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第29話 スモールフライ
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鷺乃宮学園は格闘技・武道の部活動が富に盛んなことで知られていた。
一般人が知らないような珍しい格闘技を研究するサークルの数も余所の学校よりも格段に多く、だからこそ鷺乃宮学園で名を売ることは千山に登るほど険しいと言われている。
一方、集団で有名になることはそれほど苦にならない。
〈ギャング〉たちがその最たる例だろう。
上の人間が有名になればなるほど末端の人間など虎の衣を被る猫に等しい。
だからこそ〈ギャング〉たちは目の前の人間を心底恐れるのだ。
鷺乃宮学園最強と謳われた堀田花蓮という少女を。
その理由を羽美はようやく認識できた。
なぜなら――。
「ほ、堀田花蓮……くそ! お前ら何をぼけっと突っ立ってる! 剛樹君から誰であろうと旧校舎に近づく人間には容赦するなって言われているだろうが!」
慌てふためきながら叫んだのは岡田だった。
そして窓際で呆気に取られていた末端の人間たちに渇を入れると、末端の人間たちはゼンマイを巻かれた人形のように動いた。
3対1。
末端の人間たちの脳裏には数が多い方が有利との結論を出したのだろう。
また上の人間に発破をかけられたことが大きな要因となったに違いない。
悠然とした態度で教室内に入ってきた花蓮に一斉に襲い掛かる。
羽美は瞬き一つしなかった。
「うざい」
前方から向かってきた3人に花蓮は冷たい一瞥をくれる。
続いて花蓮は猛然と詰め寄ってきた3人の懐に入ると、三方から繰り出されてきた拳を軽々と捌いていく。
無論、それだけで終わるはずがない。
現に花蓮は捌いたそれぞれの拳を一箇所に纏まるような異様な動きを取った。
緊張と興奮のために昂っていた神経が、羽美の動体視力を一時的に飛躍させる。
(あの技は――)
傍目から見ていても圧巻だった。
花蓮は入り身と呼ばれる流麗な体捌きを駆使し、前方から襲いかかってきた3人の攻撃の軌道を完全に読むと、さらに相手の手首を摑んで固め技に入ったのだ。
1人だけではない。
3人同時にである。
次の瞬間、鋭い呼気を吐いた花蓮は3人の手首を摑んだまま重心を一気に落とした。
すると、明らかに花蓮よりも体格が上だった三人の男たちは、両膝を刀で真っ二つに斬られたかのように地面に崩れ落ちていく。
教室内にけたたましい衝撃音が響いた。
同時に数十年間積もりに積もった埃と塵が虚空に高らかに舞い上がる。
明瞭な昼間ならばちょっとした黒煙に見えたかもしれない。
それでも羽美の視覚は花蓮の攻防を余すことなく目撃していた。
花蓮は3人の男たちの平衡感覚を同時に狂わすや否や、その床に崩れ落ちる重力の作用を巧みに利用して後頭部を床に叩きつけるよう仕掛けたのだ。
以前、毎月購読している専門誌に掲載されていた。
とある合気道の大家が、スクラムを組んだ5人を同時に組み伏してしまった妙技が。
まさに花蓮はその妙技を使用したのだ。
実戦では非常に難しく、約束された稽古でのみ使用可能と言われた技をである。
しかし花蓮にとっては別に特別な技ではなかったのだろう。
後頭部を強打されて昏倒する3人に構わず、濛々と虚空に舞う粉塵を花蓮はさっと手で薙ぎ払う。
そこで羽美は花蓮の着ていた衣服に着目することができた。
見ている方が恥ずかしくなるほどのゴスロリファッションだ。
薄暗い中でも黒を基調としていることが分かる。
「やれやれ、相変わらず単細胞な連中だ。たった3人で花蓮に敵うはずがないだろ」
そう言ったのは晴矢だ。
いつの間にか出入り口の扉前に陣取っており、入り口を塞ぐように両腕を組んでいた。
