【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔

文字の大きさ
2 / 104
第一章 ~勇者パーティーを追放された空手家~

道場訓 二     追放された実は最強の空手家

しおりを挟む
「てめえ、俺たちをおちょくるのもいい加減にしろよ」

 激高げきこうしたキースは勢いよく立ち上がると、左腰に吊るしていた立派なさやから《神剣・デュランダル》を抜き放った。

 ロングソードに似た《神剣・デュランダル》の刀身は青白く輝いて見える。
 
「おいおい……仮にも国からたまわった神剣をこんなところで抜くなよ」

「うるせえ! この無能の戦士もどきが!」

「戦士もどき? それは俺の空手からてのことをまえて言っているのか? 確かに闘うという点では戦士と同じだが、ヤマト国の武技ぶぎの一つである空手からての基本は護身ごしんだ。だからこそ、むやみやたらに技をひけらかすような真似もしない。技を使うのはありとあらゆる場所に存在している〝悪〟と闘うためにこそある。分かるか? そもそも空手からてには「空手からて先手せんてなし」という言葉があってな……」

 と、俺がそこまで空手からてについて話したときだ。

「くだらねえ空手からて講釈こうしゃくれることだけは一人前だな。ダンジョンでは低級の魔物からも相手にされない空手家からてかさんよ」

 キースの言葉を皮切りに、他のメンバーも次々と続いた。

「そうそう、あんたってばゴブリンどころかスライムとかにもけられていたわね。マジでウケるわ。どんだけ魔物からも雑魚ざこ扱いされてるのよ」

 などとアリーゼが言うと、

拙者せっしゃもそのことについてはずっと気になっていた。空手家からてかというから戦闘に関しても少しは期待していたのだが、実際はろくに魔物とも闘えない……いや、闘おうともしないという体たらく。まったくもって同じヤマト人の男としてなげかわしい」

 カチョウも淡々と思っていたことを口にする。

「ははははっ、こっぴどく言われてるな。だが仕方ねえよ。これが忌憚きたんのない意見ってやつだ。しかもてめえはクエストの前日には必ず行方不明になっていたよな? どうせ怖くてどこかに隠れて震えていたんだろう? どうだ、ケンシン。何か言い訳があるのなら言ってみろよ 」

