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第33話 コンテストの結果発表
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「はっはーっ! やった! 俺たちはやったぞ! やってやったぞ!」
文化系サークル棟の裏手。
林の中にぽつねんと点在していた、八天春学園ラジオ放送部の部室内に秋彦の甲高い声が木霊する。
だが夜一、奈津美、君夜の三人は違った。
沈黙を保ちながら長机の上に置かれていた一枚の封筒と、一枚の新聞記事をじっと見据えている。
「おいおい、どうした? お前たち元気ないじゃないか! 笑え笑え! 俺たちの功績が新聞に載った光栄を噛み締めろ!」
(光栄を噛み締めろって言われてもな……)
一人だけテンションが違いすぎる秋彦を哀れに思いつつ、夜一は秋彦が持参した新聞紙を手に取った。
あらゆる情報が掲載されている地元新聞紙の隅には、綾園動画コンテストの詳細が取り上げられていた。
注意して読んでいなければ見逃してしまうほど小さく。
夜一は何度も読み直した動画コンテストの結果をもう一度だけ確認する。
― 第3回綾園動画コンテスト結果出る。 ―
― 今回は最優秀賞と優秀賞の他に佳作が2本。 ―
― ―
― 今回で第3回を迎えた綾園動画コンテストは白熱 ―
― した戦いを見せた。最優秀賞には西亜大学の映画 ―
― 研究会の作品が選ばれ、優秀賞には西木野高校の ―
― 映画研究会の作品が選ばれるなど映画を題材にし ―
― た作品が見事受賞を果たした。他にも南海大学の ―
― SF劇と、私立高校である八天春学園のラジオ放 ―
― 送部が人気声優である上里円清氏をゲストに招い ―
― た映像つきのラジオ番組がそれぞれ審査員に受け ―
― て佳作に選ばれた。審査員長であり綾園市の市長 ―
― である風間哲夫氏は、この調子で市の地域発展に ―
― 繋がるような作品を作り出してほしいとコメント ―
― した。副審査員長である君島直美氏も綾園市の公 ―
― 式ホームページにおいて、来年もどんな趣向を凝 ―
― らした作品が送られてくるのか今から楽しみと発 ―
― 表した。なお今回から新たに賞の一部に加わった ―
― 佳作作品には綾園市で使えるプレミアム商品券が ―
― 贈られるという。 ―
夜一は広げていた新聞紙を綺麗に畳んだ。
「贈られてきましたね。佳作受賞者がもらえる綾園市プレミアム商品券五万円分が……」
「ああああああああ――っ!」
おそらく〝佳作〟と〝プレミアム商品券〟が現実帰還の呪文だったのだろう。
途端に秋彦は目を真っ赤に充血させて奇声を発した。
叫声は声帯を痛める原因の一つだというのに。
「あかん。部長が壊れてもうた。夜一君、何とか部長の目を覚ましたって」
「無理。黄色い救急車でも呼んでくれ」
夜一が匙を投げたのも当然だった。
百万円が与えられる最優秀賞と、商品券五万円分が与えられる佳作とでは賞金額に差がありすぎる。
「どちらにせよ、これで借金を返せる当てはなくなりましたね。どうするんですか? 完全に今回の放送は赤字ですよ」
次に夜一は落ち着き払った表情で封筒から商品券を取り出した。
五千円分の商品券がきっちり十枚入っている。
「嘘だ! 赤字なんて嘘だ! 嘘に決まっている!」
「残念ながら嘘じゃないですよ。上里さんの出演料や交通費を含めて約十万円。でも本人の提案でギャラは半額ですんだので五万円です」
「五万円なら商品券の分でチャラじゃないか!」
「あくまでもゲストに来てくれた上里さんのギャラの分は、です。九頭竜先輩に返済しなければならない百万円分の借金はビタ一文減っていません」
「ああああああああ――っ!」