晴矢の着用していた衣服はゴスロリファッションよりも普通だったが、それでも学園の敷地内ということを考えれば特殊だっただろう。
灰色のシャツに漆黒のスーツ。
これで白のネクタイを締めていれば葬式に出席する1人に見えなくもない。
だが、晴矢はノーネクタイだった。
「何だ……何でお前らがここにいるんだ!」
仲間が呆気なく倒されて岡田は軽く錯乱した。
羽美の背中を踏みつけていた足を退け、じりじりと窓際まで移動していく。
「僕たちがここにいる理由かい? 決まっているだろう。もちろん彼の付き添いさ」
前髪を弄りつつ晴矢が答える。
「本当は彼一人でも十分だったんだけどね、こちらも事情が大きく変わったから全員できたのさ。最後ぐらいお得意様に挨拶したくてね」
晴矢は岡田から拘束されている羽美にちらりと視線を移した。
「それに君たちが彼女を拉致してくれたお陰で手間が省けた。その点に関しては君たちにお礼を言っておく……ありがとうスモールフライ君」
これで二度目だった。
羽美は晴矢が口にした言葉の意味は理解していたが、岡田はよく意味が分からなかったのだろう。「スモールフライって何だよ?」と晴矢に問う。
「そのままの意味だよ。スモールフライって言うのは――」
晴矢は見惚れるような爽やかな笑みを浮かべる。
「蛆虫ってことさ」
直後、唐突に花蓮が疾風の如き速度で動いた。
半ば朽ち欠けた板張りの床の上を滑るように移動していく。
目標は案山子のように佇んでいた岡田だった。
「おわっ!」
岡田は完全に不意をつかれた。
晴矢に意識が集中していたこともあったのだろう。
易々と自分の間合いに花蓮を侵入させてしまった。
それだけで岡田の運命はほぼ決まった。
柔道経験者であった岡田は咄嗟に花蓮に組みつこうと腰を落としたものの、すでに相手は心身ともに闘志を全開にさせていた。
一呼吸。
まさに一呼吸の時間で決着はついた。
花蓮は相手に組みついてこようとした岡田の戦法を一目で看破すると、無防備だった顔面に強烈な平手を見舞った。
それだけではない。
相手の顔面に手形が浮かぶほどの平手を放った花蓮は、その勢いを殺さずに足払いをかけた。
するとどうだろう。
岡田は顔面を半ば摑まれた状態で側頭部を床に叩きつけられた。
戦慄と悪寒が同時に走る凄まじい技だった。
ほとんど筋肉に頼らない重心移動と相手の体重すらも利用するその技は、武の真髄を探求する者にとって理想そのものである。
「さて、これで邪魔者は一通りいなくなったね」
教室内にいた〈ギャング〉を花蓮が一掃すると、出入り口を塞いでいた晴矢が羽美に歩み寄って行く。
「とんだ災難だったね、副生徒会長。まあ、でもいい経験をしたと思えばいいさ」
正直、拘束されたままでそんな殊勝な気分には到底なれなかった。
「変な慰めなんていらないから早いところ自由にしてくれない? さっき目覚めてから手首が擦って痛いのよ」
かなり頑丈なロープで結ばれているらしく、どう力を込めても解れる様子がない。
それどころか悪戯に手首の皮を擦っただけでひりひりと痛む。
「拘束を解くぐらい別に構わないよ。まあ、今すぐとはいかないけどね」
「どういうこと?」
訊き返すなり、羽美の身体がふわりと宙に浮いた。
いや、厳密には浮いたような感じがしただけで結果的には二本の足で立ち上がったに過ぎない。
だが、その立ち上がり方が特殊だった。
「彼に会うまでってこと」
花蓮である。
羽美が寝かされていた場所まで足を運ぶと、可憐は寝かされていた羽美の身体を強引に立ち上がらせたのだ。
しかし力任せにではない。
それこそ効率的な身体の動きによってである。
晴矢や花蓮と同じ目線の高さに戻った羽美。ほどしばらくして羽美は2人に尋ねた。
「さっきからあなたたちは何を言ってるの? 付き添いやらお得意様やらと……それに彼って一体?」
