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第三章 元荷物持ち、記憶を取り戻したことで真の力が戻る
第二十五話 草薙数馬の破滅への言動 ⑤
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俺はズボンのポケットから短眼鏡を取り出すと、数十メートル先にいる黒マントの男たちを食い入るように覗き見た。
絶対にあいつらは探索者ではない。
間違いなく、あいつらは〈魔羅廃滅教団〉の奴らだ。
深々とフードを被っているので顔まではわからなかったが、こんな湿地エリアであんな格好をしているのが何よりの証拠である。
人数は8人。
全員が漆黒のフード付きのマントを羽織り、湿地エリアの中では珍しい1本の大木の前でたむろっている。
俺は首をかしげた。
あんなところで何をしているんだ?
〈魔羅廃滅教団〉と思われる連中を発見したのはよかったが、あの連中の周辺にはアジトのような建物はどこにも見当たらない。
ダンジョン内にあるカルト宗教団体のアジトというと、迷宮街の西部にある謎の廃墟都市に多く存在しているというのが探索者たちの間で有名なことだ。
そんな廃墟都市には凶悪な魔物も多く存在している反面、他のエリアよりも稀少なアイテムが多く手に入るということで上位探索者の狩場になっているという。
ゆえに〈魔羅廃滅教団〉のアジトも廃墟都市のどこかに存在しているとされていて、賞金首専門の探索者たちが血眼になって探していることも知っている。
しかし、未だに〈魔羅廃滅教団〉のアジトは発見されていない。
それどころか〈魔羅廃滅教団〉の教団員たちは神出鬼没であり、それこそ各エリアで野宿していた探索者たちがいきなり襲われたという報告は数え切れないほどあるらしい。
このとき、俺は以前に他の探索者から聞いたことを思い出した。
ダンジョン協会に狙われながらも〈魔羅廃滅教団〉の連中――特に教祖と幹部団員たちが未だに捕まっていないのには理由がある。
それは〈魔羅廃滅教団〉の連中が〝自由に空間を移動できる稀少アイテム〟を入手したからだと。
確かこの話を聞いたときの俺は鼻で笑い飛ばしたはずだ。
当たり前である。
自由に空間を移動できる稀少アイテムなど見たことも聞いたことがなかった。
事実、ダンジョン内で採れる稀少アイテムを管理しているダンジョン協会も、そんなゲームにしか登場しない空間転移魔法のような稀少アイテムが発見されたということは発表していない。
ということはガセだ。
大方、自分たちの警備ミスのせいで寝込みを襲われた探索者たちが流したデマに違いない。
そうである。
ダンジョン内で神出鬼没なのはイレギュラーだけでいい。
そう思ったときだ。
短眼鏡の中に映る、黒マントたちに動きがあった。
黒マントたちは辺りをキョロキョロと見回すと、大木の根元に敷き詰められていた大量の葉っぱを退け始めた。
俺はその様子をじっと見守る。
すると大量の葉っぱの下には木製の扉が現れた。
「ねえ、数馬。あいつらってマジで〈魔羅廃滅教団〉?」
俺が連中の行動を確認していると、横から美咲がおそるおそる訊いてくる。
「たぶんな。お前たちには見えないだろうが、どうやらあの大木の下に隠し扉があるようだ」
「なるほど、穴を掘って地下室を作るとは上手いことを考えたものだ」
正嗣の言葉に俺は小さくうなずいた。
「確かにな。あれなら尾行さえ上手く警戒していれば絶好の潜伏場所になる」
それにしても、俺たちは本当に運がいい。
あの占い師のジジイの占いが的中したこともそうだが、こんなドンピシャなタイミングで奴らを見つけられるなど天命としか思えない。
そう、これは天が俺に再起するように命じているのだ。
早々に借金を返済し、再び探索配信者となって返り咲けと。
ならばモタモタなどしていられない。
俺は単眼鏡から後方にいた正嗣に顔を向ける。
「おい、カメラを出せ。もっと近くに行って奴らとアジトを撮るぞ」
「でも、あいつらが〈魔羅廃滅教団〉の奴らだって証拠はあるの?」
不意に美咲が訊いてくる。
「馬鹿か、てめえ。こんな場所に全身黒マントでいる連中なんて〈魔羅廃滅教団〉に決まっているだろうが。だから邪魔すんなよ。奴らが地上にいる間にカメラに収めねえと証拠にならねえ」
もしも連中が地下に隠れてしまったら、その入り口を写真に収めても意味がない。
そんなことをしても証拠不十分としてダンジョン協会から懸賞金を拒否されるのがオチだ。
では、どうすればいいか?
