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第八章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・裏闘技場の闇試合編~
道場訓 七十一 いざ、闇試合の本選へ
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「素晴らしい。あなたは稀に見る強さの持ち主です。これならば本選も大いに盛り上がるでしょう」
俺が般若面の男女の目の前まで行くと、両手を広げて真っ先に口を開いたのは般若面の男のほうだった。
そんな般若面の男は〈強音石〉ではなく、仮面の下から地声で喋っている。
「余計な世辞はいい。さっさと本選会場へ案内してくれ」
「おやおや、せっかちな方ですね……分かりました。私について来て下さい」
般若面の男が歩き出すと、俺もその背中を追うように歩き出す。
続いて般若面の女が黙って俺の後ろからついてくる。
やがてこの部屋から出るとなったとき、般若面の男が立ち止まった。
「そうそう、先ほどあなたは大変良いことを仰られていましたね。どんなに強くても相手を舐める者は2流で、状況が把握できない者は3流。そして真剣勝負の場所で遊び心を出す者は評価に値しないと」
俺も立ち止まり、「それがどうした?」と般若面の男に言う。
「いえいえ、その言葉……今のあなたにそっくりそのままお返ししようと思いましてね」
次の瞬間、俺の後方から〈痙攣〉という声が発せられた。
「……」
数秒後、俺はそのまま膝から前方に倒れ込む。
やがて俺の頭の上から般若面の男の声が聞こえてくる。
「先ほど見た強さならば、てっきりこちらの意図を見抜いていたのかと思っていましたが……こちらの見込み違いでしたかね」
般若面の男が落胆するような声を漏らすと、俺に〈痙攣〉の魔法を放った般若面の女に言った。
「ですが、この四十七番の強さは使えます。先ほどの三十一番と一緒に例の場所へ連れて行きますので、立たせて上げてください」
「いや、その必要はない」
直後、俺は何食わぬ顔で立ち上がった。
「ほう」
般若面の男は感嘆の声を漏らした。
「いやはや、これは異なことですね。確実に魔法を受けたはずですが」
「ああ、魔法を受けたさ。だが、俺じゃなくて魔法を放った本人がな」
俺がそう答えると同時に、般若面の女が床に崩れ落ちた。
ビクビクと身体を痙攣させて悶絶している。
〈闘神の鏡破〉。
闘神流空手の3段から修得できる技術の1つであり、術者の肉体の周囲に張った気力の膜に触れた相手の技や魔法をそのまま返すことができる。
ただし、返せる技や魔法は1度に1つしか返せない。
それでも成功すれば相手に与えるダメージは高かった。
肉体的なダメージもさることながら、相手からしてみればまるで鏡に映る自分を攻撃したような不気味な精神的ダメージを被るだろう。
今もそうであった。
不意をついたと思っていた般若面の女は、なぜ自分が放った魔法が返されたのか分からずパニックになっているに違いない。
一方の般若面の男のほうも同じだ。
ただし、般若面の男は別の疑問も感じていただろう。
それは――。
「アンタはこの大規模な乱戦の説明を一通り終えたあと、感情を高ぶらせた俺たち参加志望者に言ったよな? 〝私を除いた〟参加者の中で1人だけが本選へと出場できる、と」
俺はちらりと般若面の女を見る。
「この仮面の女も参加志望者の1人なのか、アンタたち主催者側の人間なのかは分からないが、どちらにせよここまでが大規模な乱戦なんだろう? 自分が最後の1人だと油断した人間の最後の適性を見極めるためのな」
もしも今の俺のように主催者側の企みを見極められたなら良いが、自分が勝ち残ったと油断していたら最後の最後に手酷い不意打ちを食らうという仕組みだ。
「いやー、素晴らしい」
俺が陸に揚げられた魚のようになっている般若面の女から視線を外すと、般若面の男がパチパチと柏手を打つ。
「四十七番、あなたの裏予選の突破を確認致しました。これで晴れてあなたは本選出場となります」
「そんな風に呼ぶな」
「はい?」
「俺を番号でなんて呼ぶな。俺にもれっきとした名前がある。それとも、ここから先もずっと番号で呼ばれるのか?」
般若面の男は首を左右に振った。
「いいえ、ここから先はきちんと名前で呼ばさせていただきます。名前だけではありません。あなたさまの年齢、身長、体重、出身地……そして流派などもありましたら教えていただけると、我らだけではなく招待者さまへの良いアピールになりますので」
招待者さま、か。
どうやら、ここも表の闘技場と性質は同じなのだろう。
けれども、その本質や客層は天と地ほども違うだろうが。
まあ、それはさておき。
「とにかく、これで俺は本選へ出場できるんだな?」
「はい、もちろんでございます……しかし、本当によろしいのですね?」
「何がだ?」
「ここから先はもう簡単に引き返せないということです。そして前もってお伝えしておきますが、本選出場者の実力は裏予選の参加者など問題になりません。どの出場者も最低限はSランクの魔物を余裕で倒せるほどの実力者ばかり。また本選に出場すると言うことは、あなただけではなくお連れさまの命も賭けることになりますが……」
よろしいのですね、と般若面の男は訊いてくる。
「ああ、お互い覚悟の上だ……しかし、どの出場者もSランクの魔物を余裕で倒せるとは凄いな。その実力なら表でも十分に自分の望みを叶えられるだろうに」
「さて、私からは何とも」
そう言うと般若面の男は再び振り向いて歩き出す。
この般若面の男の態度だけでピンときた。
本選に出場する人間は実力がありながらも、表舞台では絶対に活躍も称賛も得られない人間たちだと。
だが、それでも俺は一向に構わない。
