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第三章 元荷物持ち、記憶を取り戻したことで真の力が戻る
第二十四話 草薙数馬の破滅への言動 ④
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「ねえ、数馬。マジであんなジジイの言うことを真に受けんの? こんなところに〈魔羅廃滅教団〉のアジトなんてあるわけないじゃん」
うるせえな。
俺は正面を見据えながら小さく舌打ちする。
「うむ、美咲の言う通りだ。あんな街角の占い師のジイさんの情報よりも、探索者斡旋所でそれなりの金を払って情報取集をしたほうがよかったんじゃないか?」
この正嗣の言葉にはカチンときた。
なので俺は立ち止まると、顔だけを振り向かせて正嗣に「黙れ、ボケ!」と言い放つ。
「そんな金があるなら俺でもそうしてるわ! だが、今の俺たちには金がねえんだよ! だから占い師に相談したんだろうが!」
「…………」
「…………」
美咲と正嗣も足を止めると、ブチ切れた俺を見て一斉に口を閉ざす。
俺はそんな美咲と正嗣の顔を交互に見る。
美咲も正嗣も眼球が飛び出すほど目を見開いている。
醜いアホ面だ。
正直なところ、こんな奴らとはさっさと縁を切りたかった。
だが、まだ早い。
こういう奴らは金と自尊心を満たしてやっているうちは言うことを聞くが、その2つが満たせないとわかると簡単に裏切る連中だ。
まあ、そもそも親友とか恋人とかそういう関係じゃなかった。
亮二にスカウトされて同じパーティーとして活動していただけ。
その中で美咲は俺に身体を開くようになり、正嗣も大人しく俺の指示に従うようになった。
すべては金と自尊心を満たしてやったからだ。
色気しか取り柄のない美咲には金を、ごつい肉体が自慢の正嗣には盾としての役目を与えることで、2人はこれまで俺に従順に尽くしてくれていた。
それも今となっては過去の話だ。
こんな奴らとはいずれ縁をすっぱりと切る。
と思ったときだった。
俺はハッと自分の行動に気づいた。
いけねえ、いけねえ。
大声を張り上げたのみならまだしも、俺はつい調子に乗って腰の刀を抜き放っていたのだ。
もちろん、今はまだ2人を斬るつもりはない。
「すまん、怒鳴って悪かったな」
俺は2人に表向き軽く頭を下げると、静かに刀を鞘に戻した。
「ねえ、数馬。まさか、あんた今本気でわたしたちを斬るつもりだったんじゃ……」
「馬鹿を言うな。大事な仲間を斬るわけねえだろ」
「ほ、本当だな。数馬よ、本当に俺たちを斬るつもりはなかったんだな?」
「当たり前じゃねえか。俺が刀を抜いちまったのは、ここが草原エリアよりも危険な湿地エリアだからだ。それぐらいわかってくれるだろ?」
俺は柔和な顔で微笑む。
すると美咲と正嗣は互いに顔を見合わせ、ほぼ同時に俺に顔を向けてくる。
「そ、そうよね……数馬がわたしたちを殺すわけないもんね」
「う、うむ……何たって俺たちは団結力に優れた【疾風迅雷】なのだからな」
「はははは、そうさ。俺たちは生きるも死ぬも運命共同体だ」
嘘である。
少し前まではそのような考えも持っていたが、今の俺にはこいつらが命を預けられるほどの仲間だと思う気持ちは微塵も消えていた。
借金さえ完全になくなったのなら、早々に縁を切ろうと思うぐらいに。
とはいえ、それは今ではない。
こいつらはまだ使い道がある。
俺の手足となって働いてもらうという使い道がな。
「さあ、ともかく奴らのアジトを探そうぜ」
俺は顔を元に戻すと、再び歩き始めた。
現在、俺たちは湿地エリアに来ている。
湿地エリアは迷宮街の南部にある場所だ。
草原エリアや森林エリアとは違って沼地が多く、多種多様な生物と魔物が多く存在している。
人間の背丈を軽々と超すような樹木も多いが、枯れた植物や水分を多く含む厚い土壌層から成る泥炭地ばかりのエリアだ。
それゆえに沼地などに足を取られないように気をつけねばならない。
うっかり底なし沼に落ちたら命はないからだ。
またこの湿地エリアに稀少なアイテムは少ないとされている。
なので湿地エリアに他の探索者の姿はなかった。
稀少なアイテムがないのならば、よほどの理由がない限り探索者たちは足を運ばないからだ。
だからこそ、そこが盲点だったのかもしれない。
俺は2時間前のことを思い出す。
300万円の借金を早く返済するため、俺は迷宮街の路地裏で美咲と正嗣にある提案をした。
それは〈魔羅廃滅教団〉に懸けられた賞金を狙うこと。
厳密に言えば〈魔羅廃滅教団〉のアジトの場所に懸けられた賞金を手に入れることだ。
〈魔羅廃滅教団〉は言わずと知れた凶悪なカルト宗教団体。