決まっている。
今俺が言ったように、連中が地上にいる間にアジトの場所を含めて写真に収めるしかない。
できるなら地下へと入っていく写真が撮れればさらにOKだ。
俺は意気込んでその場から動こうとする。
「ちょっと待て、数馬」
正嗣が俺の腕をむんずと掴んでくる。
「おい、何だよ。早く行動しないと奴らが地下に潜っちまうだろ」
「そうなんだが……少しおかしくないか?」
「はあ? 何がおかしいんだよ」
俺は眉間に深くしわを寄せた。
おかしいのは正嗣のほうだ。
早く写真を撮らないといけないのに、こんな場面で引き留めようとするなど何を考えているのだろう。
「あのね、わたしもちょっとおかしいと思う」
正嗣に続いて美咲もおかしなことを言い始める。
「だってそうでしょう? いくら裏社会で有名な占い師だからって、こんな簡単に〈魔羅廃滅教団〉のアジトを当てられるはずがない。だって相手はダンジョン協会で最重要危険集団に認定されている連中なのよ。あんな占いでアジトが的中できるなら、他の探索者――それこそ賞金首専門の探索者たちが見つけてもっと取り締まられているはずじゃない?」
うむ、と正嗣も同意する。
「美咲の言う通りだ。いくら何でもこれはおかしい。もっと慎重に行動すべきだ」
「…………おいおいおい」
開いた口が塞がらないとはまさにことだ。
ベラベラとそれらしいことを喋っているが、早い話が2人ともこの土壇場でビビッたのだ。
「何にもおかしいことなんてねえだろう。あの占い師のジジイの占いが当たった。ただ、それだけだ。そして俺たちは運よくその証拠写真を収められる現場に直面している。それの何がおかしい? ええ? もっと慎重に行動するべきだと?」
俺はペッと地面に唾を吐き捨てる。
「寝ぼけんなよ、お前ら。俺らが慎重に行動するなんて時期はとっくに過ぎてんだよ。言うなれば俺たちはケツに火がついている状態。しかも時間が経つほどこの火が燃え盛って全身火だるまになるかもしれねえ。なのにお前らはビビッて慎重に行動しようと抜かしやがる」
馬鹿が、と俺は2人に怒声を浴びせた。
「いい加減に現実を見ろ。今俺たちの前には千載一遇のチャンスが転がっている。そう、これはチャンスだ。探索者としてやり直せるチャンス。言うなれば天から垂れた蜘蛛の糸。だったらどうする? そのチャンスという名の蜘蛛の糸を手に取るしかねえだろ」
俺の言葉にハッと我に返ったのか、2人の瞳の中に今まで失われていた輝きが戻った。
「そ、そうね……うん、そうよ。数馬の言う通り。これはわたしたちが人生をやり直せるチャンスなのよね」
「う、うむ……数馬の言う通りだ。天からチャンスという蜘蛛の糸が垂れているのならば、他人を蹴落としてでもそれを掴むのが探索者というもの。つまり、そういうことだな」
「ああ、そうだ」
俺は力強くうなずいた。
「やっと現実を見てくれたんだな。よし、そうと決まれば早くあいつらの写真を――」
撮ろうぜ、と言おうとした直後だった。
「残念無念。お生憎さまご苦労さま」
俺たちは飛び上がるほど驚愕した。
「君たちは全員とも1ミリも現実を見てないよ。それに天からチャンスという名の蜘蛛の糸も垂れてない」
俺たちは顔面を蒼白にさせながら周囲を見回す。
「君たちの目の前にあるのは、アンラッキーという名の地獄に通じるチケットだけ」
いつの間にか、俺たちは全身黒マントの連中に囲まれていた。
まさか、湿地エリアに入ったときから尾行されていたのか?