そして秋彦の二度目の叫びに夜一と奈津美が両耳を押さえたときだ。
出入り口の扉が滑らかに開き、学生鞄を脇に抱えた武琉が入ってきた。
「すまん。来るのが遅れた……ってワン(俺)の遅刻どころの騒ぎじゃないか」
武琉は長机の上に置かれた新聞紙と商品券を交互に見る。
「なぜだ! なぜ、あれだけ頑張ったのに佳作止まりなんだ! わざわざ高いギャラを払って人気声優の上里円清を呼んだのに!」
「キッカケを作ったのは部長やなくて夜一君ですけどね」
「ジングルやBGMを入れたりする編集作業も頑張ったのに!」
「編集作業はお前じゃなくてワン(俺)がほとんどやったんじゃないか」
うるさい、と秋彦は勢いよく武琉に人差し指を差し向けた。
「武琉、遅刻してきた奴がぶつくさと文句を言うな! お前は構成作家で俺はディレクターなんだぞ! 番組的には俺のほうがずっと偉いんだぞ!」
「だったら偉いディレクター様の意見を賜ろう。綾園動画コンテストの賞金で借金を返済することが不可能になった今、ワン(俺)たちはどうやって君夜に百万円という大金を返せばいいのか聞かせてくれ。残り五秒。五……四……」
「うわっ、ちょっと待て! 五秒で何を考えろって言うんだ!」
「見苦しい言いわけは聞かん。三……二……一……」
「二……三……四……」
「カウントを勝手に増やすな、フリムン(馬鹿たれ)!」
武琉は脇に抱えていた鞄で秋彦の顔面を叩いた。
想定外な攻撃を受けた秋彦は背中から絨毯の上に倒れ込む。
「さて、このフラー(馬鹿)は一先ず放っておくとして」
武琉は打ち合わせや談笑の際に使用していた長机の椅子ではなく、パソコンと接続していた液晶モニターの前の椅子に腰を下ろす。
「さっそく本題に入ろうか」
「本題?」と苦悶の声を上げている秋彦を無視して夜一は訊き返す。
「その通り。借金を返済するためにワン(俺)たちがすべきことの話し合いだ」
全員の視線を一身に受け止めた武琉は、パソコンの電源を入れてOSを起動させた。
たちまち液晶モニターには『魔法少女ラジカルあすか』の壁紙が表示される。
「武琉君、今何て言ったんや? 借金を返済するための話し合い? 今さらそんなもんしても意味ないやん。コンテストでもらえた賞金は商品券五万円分だけやで」
「誰が五万程度の商品券なんて当てにするか」
「ほんなら」
「まあ、ちょっと待て。あいつらの言っていたことが本当なら……」
ぶつぶつと言いながら武琉はマウスを動かしてラジオ放送部のホームページに飛んだ。
以前に見たときと同じ南国の情緒溢れる風景が画面に映る。
「トーヒャー(よっしゃあ)! これならイケるかもしれないぞ!」
力強くガッツポーズをした武琉を見て夜一は眉根を寄せた。
どうやら綾園動画コンテストで佳作止まりだったことは、秋彦に続いて武琉の精神まで狂わせてしまったのだろう。
以前と何も変わっていないラジオ放送部のトップページを見て嬉々とした声を発したことが何よりの証拠である。
夜一は鼻を啜りつつ武琉に歩み寄った。
「名護先輩、もういい。もういいんです。俺たちは勝負に勝って試合に負けた。ただ、それだけのことだったんです。だから借金を返済する方法はこれから全員でゆっくり考えましょう。そして先輩はすぐに帰宅して、大好きな『魔法少女ラジカルあすか』のグッズに囲まれながら萌え萌え悶えて心身をリラックスさせてください」
「何を訳の分からんことを言っている。そんなことよりもこれを見ろ」
夜一は武琉に頭を掴まれて強引にトップページを見せつけられた。
「だから前と変わらないじゃないですか」
八天春学園ラジオ放送部のタイトル。
更新されていないトピックス欄。
心と目が洗われるような海辺の背景。
どこを見ても前と変わった箇所などない。
「どこを見ている。俺が見せたかったのはカウンター数だ。一の位からよく数えてみろ」