ダンジョン内の最大危険組織の筆頭に挙げられ、教祖のマーラ・カーンの首には5000万円という懸賞金がダンジョン協会から掛けられている。
だが、当然のことながら教祖の首など狙わない。
俺たちは賞金首専門の探索者ではないのだ。
いくら借金を返済するためとはいえ、そんな危険な真似はできない。
そのため俺たちは〈魔羅廃滅教団〉のアジトを見つけ、そのアジトの場所をダンジョン協会に教えることで賞金を手に入れようと考えた。
幹部の首にも数千万から数百万の懸賞金が掛けられていたが、その潜伏場所にも賞金が掛けられているのが〈魔羅廃滅教団〉だ。
これならば戦闘をせずに大金が手に入る。
そう考えたからこそ、俺たちは迷宮街の裏社会で有名だった占い師のジジイに相談した。
〈魔羅廃滅教団〉がアジトに使ってそうな場所を占ってくれ、と。
すると占い師のジジイは快く了承してくれた。
しかも占い師のジジイは何と五千円という金額で、〈魔羅廃滅教団〉のアジトに使ってそうな場所を占ってくれたのだ。
それがここ湿地エリアである。
ただし本当にこの場所にアジトがあるかはわからない。
あくまでもアジトに使ってそうな場所を占ってもらっただけだ。
けれどもその占い師のジジイは知る人ぞ知る有名人であり、本人がそれなりに自信を持って占ってくれたのだから確率は高いかもしれない。
そうだ、俺たちはあくまでもアジトを見つけるだけ。
何もアジトに突入して幹部や教祖の首を狙うという話ではない。
ただし、これも結構な賭けだ。
もしも本当にアジトを見つけたとしても、逆に俺たちが連中に見つかってしまったら一大事だ。
逃げおおせたのならまだいいが、仮に捕まったとしたら死ぬよりも恐ろしい目に遭うだろう。
くそっ、やっぱりやめとくか。
そう思った俺だったが、脳裏に浮かんだ「300万円の借金」という文字に歯噛みする。
300万円の借金。
3人で割ったとして1人100万円だ。
探索配信者として健全に活動していけばどうという金額ではなかったが、初配信で大いにしくじった俺たちには途方もない金額の借金だった。
それこそ低級魔物をチマチマと倒しても返済にかなりの時間がかかる。
となると、もうなりふり構ってはいられない。
かなりの危険をともなおうが、一発逆転のチャンスに賭けるしかなかった。
やっぱり、やるしかねえ。
俺は頭を振って意識を切り替えた。
何としてでも〈魔羅廃滅教団〉のアジトを見つける。
などと意気込んだときだった。
俺は視界に飛び込んできた光景に唖然となった。
そしてすぐに身体ごと振り向くと、美咲と正嗣の衣服を掴んで近くの木の裏に引っ張り込む。
「ど、どうしたのよ?」
「な、何事だ?」
「シッ、静かにしろ」
俺は動揺していた2人に小声で言うと、そっと顔だけを出して数十メートル前方を見る。
「どうやら俺たちは賭けに勝ったようだぜ」
俺の視界の中には、全身黒ずくめのマント姿の男たちが映っていた。
うるせえな。
俺は正面を見据えながら小さく舌打ちする。
「うむ、美咲の言う通りだ。あんな街角の占い師のジイさんの情報よりも、探索者斡旋所でそれなりの金を払って情報取集をしたほうがよかったんじゃないか?」
この正嗣の言葉にはカチンときた。
なので俺は立ち止まると、顔だけを振り向かせて正嗣に「黙れ、ボケ!」と言い放つ。
「そんな金があるなら俺でもそうしてるわ! だが、今の俺たちには金がねえんだよ! だから占い師に相談したんだろうが!」
「…………」
「…………」
美咲と正嗣も足を止めると、ブチ切れた俺を見て一斉に口を閉ざす。
俺はそんな美咲と正嗣の顔を交互に見る。
美咲も正嗣も眼球が飛び出すほど目を見開いている。
醜いアホ面だ。
正直なところ、こんな奴らとはさっさと縁を切りたかった。
だが、まだ早い。
こういう奴らは金と自尊心を満たしてやっているうちは言うことを聞くが、その2つが満たせないとわかると簡単に裏切る連中だ。
まあ、そもそも親友とか恋人とかそういう関係じゃなかった。
亮二にスカウトされて同じパーティーとして活動していただけ。
その中で美咲は俺に身体を開くようになり、正嗣も大人しく俺の指示に従うようになった。
すべては金と自尊心を満たしてやったからだ。
色気しか取り柄のない美咲には金を、ごつい肉体が自慢の正嗣には盾としての役目を与えることで、2人はこれまで俺に従順に尽くしてくれていた。
それも今となっては過去の話だ。
こんな奴らとはいずれ縁をすっぱりと切る。
と思ったときだった。
俺はハッと自分の行動に気づいた。
いけねえ、いけねえ。
大声を張り上げたのみならまだしも、俺はつい調子に乗って腰の刀を抜き放っていたのだ。
もちろん、今はまだ2人を斬るつもりはない。
「すまん、怒鳴って悪かったな」
俺は2人に表向き軽く頭を下げると、静かに刀を鞘に戻した。
