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第六章 元荷物持ち、やがて伝説となる無双配信をする ②
第五十八話 元荷物持ち・ケンジchの無双配信 ⑫
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俺は5回目の無双配信をするべく、エリーとともに迷宮街から南西にある湿地エリアへと足を運んだ。
他のエリアと違って湿度が高く、じっとしていても普通の人間ならばじんわりとした汗がにじんでくるエリアだ。
そんな湿地エリアでは特異な植物が多く生え茂っていた。
森林エリアの木々とは異なり、あちこちに見られる湖沼の水面下にまで根が伸びている。
「うわ~、やっぱ湿地帯はどこの世界もめっちゃ蒸し暑いな。これじゃあ、ぜんぜん汗が止まらんわ」
俺の頭上を飛んでいるエリーの愚痴も先ほどから止まらない。
「そうぼやくな。蒸し暑いと言ってもここは砂漠じゃないんだ。それにお前は妖精なんだから気温を感じても人間のように汗なんてかかないだろうが」
「まあ、そうやねんけど」
と、エリーはウインクしながらペロリと舌を出す。
「せやけど、そういうケンも汗をかいとらんやないか。アースガルドでの魔王討伐の旅のおかげやな」
「まあな」
この湿地エリアや未だに行ったことのない砂漠エリアにおいて、真に敵になるのは魔物ではなく人間の精神と体力を削る厳しい環境だ。
俺はアースガルドで魔王討伐に向かう道中、そのような厳しい環境下に仲間たちと幾度となくさらされた。
そのおかげで俺は、常人には耐えられない環境でも体調を崩さずに生存する術を身につけている。
では、このダンジョンで活躍している他の探索者たちはどうだろう。
これは成瀬さんに聞いたのだが、やはりこの世界の探索者たちも魔物を倒す以上に環境に適応することを最優先に考えているらしい。
湿地エリアならば湿度の高さと底なし沼。
砂漠エリアならば高気温と流砂。
極寒エリアならば低気温と寒風。
などの各エリアの環境を切り抜けられるように準備と対策は怠らないという。
なぜならこれらを怠ると大幅に精神と体力が削られ、遭遇した魔物が低級でもあっさりと全滅することもあるからだ。
そしてこの湿地エリアではジメジメとした気温に水分を持っていかれ、その汗から分泌される匂いに誘われて大量の虫や魔物が襲ってくる。
だが、今の俺は特別な呼吸法により新陳代謝を抑えていた。
なので必然的に汗がかきにくくなっており、普通の探索者たちを悩ませている大量の虫に襲われる事態を避けることができていたのである。
まあ、それはさておき。
やがて俺は湿地エリアの中でも開けた場所に辿り着いた。
うん、ここら辺から配信を始めるか。
すでに湿地エリアに足を踏み入れて数十分が経過していた。
本当ならこれまでの反省を踏まえて湿地エリアに入った直後に配信を始めようかと思ったが、思ったよりも湿地エリアは屋根のように樹木が生え茂っていて、ドローンを飛ばすと少し不都合がでるかもと心配になったのだ。
そこでドローンを安全に飛ばせるまで配信を始めないでいたが、この開けた場所は屋根のように生えている樹木がないので配信場所としては最適だった。
ならばこの場所から配信を始めるに限る。
そう思った俺はコントローラーを操作して配信を開始した。
「みんな、待たせたな。元荷物持ち・ケンジchのケンジだ。今日は5回目の無双配信のため、湿地エリアにやってきたぞ」
すでに待機人数は万を超えていたため、配信を始めた途端に滝のようにコメントが流れ始める。
〈おおおおお、今日はちゃんと初めから配信するのか〉
〈ケンジさん、応援してます!!〉
〈前回までの唐突な配信スタイルもよかったが、やっぱり最初から初めてくれると安心できるな〉