「カウンター数?」
夜一は一目でアクセス者の把握ができるカウンターの数を数えた。
「え~と、一……十……百……千……え?」
ようこそ、あなたは3086人目のお客様です
文化系サークル棟の裏手。
林の中にぽつねんと点在していた、八天春学園ラジオ放送部の部室内に秋彦の甲高い声が木霊する。
だが夜一、奈津美、君夜の三人は違った。
沈黙を保ちながら長机の上に置かれていた一枚の封筒と、一枚の新聞記事をじっと見据えている。
「おいおい、どうした? お前たち元気ないじゃないか! 笑え笑え! 俺たちの功績が新聞に載った光栄を噛み締めろ!」
(光栄を噛み締めろって言われてもな……)
一人だけテンションが違いすぎる秋彦を哀れに思いつつ、夜一は秋彦が持参した新聞紙を手に取った。
あらゆる情報が掲載されている地元新聞紙の隅には、綾園動画コンテストの詳細が取り上げられていた。
注意して読んでいなければ見逃してしまうほど小さく。
夜一は何度も読み直した動画コンテストの結果をもう一度だけ確認する。
― 第3回綾園動画コンテスト結果出る。 ―
― 今回は最優秀賞と優秀賞の他に佳作が2本。 ―
― ―
― 今回で第3回を迎えた綾園動画コンテストは白熱 ―
― した戦いを見せた。最優秀賞には西亜大学の映画 ―
― 研究会の作品が選ばれ、優秀賞には西木野高校の ―
― 映画研究会の作品が選ばれるなど映画を題材にし ―
― た作品が見事受賞を果たした。他にも南海大学の ―
― SF劇と、私立高校である八天春学園のラジオ放 ―
― 送部が人気声優である上里円清氏をゲストに招い ―
― た映像つきのラジオ番組がそれぞれ審査員に受け ―
― て佳作に選ばれた。審査員長であり綾園市の市長 ―
― である風間哲夫氏は、この調子で市の地域発展に ―
― 繋がるような作品を作り出してほしいとコメント ―
― した。副審査員長である君島直美氏も綾園市の公 ―
― 式ホームページにおいて、来年もどんな趣向を凝 ―
― らした作品が送られてくるのか今から楽しみと発 ―
― 表した。なお今回から新たに賞の一部に加わった ―
― 佳作作品には綾園市で使えるプレミアム商品券が ―
― 贈られるという。 ―
夜一は広げていた新聞紙を綺麗に畳んだ。
「贈られてきましたね。佳作受賞者がもらえる綾園市プレミアム商品券五万円分が……」
「ああああああああ――っ!」
おそらく〝佳作〟と〝プレミアム商品券〟が現実帰還の呪文だったのだろう。
途端に秋彦は目を真っ赤に充血させて奇声を発した。
叫声は声帯を痛める原因の一つだというのに。
「あかん。部長が壊れてもうた。夜一君、何とか部長の目を覚ましたって」
「無理。黄色い救急車でも呼んでくれ」
夜一が匙を投げたのも当然だった。
百万円が与えられる最優秀賞と、商品券五万円分が与えられる佳作とでは賞金額に差がありすぎる。
「どちらにせよ、これで借金を返せる当てはなくなりましたね。どうするんですか? 完全に今回の放送は赤字ですよ」
次に夜一は落ち着き払った表情で封筒から商品券を取り出した。
五千円分の商品券がきっちり十枚入っている。
「嘘だ! 赤字なんて嘘だ! 嘘に決まっている!」
「残念ながら嘘じゃないですよ。上里さんの出演料や交通費を含めて約十万円。でも本人の提案でギャラは半額ですんだので五万円です」
「五万円なら商品券の分でチャラじゃないか!」
「あくまでもゲストに来てくれた上里さんのギャラの分は、です。九頭竜先輩に返済しなければならない百万円分の借金はビタ一文減っていません」
「ああああああああ――っ!」
そして秋彦の二度目の叫びに夜一と奈津美が両耳を押さえたときだ。
出入り口の扉が滑らかに開き、学生鞄を脇に抱えた武琉が入ってきた。