「ねえ、数馬。まさか、あんた今本気でわたしたちを斬るつもりだったんじゃ……」
「馬鹿を言うな。大事な仲間を斬るわけねえだろ」
「ほ、本当だな。数馬よ、本当に俺たちを斬るつもりはなかったんだな?」
「当たり前じゃねえか。俺が刀を抜いちまったのは、ここが草原エリアよりも危険な湿地エリアだからだ。それぐらいわかってくれるだろ?」
俺は柔和な顔で微笑む。
すると美咲と正嗣は互いに顔を見合わせ、ほぼ同時に俺に顔を向けてくる。
「そ、そうよね……数馬がわたしたちを殺すわけないもんね」
「う、うむ……何たって俺たちは団結力に優れた【疾風迅雷】なのだからな」
「はははは、そうさ。俺たちは生きるも死ぬも運命共同体だ」
嘘である。
少し前まではそのような考えも持っていたが、今の俺にはこいつらが命を預けられるほどの仲間だと思う気持ちは微塵も消えていた。
借金さえ完全になくなったのなら、早々に縁を切ろうと思うぐらいに。
とはいえ、それは今ではない。
こいつらはまだ使い道がある。
俺の手足となって働いてもらうという使い道がな。
「さあ、ともかく奴らのアジトを探そうぜ」
俺は顔を元に戻すと、再び歩き始めた。
現在、俺たちは湿地エリアに来ている。
湿地エリアは迷宮街の南部にある場所だ。
草原エリアや森林エリアとは違って沼地が多く、多種多様な生物と魔物が多く存在している。
人間の背丈を軽々と超すような樹木も多いが、枯れた植物や水分を多く含む厚い土壌層から成る泥炭地ばかりのエリアだ。
それゆえに沼地などに足を取られないように気をつけねばならない。
うっかり底なし沼に落ちたら命はないからだ。
またこの湿地エリアに稀少なアイテムは少ないとされている。
なので湿地エリアに他の探索者の姿はなかった。
稀少なアイテムがないのならば、よほどの理由がない限り探索者たちは足を運ばないからだ。
だからこそ、そこが盲点だったのかもしれない。
俺は2時間前のことを思い出す。
300万円の借金を早く返済するため、俺は迷宮街の路地裏で美咲と正嗣にある提案をした。
それは〈魔羅廃滅教団〉に懸けられた賞金を狙うこと。
厳密に言えば〈魔羅廃滅教団〉のアジトの場所に懸けられた賞金を手に入れることだ。
〈魔羅廃滅教団〉は言わずと知れた凶悪なカルト宗教団体。
ダンジョン内の最大危険組織の筆頭に挙げられ、教祖のマーラ・カーンの首には5000万円という懸賞金がダンジョン協会から掛けられている。
だが、当然のことながら教祖の首など狙わない。
俺たちは賞金首専門の探索者ではないのだ。
いくら借金を返済するためとはいえ、そんな危険な真似はできない。
そのため俺たちは〈魔羅廃滅教団〉のアジトを見つけ、そのアジトの場所をダンジョン協会に教えることで賞金を手に入れようと考えた。
幹部の首にも数千万から数百万の懸賞金が掛けられていたが、その潜伏場所にも賞金が掛けられているのが〈魔羅廃滅教団〉だ。
これならば戦闘をせずに大金が手に入る。
そう考えたからこそ、俺たちは迷宮街の裏社会で有名だった占い師のジジイに相談した。
〈魔羅廃滅教団〉がアジトに使ってそうな場所を占ってくれ、と。
すると占い師のジジイは快く了承してくれた。
しかも占い師のジジイは何と五千円という金額で、〈魔羅廃滅教団〉のアジトに使ってそうな場所を占ってくれたのだ。
それがここ湿地エリアである。
ただし本当にこの場所にアジトがあるかはわからない。
あくまでもアジトに使ってそうな場所を占ってもらっただけだ。
けれどもその占い師のジジイは知る人ぞ知る有名人であり、本人がそれなりに自信を持って占ってくれたのだから確率は高いかもしれない。
そうだ、俺たちはあくまでもアジトを見つけるだけ。
何もアジトに突入して幹部や教祖の首を狙うという話ではない。
ただし、これも結構な賭けだ。
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それこそ低級魔物をチマチマと倒しても返済にかなりの時間がかかる。
となると、もうなりふり構ってはいられない。
かなりの危険をともなおうが、一発逆転のチャンスに賭けるしかなかった。
やっぱり、やるしかねえ。
俺は頭を振って意識を切り替えた。
何としてでも〈魔羅廃滅教団〉のアジトを見つける。
などと意気込んだときだった。
俺は視界に飛び込んできた光景に唖然となった。
そしてすぐに身体ごと振り向くと、美咲と正嗣の衣服を掴んで近くの木の裏に引っ張り込む。
「ど、どうしたのよ?」
「な、何事だ?」
「シッ、静かにしろ」
俺は動揺していた2人に小声で言うと、そっと顔だけを出して数十メートル前方を見る。
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