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第17話 羽美VSスクリーム男
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互いに3メートルの距離を保ちつつ、自分が先に機先を制しようと2人は見えない火花を散らす。
(誰かは知らないけど、どうやら黙って帰してくれそうにないわね)
軽快なリズムを取りながら、羽美は対峙しているスクリーム男を注視した。
間違いなく目の前のスクリーム男は格闘技経験者に違いない。
それも打撃系ではなく組技系。
両手の肘を軽く曲げて前方に突き出し、中腰の体勢から突進してきたことが何よりの証拠だ。
柔道か柔術、それとも総合格闘技経験者だろうか。
(どっちにしても逃亡は不可能。だったら闘うしかこの場を切り抜ける方法はないかな)
じんわりと生温い汗が背中を伝う。
本当は野試合など断固として御免だったが、相手が素人ではない以上そう暢気なことも言っていられない。
羽美はちらりとジェイソン男に視線を移す。
ジャンケンに勝ったジェイソン男は両腕を組んで悠然と仁王立ちしていた。
その佇まいからでも相手の実力は予想できた。
ジェイソン男も何かしらの格闘技を使う猛者なのだろう。
さすがに何を得意としているのかは不明だったが、スクリーム男が組技系ならば打撃系格闘技の使い手かもしれない。
いずれにせよ、この2人組みは確固たる目的のために自分を狙ってきた。
それもナンパのような軽薄な目的では断じてないだろう。
拉致か辻斬りか。下手をすると命に係わる大事に発展するかもしれない。
羽美は女ながらも空手の有段者である。
そして在籍している有聖塾の支部長からも常に周囲に目を配らせ、逸早く危険を回避しろと骨の髄まで叩き込まれていた。
だからこそ、羽美はこの異常事態においても取り乱すことなく状況を把握できた。
それに学園では治安の一端を担う生徒会にも属しており、副生徒会長という立場から常に学園の平穏を脅かす輩に目を光らせている。
平常心を保つといったことならば他の女子高生とは追随を許さない。
「あんまり膠着するのは好きじゃねえんだ。岡……ジェイソンが言うように早めに終わらせてやる」
そう呟いた直後、スクリーム男はフェイントも入れずに突進してきた。
総合格闘技の定石であるタックルを仕掛けてくる。
羽美は瞬き一つせずにスクリーム男の動きを目で追った。
時間がある程度経過したお陰で暗闇にも目が慣れ、ましてや戦闘中はアドレナリンが分泌されて五感が通常以上に昂っている。
まるでスクリーム男の動きがスローモーションのように鈍く見えた。
(タックルでくる相手には――)
羽美はタイミングを見計らい、猛進してくるスクリーム男にカウンターを合わせる。
膝蹴りであった。
相手の顔面の高さにあり、カウンターが決まれば確実に相手を昏倒させることができる蹴撃だ。
また仕損じても相手の頭部を摑んで地面に押し潰す戦法に切り替えることも可能だった。
どちらにしてもこちらが有利なのは間違いない。
道場の中で組技系の経験者相手に幾度も練習した技。
そのお陰で制空圏内ならば高確率でカウンターが取れるように研磨されていた。
現に羽美はスクリーム男の頭部を摑み、鼻先目掛けて膝頭を突き刺すことができた。
仮面越しに鼻骨を折った感触が膝に浸透する。
勝った!
