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第14話 多額の借金?
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「犯罪だ! これは立派な犯罪行為だ!」
憂鬱な月曜日の放課後、ラジオ放送部の部室において夜一は高らかに叫んだ。
「なあ、武琉。部員の活躍する姿を映像に収めることは犯罪なのか?」
秋彦が向かいの席に座っていた武琉に尋ねた。
「個人の捉え方次第じゃないのか。君夜、お前はどう思う?」
武琉は隣の席で優雅に紅茶を飲んでいた君夜に顔を向ける。
「私に訊くのはお門違い。訊くなら奈津美ちゃんに訊いてよ」
「訊くまでもありませんよ! 公園での一件をビデオカメラで隠し撮りしていたなんてプライバシーの侵害です! 奈津美もそう思うだろう?」
右拳を長机に叩きつけると、夜一はラジオの相方である奈津美に同意を求めた。
しかし――。
「ええよ別に。うちは気にせんよ」
「そ、そんな……」
自分と同じ被害者であるはずの奈津美にあっけらかんと拒絶されてしまった。
夜一はこの世の終わりとばかりに頭を抱え、電源が入れられていた液晶テレビに目を馳せる。
液晶テレビにはハンディカムから出力されていた映像が映し出されていた。
秋彦に命じられるまま奈津美とデートした土曜日。
偶然にも立ち寄った綾園中央公園で、子供たち相手に歌や外郎売りを披露した奈津美と夜一の姿がである。
「それにしても画面の中の夜一君は熱演しているわね。盗撮していた秋彦君たちのことも全然気づいていなかったみたい」
君夜が忌憚のない意見を口にすると、秋彦は鼻を鳴らして「奈津美は途中から気づいていたみたいだがな」と悔しそうに呟く。
「当然やないですか。いきなり夜一君とデートしろなんて言われたら、何かあると思うのが普通ちゃいますか? それにベンチから竹林に隠れていた部長と武琉君が見えましたしね」
「そうだよな。疑わないほうがおかしいってもんだ。夜一、お前も心のどこかでは疑っていたんだろ? 今日のデートには何かあると」
夜一はぐうの音も出なかった。
それもそのはず、夜一は初めて経験する異性とのデートを成功させようと必死だったのだ。
「だが、こうして改めて見ると夜一のスペックは予想していたよりも遥かに高いな。声優やナレーターの卵が演技の基礎を学ぶために練習するという外郎売りを、公衆の面前で臆することもなく空で言えるとは大したもんだ。我らラジオ同好会も無事に正式な部活動として学校に認められたし……うん、これなら期限までに十分仕込めそうだぞ」
「確かに。ワン(俺)や秋彦だと絶対に無理だからな。というかワン(俺)はパーソナリティなんてごめんだ」
武琉は液晶テレビから顔を背けると、足元に置いていた自分のバッグから一冊の本を取り出した。
『魔法少女ラジカルあすか』のコミックス版である。
「円能寺先輩……いえ、今日から部長と呼ばせていただきます。部長、俺と奈津美をデートさせたのは何のためだったんですか? それに期限って何です?」
「き、期限? 俺そんなこと言ったっけ?」
「もう惚けないでください。部長、俺に何か隠していることがありますね?」
夜一は真剣な瞳で秋彦を射抜く。
そして秋彦が観念したように溜息を漏らしたときだ。
「分かった分かった。分かったから、そんな怖いで俺を睨むな……とは言うものの一体どこから話せばいいのやら」
「遠回しに伝える必要はない。こういう場合は単刀直入に言うのがベストだろ」
「単刀直入ねえ。このラジオ放送部は約百万円の借金を抱えているから、今月末までが締め切りの動画コンテストに作品を応募して賞金をもらわなければいけないってことをか?」
「ダールヨー(その通り)」
ぱらりと項を捲りながら武彦は沖縄弁で答える。
かなり長い間、夜一は二人の会話を何度も脳内で反芻させた。
百万円の借金?
動画コンテスト?
