを、ガーネットさんが許すはずもなかった……
◆◆◆
翌朝、わたしは窓から差し込む柔らかな日差しで目を覚ました。
シルクのシーツが肌に心地よく、こんな朝がずっと続けばいいのにと心の中でそっと願う。
同時に昨日の散歩のことを思い出すと、顔が自然と赤くなってしまった。
カインさまの真剣な眼差し、あの優しい声、そしてわたしの胸に残る温かさ。
彼と一緒にいると、わたしは今まで感じたことのない幸福に包まれる。
「はぁ……」
自然と溜息が出てしまう。
恋なんて自分には縁のないものだと思っていた。
今まで仕事一筋で生きてきたし、恋愛経験もまるでなかった。
でも、カインさまは違う。
彼といると、まるで物語の主人公になったような気分になる。
おとぎ話のような恋が現実に起きているなんて……
「アリア様、そろそろお支度を」
ノックをして部屋に入ってきたメイドのリリィが、優しく声をかけてきた。
わたしは夢見心地のまま、彼女に髪を整えてもらいながら今日の予定を考えた。
カインさまとまたお茶をする約束をしている。
それだけで、胸が高鳴る。
「リリィ、今日はどんなドレスがいいかしら?」
「カイン様とのお茶会でございますね。それなら、このピンクのドレスはいかがでしょう? アリア様のお肌にとても映えると思います」
リリィの勧めに従い、ピンクのドレスに着替える。
フリルとレースがふんだんに使われたドレスは、普段のわたしには少し甘すぎるけれど、今日は特別な日だから。
この世界に転生してから、初めてこんなにも心が躍っているのを感じる。
翌日。
カインさまとお茶をする庭園は、まるで絵画のように美しい場所だった。
噴水がキラキラと輝き、花々が咲き誇る中、白いテーブルセットが置かれている。
カインさまはすでにそこに座って、わたしを待っていた。
「アリア、今日もとても綺麗だ」
カインさまが微笑んで言う。
その一言だけで、わたしの顔は熱くなった。
「ありがとうございます……カインさまも、とても素敵です」
なんとか言葉を返すものの、恥ずかしさでまともに目を合わせることができない。
でも、カインさまはそんなわたしを見て優しく微笑む。
「君といると、時間があっという間に過ぎていくよ。今日も君とどう過ごそうかと考えるだけで楽しみだった」
その言葉に、わたしの心は完全にとろけてしまう。
こんなふうに優しくされるのは、初めてのことだ。
「わたしも……カインさまと一緒に過ごせることが、本当に嬉しいです」
そう答えた瞬間、わたしたちの間にふわりと甘い空気が流れた。
幸せでいっぱいのこの瞬間、誰にも邪魔されず、ただカインさまと二人きりでいられることが何よりも嬉しかった。
でも、その静寂を破ったのは――。
「まぁ、カイン様とアリアさんじゃないですか」
背筋が凍るような声が聞こえた。
振り返ると、そこにはガーネットさんが立っていた。
彼女はいつものように美しい姿で、堂々とした態度でこちらに歩み寄ってくる。
「ガーネットさん……」
わたしは思わず彼女の名前を口にしてしまった。
心の中で「また来たの?」と思わずにはいられない。
ガーネットさんはカインさまに熱烈な思いを抱いているのは知っていたけれど、彼女がこんなにしつこく現れるとは予想外だった。
「カイン様、今日も素晴らしいお天気ですね。アリアさんとお茶なんて、とても楽しそうですわ。私もご一緒させていただいても構いませんか?」
その言葉に、わたしは内心焦った。
もちろん、ガーネットさんがここにいることで、わたしの穏やかな時間が奪われるのは嫌だ。
でも、貴族の礼儀として無下に断るわけにもいかない。
カインさまは一瞬黙り込んだが、次の瞬間、彼の口から意外な言葉が出てきた。
「申し訳ないが、今日はアリアと二人で過ごしたいんだ。ガーネット、また今度にしてくれないか?」
「……えっ?」
驚いたのはわたしだけじゃなかった。
ガーネットさんも一瞬固まったように見えた。
彼女は美しい顔にわずかな戸惑いを浮かべ、すぐに微笑みに戻したが、その笑みにはどこか無理があった。
「……そうですか、カイン様がそう仰るのなら」
そう言って、彼女はしぶしぶ立ち去っていった。
わたしはカインさまの決断に驚いていた。
まさかガーネットさんに対して、こんなに明確に「NO」を言うとは思ってもみなかった。
でも、それ以上に胸が熱くなった。
カインさまがわたしを優先してくれたことが、何よりも嬉しかった。
「カインさま……ありがとうございます」
「気にすることはないよ、アリア。僕は君と過ごす時間が一番大切なんだ。誰にも邪魔されたくないんだ」
彼の言葉に、わたしはさらに顔を赤くしてしまった。
彼の優しさと真剣さが、まるで夢のようで――いや、今わたしがいるこの世界そのものが夢みたいなものなのかもしれない。
その夜、ベッドに入ってもわたしの心は高揚したままだった。
カインさまがわたしを選んでくれたという事実。
ガーネットさんの存在は確かに厄介だけれど、それでもカインさまはわたしを守ってくれる。
そんな彼の優しさに包まれて、安心して眠りにつくことができた。
でも、次の日からガーネットさんの妨害がさらに激化することを、わたしはまだ知らなかった。
