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その婚約破棄は悪手ですよ、お馬鹿さん
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「おい、ローザリア。お前とは今夜限りで婚約を破棄する」
アルバートの冷たい声が、大ホールに響き渡る。
16歳のローザリア・ヴィンセントは、長い栗色の髪を肩に流し、深緑色の瞳をほんの少し見開いた。
その瞳には驚きの色はなく、まるでこの瞬間を待っていたかのような落ち着きが漂っていた。
大ホールには、豪華なシャンデリアがきらめき、貴族たちが色とりどりのドレスとタキシードに身を包んで集っている。
ローザリアは淡い青のドレスをまとい、繊細な刺繍が施された襟元に、シンプルながらも品のある真珠のネックレスを身に着けていた。
彼女の整った顔立ちは、貴族たちの中でも目を引く美しさだが、普段は控えめな性格が災いし、その魅力があまり注目されることはなかった。
そんな彼女が、今この場で婚約破棄を宣告されている。
周囲の貴族たちがざわめき、その視線が一斉にローザリアに集中する。
だが、彼女は冷静だった。
まるでこの瞬間が訪れることを知っていたかのように、微笑みを崩さない。
「どうしてですか、アルバート様?」
ローザリアは穏やかな声で問いかけた。
その声には、一切の動揺が含まれていない。
ローザリアと対峙するアルバート・ヴァルデンベルクは、20歳の伯爵子息である。
彼の金髪は完璧に整えられ、青い瞳は冷酷な光を帯びていた。
彼は高い鼻梁と鋭い顎を持ち、普段はどんな女性も魅了するほどの美貌を誇っている。
しかし、その顔には今、勝ち誇ったような表情が浮かんでいた。
「お前はつまらない。俺はエレノアと新しい人生を始めるつもりだ」
アルバートの隣に立つエレノア・クラインは、華やかな赤いドレスを身にまとい、金色の髪を豪華なアップスタイルに結い上げている。
彼女は17歳で、気品に満ちた顔立ちをしているが、その瞳には冷たい蔑みが浮かんでいる。
ローザリアに対して見下すような視線を向けながら、唇には勝利の笑みが浮かんでいた。
「そうですか。では、アルバート様、エレノア様。この場で私から一つお伝えしたいことがあります」
「なんだ?」
アルバートが怪訝そうに眉をひそめる。
「この婚約破棄、実は私が待ち望んでいたものでした。あなたが私を裏切ってエレノア様と密会していたことは、すでに知っていましたから」
その瞬間、大ホールの空気が一変する。
貴族たちが息を呑み、アルバートとエレノアの顔に驚愕の色が走った。
ローザリアの内心では、ここまで計画通りに進んでいることに密かな満足感が広がっていた。
「お、お前、何を言っている?」
アルバートの声が震える。
彼はこれまで、自分が優位に立っていると信じて疑わなかった。
それが今、足元から崩れ去っていく感覚に襲われていた。
「あなたたちが密会しているのを見た証人がいます。そして、その証拠も」
ローザリアは冷静に告げた。
彼女の胸の奥には、ずっと抑えてきた怒りと復讐心が静かに燃えている。
それはローザリアの生きてきた環境、そして貴族社会で生き残るために培ってきた知恵と狡猾さが、今まさに頂点に達しようとしていた瞬間だった。
エレノアは冷ややかな笑みを消し去り、その代わりに恐怖をにじませた。
「証拠だと? そんなものあるわけが……」
「ありますよ。今ここに」
ローザリアは冷ややかに微笑んだ。
彼女の唇が僅かに震えていたのは、緊張からではなく、ついにその瞬間が訪れたことへの期待からだった。
ローザリアは、扉の方に軽く手を振り、合図を送る。
重厚な木製の扉がゆっくりと開かれ、数名の召使いが大きな箱を慎重に運び込んできた。
その箱は、貴族たちの好奇心を引きつけるように輝き、彼らは何が入っているのかを知ろうと身を乗り出していた。
「この箱の中には、あなたたちが密会している様子を描いた手紙、そしてあなたたちが一緒に過ごした時間の記録があります。それに加えて、エレノア様、あなたの家族が関わるある重大な秘密も含まれています」
エレノアの顔は真っ青になり、彼女はその場で崩れ落ちそうになるも、必死に耐えた。