〈今日の無双配信も楽しみにしてます!!!!!〉
〈ケンくん、今日もカッコイイ〉
〈砂漠エリアと極寒エリアに続く厳しい湿地エリアの配信か〉
〈人食い虫と底なし沼だけは十分に気をつけろよ!〉
〈湿地エリアってどんなイレギュラーがいたっけ?〉
〈よりにもよって湿地エリアでの配信かよ。下手したらあいつらに見つかるぞ〉
〈あれ? ここって〈魔羅廃滅教団〉のアジトがあるって噂がなかった?〉
〈ケンジ、今日も俺たちにカタルシスを与えてくれ!!!!!!!!〉
〈このエリアは普通の魔物も強いから油断すんなよ〉
〈イレギュラーを倒す無双配信もいいが、〈魔羅廃滅教団〉のアジトを見つける配信に変更してもおk〉
〈時間があったら〈魔羅廃滅教団〉のアジトを探してください。もちろん、その探索している姿も配信してくれたら嬉しいです〉
〈湿地エリアはウェット・ワームの巣だからな。爬虫類系が苦手な奴は見るなよ〉
〈ウェット・ワームって大蛇みたいな魔物だっけ?〉
〈大蛇とミミズがミックスしたみたいな魔物。目や耳はなくてデカイ円形の口に鋭い牙がついている〉
〈画像検索したけどキモ!!!!〉
〈そいつらの親玉が今回のターゲットのイレギュラー?〉
〈キメラ・ゴルゴンだっけ? 蛇の髪をした人間の女のような魔物〉
〈他にもオッパイが十数個もついているっぽい〉
〈何そいつ、コワッ!〉
〈確かキメラ・ゴルゴンって他種族の子供を産むんだよね。そんでその父親の種族の特性を強く反映させることから、キメラ・ゴルゴンって名前がついたとか何とか〉
〈ということは人間の子供も産めんの?〉
〈まあ人間の精を受けようと、生まれてくるのは化け物に違いない〉
などというコメントを俺は1つも見逃さなかった。
俺を応援してくれるコメントがある一方、情報通の視聴者も多く混じっている。
そして、その情報通の視聴者たちの言っていることは初耳ではない。
これらの情報はあらかじめダンジョン協会で仕入れていた。
この湿地エリアには、ダンジョン協会と真っ向から対峙している邪教集団のアジトがあるかもしれないと。
けれども、俺はここにイレギュラーを倒す無双配信をやりに来たのだ。
断じて邪教集団のアジトを見つけて殲滅しに来たのではない。
まあ、配信の途中で向こうから襲ってきたのなら話は別だが、そうでないのならわざわざアジトを探すということは考えていなかった。
ともかく、今は自分の配信のことを第一に考える。
そう決断した直後だった。
地面の一角が大きく盛り上がり、地中から巨大な魔物が顔を見せた。
成人男性10人分ぐらいの胴体を持つ大蛇とミミズが融合したような魔物が。
〈うおっ、ウェット・ワームだ!〉
〈いきなり出てきやがった!〉
〈しかも1匹じゃねえ!〉
〈集団で現れやがった!!!!〉
コメントでも指摘されたように、ウェット・ワームは最初の1匹を皮切りに次々と地中から現れた。
その数、全部で5匹。
中級探索者のパーティーではこの時点で詰みだっただろう。
「ケン、今回もうちは邪魔にならんようにドローンと上空にいるさかいな。せやけど、上空からイレギュラーを見かけたらすぐに知らせるで」
俺は一言も発せず、代わりにエリーに1本だけ立てた親指を向けた。
今は配信中のため、エリーとの会話はなるべく避けなければならない。
それでもエリーの発した言葉はきちんと拾うつもりがあるので、もしも上空からイレギュラーの姿が見えたら声をかけてもらうつもりでいた。
とはいえ、今はエリーよりも配信に集中しよう。
その後、俺はすぐさまコントローラーを操作した。
魔物との戦闘で被害が出ないように、ドローンを上空へと飛ばして自動操縦モードに切り替える。
「さてと」
戦闘準備が整った俺は周囲を見回した。
ウェット・ワームたちは俺を取り囲み、鋭い牙が生えている口から大量の唾液を垂れ流している。
