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第八章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・裏闘技場の闇試合編~

道場訓 六十八   鬼が出るか蛇が出るか

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 どんなにはなやかできらびやかに見える場所でも、その近くには必ず暗部あんぶと呼ばれる裏の人間がつどう場所が存在する。

 いや、そんなものは近くにはない。

 と言い切れるのは、世の中の道理から目をそむけたいつわりの平和主義者のみだ。

 そして、そのような者が絶対に立ち入ってはいけないのが暗部あんぶの特徴である。

 ここもその暗部あんぶと呼ばれる場所の1つだった。

 罪人街ざいにんがい

 ヤマトタウンの中心地から離れた場所にあったこの場所は、ヤマトタウンに住む正常かつ職を持った人間は絶対に近寄らない場所で有名だという。

 なぜなら、この場所は法も規定ルールもまったくない不法地区だからだ。

 つまり、ここでは殺人、誘拐、強盗、強姦、賭博、密売のすべてが黙認もくにんされる。

 それゆえに罪人街ざいにんがいほど適切な場所はなかった。

 闇試合ダーク・バトルと称される、裏の闘技場コロシアムで開催される闘技祭とうぎさいがである。

「ケンシン師匠、そろそろ日が暮れそうですが……」

 エミリアは茜色あかねいろの空を見上げながらつぶやく。

「そうだな。だが、何とか日が暮れるまでには着きそうだ」

 俺は顔だけを振り向かせながらエミリアに言った。

 やがて俺たちは地図を片手に何とか目的地へと到着する。

 そこは木造家屋の中にぽつんと建っていた、一棟いっとうの石造りの建物だった。

 本当はもっと早くに到着する予定だったが、罪人街ざいにんがいのあまりの惨状にほとんど道が分からなかったのだ。

 何せ道端には大量のゴミが散乱さんらんして悪臭あくしゅうを放ち、長屋ながやのように密集していた家屋かおくはどこもボロボロで廃屋はいおく同然だったのである。

 これには俺たちも辟易へきえきした。

 コジローからあらかじめ裏の闘技場コロシアムまでの地図をもらってはいたものの、目印になる家屋かおくが崩壊していたり変に改修かいしゅうされていたりして、目印としての機能がまったく発揮されていなかったのだ。

 おかげで俺たちは遠回りなどをして余計に時間を食ってしまった。

 武士団サムライギルドを出発して約2時間。

 ただでさえ裏の闘技場コロシアムに入れる手段――裏の紹介人から参加証を手に入れるために時間を使ったこともあり、これ以上の時間の浪費はキキョウの命を確実にちぢめてしまう。

 なので俺たちは足早に建物の入口へと向かった。

 すると――。

「何だ、お前ら?」

「ここに何しに来た?」

 建物の入り口に立っていた、門番の男たちに声をかけられた。

 四十代前後とおぼしき、清潔感のある和服を着た屈強くっきょうな男たちだ。

「これを……」

 俺は門番の1人に裏の紹介人から渡された紹介状を渡した。

「ほう、闇試合ダーク・バトルの参加希望者か。名前はケンシン・オオガミとエミリア・クランリー……2人ともまだ10代なのかよ」

「今回は随分ずいぶんと多いな。それにこんなガキも参加するのか」

「まあいいじゃねえか。どのみち紹介状があるのなら、俺たちは余計な詮索せんさくをせずに通すだけだ」

 門番たちは入り口の扉を開け、俺たちが中に入れるように道を開ける。

「おい、ガキども。せいぜい本選に出場できるよう頑張れよ」

 俺たちは黙って中に入り、地下へと通じていた階段を下りていく。

「ケンシン師匠、やっぱりコジローさんの言っていた通りですね」

 階段を下りながらエミリアが話しかけてくる。

「そうだな。そしてあの門番たちの口振りだと、どうやらお目当ての死合しあいの前にやらないといけないことが多いのかもな」

「参加者もいつもより多いみたいな言い方でしたね」

「ああ……だが、もしかするとこれから先はコジローさんが言っていたような本選出場を賭けたが行われるのかもしれない。どちらにせよ、ここまできたらおにが出るかじゃが出るか分からんぞ……エミリア、本当に覚悟はいいか?」

「もちろんです。私はケンシン師匠の――闘神流とうしんりゅう空手からて拳心館けんしんかんの門下に入ったんですよ。でしたらケンシン師匠の行くところには必ずお供致ともいたしますし、ケンシン師匠が命を賭けるのならば弟子の私も命を賭けます」 

 そんなことを言ってくれたエミリアの目には、嘘偽りの光は微塵みじんもなかった。

 本当にエミリアは自分の命を賭けてまで俺を信じてくれている。

 俺はふっと笑みを浮かべた。

「安心しろ。一時的にお前の命は借りるだろうが、それはあくまでも一時的なことだ。俺は絶対に負けずに優勝してキキョウを取り戻すからな」

「信じています。2人でキキョウさんを助けましょう」

 などと俺たちが決意を固めると、階段を下りきって広い部屋へと辿り着いた。

 途端とたんに強烈な殺気と熱気が吹きつけてくる。

 すでに部屋の中には50人ほどの男女が集まっていたのだ。

 年齢も若い者から年配の者までバラバラ。

 しかし、全員とも戦闘に関して素人ではない。

 それは全身から発せられていた雰囲気ふんいきで容易にうかがい知れる。

 俺がそんな連中を値踏ねぶみしていると、一人の人間が俺たちに近寄って来た。

「ヒッ」

 と、エミリアは近づいてきた人間の顔を見て悲鳴を上げる。

 俺たちに近づいてきた人間は、漆黒の和服を着た女だった。

 だが、顔までは分からない。

 なぜなら、女は顔に般若はんにゃの面をかぶっていたからだ。

「どちらがほこで、どちらがたてですか?」

 般若面はんにゃめんの女は、エミリアの悲鳴など気にもめずたずねてくる。

「俺がほこだ」

 俺は前もって入手していた返事を口にする。

「それではこちらを」

 般若面はんにゃめんの女は俺に何かを渡してきた。

 木片もくへんだ。

 ただし、普通の木片もくへんではない。

 てのひらの中に納まるほどのサイズの木片もくへんで、ヤマト国の文字で「四十七」と筆書ふでがきされている。

「そして、そちらのたての方は私について来て下さい」

 エミリアはちらりと俺を見る。

「俺は大丈夫だから行ってこい。それよりも自分のことも心配しろよ。マズいと思ったら〝三戦サンチン〟だ……いいか? 自分が空手家からてかだということを忘れるな」

 こくりとうなずくと、エミリアは般若面はんにゃめんの女に連れられて別室へと向かう。

 さて、本番はこれからだな。

 俺は部屋のすみへと移動して両腕を組むと、2人1組の人間たちが何組かこの部屋へと下りて来た。

 その後、階段とこの部屋に通じる扉が閉められた。

『お集まりの皆さま、大変お待たせいたしました!』

 直後、部屋全体に行き届くほど男の声が響き渡った。
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