アルバートの表情は、絶望に染まり始めていた。
彼はローザリアの知性を侮っていたことを、今になって後悔していた。
「な、何を企んでいる?」
アルバートがたずねるも、その声は力を失っていた。
「何も企んでいません。ただ、真実を明らかにするだけです」
ローザリアは淡々と答える。
その瞳には、一切の躊躇も恐れもなかった。
彼女はこの日が来ることを待ちわび、そしてこの瞬間を勝ち取るためにすべてを計画してきた。
「アルバート様、あなたが私と婚約している間に、エレノア様と共に何をしていたかは、もう知っています。貴族の財産を横領し、密輸に手を染め、そして他の貴族たちを陥れるために、あなたが何をしたかも」
アルバートの顔が真っ青になる。
彼の手が震え、エレノアの顔も恐怖で凍りついていた。
ローザリアは内心で冷たい笑みを浮かべながら、言葉を続けた。
「証拠の一部はすでに法廷に提出済みです。もしもあなたが公衆の面前での婚約破棄など馬鹿な真似をしなかったのなら、わたしは誰にも知られずこっそりと事を成すつもりでした。そうすれば少なくともあたは最悪な展開を迎えずに済んだでしょう。ですが、こうなったからには仕方ありません。今夜ここにいるすべての貴族が証人となり、あなたたちの悪事は盛大に暴かれます」
エレノアは震える声で反論しようとしたが、その言葉はかすれていた。
「そんな……嘘……これは何かの間違いよ!」
「嘘かどうかは、これを見ていただければ分かるでしょう」
ローザリアは箱を開け、証拠の書類を取り出し、貴族たちの前に広げた。
その紙に描かれた細かい文字と印章は、すべてが真実であることを証明していた。
貴族たちはそれを見て、どよめきが広がる。
アルバートとエレノアの陰謀は、これで完全に明らかになった。
ローザリアは、自分の手元に勝利を感じながら、冷たくアルバートを見つめる。
「さて、アルバート様、エレノア様。この証拠を元に、私はあなたたちを貴族社会から追放する手続きを進めさせていただきます。これにより、あなたたちが二度とこの場に戻ってくることはないでしょう」
アルバートは何とか抵抗しようとしたが、すでに彼の運命は決まっていた。
貴族たちは一斉に彼とエレノアを非難し、その場に立つことすら許されなかった。
ローザリアはその光景を見ながら、心の中で静かに満足感を味わった。
彼女は、自分の人生を取り戻し、そして新たな一歩を踏み出す決意を固めた。
これからの彼女は、もはや誰にも傷つけられることはないだろう。
「これで終わりですよ、お馬鹿さん」
ローザリアは静かに呟き、貴族たちの視線が集まる中、堂々とその場を後にした。
数ヶ月後――。
ローザリアは公爵家の次男であり、若き政治家として頭角を現していたレオン・アシュフォードと婚約することになった。
レオンは黒髪に深い青色の瞳を持つ25歳の男性で、その端整な顔立ちと誠実な性格で知られていた。
彼の容姿はもちろんのこと、その知識と判断力は多くの貴族たちから信頼されており、彼の存在は貴族社会で重要な位置を占めていた。
ローザリアとレオンの出会い偶然だったが、その発端はあの晩餐会の夜にあった。
実はあの場にレオンがいてアルバートとの婚約を破棄し、自らの力で真実を明らかにしたローザリアの勇気に強く惹かれていたという。
一方のローザリアもレオンにほぼ一目惚れのような形になり、二人はあっという間に婚約まで至った。
そんなローザリアはレオンと共に、広大な邸宅で穏やかで充実した日々を過ごしていた。
彼の愛情は純粋で深く、彼はローザリアに対して常に優しさと尊敬を持って接していた。
レオンとの生活は、ローザリアがこれまでに経験したことのない幸福感に満ちていた。
毎朝、彼女は美しい庭園を歩きながら、色とりどりの花々を楽しんだり、レオンと共にささやかな朝食を楽しんだりした。
彼は政治の仕事で忙しいにもかかわらず、ローザリアとの時間を大切にし、彼女が幸せであるように常に配慮していた。
レオンとの婚約は貴族社会においても大きな話題となり、多くの貴族たちが彼女を称賛した。
ローザリアの地位は、彼女がアルバートと婚約していたときとは比較にならないほど向上していた。
そして、何よりも彼女は自分自身の力で幸せを手に入れたことに満足していた。
一方、アルバートとエレノアの運命は、完全に逆転していた。