胸中で高らかに雄叫びを上げた羽美。
それほどタックルに合わせたカウンターは自画自賛できるほど完璧に決まった。
しかし、最後の最後まで油断は禁物だ。
追い詰められた手負いの獣ほど信じられない膂力を発揮して反撃してくる。
目の前のスクリーム男もそうだ。
鼻骨を折っただけでは不安である。
こういう格闘技経験者ほど野試合では完全に叩き伏せなければ危うい。
羽美はかっと目を見開き、足元に蹲るスクリーム男を見下ろした。
どうやら相手は完全に気絶していない。
自分の足を摑んでいる手に力が残っている。
やはり早々に意識を奪った方がよさそうだ。
正拳の形から中指の関節部位だけを突き出し、中高一本拳という独特な拳形を作る。
羽美はこの中高一本拳を駆使して追撃を放とうとしたのだ。
狙いはうなじの場所である延髄。
この場所はダメージを負うと脳内にまでそのダメージが伝わるので、ボクシングに限らずほとんどの打撃格闘技では禁じ手に指定されている。
道場稽古のみならず試合でも使わない危険な一手だ。
それでも羽美は打つつもりだった。
ここは道場でもなければ試合会場でもない。
ルールを確認する審判など皆無な野外なのだ。
ましてや相手は本気で自分を狙ってきている。
ならば本気で撃退するのは当然だった。
羽美は中高一本拳に変化させた右拳を振り上げつつスクリーム男に言った。
「今度からは相手を見て喧嘩を売りなさい。そうでないと怪我だけじゃ済まないわよ」
本心だった。
相手が女だろうと男だろうと関係ない。
喧嘩を売った相手の力量を誤ると野試合では致命的なミスとなる。
武士の情けだったのだろうか。
とどめを刺す直前にそう言うと、羽美はスクリーム男が晒している延髄に意識を集中。
振り上げた右拳を一気に振り下ろす。
「そうだな……まさにその通りだ」
右拳を振り下ろす寸前、足元に蹲っていたスクリーム男の口から言葉が漏れた。
刹那、羽美の身体が大きく後方に仰け反った。
言い表せない悲鳴を上げ、身体をダンシングフラワーのように揺らし始める。
やがて羽美は腰が抜けたかのように地面に崩れ落ちた。
仰向けに倒れ込み、口を金魚のようにパクパクとさせる。
目は白めになり、身体の震えは未だに収まっていなかった。
スクリーム男は顔面を右手で押さえながら立ち上がった。
「窮鼠猫を噛む……ってか」
スクリーム男の左手には青白い火花を散らすスタンガンが握られていた。
(誰かは知らないけど、どうやら黙って帰してくれそうにないわね)
軽快なリズムを取りながら、羽美は対峙しているスクリーム男を注視した。
間違いなく目の前のスクリーム男は格闘技経験者に違いない。
それも打撃系ではなく組技系。
両手の肘を軽く曲げて前方に突き出し、中腰の体勢から突進してきたことが何よりの証拠だ。
柔道か柔術、それとも総合格闘技経験者だろうか。
(どっちにしても逃亡は不可能。だったら闘うしかこの場を切り抜ける方法はないかな)
じんわりと生温い汗が背中を伝う。
本当は野試合など断固として御免だったが、相手が素人ではない以上そう暢気なことも言っていられない。
羽美はちらりとジェイソン男に視線を移す。
ジャンケンに勝ったジェイソン男は両腕を組んで悠然と仁王立ちしていた。
その佇まいからでも相手の実力は予想できた。
ジェイソン男も何かしらの格闘技を使う猛者なのだろう。
さすがに何を得意としているのかは不明だったが、スクリーム男が組技系ならば打撃系格闘技の使い手かもしれない。
いずれにせよ、この2人組みは確固たる目的のために自分を狙ってきた。
それもナンパのような軽薄な目的では断じてないだろう。
拉致か辻斬りか。下手をすると命に係わる大事に発展するかもしれない。
羽美は女ながらも空手の有段者である。
そして在籍している有聖塾の支部長からも常に周囲に目を配らせ、逸早く危険を回避しろと骨の髄まで叩き込まれていた。
だからこそ、羽美はこの異常事態においても取り乱すことなく状況を把握できた。
