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第一章 ~勇者パーティーを追放された空手家~
道場訓 七 少女の過去と師弟関係
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「何だと? この子の魔力残量はどれだけ調べても0……つまり魔法の素質がない魔抜けだというのか?」
国王である父上は驚いた表情で魔法鑑定士に尋ねた。
「はい……残念ながらクラリア第二王女に魔法の才はございません」
王宮直属の魔法鑑定士は小声で父上に告げる。
一方の私は落胆した父上を見つめるしか出来なかった。
今日は私の10歳の誕生日であり、王宮の大広間には側近の重臣たちはもちろんのこと、有力貴族たちを招いての豪華なパーティーが開かれている。
すべては私の魔法使いとしての才能をお披露目するためだった。
〈世界魔法政府〉の直轄国家であったリザイアル王国の王家には、10歳の誕生日に一流の魔法鑑定士による魔法の素質を鑑定されるという儀式がある。
だが、これは一種の形式的なものだ。
王家には常人をはるかに超える魔力残量――魔法使いとしての才能があるなど当たり前だった。
それでもこうして大勢の人間を集めて儀式を開くのは、自分たち王家がいかに特別な存在であるかを改めて周囲に知らしめるために他ならない。
今日の私の誕生日パーティーの本質もそうだった。
リザイアル王国の第二王女――私ことクラリア・リザイアルの魔法の才能をお披露目し、やはり王家は特別な存在だと認識させるのが主な目的だったのだ。
それでも私はよかった。
たとえ自分の誕生日パーティーが王家の威厳を保つために利用されようと、いつも私に優しく接してくれる父上の喜ぶ顔が見れるならば満足だったのだから。
でも、今の父上は違う。
私の魔力が0だと分かった父上は、恐ろしいほどの怒りの顔をしていた。
「大臣! 大臣はおらんか!」
私がおどおどしていると、父上は両目を血走らせながら大臣を呼んだ。
「いかがされました、陛下」
「いかがも何もないわ。今日のパーティーをすぐに中止しろ。こんな恥さらしを祝う必要などこれ以上はない」
「ですが、まだ始まったばかりですぞ。それに集まった諸侯たちに何と申し開きするのですか?」
「そんなもの何か適当な理由と金子を与えて追い返せ」
その後、私のためのパーティーはすぐにお開きになった。
理由は私の体調不良のためだったが、もちろん私の体調に異常はない。
そして――。
「この王家の恥さらしが。今日から私とお前は親子ではない。魔抜けのお前など永遠に箱庭で遊んでおれ。金輪際、私たちの前に姿を現すな」
重臣や諸侯たちがいなくなった大広間において、父上はぞっとするほどの冷たい目で私に告げた。
「大いに賛成です、陛下。まさか、王家に魔抜けが生まれているとは……やはり母親の出自が悪いと子も出来損ないになるのですね」
私と血の繋がりのない第一王妃がほくそ笑みながら言う。
「まったく、まさか腹違いとはいえ魔抜けが妹だったとは……いや、こうなったらもう妹とは思えないな。ガーネット、お前もそうだろ?」
「もちろんですわ、シャインお兄さま。はっきり魔抜けと分かった以上、もうこの子を妹と思うのは止めましょう。王家の恥さらしなんですから」
私は第一王子の兄と第一王女の姉の言葉を無視して、大好きだった父上の元に駆け寄った。
「父上、嘘ですよね? 私と親子の縁を切るだなんて」
私は血相を変えながら父上の身体を掴む。
「離せ……王家に何の恩恵も与えない無能が!」
そう言うと父上は開いた右手をこれみよがしに上げた。
私は瞬きを忘れて父上の右手を見る。
次の瞬間、父上の強烈な平手打ちが私の左頬に放たれた――。
「――――ごめんなさい、父上ッ!」
私は大声を上げながら跳ね起きた。
思わず左頬をかばうように両手でガードする。
しかし、いくら待っても父上の平手打ちはやってこない。
私はハッと我に返り、何度か瞬きをして周囲を見渡す。
そこでようやく私は6年前の夢を見ていたことに気がついた。
だからといって疑問が拭えたわけではない。
むしろ余計に私の頭は混乱してしまった。
「ここは?」
私の目の前には異様な空間が広がっている。
100人は入れるほどの広々とした部屋だ。
そしてリザイアル王国では珍しい畳敷きの床と、十数メートル先の壁の前に設置されてあったヤマト国の神棚が私の目を引いた。
そんな神棚の右隣の壁には、「闘神流空手指南所 拳心館」とヤマト語で書かれた看板が掛けられている。
私は頭上に大きな疑問符を浮かべた。
どうして私はこんな場所にいるのだろう?
