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第二十六話 そのポーター、片田舎の不夜城に到着する

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「へえ~、あれがプロテインか」

 僕は馬車の窓越しにプロテインの街を見てつぶやく。

 女性陣たちもプロテインを見て感想を漏らす。

「田舎にしては結構な大きさがありますね」とローラさん。

「うむ、あれほどの街なら旨い物もあるじゃろう」とカーミちゃん。

「この調子なら、あと10分以内には着きますね」とクラリスさま。

 時刻は夜――。

 すでに日は落ちて夜のとばりは完全に下りていたが、7~8人は入るスペースの馬車の中には室内照明用のランタンがあるので結構明るい。

 そして馬車の窓からは、暗闇に浮かぶ1つの光源がはっきりと見えていた。

 ウメダ領内にある街の中で、最大の規模を誇るプロテインという街だ。

 何でも色街や飲食街が他の街よりも発展しているため、深夜を超えても明かりが消えることはないらしい。

 なるほど、と僕は思った。

 確かにプロテインは全体的に松明のような明るさを放っている。

 もしくは夜の海に存在する灯台のようだ。

 別名、片田舎の不夜城とも呼ばれているのも納得できる。

 だが、それとは別にこの馬車の中には納得できないことがあった。

「あのプロテインはボクにとっては庭のような街です。楽しい場所から美味しい食べ物を出す店まで隅から隅まで知ってますので、どこへでも案内しますよ」

 そう言ったのはハルミ・マクハリ。

 同じ男としてはムカつくほど容姿端麗な美少年である。

「言っておくけど、君との付き合いは街に着くまでだ。それからは別行動だよ」

 僕は満面の笑みを浮かべているハルミに言った。

「ええ~、どうしてそんな薄情なことを言うんですか? ボクはこう見えて色々と役に立ちます。それにこれからはずっとあなたとあなたたち勇者パーティーをサポートしますよ、勇者さま」

「だから何度も言うように僕は君がサポートするべき勇者さまじゃないし、僕たちは魔王を倒す勇者パーティー予備軍でもないんだよ!」

「またまた~、あんなに強い人が勇者さまじゃないわけないじゃないですか。もういい加減に認めてくださいよ、勇者さま」

「だーかーらー!」

 もうこれで何度目のやりとりだろうか。

 さっきから僕は事あるごとに、ハルミとこのような言い争いを繰り広げている。

 やっぱり最初に馬車に乗せたのが間違いだった。

 そんなことを考えていると、ハルミは僕に顔を近づけて唇を突き出してくる。

「さあ、勇者さま。ボクのサポートを受ける証として熱烈なキスを――」

 直後、僕はハルミを馬車の隅まで突き飛ばしてどっと肩を落とす。

 山賊たちを【神のツッコミ】の力で遥か彼方まで吹き飛ばしたあと、僕たちは領主の屋敷があるプロテインに向かって再び出発しようとした。

 ところがこのハルミという美少年は、事もあろうに僕たちについてきたいと申し出てきた。

 もちろんだけど僕の権限で即却下したよ。

 こんな得体も知れず、しかも頭がかなりおかしいと思われた美少年を同行させる理由なんてこれっぽっちもなかったからだ。

 だが、ハルミは食い下がってきた。

 それこそ涙と鼻水に加えて、よだれも流しながら「お願いします! 僕のサポートを受けてください!」と猛烈にしがみついてきたのだ。

 ああ、言っておくけど僕だけにね。

 どれぐらい懇願と拒否の応酬おうしゅうをしただろう。

 やがてハルミは僕を勇者だと思うことを諦めたのか、僕に「それでは、次の街であるプロテインまで乗せて行ってくださいませんか」と言ってきたのだ。

 そしてこのときの僕は、ハルミのしょんぼりした顔を見て「まあ、ここに置き去りにするのはかわいそうかな」と変な同情心を出してしまったのである。

 折しも周囲は暗闇に包まれ始めていた。

 いくら頭のおかしい美少年とはいえ、こんな時間に1人だけ人気のない道に置き去りにするのは人としてダメだろう。

 しょうがない、僕の屋敷がある街までなら乗せて行ってあげるか。

 …………何て思った1時間前の僕を僕は殴りつけたい。

 ハルミは諦めてなどいなかった。

 馬車に乗ってしばらくすると、ハルミは態度を一変させて「いや……やっぱりあなたは勇者さまで、あなたたちは勇者パーティーです」となぜか僕にキスを迫ってきたのである。

 はっきり言って、馬車の外へ蹴り出そうと何度も思った。

 しかし、そのたびに女性陣からやんわりとした苦情が入った。

「カンサイさま、街に着くまでの辛抱ですから」とローラさん。

「これから領主となる男が小さいことにこだわるな」とカーミちゃん。

「お望みなら、この者の首をはねましょうか?」とクラリスさま。

 うん、さすがに首を落とすのはやりすぎかな。

 だが、ハルミを外に蹴り出せなかった1番の理由は別にあった。

 大人しい好好爺こうこうやと思っていた御者ぎょしゃさんの態度も一変したのだ。

「ちくしょう、べらぼうめ! もうすっかり夜になっちまったじゃねえか! 旦那方、このままプロテインの街まで全速力で飛ばしますから、絶対に誰一人として外に出ないでくだせえ!」

 と、口調も豹変させて馬車を凄まじいスピードで走らせたのである。

 今はプロテインの街が見えるほど近づいてきたので速度を落としているが、さっきまでは不用意に外へ出れば大怪我か即死の二択しかなかったほどだ。

 その中でもハルミは僕に「勇者さま」と言い寄ってきたのだから、いよいよを以てハルミ・マクハリという美少年が狂人の類だと証明されたのは言うまでもない。

 そうこうしている間に、僕たちを乗せた馬車はプロテインの街に到着した。

 正門の前で馬車が停車すると、警備の門番兵さんたちが集まってくる。

 ふう、とりあえず一安心かな。

 などと一瞬でも思った僕の安堵は、このあと粉々に打ち砕かれることになる。
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