慎重に言葉を選んでいく羽美に対して、晴矢は人差し指を天井に向けて言った。
「彼の正体ならすぐに分かるさ。この上へ行けばね」
一般人が知らないような珍しい格闘技を研究するサークルの数も余所の学校よりも格段に多く、だからこそ鷺乃宮学園で名を売ることは千山に登るほど険しいと言われている。
一方、集団で有名になることはそれほど苦にならない。
〈ギャング〉たちがその最たる例だろう。
上の人間が有名になればなるほど末端の人間など虎の衣を被る猫に等しい。
だからこそ〈ギャング〉たちは目の前の人間を心底恐れるのだ。
鷺乃宮学園最強と謳われた堀田花蓮という少女を。
その理由を羽美はようやく認識できた。
なぜなら――。
「ほ、堀田花蓮……くそ! お前ら何をぼけっと突っ立ってる! 剛樹君から誰であろうと旧校舎に近づく人間には容赦するなって言われているだろうが!」
慌てふためきながら叫んだのは岡田だった。
そして窓際で呆気に取られていた末端の人間たちに渇を入れると、末端の人間たちはゼンマイを巻かれた人形のように動いた。
3対1。
末端の人間たちの脳裏には数が多い方が有利との結論を出したのだろう。
また上の人間に発破をかけられたことが大きな要因となったに違いない。
悠然とした態度で教室内に入ってきた花蓮に一斉に襲い掛かる。
羽美は瞬き一つしなかった。
「うざい」
前方から向かってきた3人に花蓮は冷たい一瞥をくれる。
続いて花蓮は猛然と詰め寄ってきた3人の懐に入ると、三方から繰り出されてきた拳を軽々と捌いていく。
無論、それだけで終わるはずがない。
現に花蓮は捌いたそれぞれの拳を一箇所に纏まるような異様な動きを取った。
緊張と興奮のために昂っていた神経が、羽美の動体視力を一時的に飛躍させる。
(あの技は――)
傍目から見ていても圧巻だった。
花蓮は入り身と呼ばれる流麗な体捌きを駆使し、前方から襲いかかってきた3人の攻撃の軌道を完全に読むと、さらに相手の手首を摑んで固め技に入ったのだ。
1人だけではない。
3人同時にである。
次の瞬間、鋭い呼気を吐いた花蓮は3人の手首を摑んだまま重心を一気に落とした。
すると、明らかに花蓮よりも体格が上だった三人の男たちは、両膝を刀で真っ二つに斬られたかのように地面に崩れ落ちていく。
教室内にけたたましい衝撃音が響いた。
同時に数十年間積もりに積もった埃と塵が虚空に高らかに舞い上がる。
明瞭な昼間ならばちょっとした黒煙に見えたかもしれない。
それでも羽美の視覚は花蓮の攻防を余すことなく目撃していた。
花蓮は3人の男たちの平衡感覚を同時に狂わすや否や、その床に崩れ落ちる重力の作用を巧みに利用して後頭部を床に叩きつけるよう仕掛けたのだ。
以前、毎月購読している専門誌に掲載されていた。
とある合気道の大家が、スクラムを組んだ5人を同時に組み伏してしまった妙技が。
まさに花蓮はその妙技を使用したのだ。
実戦では非常に難しく、約束された稽古でのみ使用可能と言われた技をである。
しかし花蓮にとっては別に特別な技ではなかったのだろう。
後頭部を強打されて昏倒する3人に構わず、濛々と虚空に舞う粉塵を花蓮はさっと手で薙ぎ払う。
そこで羽美は花蓮の着ていた衣服に着目することができた。
見ている方が恥ずかしくなるほどのゴスロリファッションだ。
薄暗い中でも黒を基調としていることが分かる。
「やれやれ、相変わらず単細胞な連中だ。たった3人で花蓮に敵うはずがないだろ」
そう言ったのは晴矢だ。
いつの間にか出入り口の扉前に陣取っており、入り口を塞ぐように両腕を組んでいた。
晴矢の着用していた衣服はゴスロリファッションよりも普通だったが、それでも学園の敷地内ということを考えれば特殊だっただろう。
灰色のシャツに漆黒のスーツ。
これで白のネクタイを締めていれば葬式に出席する1人に見えなくもない。