いや、もしかしてずっと前から……
あまりの恐怖で血の気が引いていった俺たちに対して、他の連中よりも頭1つ分ほど身長の高い黒マントが言った。
「ようこそ、僕たち〈魔羅廃滅教団〉の仮宿の1つへ。そしてさようなら、僕たちの偉大な実験に役立つモルモット諸君」
絶対にあいつらは探索者ではない。
間違いなく、あいつらは〈魔羅廃滅教団〉の奴らだ。
深々とフードを被っているので顔まではわからなかったが、こんな湿地エリアであんな格好をしているのが何よりの証拠である。
人数は8人。
全員が漆黒のフード付きのマントを羽織り、湿地エリアの中では珍しい1本の大木の前でたむろっている。
俺は首をかしげた。
あんなところで何をしているんだ?
〈魔羅廃滅教団〉と思われる連中を発見したのはよかったが、あの連中の周辺にはアジトのような建物はどこにも見当たらない。
ダンジョン内にあるカルト宗教団体のアジトというと、迷宮街の西部にある謎の廃墟都市に多く存在しているというのが探索者たちの間で有名なことだ。
そんな廃墟都市には凶悪な魔物も多く存在している反面、他のエリアよりも稀少なアイテムが多く手に入るということで上位探索者の狩場になっているという。
ゆえに〈魔羅廃滅教団〉のアジトも廃墟都市のどこかに存在しているとされていて、賞金首専門の探索者たちが血眼になって探していることも知っている。
しかし、未だに〈魔羅廃滅教団〉のアジトは発見されていない。
それどころか〈魔羅廃滅教団〉の教団員たちは神出鬼没であり、それこそ各エリアで野宿していた探索者たちがいきなり襲われたという報告は数え切れないほどあるらしい。
このとき、俺は以前に他の探索者から聞いたことを思い出した。
ダンジョン協会に狙われながらも〈魔羅廃滅教団〉の連中――特に教祖と幹部団員たちが未だに捕まっていないのには理由がある。
それは〈魔羅廃滅教団〉の連中が〝自由に空間を移動できる稀少アイテム〟を入手したからだと。
確かこの話を聞いたときの俺は鼻で笑い飛ばしたはずだ。
当たり前である。
自由に空間を移動できる稀少アイテムなど見たことも聞いたことがなかった。
事実、ダンジョン内で採れる稀少アイテムを管理しているダンジョン協会も、そんなゲームにしか登場しない空間転移魔法のような稀少アイテムが発見されたということは発表していない。
ということはガセだ。
大方、自分たちの警備ミスのせいで寝込みを襲われた探索者たちが流したデマに違いない。
そうである。
ダンジョン内で神出鬼没なのはイレギュラーだけでいい。
そう思ったときだ。
短眼鏡の中に映る、黒マントたちに動きがあった。
黒マントたちは辺りをキョロキョロと見回すと、大木の根元に敷き詰められていた大量の葉っぱを退け始めた。
俺はその様子をじっと見守る。
すると大量の葉っぱの下には木製の扉が現れた。
「ねえ、数馬。あいつらってマジで〈魔羅廃滅教団〉?」
俺が連中の行動を確認していると、横から美咲がおそるおそる訊いてくる。
「たぶんな。お前たちには見えないだろうが、どうやらあの大木の下に隠し扉があるようだ」
「なるほど、穴を掘って地下室を作るとは上手いことを考えたものだ」
正嗣の言葉に俺は小さくうなずいた。
「確かにな。あれなら尾行さえ上手く警戒していれば絶好の潜伏場所になる」
それにしても、俺たちは本当に運がいい。
あの占い師のジジイの占いが的中したこともそうだが、こんなドンピシャなタイミングで奴らを見つけられるなど天命としか思えない。
そう、これは天が俺に再起するように命じているのだ。
早々に借金を返済し、再び探索配信者となって返り咲けと。
ならばモタモタなどしていられない。
俺は単眼鏡から後方にいた正嗣に顔を向ける。
「おい、カメラを出せ。もっと近くに行って奴らとアジトを撮るぞ」
「でも、あいつらが〈魔羅廃滅教団〉の奴らだって証拠はあるの?」
不意に美咲が訊いてくる。
「馬鹿か、てめえ。こんな場所に全身黒マントでいる連中なんて〈魔羅廃滅教団〉に決まっているだろうが。だから邪魔すんなよ。奴らが地上にいる間にカメラに収めねえと証拠にならねえ」
もしも連中が地下に隠れてしまったら、その入り口を写真に収めても意味がない。
そんなことをしても証拠不十分としてダンジョン協会から懸賞金を拒否されるのがオチだ。
では、どうすればいいか?