それに学園では治安の一端を担う生徒会にも属しており、副生徒会長という立場から常に学園の平穏を脅かす輩に目を光らせている。
平常心を保つといったことならば他の女子高生とは追随を許さない。
「あんまり膠着するのは好きじゃねえんだ。岡……ジェイソンが言うように早めに終わらせてやる」
そう呟いた直後、スクリーム男はフェイントも入れずに突進してきた。
総合格闘技の定石であるタックルを仕掛けてくる。
羽美は瞬き一つせずにスクリーム男の動きを目で追った。
時間がある程度経過したお陰で暗闇にも目が慣れ、ましてや戦闘中はアドレナリンが分泌されて五感が通常以上に昂っている。
まるでスクリーム男の動きがスローモーションのように鈍く見えた。
(タックルでくる相手には――)
羽美はタイミングを見計らい、猛進してくるスクリーム男にカウンターを合わせる。
膝蹴りであった。
相手の顔面の高さにあり、カウンターが決まれば確実に相手を昏倒させることができる蹴撃だ。
また仕損じても相手の頭部を摑んで地面に押し潰す戦法に切り替えることも可能だった。
どちらにしてもこちらが有利なのは間違いない。
道場の中で組技系の経験者相手に幾度も練習した技。
そのお陰で制空圏内ならば高確率でカウンターが取れるように研磨されていた。
現に羽美はスクリーム男の頭部を摑み、鼻先目掛けて膝頭を突き刺すことができた。
仮面越しに鼻骨を折った感触が膝に浸透する。
勝った!
胸中で高らかに雄叫びを上げた羽美。
それほどタックルに合わせたカウンターは自画自賛できるほど完璧に決まった。
しかし、最後の最後まで油断は禁物だ。
追い詰められた手負いの獣ほど信じられない膂力を発揮して反撃してくる。
目の前のスクリーム男もそうだ。
鼻骨を折っただけでは不安である。
こういう格闘技経験者ほど野試合では完全に叩き伏せなければ危うい。
羽美はかっと目を見開き、足元に蹲るスクリーム男を見下ろした。
どうやら相手は完全に気絶していない。
自分の足を摑んでいる手に力が残っている。
やはり早々に意識を奪った方がよさそうだ。
正拳の形から中指の関節部位だけを突き出し、中高一本拳という独特な拳形を作る。
羽美はこの中高一本拳を駆使して追撃を放とうとしたのだ。
狙いはうなじの場所である延髄。
この場所はダメージを負うと脳内にまでそのダメージが伝わるので、ボクシングに限らずほとんどの打撃格闘技では禁じ手に指定されている。
道場稽古のみならず試合でも使わない危険な一手だ。
それでも羽美は打つつもりだった。
ここは道場でもなければ試合会場でもない。
ルールを確認する審判など皆無な野外なのだ。
ましてや相手は本気で自分を狙ってきている。
ならば本気で撃退するのは当然だった。
羽美は中高一本拳に変化させた右拳を振り上げつつスクリーム男に言った。
「今度からは相手を見て喧嘩を売りなさい。そうでないと怪我だけじゃ済まないわよ」
本心だった。
相手が女だろうと男だろうと関係ない。
喧嘩を売った相手の力量を誤ると野試合では致命的なミスとなる。
武士の情けだったのだろうか。
とどめを刺す直前にそう言うと、羽美はスクリーム男が晒している延髄に意識を集中。
振り上げた右拳を一気に振り下ろす。
「そうだな……まさにその通りだ」
右拳を振り下ろす寸前、足元に蹲っていたスクリーム男の口から言葉が漏れた。
刹那、羽美の身体が大きく後方に仰け反った。
言い表せない悲鳴を上げ、身体をダンシングフラワーのように揺らし始める。
やがて羽美は腰が抜けたかのように地面に崩れ落ちた。
仰向けに倒れ込み、口を金魚のようにパクパクとさせる。
目は白めになり、身体の震えは未だに収まっていなかった。
スクリーム男は顔面を右手で押さえながら立ち上がった。
「窮鼠猫を噛む……ってか」
スクリーム男の左手には青白い火花を散らすスタンガンが握られていた。
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