 キースは高笑いしながら《神剣・デュランダル》の切っ先を俺に突きつける。

「お前、自分が何をしているのか分かっているのか?」

「ああん?」

「仲間に剣を突きつけて平気なのかといているんだ」

「仲間? はっ、無能になると耳も悪くなるのか。てめえはもうクビなんだから仲間じゃねえ。それなら剣を突きつけても構わねえだろ?」

 キースは下卑げびた表情を浮かべながら嬉々ききとしていた。

 他のメンバーを見渡すと、アリーゼもカチョウも俺を見下すような眼差しを向けている。

 俺はどっと肩を落とした。

 最初はこんな感じじゃなかった。

 半年前――俺がこのパーティーに入ったときの三人は、お世辞にも冒険者として抜きん出た才能があったわけじゃなかった。

 それでも半年前の三人には、がむしゃらに成り上がろうとする気概きがいがあった。

 戦闘中はスタンドプレーにてっしてしまうものの、戦闘が終わったあとは互いを気遣きづかって次のクエストも頑張ろうと向上心に満ちあふれていたのだ。

 だから俺はこのパーティーの前では空手からてを使わないと決めた。

 俺が堂々と魔物相手に空手からてを使ってしまえば、この三人のひたむきな向上心に水を差してしまう。

 そう思ったからこそ、俺はひたすらに裏方に回ったのだ。

 同時に強く決意した。

 この三人を絶対に有名な冒険者パーティーにしてみせる。

 そのために俺は〝裏〟で何でもやった。

 口に出せること出せないこともふくめて何でもだ。

 だが、俺のそんな行動は間違いだったのかもしれない。

 数々の難関だった上位クエストをこなし、ランクが上がるにつれてキースたちの態度や性格は一変いっぺんしていった。

 特にひどくなったのは、勇者に任命されてからのキースの素行そこうだ。

 自分よりも下の冒険者たちをあからさまに見下すようになり、少しでも難癖なんくせをつけてくるような相手には勇者という肩書きをちらつかせて暴力にうったえる。

 問題は他にもまだあった。

 確か娼館しょうかんで見つけたタイプの女性を強引に情婦じょうふにしようとして、バックにいた裏社会の奴らとめたこともある。

 俺は嫌な記憶を思い出して大きなため息をつく。

 いくら裏社会の人間相手とはいえ、事件をもみ消すための人殺しはさすがに後味が悪かった。

 しかし、あのときはやるしかなかった。

 国に選ばれた勇者が娼館しょうかんに入りびたり、バックにいた裏社会の人間と問題を起こしたなどいうスキャンダルを外に漏らすわけにはいかなかったからだ。

 すべてはキースたちを裏から手助けして、名実ともに国中の人間たちからたたえられる勇者パーティーにするため――だったはずが、俺はあまりにも過保護かほごすぎたのかもしれない。

 仲間に対して平然と剣を向けるような性格になる前に、適当な理由をつけて自分から出て行くべきだったのかもな。

 やがて俺は「分かった」と小さくうなずいた。

「俺がパーティーに必要なくなったと言うのなら出て行く。お互いにわだかまりがあっても今後のクエストに影響が出てくるだろうしな……ただ、一つだけ言わせてもらえないか。お前たちは俺のスキルを自分たちに恩恵を与えられない無能スキルだと馬鹿にしたが、それは使用するための条件が厳しいだけで、俺のスキルの恩恵を得る効果は絶大なんだ。それは――」

 ガッシャアアアアン――――。

 不意に冒険者ギルドの一角にけたたましい音が鳴り響いた。

 アリーゼやカチョウのみならず、他の冒険者たちも慌てふためく。

 キースが《神剣・デュランダル》でテーブルの上にあった酒や料理を薙ぎ払ったのだ。

 そしてキースは血走った目で俺をにらみつけてくる。

「この際だからはっきり言わせてもらうぜ。てめえのスキルのことなんざどうだっていいんだ。俺が前から気にくわなかったのは、てめえの俺を小馬鹿にするような態度そのものなんだよ」

「どういうことだ?」

「どうもこうもねえよ。俺と同じ年なくせに達観たっかんしたような態度と話し方をしやがって……マジで殺したいほどムカつくぜ。まるで俺を聞き分けの無いガキのように思ってやがるんだろ?」

誤解ごかいだ、キース。俺はお前のことをそんな風には思ったことはない……ただ、公衆の面前で今のお前のような言動は勇者としてあるまじきものだな、と思っているぐらいだ。ここがまだ冒険者ギルドだからいいものの、それなりの有力者の前では改めないと命取りになるぞ」

 俺がそう言うと、キースは「はっ」とした表情を浮かべた。

 公衆の面前と勇者としての言動、という言葉に反応したのだろう。

 キースは軽く周囲を見渡した。

 自分たちを横目にこそこそとしゃべっている他の冒険者たちを見て舌打ちする。

 さすがに冒険者ギルドの中で刃傷沙汰にんじょうざたはマズいと思ったに違いない。

 キースは長く深い息を吐くと、《神剣・デュランダル》をさやに納めた。

 そのままドカッと勢いよく椅子に座り、不遜ふそんな態度で両足を組む。

「ふん、最後のご忠告ありがたく頂戴ちょうだいしておくぜ……じゃあ、あばよ。無能で役立たずなサポーターの空手家からてかさんよ。勇者パーティーをクビになった噂はすぐに知れ渡ると思うから、どこへ行ってもてめえをサポーターとして雇うような奴はいなくなるだろうな」

「うふふふ、ご愁傷しゅうしょうさま」

南無三なむさんだな」

 三人の悪意のこもった嘲笑ちょうしょうに対して、俺はこれ以上ここにいる意味を失った。

 もう俺が知っている三人はこの世にいないんだな。

 俺は立ち上がると、椅子の背もたれにかけていた外套がいとうを手に取った。

 空手着の上から外套がいとうを羽織ってキースたちに背を向ける。

「今まで世話になったな。これから三人で頑張れよ」

「ぐだぐだ言ってねえでさっさと消えろよ、無能……ああ、そうだ。ついでに言っておくが宿屋に預けてある装備品や所持品はすべてパーティーで使うものだから、クビになったてめえには一つたりとも渡す理由はねえからな」

 そこまで言われると逆にどうでも良くなる。

「じゃあな」

 俺はそれだけ言い残し、冒険者ギルドを後にした。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...