確か私は路地裏で〈暗黒結社〉に攫われようとしていた少女を助けようとしたけど、自分の腕前が未熟なばかりに逆に二人とも窮地に追い込まれてしまったことは覚えている。
「……あ!」
ようやく思い出してきた。
〈暗黒結社〉の悪漢たちに襲われそうになったとき、そこにリザイアル王国では珍しい服装をした一人の人間が現れたのだ。
名前は……。
「もう傷の具合は大丈夫か?」
「――――ッ!」
突如、誰かに声をかけられたことで私は声にならない叫びを発する。
すぐに顔だけを振り向かせると、そこには一人の人間が佇んでいた。
私よりも少し年上の17歳か18歳ほどの少年だ。
黒髪黒瞳に精悍な顔立ち。
珍しい形の白服の隙間からは、細身だが余計な贅肉が一切ない鍛えられた鋼の肉体が覗いている。
直後、おぼろげだった私の意識と記憶は完全に正常に戻った。
「ケンシン師匠!」
私はこれから師事すると決めたケンシン師匠に熱い眼差しを送る。
「いや、頼むから師匠は止めてくれ」
ケンシン師匠は困った顔でこめかみをポリポリと掻く。
そんな可愛らしい一面があったケンシン師匠を見て、私は鬼神のような強さとの間隙に胸の奥が熱くなってしまった。
やはり、私のこれからの武の師匠はこの人しかいない。
このとき、私は何としてもこの人と師弟関係を結ぼうと決心した。
そのためにはどんなことでもする。
たとえ肉体関係を求められようと何だろうと。
それほどケンシン師匠と師弟の契りを結ぶことには価値があると思った。
すべては魔力0の魔抜けと呼ばれた自分の過去を払拭するため。
そのために私は強くならなければならない。
第二王女のクラリアではなく、冒険者のエミリアとして生きていくために――。
国王である父上は驚いた表情で魔法鑑定士に尋ねた。
「はい……残念ながらクラリア第二王女に魔法の才はございません」
王宮直属の魔法鑑定士は小声で父上に告げる。
一方の私は落胆した父上を見つめるしか出来なかった。
今日は私の10歳の誕生日であり、王宮の大広間には側近の重臣たちはもちろんのこと、有力貴族たちを招いての豪華なパーティーが開かれている。
すべては私の魔法使いとしての才能をお披露目するためだった。
〈世界魔法政府〉の直轄国家であったリザイアル王国の王家には、10歳の誕生日に一流の魔法鑑定士による魔法の素質を鑑定されるという儀式がある。
だが、これは一種の形式的なものだ。
王家には常人をはるかに超える魔力残量――魔法使いとしての才能があるなど当たり前だった。
それでもこうして大勢の人間を集めて儀式を開くのは、自分たち王家がいかに特別な存在であるかを改めて周囲に知らしめるために他ならない。
今日の私の誕生日パーティーの本質もそうだった。
リザイアル王国の第二王女――私ことクラリア・リザイアルの魔法の才能をお披露目し、やはり王家は特別な存在だと認識させるのが主な目的だったのだ。
それでも私はよかった。
たとえ自分の誕生日パーティーが王家の威厳を保つために利用されようと、いつも私に優しく接してくれる父上の喜ぶ顔が見れるならば満足だったのだから。
でも、今の父上は違う。
私の魔力が0だと分かった父上は、恐ろしいほどの怒りの顔をしていた。
「大臣! 大臣はおらんか!」
私がおどおどしていると、父上は両目を血走らせながら大臣を呼んだ。
「いかがされました、陛下」
「いかがも何もないわ。今日のパーティーをすぐに中止しろ。こんな恥さらしを祝う必要などこれ以上はない」
「ですが、まだ始まったばかりですぞ。それに集まった諸侯たちに何と申し開きするのですか?」
「そんなもの何か適当な理由と金子を与えて追い返せ」
その後、私のためのパーティーはすぐにお開きになった。
理由は私の体調不良のためだったが、もちろん私の体調に異常はない。