普段は聞きなれない単語に夜一は目眉をひそめる。
数分後、ようやく事態を飲み込めた夜一は喉が張り裂けそうなほどに絶叫した。
「百万の借金って何なんですか!」
「やっぱり驚くよな。いきなりこんなこと言われたら」
だがな、と秋彦は長机の上に腰を下ろす。
「これは嘘偽りのない真実なのだよ、朝霧君! 現在、我がラジオ放送部は約百万円の負債を抱えているのだ!」
「怪人二十面相風に言って誤魔化さないでください!」
堪忍袋の緒を切った夜一は長机に拳を叩きつけた。
「大体、百万円の借金なんて一クラブでどうやって作ったんですか? まさか、アニメのDVDボックスを部費で買いまくったとか?」
「残念ながら同好会に部費は下りん」
「分かった! 限定版のフィギュアだ! それも一体数十万円もする等身大のやつ!」
「そんなもん部室には一体もないだろうが」
「じゃあじゃあ――」
「もういい。お前が考えるようなアニメ関連のグッズを買うために負った借金じゃない。俺たちラジオ放送部が負った借金の元はここだ」
「ここ?」
「イエス。こ~こ」
唖然とする夜一に秋彦は人差し指を突きつけた。
床に敷き詰められている絨毯へ。
「この絨毯が百万円もするんですか?」
「絨毯? 違う違う。ここ、とはラジオ放送部の部室のことだ」
夜一は面食らい、慌てて周囲を見回した。
電子ポッド、冷蔵庫、パソコン、エアコン、液晶テレビ、他にもミキサー卓などの高価な放送設備が整った部室の中を。
「他にもブースと副調整室を分け隔てるための改築費や遮音壁が高かった」
「何気にビデオカメラやパワーアンプ内臓のスピーカーもな」
顔を上げた武琉に釣られて、夜一はミキサー卓の上にあった二台のスピーカーを見た。
視界を妨げないように天井から吊るされているスピーカーは確かに高額な品物だ。
「どう――」
「どうして一介の同好会が多額の借金を負ってまで放送設備を整えたのか、か?」
問うべきことを先に言われてしまった。
夜一は鷹揚に頷く。
「それはな」
秋彦は目元を潤すと、優雅に紅茶を飲んでいた君夜を指差した。
「すべてはお嬢の勘違いだったんだよ!」
憂鬱な月曜日の放課後、ラジオ放送部の部室において夜一は高らかに叫んだ。
「なあ、武琉。部員の活躍する姿を映像に収めることは犯罪なのか?」
秋彦が向かいの席に座っていた武琉に尋ねた。
「個人の捉え方次第じゃないのか。君夜、お前はどう思う?」
武琉は隣の席で優雅に紅茶を飲んでいた君夜に顔を向ける。
「私に訊くのはお門違い。訊くなら奈津美ちゃんに訊いてよ」
「訊くまでもありませんよ! 公園での一件をビデオカメラで隠し撮りしていたなんてプライバシーの侵害です! 奈津美もそう思うだろう?」
右拳を長机に叩きつけると、夜一はラジオの相方である奈津美に同意を求めた。
しかし――。
「ええよ別に。うちは気にせんよ」
「そ、そんな……」
自分と同じ被害者であるはずの奈津美にあっけらかんと拒絶されてしまった。
夜一はこの世の終わりとばかりに頭を抱え、電源が入れられていた液晶テレビに目を馳せる。
液晶テレビにはハンディカムから出力されていた映像が映し出されていた。
秋彦に命じられるまま奈津美とデートした土曜日。
偶然にも立ち寄った綾園中央公園で、子供たち相手に歌や外郎売りを披露した奈津美と夜一の姿がである。
「それにしても画面の中の夜一君は熱演しているわね。盗撮していた秋彦君たちのことも全然気づいていなかったみたい」
君夜が忌憚のない意見を口にすると、秋彦は鼻を鳴らして「奈津美は途中から気づいていたみたいだがな」と悔しそうに呟く。
「当然やないですか。いきなり夜一君とデートしろなんて言われたら、何かあると思うのが普通ちゃいますか? それにベンチから竹林に隠れていた部長と武琉君が見えましたしね」
「そうだよな。疑わないほうがおかしいってもんだ。夜一、お前も心のどこかでは疑っていたんだろ? 今日のデートには何かあると」
