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第六章 元荷物持ち、やがて伝説となる無双配信をする ②
第六十五話 元荷物持ち・ケンジchの無双配信 ⑯
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俺はキメラ・ゴルゴンの体内から吐き出された2人を見つめた。
辻原美咲と秋葉正嗣に間違いない。
その顔立ちや体形は忘れたくても忘れられない。
では、今の2人は人間と呼べる存在なのか?
答えは否だ。
2人は明らかにもう人間ではなくなっている。
それは皮膚の色を見れば一目瞭然だ。
美咲と正嗣は衣服を着ていない裸の状態だったため、なおさらに遠目からでもよくわかった。
2人の肌はざらつきのありそうな緑色になっていたのだ。
まさに爬虫類のそれである。
それだけではない。
2人の両目は蛇のように離れ目になっていて、口先から細長い真っ赤な舌をチロチロと出していた。
リザードマンがトカゲ人間ならば、美咲と正嗣はヘビ人間と呼ぶに相応しい異形の姿になっている。
まさしく合成生物となっていた。
おそらく、俺がここに来る前にキメラ・ゴルゴンに食い殺されたのだろう。
なぜ、この地下空間に2人がいたのかは知る由もない。
ただ、キメラとなった2人を見る限りそうとしか考えられなかった。
もしも本当にここが〈魔羅廃滅教団〉という宗教団体のアジトだったとして、美咲と正嗣は俺をPTから追放したあとに信徒となったのだろうか。
であるなら草薙数馬はどこいる?
美咲と正嗣の2人がそう簡単に数馬と袂を分かつとは思えない。
けれど、少なくともこの大広間に数馬の姿はなかった。
そしてキメラ・ゴルゴンの体内から生まれていないとなると、この地下空間に生死は不明だが数馬はいないということになる。
もちろん、俺はこの地下空間の隅々まで調べたわけではない。
ゆえにじっくりと探せば数馬を見つけられるかもしれないが、俺の無双配信には何の関係もないためそんなことをするつもりはなかった。
ともかく、今は数メートル前方にいる2人とキメラ・ゴルゴンだ。
特に目を引くのは美咲と正嗣のほうである。
俺がここに来る前にすでに死体となっていたのか、たまたまキメラ・ゴルゴンの目に留まって生きたまま食われたかはわからない。
どちらにせよ、美咲と正嗣はヘビ人間という魔物になってしまった。
そんなヘビ人間の2人は、文字通り蛇の目で俺を見返してくる。
俺は平気だったが、もしかすると視聴者の中には吐き気を覚えた人間がいたかもしれない。
人間とは程遠い姿の魔物を魔物と認識する分にはまだいいが、中途半端に人間の姿かたちをした魔物は見ていて気分のよいものではない。
俺もそうだった。
ましてや2人は俺の顔見知りなのだ。
ふと記憶の引き出しを開ければ、今の美咲と正嗣がまだ人間だった頃に数馬と一緒に俺に暴力を働いたときの光景がよみがえってくる。
まったく憎くないと言えば嘘になる。
いくら当時の俺が記憶をなくしていた状態だったとはいえ、あんな理不尽な理由でPTをクビになったこともそうだが、そのとあとの暴力を受けたことには納得がいかない。
しかし、今となってはすべて過去のことだ。
それにあの一件があったことで俺は無意識に数馬たちにかけていた〈大周天〉を解くことになり、こうしてアースガルドでの記憶を取り戻して【聖気練武】の力も使えるようになった。
となると、俺が2人にできることは1つ。
「美咲、正嗣」
俺は一拍の間を置いたあと、案山子のように立ち尽くす2人に声をかけた。
「この俺のことを覚えているか? お前たち【疾風迅雷】をクビにされて追放されたケン……拳児だよ」
すると2人の身体がピクリと動いた。
人間の言葉はわかるのかもしれないが、何にせよ魔物となった2人を元の人間に戻すのは不可能。
さりとて、このまま2人を放置することもできない。
俺はちらりとキメラ・ゴルゴンのほうに顔を向ける。
2人の親であったキメラ・ゴルゴンは出産に体力を激しく消耗したのだろう。