そんなウェット・ワームたちを観察するに当たり、どいつもこいつも俺の身体をむさぼり食うことしか考えていないことはわかった。
「あいにくだな」
俺は首を左右に振って骨を鳴らす。
「俺を獲物に選んだことを後悔しろ」
他のエリアと違って湿度が高く、じっとしていても普通の人間ならばじんわりとした汗がにじんでくるエリアだ。
そんな湿地エリアでは特異な植物が多く生え茂っていた。
森林エリアの木々とは異なり、あちこちに見られる湖沼の水面下にまで根が伸びている。
「うわ~、やっぱ湿地帯はどこの世界もめっちゃ蒸し暑いな。これじゃあ、ぜんぜん汗が止まらんわ」
俺の頭上を飛んでいるエリーの愚痴も先ほどから止まらない。
「そうぼやくな。蒸し暑いと言ってもここは砂漠じゃないんだ。それにお前は妖精なんだから気温を感じても人間のように汗なんてかかないだろうが」
「まあ、そうやねんけど」
と、エリーはウインクしながらペロリと舌を出す。
「せやけど、そういうケンも汗をかいとらんやないか。アースガルドでの魔王討伐の旅のおかげやな」
「まあな」
この湿地エリアや未だに行ったことのない砂漠エリアにおいて、真に敵になるのは魔物ではなく人間の精神と体力を削る厳しい環境だ。
俺はアースガルドで魔王討伐に向かう道中、そのような厳しい環境下に仲間たちと幾度となくさらされた。
そのおかげで俺は、常人には耐えられない環境でも体調を崩さずに生存する術を身につけている。
では、このダンジョンで活躍している他の探索者たちはどうだろう。
これは成瀬さんに聞いたのだが、やはりこの世界の探索者たちも魔物を倒す以上に環境に適応することを最優先に考えているらしい。
湿地エリアならば湿度の高さと底なし沼。
砂漠エリアならば高気温と流砂。
極寒エリアならば低気温と寒風。
などの各エリアの環境を切り抜けられるように準備と対策は怠らないという。
なぜならこれらを怠ると大幅に精神と体力が削られ、遭遇した魔物が低級でもあっさりと全滅することもあるからだ。
そしてこの湿地エリアではジメジメとした気温に水分を持っていかれ、その汗から分泌される匂いに誘われて大量の虫や魔物が襲ってくる。
だが、今の俺は特別な呼吸法により新陳代謝を抑えていた。
なので必然的に汗がかきにくくなっており、普通の探索者たちを悩ませている大量の虫に襲われる事態を避けることができていたのである。
まあ、それはさておき。
やがて俺は湿地エリアの中でも開けた場所に辿り着いた。
うん、ここら辺から配信を始めるか。
すでに湿地エリアに足を踏み入れて数十分が経過していた。
本当ならこれまでの反省を踏まえて湿地エリアに入った直後に配信を始めようかと思ったが、思ったよりも湿地エリアは屋根のように樹木が生え茂っていて、ドローンを飛ばすと少し不都合がでるかもと心配になったのだ。
そこでドローンを安全に飛ばせるまで配信を始めないでいたが、この開けた場所は屋根のように生えている樹木がないので配信場所としては最適だった。
ならばこの場所から配信を始めるに限る。
そう思った俺はコントローラーを操作して配信を開始した。
「みんな、待たせたな。元荷物持ち・ケンジchのケンジだ。今日は5回目の無双配信のため、湿地エリアにやってきたぞ」
すでに待機人数は万を超えていたため、配信を始めた途端に滝のようにコメントが流れ始める。
〈おおおおお、今日はちゃんと初めから配信するのか〉
〈ケンジさん、応援してます!!〉
〈前回までの唐突な配信スタイルもよかったが、やっぱり最初から初めてくれると安心できるな〉
〈今日の無双配信も楽しみにしてます!!!!!〉
〈ケンくん、今日もカッコイイ〉
〈砂漠エリアと極寒エリアに続く厳しい湿地エリアの配信か〉
〈人食い虫と底なし沼だけは十分に気をつけろよ!〉
