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第八章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・裏闘技場の闇試合編~

道場訓 八十    空手の流派

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「……で? ワイをわざわざ呼びつけたっちゅうことは、何か深刻なトラブルでも起きたんでっか?」

 カムイはへらへらと笑いながら言葉を続ける。

「ただ、お嬢はん。もしもそうでなくワイに会いたいだけで呼んだっちゅうのなら、申し訳ないんですがもう戻ってもええですか? 今、ちょうどワイ好みの女性を口説くどいている真っ最中ですねん」

 このとき、俺はようやく気がついた。

 珍しい銀髪と黒の空手着からてぎに目を奪われていたが、カムイのしゃべっている言葉はアルビオン公国の上位層が話す言葉だったのだ。

 まさか、この男はリゼッタと同じくアルビオン公国の生まれなのか。

 などと俺が考えていると、顔を真っ赤にしたマコトは「このお馬鹿!」と怒声を上げた。

「あなたのことが必要になったから呼んだに決まっているでしょう! それにシード選手だから1回戦を闘わなかったとはいえ、暢気のんきに主人の付き添いの最中に女を口説くどいているんじゃないわよ!」

「せやけど、ビビッと来るもんがあったんやさかい仕方ないでっしゃろ。それに、ワイはいつ死んでもおかしくない闘技者や。だったら、本能のおもむくまま生きたいと思うのがすじってもんやおまへんか?」

 1回戦に闘技者。

 その言葉だけでピンときた。

 こいつも俺と同じく闇試合ダーク・バトルに参加している選手の1人なのだろう。

あきれた……闇試合ダーク・バトルの絶対王者のくせに何を言っているのよ」

 と、マコトが大きなため息を吐いたときだ。

「ん!」

 カムイは目を見開くと、こちらに勢いよく顔を向けてきた。

 しかし、その視線が向けられたのは俺ではない。

 俺の後方にいたエミリアに向けられたのだ。

 そして――。

「これは運命やで!」

 カムイは満面の笑みを浮かべ、身体で喜びを表すように両手を大きく広げる。

「なんちゅう別嬪べっぴんな子や! 顔も身体もワイ好みやし、しかも何もんだりしてへん金髪っちゅうのがええわ!」

 直後、カムイはエミリアの元へ歩み寄っていく。

「金髪のお嬢さん。お名前を聞かせてもらってもええですか?」

「え? え? え?」

 まったく予想していない展開に、エミリアは明らかに困惑こんわくする。

 だが、それは俺も同じだった。

 表情と態度にこそ出さなかったものの、このカムイという銀髪の男のことが微塵みじんも読めない。

 それゆえに俺はすぐに動いた。

 エミリアを守るようにカムイの前におどり出る。

「何や、大将。人の恋路こいじの邪魔をせんとってや」

 俺と対峙たいじした瞬間、立ち止まったカムイの表情が険しくなった。

「残念だが邪魔させてもらう。こいつは――エミリアは俺の弟子なんでな」

「ほう、その子はエミリアちゃん言うんか。ええ名前や。ますます気に入ったで」

 カムイは俺からエミリアへと視線を移す。

「せやけど、弟子っちゅうのはあれか? そろって同じ空手着からてぎを着ているところを見ると、おたくらは魔法使いなんか?」

 俺は真顔で答える。

「お前の目には俺たちが魔法使いにでも見えるのか? それとも、そんな空手着からてぎを着ているお前は魔法使いなのか?」

 そうや、とカムイは即答した。

「何を隠そう、ワイは空手着からてぎを着た稀代きだいの大魔法使いなんや」

 そう言うなり、カムイは握り込んだ右拳を脇へと引いた。

「――って、何でやねん!」

 次の瞬間、カムイは鋭い踏み込みから正拳突せいけんづきを放ってきた。

 ゴオッ!

 俺は破城槌はじょうついのようなカムイの凄まじい正拳突せいけんづきに目を見開く。

 同時に俺はタイミングを見計みはからって中段横受ちゅうだんよこうけを行い、カムイの正拳突せいけんづきを真横にはじいた。

 もちろん、それだけでは終わらない。

 空手からての技には空手からての技を――。

 俺はじくにした左足を勢いよく返し、そのままむちのようにしならせた右足での上段回じょうだんまわりを放つ。

 狙いはカムイの顔面だ。

 ドンッ!

 半円を描いて飛んだ俺の蹴りが、カムイの側頭部で爆発音を発した。

 直後、蹴り足を引いた俺は少しだけ後退あとずさる。

「……ええな。物凄ものすごくええわ」

 カムイは自分の側頭部を守るように、左手の肘から先を垂直すいちょくに立てていた。

 常人ならまともに食らっていただろう、俺の上段回じょうだんまわりを瞬時に左手で防御したのだ。

 けれども、俺の蹴りは防御した腕ごと破壊する威力いりょくは十二分にあった。

 現に周囲の人間たちは、爆発音だと勘違いしただろう俺の蹴りの衝撃音を聞いたはずだ。

 しかし、カムイは顔色一つ変えずにケロリとしている。

 それだけではない。

 俺の蹴りを防御した左腕にも異常が見当たらなかった。

 打撲や骨折どころか、まったくの無傷である。

 こいつ……。

「手加減したとはいえ、ワイのツッコミ――もとい正拳せいけんを受けて即反撃してくるとはやるやないか。どうやら、うちのオンマを倒したのはまぐれやなかったっちゅうことやな」

 やはり、凄まじく強いな。

 それはたった数秒り合っただけでも感じ取れた。

 しかし、これほどの空手からての使い手がこんな地下にいるのも不思議な話だ。

 もしかすると、元は表の世界でも有名な人間だったのだろうか。

 ふとそんな疑問がよぎったので、俺はカムイに対して〈闘神とうしん真眼しんがん〉を使った。

 そしてカムイの顔の横に個人情報が浮かんできた瞬間――。

 パリンッ!

 という音でも鳴ったかのように、カムイの個人情報が粉々に砕け散ったのだ。

「――――ッ!」

 俺はあまりの出来事に驚愕きょうがくした。

 そんな俺を見つめながらカムイはニヤリと笑う。

「あかんで、大将。人の素性すじょうのぞき見するような真似をするのわ」

 カムイは落ち着いた声で言葉を続ける。

「俺の個人情報ステータスのぞけるっちゅうことは、あんたの流派は闘神流とうしんりゅうやな? まさか、こんな場所で出会えるとは思っとらんかったわ」

「お前……闘神流とうしんりゅうのことを知っているのか?」

 俺は念のためカムイにたずねた。

「知っとるも何も、ワイの流派は闘神流とうしんりゅうと兄弟みたいなもんやさかいな」

 このとき、俺は生前に祖父から聞いていたことを思い出した。

「まさか、お前の流派は……」

 カムイは少しだけゆるんでいた自分の白帯を強く締め直す。

「ワイの空手からての流派は魔神流まじんりゅうや」
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