見るからに荒く呼吸をして疲れ切った表情をしていた。
もしかするとキメラ・ゴルゴンは子供として生み出した美咲と正嗣に俺を狩らせ、その俺の死肉を食らって体力を回復させようと思っているのかもしれない。
だとしたら悪手の極みだった。
他の魔物よりも人間に姿かたちが似ていようが、しょせんは魔物だということ。
先ほどの戦闘で俺の力を見極めていないということならば、産み落とした子供と一緒にあの世へと迅速に送ってやるしかない。
などと思った矢先だった。
「キシャアアアアアアア」と美咲。
「ギシャアアアアアアア」と正嗣。
2人は似たような威嚇の声を発し、俺に向かって突進してくる。
人間の頃と比べて筋力や体力、耐久力は格段に向上しているだろうが、その力が通じるのは普通の人間か【聖気練武】を会得していない中級探索者までだ。
キメラ・ゴルゴンのようにイレギュラーでもないため、俺からしたらそこら辺にいる下級魔物と実力的に変わらない。
事実、俺は2人に対して構えを取らなかった。
そんなことをしても簡単に迎撃できると思ったからだ。
現に俺は間合いを詰めてきた2人の攻撃を難なく避けた。
〈聖眼〉と〈聴勁〉の複合技――〈流水〉を使ったのである。
2人は猛獣の爪撃のように開いた手を振り回してきたのだが、その攻撃を俺は無表情で淡々と〈流水〉を利用して躱していく。
やはり、俺の見立ては当たった。
キメラとなった美咲と正嗣など敵ではない。
そしてキメラとなった2人を殺すのに一番手っ取り早いのは、やはり胴体から首を切り落とすことだろう。
俺は刃物の類は持っていないが、〈聖気〉を込めた手刀を使えば簡単に切り落とせる。
しかし、それだけはしないほうがいい。
俺は2人の攻撃を避けながらドローンを見る。
あのカメラの向こうには何万人もの視聴者がいるのだ。
それこそ性別も年齢もバラバラな視聴者たちがである。
中には10代の子供もいるかもしれない。
となると、人間の姿かたちにそっくりな2人の首を切り落とすのは如何なものか。
ふむ、やはりここはあの技で殺るか。
俺は心中でうなずくと、まず美咲の懐に一気に飛び込んだ。
そのまま美咲の心臓の位置に掌を押し当てる。
〈聖光・波濤掌〉。
〈発勁〉の応用技である、掌から相手の身体内部に〈聖気〉の衝撃波を浸透させる技だ。
ズンッ!
俺の〈聖気〉の衝撃波によって美咲の心臓が潰れた感触があった。
「ゲホッ」と美咲は血泡を吹いてその場に崩れ落ちた。
直後、俺はすぐに身体ごと振り返って正嗣に接近。
美咲と同じく心臓の位置に掌を押し当て、〈聖光・波濤掌〉で心臓を潰した。
「グハッ」と正嗣も血泡を吹いて背中から地面に倒れる。
俺は絶命した2人を見下ろした。
本気で打てば身体は粉々になっただろうが、〈聖気〉の量をかなり落として打ったので心臓のみが潰れたのである。
これだと首を落とすよりも視聴者の心臓に負担をかけないはずだ。
カメラ越しだと俺の掌打で美咲と正嗣が倒れたように見えたはず。
「キシャアアアアアアアアアア」
おっと、まだ親玉が残っていたな。
俺は2人からキメラ・ゴルゴンへと視線を移す。
キメラ・ゴルゴンは全身から今の感情を露わにしていた。
蛇の髪は天井に向かって逆立ち、ナイフのような爪を俺に向けて全身を震わせている。
怒りだ。
自分の子供たちが呆気なく殺されたことに怒り狂っているのだろう。
それによって普段の倍近く力が向上しているのかもしれない。
だとしても俺には何の関係もなかった。
普段の倍に力が向上したとしても、ネズミは虎に絶対に勝てない。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
キメラ・ゴルゴンは大広間全体を揺るがすほどの叫び声を発し、ただ怒りに任せて俺に突っ込んでくる。
ふう、と俺は短いため息を吐いた。
子も子なら親も親だ。
俺は瞬く間に距離を詰めてきたキメラ・ゴルゴンの爪撃を躱すと、相手の左足に〈聖気〉を込めた下段蹴りを放った。
バギンッ!
