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最終章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・元勇者の消滅編~

道場訓 九十一   死合い

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 試合開始の合図はされたが、俺は動かなかった。

 動けなかったのではない。

 相手の様子を見るため動かなかったのだ。

 その代わり俺は自流の構えを取ったまま、カムイを真剣な表情で見つめる。

「何や……えへんのか? 大将」

 一方のカムイも俺と同様に動かない。

 身体を左半身にして腰を落とし、両拳をゆるく握り込んで胸の前で構えている。

 攻防のどちらにも瞬時に移行できる構えだ。

「連れないな。大将から来てくれへんかったら、ワイから行かなアカンがな」

「来たかったら好きに来ればいいだろ?」

 ふふん、とカムイは嬉しそうに笑った。

「余裕やな……せやったら、お言葉に甘やかせてもらおうか」

 直後、カムイの全身にまとわれていた闘気の質が変わった。

 魔力マナだ。

 魔法使いが大きな魔法を使うときのような魔力マナが、カムイの上丹田じょうたんでん――眉間みけんの位置――を中心に全身へ生き渡っていく。

「ほな、行きまっせ!」

 次の瞬間、カムイは疾風のような速さで間合いをめてきた。

 そして破城槌はじょうついを連想させる、凄まじい右正拳突みぎせいけんづきを繰り出してくる。

 ゴオッ!

 俺の顔面に向かって飛んできた右正拳突みぎせいけんづき。

 その右正拳突みぎせいけんづきを、俺は顔を横にらしてギリギリ回避かいひする。

 同時に俺は右足をじくにして返し、むちのようにしならせた左のまわりを放った。

 ドンッ!

 カムイの脇腹に俺のまわりが命中する。

 しかし――。

「――――ッ!」

 俺はわずか数瞬すうしゅんの間に驚愕きょうがくした。

 恐ろしくカムイの肉体がかたかったからだ。

 魔法使いが使う〈身体強化ブースト〉など比較ひかくにならない。

 それこそ、闘神流とうしんりゅうの6段から使える〈闘神とうしん剛体ごうたい〉に匹敵ひってきするほどの防御力だった。

 などと一瞬でも考えた直後、カムイは右正拳突みぎせいけんづきを放った状態のまま、俺のあごに向かって真下から膝蹴ひざげりを繰り出してきた。

 俺はその膝蹴ひざげりをすかさず右腕で食い止める。

「くっ!」

 完全に防御したというのに、右腕にとてつもない衝撃が走った。

 り上げた魔力マナと合わさった、1つ1つの空手の技の威力が半端はんぱではない。

 実際、俺は膝蹴ひざげりの衝撃で大きく後方へ吹き飛ばされた。

 それでも俺は態勢たいせいを崩さず着地する。

「どうや? 大将。少しはビビッてくれたか?」

「……まさか」

 俺はカムイに向かって言い放った。

「少しだけ本気になっただけだ」
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