〈湿地エリアってどんなイレギュラーがいたっけ?〉
〈よりにもよって湿地エリアでの配信かよ。下手したらあいつらに見つかるぞ〉
〈あれ? ここって〈魔羅廃滅教団〉のアジトがあるって噂がなかった?〉
〈ケンジ、今日も俺たちにカタルシスを与えてくれ!!!!!!!!〉
〈このエリアは普通の魔物も強いから油断すんなよ〉
〈イレギュラーを倒す無双配信もいいが、〈魔羅廃滅教団〉のアジトを見つける配信に変更してもおk〉
〈時間があったら〈魔羅廃滅教団〉のアジトを探してください。もちろん、その探索している姿も配信してくれたら嬉しいです〉
〈湿地エリアはウェット・ワームの巣だからな。爬虫類系が苦手な奴は見るなよ〉
〈ウェット・ワームって大蛇みたいな魔物だっけ?〉
〈大蛇とミミズがミックスしたみたいな魔物。目や耳はなくてデカイ円形の口に鋭い牙がついている〉
〈画像検索したけどキモ!!!!〉
〈そいつらの親玉が今回のターゲットのイレギュラー?〉
〈キメラ・ゴルゴンだっけ? 蛇の髪をした人間の女のような魔物〉
〈他にもオッパイが十数個もついているっぽい〉
〈何そいつ、コワッ!〉
〈確かキメラ・ゴルゴンって他種族の子供を産むんだよね。そんでその父親の種族の特性を強く反映させることから、キメラ・ゴルゴンって名前がついたとか何とか〉
〈ということは人間の子供も産めんの?〉
〈まあ人間の精を受けようと、生まれてくるのは化け物に違いない〉
などというコメントを俺は1つも見逃さなかった。
俺を応援してくれるコメントがある一方、情報通の視聴者も多く混じっている。
そして、その情報通の視聴者たちの言っていることは初耳ではない。
これらの情報はあらかじめダンジョン協会で仕入れていた。
この湿地エリアには、ダンジョン協会と真っ向から対峙している邪教集団のアジトがあるかもしれないと。
けれども、俺はここにイレギュラーを倒す無双配信をやりに来たのだ。
断じて邪教集団のアジトを見つけて殲滅しに来たのではない。
まあ、配信の途中で向こうから襲ってきたのなら話は別だが、そうでないのならわざわざアジトを探すということは考えていなかった。
ともかく、今は自分の配信のことを第一に考える。
そう決断した直後だった。
地面の一角が大きく盛り上がり、地中から巨大な魔物が顔を見せた。
成人男性10人分ぐらいの胴体を持つ大蛇とミミズが融合したような魔物が。
〈うおっ、ウェット・ワームだ!〉
〈いきなり出てきやがった!〉
〈しかも1匹じゃねえ!〉
〈集団で現れやがった!!!!〉
コメントでも指摘されたように、ウェット・ワームは最初の1匹を皮切りに次々と地中から現れた。
その数、全部で5匹。
中級探索者のパーティーではこの時点で詰みだっただろう。
「ケン、今回もうちは邪魔にならんようにドローンと上空にいるさかいな。せやけど、上空からイレギュラーを見かけたらすぐに知らせるで」
俺は一言も発せず、代わりにエリーに1本だけ立てた親指を向けた。
今は配信中のため、エリーとの会話はなるべく避けなければならない。
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とはいえ、今はエリーよりも配信に集中しよう。
その後、俺はすぐさまコントローラーを操作した。
魔物との戦闘で被害が出ないように、ドローンを上空へと飛ばして自動操縦モードに切り替える。
「さてと」
戦闘準備が整った俺は周囲を見回した。
ウェット・ワームたちは俺を取り囲み、鋭い牙が生えている口から大量の唾液を垂れ流している。
そんなウェット・ワームたちを観察するに当たり、どいつもこいつも俺の身体をむさぼり食うことしか考えていないことはわかった。
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