ローザリアが公開した証拠により彼らの悪事は明るみに出たことで、国庫の横領や違法交易品の密輸に関与していたことが証明され、法廷は彼らに厳しい判決を下した。
アルバートはすべてを失った。
彼の名声、地位、そして富は瞬く間に消え去り、彼は自分の行いを悔いることもなく、ただ運命に翻弄されるばかりだった。
貴族社会から完全に追放され、彼の家族もまたその影響で没落していった。
彼が築き上げてきたものはすべて灰燼に帰し、彼の名前はもはや誰にも語られることはなかった。
エレノアも同様に、貴族社会から追放され、その後の彼女の運命はさらに悲惨なものとなった。
彼女の家族はその醜聞のために財産を失い、エレノア自身も過去の栄光を失った。
彼女はかつての華やかさを取り戻すことができず、散財したのちにアルバートと共謀して麻薬の密売に関与。
最終的に、アルバートとエレノアは共に麻薬密売の裁判で有罪判決を受け、彼らはその罪の報いとして処刑された。
その処刑の場には、かつて彼らを知る者たちが集まり、かつての彼らの傲慢さがどれほど無意味であったかを目の当たりにしたという。
そしてそんな馬鹿な二人の無残な最期を聞いても、ローザリアは特に感情を動かされることはなかった。
彼女はすでに過去を乗り越え、新たな人生を歩んでいたからだ。
ある日、ローザリアはレオンと共に夕暮れの庭園を散歩していた。
彼女の心には、これからも続く穏やかな日々と、彼と共に築く未来への希望が満ちていた。
レオンはローザリアの手を優しく握り、彼女を見つめながら静かに言った。
「君は本当に強い人だ、ローザリア。僕は君と共に歩んでいけることが何よりも幸せだ」
ローザリアは微笑み、彼の言葉に答えた。
「私もあなたと共にいることが幸せです。これからも、ずっと」
ローザリアの心は、かつての悲しみや怒りから解放されていた。
彼女は今、自分自身を取り戻し、そして新たな幸せを手に入れたからだ。
この夜、ローザリアは満天の星空の下で、レオンと共に未来を見つめていた。
彼女の心には、深い平和と満足感が広がっていた。
それは自分自身の力で幸せを手に入れた女性にしか味わえない、真の幸福だったことはローザリアだけが知っている。
〈Fin〉
アルバートの冷たい声が、大ホールに響き渡る。
16歳のローザリア・ヴィンセントは、長い栗色の髪を肩に流し、深緑色の瞳をほんの少し見開いた。
その瞳には驚きの色はなく、まるでこの瞬間を待っていたかのような落ち着きが漂っていた。
大ホールには、豪華なシャンデリアがきらめき、貴族たちが色とりどりのドレスとタキシードに身を包んで集っている。
ローザリアは淡い青のドレスをまとい、繊細な刺繍が施された襟元に、シンプルながらも品のある真珠のネックレスを身に着けていた。
彼女の整った顔立ちは、貴族たちの中でも目を引く美しさだが、普段は控えめな性格が災いし、その魅力があまり注目されることはなかった。
そんな彼女が、今この場で婚約破棄を宣告されている。
周囲の貴族たちがざわめき、その視線が一斉にローザリアに集中する。
だが、彼女は冷静だった。
まるでこの瞬間が訪れることを知っていたかのように、微笑みを崩さない。
「どうしてですか、アルバート様?」
ローザリアは穏やかな声で問いかけた。
その声には、一切の動揺が含まれていない。
ローザリアと対峙するアルバート・ヴァルデンベルクは、20歳の伯爵子息である。
彼の金髪は完璧に整えられ、青い瞳は冷酷な光を帯びていた。
彼は高い鼻梁と鋭い顎を持ち、普段はどんな女性も魅了するほどの美貌を誇っている。
しかし、その顔には今、勝ち誇ったような表情が浮かんでいた。
「お前はつまらない。俺はエレノアと新しい人生を始めるつもりだ」
アルバートの隣に立つエレノア・クラインは、華やかな赤いドレスを身にまとい、金色の髪を豪華なアップスタイルに結い上げている。
彼女は17歳で、気品に満ちた顔立ちをしているが、その瞳には冷たい蔑みが浮かんでいる。
ローザリアに対して見下すような視線を向けながら、唇には勝利の笑みが浮かんでいた。
「そうですか。では、アルバート様、エレノア様。この場で私から一つお伝えしたいことがあります」
「なんだ?」
アルバートが怪訝そうに眉をひそめる。