そして――。
「この王家の恥さらしが。今日から私とお前は親子ではない。魔抜けのお前など永遠に箱庭で遊んでおれ。金輪際、私たちの前に姿を現すな」
重臣や諸侯たちがいなくなった大広間において、父上はぞっとするほどの冷たい目で私に告げた。
「大いに賛成です、陛下。まさか、王家に魔抜けが生まれているとは……やはり母親の出自が悪いと子も出来損ないになるのですね」
私と血の繋がりのない第一王妃がほくそ笑みながら言う。
「まったく、まさか腹違いとはいえ魔抜けが妹だったとは……いや、こうなったらもう妹とは思えないな。ガーネット、お前もそうだろ?」
「もちろんですわ、シャインお兄さま。はっきり魔抜けと分かった以上、もうこの子を妹と思うのは止めましょう。王家の恥さらしなんですから」
私は第一王子の兄と第一王女の姉の言葉を無視して、大好きだった父上の元に駆け寄った。
「父上、嘘ですよね? 私と親子の縁を切るだなんて」
私は血相を変えながら父上の身体を掴む。
「離せ……王家に何の恩恵も与えない無能が!」
そう言うと父上は開いた右手をこれみよがしに上げた。
私は瞬きを忘れて父上の右手を見る。
次の瞬間、父上の強烈な平手打ちが私の左頬に放たれた――。
「――――ごめんなさい、父上ッ!」
私は大声を上げながら跳ね起きた。
思わず左頬をかばうように両手でガードする。
しかし、いくら待っても父上の平手打ちはやってこない。
私はハッと我に返り、何度か瞬きをして周囲を見渡す。
そこでようやく私は6年前の夢を見ていたことに気がついた。
だからといって疑問が拭えたわけではない。
むしろ余計に私の頭は混乱してしまった。
「ここは?」
私の目の前には異様な空間が広がっている。
100人は入れるほどの広々とした部屋だ。
そしてリザイアル王国では珍しい畳敷きの床と、十数メートル先の壁の前に設置されてあったヤマト国の神棚が私の目を引いた。
そんな神棚の右隣の壁には、「闘神流空手指南所 拳心館」とヤマト語で書かれた看板が掛けられている。
私は頭上に大きな疑問符を浮かべた。
どうして私はこんな場所にいるのだろう?
確か私は路地裏で〈暗黒結社〉に攫われようとしていた少女を助けようとしたけど、自分の腕前が未熟なばかりに逆に二人とも窮地に追い込まれてしまったことは覚えている。
「……あ!」
ようやく思い出してきた。
〈暗黒結社〉の悪漢たちに襲われそうになったとき、そこにリザイアル王国では珍しい服装をした一人の人間が現れたのだ。
名前は……。
「もう傷の具合は大丈夫か?」
「――――ッ!」
突如、誰かに声をかけられたことで私は声にならない叫びを発する。
すぐに顔だけを振り向かせると、そこには一人の人間が佇んでいた。
私よりも少し年上の17歳か18歳ほどの少年だ。
黒髪黒瞳に精悍な顔立ち。
珍しい形の白服の隙間からは、細身だが余計な贅肉が一切ない鍛えられた鋼の肉体が覗いている。
直後、おぼろげだった私の意識と記憶は完全に正常に戻った。
「ケンシン師匠!」
私はこれから師事すると決めたケンシン師匠に熱い眼差しを送る。
「いや、頼むから師匠は止めてくれ」
ケンシン師匠は困った顔でこめかみをポリポリと掻く。
そんな可愛らしい一面があったケンシン師匠を見て、私は鬼神のような強さとの間隙に胸の奥が熱くなってしまった。
やはり、私のこれからの武の師匠はこの人しかいない。
このとき、私は何としてもこの人と師弟関係を結ぼうと決心した。
そのためにはどんなことでもする。
たとえ肉体関係を求められようと何だろうと。
それほどケンシン師匠と師弟の契りを結ぶことには価値があると思った。
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