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第十五話  そのポーター、作戦会議に参加して非難される

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 天幕の中、僕は〝上座〟に用意されていた椅子に座っている。

 当然だけど、僕が自分から上座に座りたいと指定したわけじゃないよ。

 カーミちゃんとこの天幕に来たら、クラリスさまが「カンサイ殿はこちらの席へ」と勧められた席が上座だっただけだからね。

 とはいえ、この場に集まっている歴戦の猛者たちは腹の底から納得がいっていないようだ。

 僕は背中に冷や汗を搔きながら周囲を見回す。

 針のむしろとはまさにこのことだった。

 全身に突き刺さってくる、疑念と不審と怒りが混じり合った視線が痛すぎる。

 まあ、無理もないと思う。

 有名な冒険者でもない無名のポーターに過ぎない僕が、国の命運を分かつかもしれない本作戦の〝総大将〟の椅子に座っているのだ。

 他の人たちからしてみれば「誰だ、あの小童は!」となるのも当然だ。

「それでは全員が揃ったところで、作戦会議に入ろうと思う」

 そう言ったのは、僕の右隣に立っていたクラリスさまだ。

 ちなみに僕の左隣にはふんぞり返っているカーミちゃん、僕の後ろにはあわあわと挙動不審になっていたローラさんがいる。

「お待ちください、クラリスさま。作戦会議の前に1ついいですかな?」

 すると1人の男の人が発言のために挙手をした。

 全員の視線が挙手をした人間に集まる。

 赤色の鎧を着ていた、茶髪で角刈りの男。

 年齢は30代半ばぐらい。

 真四角な顔の形と獅子鼻。

 鷹のように鋭い目つきと、両端が跳ね上がったカイゼルひげの持ち主である。

「申してみよ。朱雀騎士団団長――イチロー・マクマホン」

 そう、この場には五天騎士団と呼ばれるグラハラム王国きっての5つの騎士団の団長が勢ぞろいしている。

 このイチロー・マクマホンと呼ばれた人もそのうちの1人だ。

 そして僕はこの人を団長Aさんと認識した。

 え? ちゃんと名前で憶えてあげろって?

 うん、その理由はこれからわかるよ。

「クラリスさま、私もよろしいでしょうか?」

 団長Aさんが意見を述べようとした矢先、すぐにまた別の人が挙手をする。

「申してみよ。青龍騎士団団長――ジロー・マクマホン」

 再び全員の視線が2人目の挙手者に集まる。

 青色の鎧を着ていた、茶髪で角刈りの男。

 年齢は30代半ばぐらい。

 真四角な顔の形と獅子鼻。

 鷹のように鋭い目つきと、両端が跳ね上がったカイゼルひげの持ち主である。

 僕はこの2人目の団長さんのことを団長Bさんと認識した。

 …………そろそろ、お気づかれた人もいるだろう。

 このあと、続けざまに残り2人の団長さんも意見を述べるために挙手をした。

 もう長ったらしいことを言うのはやめる。

 3人目は団長Cさんのサブロー・マクマホンさん。

 4人目は団長Dさんのシロー・マクマホンさん。

 もうおわかりになったと思うが、4人は顔も体格もほぼ同じで違うのはそれぞれが着ている鎧の色だけだったのだ。

 白虎騎士団の団長Cさんの鎧の色は白色。

 玄武騎士団の団長Dさんの鎧の色は黒色といった具合にだ。

 要するに各団長さんは本物の4つ子であり、しかもグラハラム王国でも有数の大貴族――マクマホン家の生まれだという。

 前もってクラリスさまに聞いていたが、マクマホン家に生まれる男子はすべからくあのような特徴的な顔つきの人間しか生まれないらしい。

 う~ん、いくら大貴族でもあの顔で生まれたくはないな。

 そんなことを考えながら団長さんたちを見渡していると、隣にいたカーミちゃんに「カンサイよ、すまぬな」と小声でいきなり謝られた。

「何がです?」

「わしがお主の転生変更登記さえちゃんとしていたら、お主はあのマクマホン家に生まれる予定だったのに」

 えええええええええええ――――ッ。

 そうだったのおおおおお――――ッ。

 だったら、むしろ今は謝られるどころか逆に感謝したいよ!