「この婚約破棄、実は私が待ち望んでいたものでした。あなたが私を裏切ってエレノア様と密会していたことは、すでに知っていましたから」
その瞬間、大ホールの空気が一変する。
貴族たちが息を呑み、アルバートとエレノアの顔に驚愕の色が走った。
ローザリアの内心では、ここまで計画通りに進んでいることに密かな満足感が広がっていた。
「お、お前、何を言っている?」
アルバートの声が震える。
彼はこれまで、自分が優位に立っていると信じて疑わなかった。
それが今、足元から崩れ去っていく感覚に襲われていた。
「あなたたちが密会しているのを見た証人がいます。そして、その証拠も」
ローザリアは冷静に告げた。
彼女の胸の奥には、ずっと抑えてきた怒りと復讐心が静かに燃えている。
それはローザリアの生きてきた環境、そして貴族社会で生き残るために培ってきた知恵と狡猾さが、今まさに頂点に達しようとしていた瞬間だった。
エレノアは冷ややかな笑みを消し去り、その代わりに恐怖をにじませた。
「証拠だと? そんなものあるわけが……」
「ありますよ。今ここに」
ローザリアは冷ややかに微笑んだ。
彼女の唇が僅かに震えていたのは、緊張からではなく、ついにその瞬間が訪れたことへの期待からだった。
ローザリアは、扉の方に軽く手を振り、合図を送る。
重厚な木製の扉がゆっくりと開かれ、数名の召使いが大きな箱を慎重に運び込んできた。
その箱は、貴族たちの好奇心を引きつけるように輝き、彼らは何が入っているのかを知ろうと身を乗り出していた。
「この箱の中には、あなたたちが密会している様子を描いた手紙、そしてあなたたちが一緒に過ごした時間の記録があります。それに加えて、エレノア様、あなたの家族が関わるある重大な秘密も含まれています」
エレノアの顔は真っ青になり、彼女はその場で崩れ落ちそうになるも、必死に耐えた。
アルバートの表情は、絶望に染まり始めていた。
彼はローザリアの知性を侮っていたことを、今になって後悔していた。
「な、何を企んでいる?」
アルバートがたずねるも、その声は力を失っていた。
「何も企んでいません。ただ、真実を明らかにするだけです」
ローザリアは淡々と答える。
その瞳には、一切の躊躇も恐れもなかった。
彼女はこの日が来ることを待ちわび、そしてこの瞬間を勝ち取るためにすべてを計画してきた。
「アルバート様、あなたが私と婚約している間に、エレノア様と共に何をしていたかは、もう知っています。貴族の財産を横領し、密輸に手を染め、そして他の貴族たちを陥れるために、あなたが何をしたかも」
アルバートの顔が真っ青になる。
彼の手が震え、エレノアの顔も恐怖で凍りついていた。
ローザリアは内心で冷たい笑みを浮かべながら、言葉を続けた。
「証拠の一部はすでに法廷に提出済みです。もしもあなたが公衆の面前での婚約破棄など馬鹿な真似をしなかったのなら、わたしは誰にも知られずこっそりと事を成すつもりでした。そうすれば少なくともあたは最悪な展開を迎えずに済んだでしょう。ですが、こうなったからには仕方ありません。今夜ここにいるすべての貴族が証人となり、あなたたちの悪事は盛大に暴かれます」
エレノアは震える声で反論しようとしたが、その言葉はかすれていた。
「そんな……嘘……これは何かの間違いよ!」
「嘘かどうかは、これを見ていただければ分かるでしょう」
ローザリアは箱を開け、証拠の書類を取り出し、貴族たちの前に広げた。
その紙に描かれた細かい文字と印章は、すべてが真実であることを証明していた。
貴族たちはそれを見て、どよめきが広がる。
アルバートとエレノアの陰謀は、これで完全に明らかになった。
ローザリアは、自分の手元に勝利を感じながら、冷たくアルバートを見つめる。
「さて、アルバート様、エレノア様。この証拠を元に、私はあなたたちを貴族社会から追放する手続きを進めさせていただきます。これにより、あなたたちが二度とこの場に戻ってくることはないでしょう」
アルバートは何とか抵抗しようとしたが、すでに彼の運命は決まっていた。
貴族たちは一斉に彼とエレノアを非難し、その場に立つことすら許されなかった。
ローザリアはその光景を見ながら、心の中で静かに満足感を味わった。
彼女は、自分の人生を取り戻し、そして新たな一歩を踏み出す決意を固めた。
