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第三十四話 そのポーター、賢者(?)にツッコミをしまくる

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 僕が心中でハルミに凄まじいツッコミを入れた直後だった。

「この辺はどうだ!」

「もっとよく探せ!」

「おい、もっと松明を持ってこい!」

 という男たちの大声が周囲から聞こえてきた。

 ほぼ間違いなく、僕たちを探している門番兵さんたちだろう。

 声の感じと騒がしさからして、20人以上はいるかもしれない。

「ふむ、追手じゃな。さすがに数の理でこられては、この場所に隠れているのがバレるのも時間の問題じゃろ」

 確かにカーミちゃんの言う通りだ。

 このままだと人海戦術で馬小屋を包囲されかねない。

 僕は腕に抱き着いているローラさんを優しく離すと、一方で正面から抱き着いているハルミを「ドン」と押して突き離した。

 うきゃあ、という叫びともにハルミは地面に倒れた。

 しかし、ハルミは身体をバネのようにして一瞬で立ち上がる。

 スキルを使ったのか、それとも天性の才能なのかはわからなかった。

 どちらにせよ、大した身体能力だ。

 知能を発達させるべき才能が、身体のほうに偏ったのかもしれない。

「ひ、ひどいですよ……どうしてそんなにボクを邪険にするんですか」

 はあ、と僕は深々とため息を吐く。

「邪険にされて当然だとわかってないからだよ。君のせいで僕たちまで詰め所を放火した犯人にされているんだ」

「でも、僕が火を放ったことで勇者さまたちは脱獄できたじゃないですか。すべては結果オーライということで」

 ハルミは「えへへ」とウインクをしながら小さく舌を出す。

 こ、こいつは……。

 テヘペロとでも言いたげなハルミに対して、僕は右拳で殴りつけたくなった。

 というか、それこそ【神のツッコミ】を使ってどこかへ吹き飛ばしたくなった。

 だが、ここでハルミを殴っても状況は解決しない。

 加えてカーミちゃんのおかげで一時的に力が戻った【神のツッコミ】の力――〈気力封魔きりょくふうま撃滅げきめつ金剛烈破こんごうれっぱ〉を使ってから30分以上は経過している。

 なので今の僕には【神のツッコミ】の力は使えない。

 再び【神のツッコミ】の力を使うためには、燦然と輝く朝日が昇る時刻まで待たなくてはならないという。

 だったら、僕たちのするべきことは1つ。

 朝日が昇るまで街中を逃げ回る。

 これしかない。

 そして【神のツッコミ】の力が戻ったら、カントウ・ウメダなる人物の元へ行って僕から奪った領主の座から引きずり下ろすのだ。

 ただ、領主の屋敷にはそう簡単に近づけないかもしれない。

 カントウ・ウメダは門番兵さんたちに前もって命令して、この僕たちを街に到着するなり排除しようとした。

 おそらくカントウ・ウメダは、相当に悪知恵と実力を兼ね備えた奴だ。

 そんな奴が、僕たちが領主の屋敷に乗り込んでくることを想定していないはずがない。

 それこそ正面突破しようとすれば、どんな罠が待ち受けているかわかったものじゃなかった。

 きっと屋敷の周囲は凄まじい警戒網を敷いているだろう。

 などと今ここで考えていてもラチが明かない。

 やはりまずはここから逃げ出すのが先決だ。

「よし、追手がここを見つける前にここから逃げよう」

 僕の言葉に全員がうなずいた。

「そうですね。ここにいるのも危険です。私はどこまでもカンサイさまについていきます」とローラさん。

 ありがとう、ローラさん。

 誰が来ようと絶対に守るからね。

「うむ、幸いにもこの街は思ったよりも広い。繁華街の裏にでも逃げれば、隠れる場所の1つや2つは見つかるじゃろ」とカーミちゃん。

 さすが僕らの知恵袋のカーミちゃん。

 どこまでも頼りにしてるよ。

「ならばすぐにここから逃げましょう。善は急げ、です。なあに、武器がなくてもこのクラリス・フォン・グラハラム。たとえ素手でも追手と渡り合ってみせます」とクラリスさま。

 本当に頼もしいです、クラリスさま。

 この先もずっと僕の味方でいてください。

「だったら道案内はお任せください。繁華街の裏だろうと領主さまの屋敷へと通じる秘密の道だろうと、このボクが案内しますよ」とハルミ。

 うんうん、と僕はうなずいた。

「じゃあ、ハルミ。さっそくだけど、それらの場所へ案内してくれ……何て言うと思ったのかあああああああああああああああ――――ッ!」

 僕は激しくノリツッコミをすると、ビシッと人差し指をハルミに突きつける。

「僕たちの仲間の1人のような発言をするな! 君はここでお別れだ……っていうか、さっさと僕たちの前から消えて2度と現れないでくれ!」

 ええ~、とハルミは不満気に言った。

「勇者さま、まさかさっきの放火の件をまだ根に持っているんですか? もう~、あなたは勇者さまなんですから、もっと大きな広い心で許してくださいよ。青空のような大きくて広い心で」

 自分で言うな!

 僕が怒りで拳を震わせていると、カーミちゃんが「ちょっと待て」と言った。

 僕に対してではなく、ハルミの顔を見ながらだ。

「ハルミよ、今お主は何と言った?」

「ほえ? 何って……勇者さまに色街で幅を利かせている巨根の持ち主のように、大きくて広い心で許してくださいと言いました」

 そんなこと君は微塵も言ってないだろ!

 というか、この色街では巨根の持ち主が幅を利かせているの?

「茶化すな、ハルミ。そんなことはともかく、お主は道案内を任せろと言ったとき、その案内先の例の1つとしてある場所のことを口にしたじゃろ。領主の屋敷へと通じる秘密の道も案内する、と」

 あっ、と僕は声を上げた。

 確かにハルミはどさくさに紛れてそんなことを言っていた。

「ハルミ、君は領主の――カントウ・ウメダがいる屋敷へ通じる秘密の道を知っているのか?」

 僕の問いにハルミはあっけらかんと答える。
 
「知ってますよ。当たり前じゃないですか」

 先に言ええええええええええええええええええええええ――――ッ!
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