 一方、僕たちに構わず各団長さんたちとクラリスさまは口論をしている。

 議題は「なぜ、ここに騎士団以外の人間がいるのか?」だ。

 クラリスさまは簡易テーブルの上をバンと平手で叩く。

「各団長たちよ、そなたたちが不審がる気持ちもわかる……だが、これだけは信じてほしい。ここにおられるカンサイ殿こそ、魔人と〈魔物モンスター大暴走・スタンピード〉の脅威から我らを――いや、このグラハラム王国を救ってくれる英雄だということを」

「ですから、そのようなことをいきなり言われても納得がいきません。お言葉を返すようですが、その者が魔人と〈魔物モンスター大暴走・スタンピード〉の脅威を何とかできる英雄にはとても見えません」

 これは団長Aさんの意見ね。

「私もイチロー兄者の言うことに賛成です。それなりに顔と体格はよさそうですが、そのような者は騎士団の中にはごまんとおります。このさいですからはっきり言わせていただきますが、その者は何の教養も力もない単なる一般人です」

 これは団長Bさんの意見ね。

「私もジロー兄者の言うことに同意します。見たところ、その者は冒険者ですらない。ならば、なおさらそのような者を作戦会議に参加させるべきではない」

 これは団長Cさんの意見ね。

「他の兄者たちの意見にオイも異議なしだべ。そいつは素人だっぺ。オラにはわかるズラ。即刻、この場から追放することを姫様に進言申し上げ奉る」

 ちょっと待って!

 団長Dのシローさん、あなただけ他の3人と違いますよね?

 見た目は他の3人と同じですけど、中身はまったく血の繋がりのない別の人間が何人も入ってますよね?

 などと心中で団長Dさんに対してツッコんでいると、クラリスさまは「では証拠を見せよう」と僕のほうに顔を向ける。

「さあ、カンサイ殿。この者たちにあなたの力をお見せしてください。あなたが魔人と〈魔物モンスター大暴走・スタンピード〉の脅威など物ともしないという確固たる力を」

 少し強引だなと思いつつ、僕はゆっくりと立ち上がった。

 上座に座らされたのは予定外の出来事だったが、もとより僕はここに遊びに来たわけじゃない。

 こうしている間にも、国を壊滅させる脅威は着実に迫ってきている。

 だったら、僕のやることは1つだ。

 それにこの場を切り抜ける秘策は、あらかじめカーミちゃんと話し合っている。

「クラリスさま、まだこの期に及んでそのような世迷言を! その小僧にそのような力はありません!」

 団長Aさんは顔を真っ赤にして怒声を上げる。

「イチロー兄者の言うとおりです! そんな小僧などすぐに追い出しましょう!」

 団長Bさんも高らかに追従する。

「私も兄者たちの言うことに全面的に同意します! しかし、ここから追い出す程度では生ぬるい! どうせ純粋なクラリスさまの心につけ込み、この場に入り込んだ不届き者です! 即刻、処刑すべきです!」

 団長Cさんは簡易テーブルをバンバンと叩く。

「ワンもそうオムイます(私もそう思います)! すぐンカイ追い出すかシナスべきです(すぐに追い出すか殺すべきです)!」

 団長Dさん、マジであなたはいくつの独特な言葉を喋れるの?

 まあいい……今は言葉による余計なツッコミじゃなく、実際に力が発動する本物のツッコミをすることが先決だ。

 僕は全員の顔を見回した。

「皆さんの僕に対するお疑いも重々承知しています。ですが、クラリスさまの言うとおり僕には力がある。なので僕の持つスキルの力でこの闘いを勝利に導きたいと思います」

 僕は「論より証拠です」と全員とも天幕の外へ出るようにうながした。
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