どんな相手でも勝ち上がり、優勝してキキョウの身柄を取り戻すのだ。
そして俺は般若面の男の後を追うように歩き出した。
魔物よりも手強い、裏の強者たちと死闘を演じるために――。
俺が般若面の男女の目の前まで行くと、両手を広げて真っ先に口を開いたのは般若面の男のほうだった。
そんな般若面の男は〈強音石〉ではなく、仮面の下から地声で喋っている。
「余計な世辞はいい。さっさと本選会場へ案内してくれ」
「おやおや、せっかちな方ですね……分かりました。私について来て下さい」
般若面の男が歩き出すと、俺もその背中を追うように歩き出す。
続いて般若面の女が黙って俺の後ろからついてくる。
やがてこの部屋から出るとなったとき、般若面の男が立ち止まった。
「そうそう、先ほどあなたは大変良いことを仰られていましたね。どんなに強くても相手を舐める者は2流で、状況が把握できない者は3流。そして真剣勝負の場所で遊び心を出す者は評価に値しないと」
俺も立ち止まり、「それがどうした?」と般若面の男に言う。
「いえいえ、その言葉……今のあなたにそっくりそのままお返ししようと思いましてね」
次の瞬間、俺の後方から〈痙攣〉という声が発せられた。
「……」
数秒後、俺はそのまま膝から前方に倒れ込む。
やがて俺の頭の上から般若面の男の声が聞こえてくる。
「先ほど見た強さならば、てっきりこちらの意図を見抜いていたのかと思っていましたが……こちらの見込み違いでしたかね」
般若面の男が落胆するような声を漏らすと、俺に〈痙攣〉の魔法を放った般若面の女に言った。
「ですが、この四十七番の強さは使えます。先ほどの三十一番と一緒に例の場所へ連れて行きますので、立たせて上げてください」
「いや、その必要はない」
直後、俺は何食わぬ顔で立ち上がった。
「ほう」
般若面の男は感嘆の声を漏らした。
「いやはや、これは異なことですね。確実に魔法を受けたはずですが」
「ああ、魔法を受けたさ。だが、俺じゃなくて魔法を放った本人がな」
俺がそう答えると同時に、般若面の女が床に崩れ落ちた。
ビクビクと身体を痙攣させて悶絶している。
〈闘神の鏡破〉。
闘神流空手の3段から修得できる技術の1つであり、術者の肉体の周囲に張った気力の膜に触れた相手の技や魔法をそのまま返すことができる。
ただし、返せる技や魔法は1度に1つしか返せない。
それでも成功すれば相手に与えるダメージは高かった。
肉体的なダメージもさることながら、相手からしてみればまるで鏡に映る自分を攻撃したような不気味な精神的ダメージを被るだろう。
今もそうであった。
不意をついたと思っていた般若面の女は、なぜ自分が放った魔法が返されたのか分からずパニックになっているに違いない。
一方の般若面の男のほうも同じだ。
ただし、般若面の男は別の疑問も感じていただろう。
それは――。
「アンタはこの大規模な乱戦の説明を一通り終えたあと、感情を高ぶらせた俺たち参加志望者に言ったよな? 〝私を除いた〟参加者の中で1人だけが本選へと出場できる、と」
俺はちらりと般若面の女を見る。
「この仮面の女も参加志望者の1人なのか、アンタたち主催者側の人間なのかは分からないが、どちらにせよここまでが大規模な乱戦なんだろう? 自分が最後の1人だと油断した人間の最後の適性を見極めるためのな」
もしも今の俺のように主催者側の企みを見極められたなら良いが、自分が勝ち残ったと油断していたら最後の最後に手酷い不意打ちを食らうという仕組みだ。
「いやー、素晴らしい」
俺が陸に揚げられた魚のようになっている般若面の女から視線を外すと、般若面の男がパチパチと柏手を打つ。
「四十七番、あなたの裏予選の突破を確認致しました。これで晴れてあなたは本選出場となります」
「そんな風に呼ぶな」
「はい?」
「俺を番号でなんて呼ぶな。俺にもれっきとした名前がある。それとも、ここから先もずっと番号で呼ばれるのか?」
般若面の男は首を左右に振った。
「いいえ、ここから先はきちんと名前で呼ばさせていただきます。名前だけではありません。あなたさまの年齢、身長、体重、出身地……そして流派などもありましたら教えていただけると、我らだけではなく招待者さまへの良いアピールになりますので」
招待者さま、か。
どうやら、ここも表の闘技場と性質は同じなのだろう。
けれども、その本質や客層は天と地ほども違うだろうが。
まあ、それはさておき。
「とにかく、これで俺は本選へ出場できるんだな?」
「はい、もちろんでございます……しかし、本当によろしいのですね?」
「何がだ?」
「ここから先はもう簡単に引き返せないということです。そして前もってお伝えしておきますが、本選出場者の実力は裏予選の参加者など問題になりません。どの出場者も最低限はSランクの魔物を余裕で倒せるほどの実力者ばかり。また本選に出場すると言うことは、あなただけではなくお連れさまの命も賭けることになりますが……」
よろしいのですね、と般若面の男は訊いてくる。
「ああ、お互い覚悟の上だ……しかし、どの出場者もSランクの魔物を余裕で倒せるとは凄いな。その実力なら表でも十分に自分の望みを叶えられるだろうに」
「さて、私からは何とも」
そう言うと般若面の男は再び振り向いて歩き出す。
この般若面の男の態度だけでピンときた。
本選に出場する人間は実力がありながらも、表舞台では絶対に活躍も称賛も得られない人間たちだと。
だが、それでも俺は一向に構わない。
どんな相手でも勝ち上がり、優勝してキキョウの身柄を取り戻すのだ。
そして俺は般若面の男の後を追うように歩き出した。
魔物よりも手強い、裏の強者たちと死闘を演じるために――。
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