これからの彼女は、もはや誰にも傷つけられることはないだろう。
「これで終わりですよ、お馬鹿さん」
ローザリアは静かに呟き、貴族たちの視線が集まる中、堂々とその場を後にした。
数ヶ月後――。
ローザリアは公爵家の次男であり、若き政治家として頭角を現していたレオン・アシュフォードと婚約することになった。
レオンは黒髪に深い青色の瞳を持つ25歳の男性で、その端整な顔立ちと誠実な性格で知られていた。
彼の容姿はもちろんのこと、その知識と判断力は多くの貴族たちから信頼されており、彼の存在は貴族社会で重要な位置を占めていた。
ローザリアとレオンの出会い偶然だったが、その発端はあの晩餐会の夜にあった。
実はあの場にレオンがいてアルバートとの婚約を破棄し、自らの力で真実を明らかにしたローザリアの勇気に強く惹かれていたという。
一方のローザリアもレオンにほぼ一目惚れのような形になり、二人はあっという間に婚約まで至った。
そんなローザリアはレオンと共に、広大な邸宅で穏やかで充実した日々を過ごしていた。
彼の愛情は純粋で深く、彼はローザリアに対して常に優しさと尊敬を持って接していた。
レオンとの生活は、ローザリアがこれまでに経験したことのない幸福感に満ちていた。
毎朝、彼女は美しい庭園を歩きながら、色とりどりの花々を楽しんだり、レオンと共にささやかな朝食を楽しんだりした。
彼は政治の仕事で忙しいにもかかわらず、ローザリアとの時間を大切にし、彼女が幸せであるように常に配慮していた。
レオンとの婚約は貴族社会においても大きな話題となり、多くの貴族たちが彼女を称賛した。
ローザリアの地位は、彼女がアルバートと婚約していたときとは比較にならないほど向上していた。
そして、何よりも彼女は自分自身の力で幸せを手に入れたことに満足していた。
一方、アルバートとエレノアの運命は、完全に逆転していた。
ローザリアが公開した証拠により彼らの悪事は明るみに出たことで、国庫の横領や違法交易品の密輸に関与していたことが証明され、法廷は彼らに厳しい判決を下した。
アルバートはすべてを失った。
彼の名声、地位、そして富は瞬く間に消え去り、彼は自分の行いを悔いることもなく、ただ運命に翻弄されるばかりだった。
貴族社会から完全に追放され、彼の家族もまたその影響で没落していった。
彼が築き上げてきたものはすべて灰燼に帰し、彼の名前はもはや誰にも語られることはなかった。
エレノアも同様に、貴族社会から追放され、その後の彼女の運命はさらに悲惨なものとなった。
彼女の家族はその醜聞のために財産を失い、エレノア自身も過去の栄光を失った。
彼女はかつての華やかさを取り戻すことができず、散財したのちにアルバートと共謀して麻薬の密売に関与。
最終的に、アルバートとエレノアは共に麻薬密売の裁判で有罪判決を受け、彼らはその罪の報いとして処刑された。
その処刑の場には、かつて彼らを知る者たちが集まり、かつての彼らの傲慢さがどれほど無意味であったかを目の当たりにしたという。
そしてそんな馬鹿な二人の無残な最期を聞いても、ローザリアは特に感情を動かされることはなかった。
彼女はすでに過去を乗り越え、新たな人生を歩んでいたからだ。
ある日、ローザリアはレオンと共に夕暮れの庭園を散歩していた。
彼女の心には、これからも続く穏やかな日々と、彼と共に築く未来への希望が満ちていた。
レオンはローザリアの手を優しく握り、彼女を見つめながら静かに言った。
「君は本当に強い人だ、ローザリア。僕は君と共に歩んでいけることが何よりも幸せだ」
ローザリアは微笑み、彼の言葉に答えた。
「私もあなたと共にいることが幸せです。これからも、ずっと」
ローザリアの心は、かつての悲しみや怒りから解放されていた。
彼女は今、自分自身を取り戻し、そして新たな幸せを手に入れたからだ。
この夜、ローザリアは満天の星空の下で、レオンと共に未来を見つめていた。
彼女の心には、深い平和と満足感が広がっていた。
それは自分自身の力で幸せを手に入れた女性にしか味わえない、真の幸福だったことはローザリアだけが知っている。
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