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最終章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・元勇者の消滅編~

道場訓 八十八   勇者の誤った行動 ㉚

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 空手家からてか

 その言葉を聞いただけで怒りが込み上げてくる。

「おい、詳しく聞かせろ」

 俺は白装束の1人にたずねた。

「な、何だお前は?」

「俺のことなんてどうだっていい。脱獄した女は空手家からてかなのか、それともサムライなのかどっちだ?」

 俺は白装束の1人の襟元えりもとつかむ。

 しかし、俺は勢い余って手首に力を入れ過ぎた。

 次の瞬間、襟元えりもとつかんだ状態で俺の手首は360したのだ。

 白装束の1人は大きく目を見開いた。

「まさか、お前は適合者なのか!」

「適合者?」

 俺が頭上に疑問符を浮かべると、ソドムが「新魔薬ウロボロスで魔人の力を得た奴のことだ」と教えてくれた。

「適合者か……勇者よりも世間受けする名前じゃねえな」

 そう言って俺は襟元えりもとから手を離した。

 白装束の1人は何度もき込む。

 しかし、俺はそんな白装束の1人を見下ろしながら催促さいそくした。

「それで? 脱獄した女は空手家からてかなのかサムライなのかどっちなんだよ?」

「か、空手家からてかだ。そしてその女は武器を使わず、どういうわけか牢屋ろうやから外へ出て堂々と脱獄したんだ」

「どういうわけって何だよ? 無理やり格子こうしか鍵を壊して脱獄したんだろ?」

 違う、と白装束の1人は答えた。

鉄格子てつごうしも鍵も壊された形跡はなかった。それどころか、鍵もきちんと掛かったままだったんだ。見張りの連中も気味悪がっていたよ。牢屋ろうやの中にはその女しかいなかったし、まるでこの世から消えて牢屋ろうやの外に現れたようだって……」

 何だそりゃ?

 俺はふんと鼻で笑った。

鉄格子てつごうしも鍵も壊されずに脱獄された? 馬鹿言うなよ。そんなこと普通の人間に出来るわけないだろ。まさか、その女は失伝した空間転移ワープの魔法を使ったとでも言うのか?」

 自分で言ってみて何だが、それこそあり得なかった。

 たかが空手家からてかの女が空間転移ワープの魔法など使えるわけがない。

 白装束の1人は「俺たちもわけが分からん」と顔を歪めて答える。

「まあ、何にせよ普通の女じゃないってことか」

 いいだろう、と俺は言った。

「面白え。その脱獄した女は俺が捕まえてやるよ」

「キース、あんまりここで勝手な真似をされたら困るぜ」

 そう言ってきたのはソドムだ。

「おいおい、勝手な真似をしているのはその脱獄した女のほうだろうが。それに話を聞く限りでは、逃げられたままで困るのはお前らのほうじゃねえのか?」

「それはそうだが……」

「だったら決まりだな」

 俺はニヤリと笑った。

「生かして捕まえるか、殺して捕まえるかは俺が決めさせてもらうぜ」
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