俺の下段蹴りを食らってキメラ・ゴルゴンの左足の骨は粉砕。
「ギョワッ!」
変な悲鳴を上げたキメラ・ゴルゴンに対して、俺はすかさず追撃する。
左足の骨が粉砕骨折したことで、キメラ・ゴルゴンの上半身は前のめりに折れ曲がった。
そのときに俺は大きく踏み込み、キメラ・ゴルゴンのアゴに向かって真下から揚げ突きを繰り出したのだ。
もちろん、美咲と正嗣を倒したときよりも〈聖気〉の量は増やしてある。
ゴシャッ!
俺の揚げ突きを食らったキメラ・ゴルゴンの肉体は真上に吹っ飛び、土を固めていただけの天井に深々と突き刺さる。
俺はその様子をしばらく眺めた。
最初こそキメラ・ゴルゴンはピクピクと動いていたが、やがて全身が弛緩したようにダラリとなって動かなくなった。
俺の揚げ突きか天井に突き刺さったときのどちらかはわからないが、もしくはその両方の衝撃によってキメラ・ゴルゴンは絶命したのだ。
俺はコントローラーを操作してドローンを目の前まで戻した。
「みんな、色々とあったがこれで今回の無双配信は終了だ。楽しんでくれたのなら俺としては――」
嬉しい、と視聴者たちに言いかけたときだ。
コメントを打っている視聴者たちの様子が変なことに気づいた。
〈お前ら、速報見たか!〉
〈クソやべえことになってる!!!!〉
〈ケンジくん、カッコいい!〉
〈やっぱケンジしか勝たん〉
〈迷宮街が大ピンチになってるぞ!!!!!!!〉
〈今流れてきた速報やべえええええ〉
〈ついに〈魔羅廃滅教団〉の奴らが本気になりやがった!!!〉
〈ケンジ、配信なんてしている場合じゃねえぞ!〉
〈ケンジ、今すぐ迷宮街に戻るんだ!〉
俺は高速で流れるコメントの一部を明確に目で拾った。
〈このままだと迷宮街が〈魔羅廃滅教団〉に滅ぼされるぞ!!!!〉
【元荷物持ち・ケンジch】
チャンネル登録者数 91000人→93000人
配信動画同時接続数 110994人→116800人
辻原美咲と秋葉正嗣に間違いない。
その顔立ちや体形は忘れたくても忘れられない。
では、今の2人は人間と呼べる存在なのか?
答えは否だ。
2人は明らかにもう人間ではなくなっている。
それは皮膚の色を見れば一目瞭然だ。
美咲と正嗣は衣服を着ていない裸の状態だったため、なおさらに遠目からでもよくわかった。
2人の肌はざらつきのありそうな緑色になっていたのだ。
まさに爬虫類のそれである。
それだけではない。
2人の両目は蛇のように離れ目になっていて、口先から細長い真っ赤な舌をチロチロと出していた。
リザードマンがトカゲ人間ならば、美咲と正嗣はヘビ人間と呼ぶに相応しい異形の姿になっている。
まさしく合成生物となっていた。
おそらく、俺がここに来る前にキメラ・ゴルゴンに食い殺されたのだろう。
なぜ、この地下空間に2人がいたのかは知る由もない。
ただ、キメラとなった2人を見る限りそうとしか考えられなかった。
もしも本当にここが〈魔羅廃滅教団〉という宗教団体のアジトだったとして、美咲と正嗣は俺をPTから追放したあとに信徒となったのだろうか。
であるなら草薙数馬はどこいる?