◆◆◆
朝の光が窓から差し込み、わたしは幸せな夢から目を覚ました。
昨日のカインさまとのひとときが、まるで魔法のように心に残っている。
彼の優しい笑顔、温かい言葉、そして彼と過ごした時間が、わたしの心を幸せでいっぱいにしていた。
しかし、その幸せな時間が長く続かないことを、わたしはまだ知らなかった。
学園内に向かう途中、心地よい風が髪を撫でていく。
幸せな気分で歩いていると、突然ガーネットさんの姿が目に入った。
彼女は広場の片隅でわたしをじっと見つめており、その冷たい視線にわたしは背筋が凍りついた。
ガーネットさんの表情に浮かぶ憎しみの色が、わたしに不安をもたらす。
「アリアさん、少しお話ししませんか?」
彼女の声には、鋭いトゲが潜んでいた。
わたしは無理に笑顔を作りながらも、心の中で警戒心を強めた。
「ガーネットさん?」
ガーネットさんはじわじわとわたしに近づいてくる。
その表情には、何かを決意したかのような強い意志が込められていた。
わたしの心は次第に高鳴り、冷や汗が背中を伝う。
「今日は、何か用があるのでしょうか?」
「実は、アリアさん、あなたに言いたいことがあるんです……」
ガーネットさんの言葉には、まるで冷徹な刃のような響きがあった。
「私と一緒に来ていただけませんか? ここではなく、もっと静かな場所でお話ししたいんです」
その提案に、わたしの心は急激に不安でいっぱいになった。
彼女が何を考えているのか、わたしには正確には分からなかったが、ガーネットさんの表情からは危険な気配が漂っていた。
「申し訳ありませんが、今日は……」
「そうですか。残念ですね、アリアさん」
その言葉が終わると同時に、ガーネットさんの顔が歪み、狂気の色が浮かんでいた。
彼女の手には小さな短剣が握られており、その刃が光を反射して、まるで暗闇の中の光のように冷たく輝いていた。
「な、何を……!」
「アリアさん、カインさまと別れてください。でないと、あなたをここで殺します」
その言葉に、わたしは震えながらも強い決意を抱いた。
わたしの心に過去の記憶が蘇る。
日本で男性に告白する勇気が持てず、恋愛を恐れ続けた日々が鮮やかに浮かび上がる。
わたしが彼氏を作れなかったのは、自分の卑屈さからだったのだ。
でも、転生した今は違う。
1人の愛する男性に出会えた今はもう違う。
過去の自分との決別を誓いながら、わたしははっきりと答えた。
「わたしはカインさまを愛しています。この気持ちはたとえ殺されようと変わりません。たとえ命を落とすことになっても、私の心は変わらない」
その言葉が終わると同時に、ガーネットさんの目が一層鋭くなり、彼女は短剣を再び振り上げた。
その姿に、わたしの心は恐怖でいっぱいになった。
しかし、カインさまが一歩前に出て、わたしの前に立ちはだかった。
「アリア、下がって!」
彼の声は強く、そして優しい。
カインさまは身を挺してわたしを守ろうとしていた。
ガーネットさんの攻撃がカインさまの身体をかすめ、その瞬間、彼の盾のような魔法の防御が光り、短剣の攻撃を防いでいた。
「カインさま!」
わたしの心は崩れそうになりながらも、彼の背中を見守るしかなかった。
カインさまは果敢にガーネットさんと対峙し、彼女の攻撃を防ぐと、すぐに学園内の騎士団を呼ぶ指示を出した。
学園騎士団が到着すると、ガーネットさんはすぐに取り押さえられて捕縛された。
彼女はまだ暴れようとし、怒りの声を上げ続けていたが、その姿にはかつての威圧感は微塵もなかった。
「ガーネット、君の行動は許されるものではない。厳重に処罰されるべきだ」
カインさまの冷静な言葉に、ガーネットさんはただ呆然と立ち尽くし、手に負えない状況に圧倒されていた。
彼女の暴力行為が広く知られることとなり、学園内での評判も急速に悪化していった。
その夜、カインさまとわたしは静かな時間を過ごすことができた。
学園内の騒動も落ち着き、二人だけの時間が戻ってきた。
「アリア、平気かい?」
カインさまが優しく声をかけ、わたしの手を取ってその温もりを感じさせてくれた。
その瞬間、わたしの心は完全に安堵でいっぱいになった。
過去の自分との決別を果たし、カインさまと共に新たな未来を歩む決意を新たにした。
「カインさま、ありがとうございます。わたし、もう迷いません」
カインさまの微笑みに、わたしの心は幸福でいっぱいになった。
ガーネットさんの脅威が去り、わたしとカインさまは無事に結ばれる未来を迎える準備が整った。
その後、ガーネットさんは学園内での暴力行為のため、厳重に処罰されることになった。
彼女の行動がもたらした影響は大きく、多くの人々が彼女の凶行に対して厳しい目を向けた。
一方、わたしとカインさまは、静かな幸せな日々を取り戻し、彼との関係はますます深まっていった。
未来には、二人の愛と絆がさらに強まっていくことを信じて。
わたしは、心からの幸せを感じながら、これからの未来を歩んでいくのだった。
〈Fin〉
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