夜一はぐうの音も出なかった。
それもそのはず、夜一は初めて経験する異性とのデートを成功させようと必死だったのだ。
「だが、こうして改めて見ると夜一のスペックは予想していたよりも遥かに高いな。声優やナレーターの卵が演技の基礎を学ぶために練習するという外郎売りを、公衆の面前で臆することもなく空で言えるとは大したもんだ。我らラジオ同好会も無事に正式な部活動として学校に認められたし……うん、これなら期限までに十分仕込めそうだぞ」
「確かに。ワン(俺)や秋彦だと絶対に無理だからな。というかワン(俺)はパーソナリティなんてごめんだ」
武琉は液晶テレビから顔を背けると、足元に置いていた自分のバッグから一冊の本を取り出した。
『魔法少女ラジカルあすか』のコミックス版である。
「円能寺先輩……いえ、今日から部長と呼ばせていただきます。部長、俺と奈津美をデートさせたのは何のためだったんですか? それに期限って何です?」
「き、期限? 俺そんなこと言ったっけ?」
「もう惚けないでください。部長、俺に何か隠していることがありますね?」
夜一は真剣な瞳で秋彦を射抜く。
そして秋彦が観念したように溜息を漏らしたときだ。
「分かった分かった。分かったから、そんな怖いで俺を睨むな……とは言うものの一体どこから話せばいいのやら」
「遠回しに伝える必要はない。こういう場合は単刀直入に言うのがベストだろ」
「単刀直入ねえ。このラジオ放送部は約百万円の借金を抱えているから、今月末までが締め切りの動画コンテストに作品を応募して賞金をもらわなければいけないってことをか?」
「ダールヨー(その通り)」
ぱらりと項を捲りながら武彦は沖縄弁で答える。
かなり長い間、夜一は二人の会話を何度も脳内で反芻させた。
百万円の借金?
動画コンテスト?
普段は聞きなれない単語に夜一は目眉をひそめる。
数分後、ようやく事態を飲み込めた夜一は喉が張り裂けそうなほどに絶叫した。
「百万の借金って何なんですか!」
「やっぱり驚くよな。いきなりこんなこと言われたら」
だがな、と秋彦は長机の上に腰を下ろす。
「これは嘘偽りのない真実なのだよ、朝霧君! 現在、我がラジオ放送部は約百万円の負債を抱えているのだ!」
「怪人二十面相風に言って誤魔化さないでください!」
堪忍袋の緒を切った夜一は長机に拳を叩きつけた。
「大体、百万円の借金なんて一クラブでどうやって作ったんですか? まさか、アニメのDVDボックスを部費で買いまくったとか?」
「残念ながら同好会に部費は下りん」
「分かった! 限定版のフィギュアだ! それも一体数十万円もする等身大のやつ!」
「そんなもん部室には一体もないだろうが」
「じゃあじゃあ――」
「もういい。お前が考えるようなアニメ関連のグッズを買うために負った借金じゃない。俺たちラジオ放送部が負った借金の元はここだ」
「ここ?」
「イエス。こ~こ」
唖然とする夜一に秋彦は人差し指を突きつけた。
床に敷き詰められている絨毯へ。
「この絨毯が百万円もするんですか?」
「絨毯? 違う違う。ここ、とはラジオ放送部の部室のことだ」
夜一は面食らい、慌てて周囲を見回した。
電子ポッド、冷蔵庫、パソコン、エアコン、液晶テレビ、他にもミキサー卓などの高価な放送設備が整った部室の中を。
「他にもブースと副調整室を分け隔てるための改築費や遮音壁が高かった」
「何気にビデオカメラやパワーアンプ内臓のスピーカーもな」
顔を上げた武琉に釣られて、夜一はミキサー卓の上にあった二台のスピーカーを見た。
視界を妨げないように天井から吊るされているスピーカーは確かに高額な品物だ。
「どう――」
「どうして一介の同好会が多額の借金を負ってまで放送設備を整えたのか、か?」
問うべきことを先に言われてしまった。
夜一は鷹揚に頷く。
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