美咲と正嗣の2人がそう簡単に数馬と袂を分かつとは思えない。
けれど、少なくともこの大広間に数馬の姿はなかった。
そしてキメラ・ゴルゴンの体内から生まれていないとなると、この地下空間に生死は不明だが数馬はいないということになる。
もちろん、俺はこの地下空間の隅々まで調べたわけではない。
ゆえにじっくりと探せば数馬を見つけられるかもしれないが、俺の無双配信には何の関係もないためそんなことをするつもりはなかった。
ともかく、今は数メートル前方にいる2人とキメラ・ゴルゴンだ。
特に目を引くのは美咲と正嗣のほうである。
俺がここに来る前にすでに死体となっていたのか、たまたまキメラ・ゴルゴンの目に留まって生きたまま食われたかはわからない。
どちらにせよ、美咲と正嗣はヘビ人間という魔物になってしまった。
そんなヘビ人間の2人は、文字通り蛇の目で俺を見返してくる。
俺は平気だったが、もしかすると視聴者の中には吐き気を覚えた人間がいたかもしれない。
人間とは程遠い姿の魔物を魔物と認識する分にはまだいいが、中途半端に人間の姿かたちをした魔物は見ていて気分のよいものではない。
俺もそうだった。
ましてや2人は俺の顔見知りなのだ。
ふと記憶の引き出しを開ければ、今の美咲と正嗣がまだ人間だった頃に数馬と一緒に俺に暴力を働いたときの光景がよみがえってくる。
まったく憎くないと言えば嘘になる。
いくら当時の俺が記憶をなくしていた状態だったとはいえ、あんな理不尽な理由でPTをクビになったこともそうだが、そのとあとの暴力を受けたことには納得がいかない。
しかし、今となってはすべて過去のことだ。
それにあの一件があったことで俺は無意識に数馬たちにかけていた〈大周天〉を解くことになり、こうしてアースガルドでの記憶を取り戻して【聖気練武】の力も使えるようになった。
となると、俺が2人にできることは1つ。
「美咲、正嗣」
俺は一拍の間を置いたあと、案山子のように立ち尽くす2人に声をかけた。
「この俺のことを覚えているか? お前たち【疾風迅雷】をクビにされて追放されたケン……拳児だよ」
すると2人の身体がピクリと動いた。
人間の言葉はわかるのかもしれないが、何にせよ魔物となった2人を元の人間に戻すのは不可能。
さりとて、このまま2人を放置することもできない。
俺はちらりとキメラ・ゴルゴンのほうに顔を向ける。
2人の親であったキメラ・ゴルゴンは出産に体力を激しく消耗したのだろう。
見るからに荒く呼吸をして疲れ切った表情をしていた。
もしかするとキメラ・ゴルゴンは子供として生み出した美咲と正嗣に俺を狩らせ、その俺の死肉を食らって体力を回復させようと思っているのかもしれない。
だとしたら悪手の極みだった。
他の魔物よりも人間に姿かたちが似ていようが、しょせんは魔物だということ。
先ほどの戦闘で俺の力を見極めていないということならば、産み落とした子供と一緒にあの世へと迅速に送ってやるしかない。
などと思った矢先だった。
「キシャアアアアアアア」と美咲。
「ギシャアアアアアアア」と正嗣。
2人は似たような威嚇の声を発し、俺に向かって突進してくる。
人間の頃と比べて筋力や体力、耐久力は格段に向上しているだろうが、その力が通じるのは普通の人間か【聖気練武】を会得していない中級探索者までだ。
キメラ・ゴルゴンのようにイレギュラーでもないため、俺からしたらそこら辺にいる下級魔物と実力的に変わらない。
事実、俺は2人に対して構えを取らなかった。
そんなことをしても簡単に迎撃できると思ったからだ。
現に俺は間合いを詰めてきた2人の攻撃を難なく避けた。
〈聖眼〉と〈聴勁〉の複合技――〈流水〉を使ったのである。
2人は猛獣の爪撃のように開いた手を振り回してきたのだが、その攻撃を俺は無表情で淡々と〈流水〉を利用して躱していく。
やはり、俺の見立ては当たった。
キメラとなった美咲と正嗣など敵ではない。
そしてキメラとなった2人を殺すのに一番手っ取り早いのは、やはり胴体から首を切り落とすことだろう。
俺は刃物の類は持っていないが、〈聖気〉を込めた手刀を使えば簡単に切り落とせる。
しかし、それだけはしないほうがいい。
俺は2人の攻撃を避けながらドローンを見る。
あのカメラの向こうには何万人もの視聴者がいるのだ。
それこそ性別も年齢もバラバラな視聴者たちがである。
中には10代の子供もいるかもしれない。
となると、人間の姿かたちにそっくりな2人の首を切り落とすのは如何なものか。
ふむ、やはりここはあの技で殺るか。
俺は心中でうなずくと、まず美咲の懐に一気に飛び込んだ。
そのまま美咲の心臓の位置に掌を押し当てる。
〈聖光・波濤掌〉。
〈発勁〉の応用技である、掌から相手の身体内部に〈聖気〉の衝撃波を浸透させる技だ。
ズンッ!