だが、晴矢はノーネクタイだった。
「何だ……何でお前らがここにいるんだ!」
仲間が呆気なく倒されて岡田は軽く錯乱した。
羽美の背中を踏みつけていた足を退け、じりじりと窓際まで移動していく。
「僕たちがここにいる理由かい? 決まっているだろう。もちろん彼の付き添いさ」
前髪を弄りつつ晴矢が答える。
「本当は彼一人でも十分だったんだけどね、こちらも事情が大きく変わったから全員できたのさ。最後ぐらいお得意様に挨拶したくてね」
晴矢は岡田から拘束されている羽美にちらりと視線を移した。
「それに君たちが彼女を拉致してくれたお陰で手間が省けた。その点に関しては君たちにお礼を言っておく……ありがとうスモールフライ君」
これで二度目だった。
羽美は晴矢が口にした言葉の意味は理解していたが、岡田はよく意味が分からなかったのだろう。「スモールフライって何だよ?」と晴矢に問う。
「そのままの意味だよ。スモールフライって言うのは――」
晴矢は見惚れるような爽やかな笑みを浮かべる。
「蛆虫ってことさ」
直後、唐突に花蓮が疾風の如き速度で動いた。
半ば朽ち欠けた板張りの床の上を滑るように移動していく。
目標は案山子のように佇んでいた岡田だった。
「おわっ!」
岡田は完全に不意をつかれた。
晴矢に意識が集中していたこともあったのだろう。
易々と自分の間合いに花蓮を侵入させてしまった。
それだけで岡田の運命はほぼ決まった。
柔道経験者であった岡田は咄嗟に花蓮に組みつこうと腰を落としたものの、すでに相手は心身ともに闘志を全開にさせていた。
一呼吸。
まさに一呼吸の時間で決着はついた。
花蓮は相手に組みついてこようとした岡田の戦法を一目で看破すると、無防備だった顔面に強烈な平手を見舞った。
それだけではない。
相手の顔面に手形が浮かぶほどの平手を放った花蓮は、その勢いを殺さずに足払いをかけた。
するとどうだろう。
岡田は顔面を半ば摑まれた状態で側頭部を床に叩きつけられた。
戦慄と悪寒が同時に走る凄まじい技だった。
ほとんど筋肉に頼らない重心移動と相手の体重すらも利用するその技は、武の真髄を探求する者にとって理想そのものである。
「さて、これで邪魔者は一通りいなくなったね」
教室内にいた〈ギャング〉を花蓮が一掃すると、出入り口を塞いでいた晴矢が羽美に歩み寄って行く。
「とんだ災難だったね、副生徒会長。まあ、でもいい経験をしたと思えばいいさ」
正直、拘束されたままでそんな殊勝な気分には到底なれなかった。
「変な慰めなんていらないから早いところ自由にしてくれない? さっき目覚めてから手首が擦って痛いのよ」
かなり頑丈なロープで結ばれているらしく、どう力を込めても解れる様子がない。
それどころか悪戯に手首の皮を擦っただけでひりひりと痛む。
「拘束を解くぐらい別に構わないよ。まあ、今すぐとはいかないけどね」
「どういうこと?」
訊き返すなり、羽美の身体がふわりと宙に浮いた。
いや、厳密には浮いたような感じがしただけで結果的には二本の足で立ち上がったに過ぎない。
だが、その立ち上がり方が特殊だった。
「彼に会うまでってこと」
花蓮である。
羽美が寝かされていた場所まで足を運ぶと、可憐は寝かされていた羽美の身体を強引に立ち上がらせたのだ。
しかし力任せにではない。
それこそ効率的な身体の動きによってである。
晴矢や花蓮と同じ目線の高さに戻った羽美。ほどしばらくして羽美は2人に尋ねた。
「さっきからあなたたちは何を言ってるの? 付き添いやらお得意様やらと……それに彼って一体?」
慎重に言葉を選んでいく羽美に対して、晴矢は人差し指を天井に向けて言った。
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