「すまん。来るのが遅れた……ってワン(俺)の遅刻どころの騒ぎじゃないか」
武琉は長机の上に置かれた新聞紙と商品券を交互に見る。
「なぜだ! なぜ、あれだけ頑張ったのに佳作止まりなんだ! わざわざ高いギャラを払って人気声優の上里円清を呼んだのに!」
「キッカケを作ったのは部長やなくて夜一君ですけどね」
「ジングルやBGMを入れたりする編集作業も頑張ったのに!」
「編集作業はお前じゃなくてワン(俺)がほとんどやったんじゃないか」
うるさい、と秋彦は勢いよく武琉に人差し指を差し向けた。
「武琉、遅刻してきた奴がぶつくさと文句を言うな! お前は構成作家で俺はディレクターなんだぞ! 番組的には俺のほうがずっと偉いんだぞ!」
「だったら偉いディレクター様の意見を賜ろう。綾園動画コンテストの賞金で借金を返済することが不可能になった今、ワン(俺)たちはどうやって君夜に百万円という大金を返せばいいのか聞かせてくれ。残り五秒。五……四……」
「うわっ、ちょっと待て! 五秒で何を考えろって言うんだ!」
「見苦しい言いわけは聞かん。三……二……一……」
「二……三……四……」
「カウントを勝手に増やすな、フリムン(馬鹿たれ)!」
武琉は脇に抱えていた鞄で秋彦の顔面を叩いた。
想定外な攻撃を受けた秋彦は背中から絨毯の上に倒れ込む。
「さて、このフラー(馬鹿)は一先ず放っておくとして」
武琉は打ち合わせや談笑の際に使用していた長机の椅子ではなく、パソコンと接続していた液晶モニターの前の椅子に腰を下ろす。
「さっそく本題に入ろうか」
「本題?」と苦悶の声を上げている秋彦を無視して夜一は訊き返す。
「その通り。借金を返済するためにワン(俺)たちがすべきことの話し合いだ」
全員の視線を一身に受け止めた武琉は、パソコンの電源を入れてOSを起動させた。
たちまち液晶モニターには『魔法少女ラジカルあすか』の壁紙が表示される。
「武琉君、今何て言ったんや? 借金を返済するための話し合い? 今さらそんなもんしても意味ないやん。コンテストでもらえた賞金は商品券五万円分だけやで」
「誰が五万程度の商品券なんて当てにするか」
「ほんなら」
「まあ、ちょっと待て。あいつらの言っていたことが本当なら……」
ぶつぶつと言いながら武琉はマウスを動かしてラジオ放送部のホームページに飛んだ。
以前に見たときと同じ南国の情緒溢れる風景が画面に映る。
「トーヒャー(よっしゃあ)! これならイケるかもしれないぞ!」
力強くガッツポーズをした武琉を見て夜一は眉根を寄せた。
どうやら綾園動画コンテストで佳作止まりだったことは、秋彦に続いて武琉の精神まで狂わせてしまったのだろう。
以前と何も変わっていないラジオ放送部のトップページを見て嬉々とした声を発したことが何よりの証拠である。
夜一は鼻を啜りつつ武琉に歩み寄った。
「名護先輩、もういい。もういいんです。俺たちは勝負に勝って試合に負けた。ただ、それだけのことだったんです。だから借金を返済する方法はこれから全員でゆっくり考えましょう。そして先輩はすぐに帰宅して、大好きな『魔法少女ラジカルあすか』のグッズに囲まれながら萌え萌え悶えて心身をリラックスさせてください」
「何を訳の分からんことを言っている。そんなことよりもこれを見ろ」
夜一は武琉に頭を掴まれて強引にトップページを見せつけられた。
「だから前と変わらないじゃないですか」
八天春学園ラジオ放送部のタイトル。
更新されていないトピックス欄。
心と目が洗われるような海辺の背景。
どこを見ても前と変わった箇所などない。
「どこを見ている。俺が見せたかったのはカウンター数だ。一の位からよく数えてみろ」
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