決まっている。
今俺が言ったように、連中が地上にいる間にアジトの場所を含めて写真に収めるしかない。
できるなら地下へと入っていく写真が撮れればさらにOKだ。
俺は意気込んでその場から動こうとする。
「ちょっと待て、数馬」
正嗣が俺の腕をむんずと掴んでくる。
「おい、何だよ。早く行動しないと奴らが地下に潜っちまうだろ」
「そうなんだが……少しおかしくないか?」
「はあ? 何がおかしいんだよ」
俺は眉間に深くしわを寄せた。
おかしいのは正嗣のほうだ。
早く写真を撮らないといけないのに、こんな場面で引き留めようとするなど何を考えているのだろう。
「あのね、わたしもちょっとおかしいと思う」
正嗣に続いて美咲もおかしなことを言い始める。
「だってそうでしょう? いくら裏社会で有名な占い師だからって、こんな簡単に〈魔羅廃滅教団〉のアジトを当てられるはずがない。だって相手はダンジョン協会で最重要危険集団に認定されている連中なのよ。あんな占いでアジトが的中できるなら、他の探索者――それこそ賞金首専門の探索者たちが見つけてもっと取り締まられているはずじゃない?」
うむ、と正嗣も同意する。
「美咲の言う通りだ。いくら何でもこれはおかしい。もっと慎重に行動すべきだ」
「…………おいおいおい」
開いた口が塞がらないとはまさにことだ。
ベラベラとそれらしいことを喋っているが、早い話が2人ともこの土壇場でビビッたのだ。
「何にもおかしいことなんてねえだろう。あの占い師のジジイの占いが当たった。ただ、それだけだ。そして俺たちは運よくその証拠写真を収められる現場に直面している。それの何がおかしい? ええ? もっと慎重に行動するべきだと?」
俺はペッと地面に唾を吐き捨てる。
「寝ぼけんなよ、お前ら。俺らが慎重に行動するなんて時期はとっくに過ぎてんだよ。言うなれば俺たちはケツに火がついている状態。しかも時間が経つほどこの火が燃え盛って全身火だるまになるかもしれねえ。なのにお前らはビビッて慎重に行動しようと抜かしやがる」
馬鹿が、と俺は2人に怒声を浴びせた。
「いい加減に現実を見ろ。今俺たちの前には千載一遇のチャンスが転がっている。そう、これはチャンスだ。探索者としてやり直せるチャンス。言うなれば天から垂れた蜘蛛の糸。だったらどうする? そのチャンスという名の蜘蛛の糸を手に取るしかねえだろ」
俺の言葉にハッと我に返ったのか、2人の瞳の中に今まで失われていた輝きが戻った。
「そ、そうね……うん、そうよ。数馬の言う通り。これはわたしたちが人生をやり直せるチャンスなのよね」
「う、うむ……数馬の言う通りだ。天からチャンスという蜘蛛の糸が垂れているのならば、他人を蹴落としてでもそれを掴むのが探索者というもの。つまり、そういうことだな」
「ああ、そうだ」
俺は力強くうなずいた。
「やっと現実を見てくれたんだな。よし、そうと決まれば早くあいつらの写真を――」
撮ろうぜ、と言おうとした直後だった。
「残念無念。お生憎さまご苦労さま」
俺たちは飛び上がるほど驚愕した。
「君たちは全員とも1ミリも現実を見てないよ。それに天からチャンスという名の蜘蛛の糸も垂れてない」
俺たちは顔面を蒼白にさせながら周囲を見回す。
「君たちの目の前にあるのは、アンラッキーという名の地獄に通じるチケットだけ」
いつの間にか、俺たちは全身黒マントの連中に囲まれていた。
まさか、湿地エリアに入ったときから尾行されていたのか?
いや、もしかしてずっと前から……
あまりの恐怖で血の気が引いていった俺たちに対して、他の連中よりも頭1つ分ほど身長の高い黒マントが言った。
「ようこそ、僕たち〈魔羅廃滅教団〉の仮宿の1つへ。そしてさようなら、僕たちの偉大な実験に役立つモルモット諸君」
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