俺の〈聖気〉の衝撃波によって美咲の心臓が潰れた感触があった。
「ゲホッ」と美咲は血泡を吹いてその場に崩れ落ちた。
直後、俺はすぐに身体ごと振り返って正嗣に接近。
美咲と同じく心臓の位置に掌を押し当て、〈聖光・波濤掌〉で心臓を潰した。
「グハッ」と正嗣も血泡を吹いて背中から地面に倒れる。
俺は絶命した2人を見下ろした。
本気で打てば身体は粉々になっただろうが、〈聖気〉の量をかなり落として打ったので心臓のみが潰れたのである。
これだと首を落とすよりも視聴者の心臓に負担をかけないはずだ。
カメラ越しだと俺の掌打で美咲と正嗣が倒れたように見えたはず。
「キシャアアアアアアアアアア」
おっと、まだ親玉が残っていたな。
俺は2人からキメラ・ゴルゴンへと視線を移す。
キメラ・ゴルゴンは全身から今の感情を露わにしていた。
蛇の髪は天井に向かって逆立ち、ナイフのような爪を俺に向けて全身を震わせている。
怒りだ。
自分の子供たちが呆気なく殺されたことに怒り狂っているのだろう。
それによって普段の倍近く力が向上しているのかもしれない。
だとしても俺には何の関係もなかった。
普段の倍に力が向上したとしても、ネズミは虎に絶対に勝てない。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
キメラ・ゴルゴンは大広間全体を揺るがすほどの叫び声を発し、ただ怒りに任せて俺に突っ込んでくる。
ふう、と俺は短いため息を吐いた。
子も子なら親も親だ。
俺は瞬く間に距離を詰めてきたキメラ・ゴルゴンの爪撃を躱すと、相手の左足に〈聖気〉を込めた下段蹴りを放った。
バギンッ!
俺の下段蹴りを食らってキメラ・ゴルゴンの左足の骨は粉砕。
「ギョワッ!」
変な悲鳴を上げたキメラ・ゴルゴンに対して、俺はすかさず追撃する。
左足の骨が粉砕骨折したことで、キメラ・ゴルゴンの上半身は前のめりに折れ曲がった。
そのときに俺は大きく踏み込み、キメラ・ゴルゴンのアゴに向かって真下から揚げ突きを繰り出したのだ。
もちろん、美咲と正嗣を倒したときよりも〈聖気〉の量は増やしてある。
ゴシャッ!
俺の揚げ突きを食らったキメラ・ゴルゴンの肉体は真上に吹っ飛び、土を固めていただけの天井に深々と突き刺さる。
俺はその様子をしばらく眺めた。
最初こそキメラ・ゴルゴンはピクピクと動いていたが、やがて全身が弛緩したようにダラリとなって動かなくなった。
俺の揚げ突きか天井に突き刺さったときのどちらかはわからないが、もしくはその両方の衝撃によってキメラ・ゴルゴンは絶命したのだ。
俺はコントローラーを操作してドローンを目の前まで戻した。
「みんな、色々とあったがこれで今回の無双配信は終了だ。楽しんでくれたのなら俺としては――」
嬉しい、と視聴者たちに言いかけたときだ。
コメントを打っている視聴者たちの様子が変なことに気づいた。
〈お前ら、速報見たか!〉
〈クソやべえことになってる!!!!〉
〈ケンジくん、カッコいい!〉
〈やっぱケンジしか勝たん〉
〈迷宮街が大ピンチになってるぞ!!!!!!!〉
〈今流れてきた速報やべえええええ〉
〈ついに〈魔羅廃滅教団〉の奴らが本気になりやがった!!!〉
〈ケンジ、配信なんてしている場合じゃねえぞ!〉
〈ケンジ、今すぐ迷宮街に戻るんだ!〉
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