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第二章 元荷物持ち、ダンジョン協会のトップに紹介される
第十三話 草薙数馬の破滅への言動 ②
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「え~と、俺の名前は草薙数馬って言います。【疾風迅雷】っていうパーティーのリーダーをしています。まだB級探索配信者になりたてホヤホヤですけど、どうぞよろしくお願いしますね」
微風によって草の絨毯が揺れている草原エリアの一角。
俺は正嗣が手にしているカメラに向かって小さく頭を下げた。
もちろん最大限の営業スマイルと、普段とは真反対の言葉遣いをすることも忘れない。
「はいは~い、うちは辻原美咲で~す。気軽にミーちゃんって呼んでね」
一方、俺の真横にいる美咲は普段どおりだった。
カメラに向かって何回もウインクしながら投げキッスをする。
ダンジョン協会で配信用の専用カメラを手にした俺たちは、そのまま最低限の装備だけを整えて草原エリアへとやってきた。
言わずもがな、無双配信を兼ねての初配信をするためだ。
俺は正嗣が持っているカメラに満面の笑みを向ける。
A級に昇格すればカメラマン不要の自動追尾型のドローンが手に入るが、B級探索配信者がダンジョン協会から与えられるのはハンディタイプのカメラだ。
ゆえに誰かがカメラマンを務めなくてはならない。
他のB級探索配信者たちは荷物持ちにやらせたり専用のカメラマンを雇ったりしているが、俺たちはそんな奴らを探すよりも早く初配信をしたかったため、今日だけは正嗣にカメラマンを頼んだ。
俺は専用カメラを何度も見る。
あの専用カメラの向こうには、俺たちの初配信を視聴しようと集まった大勢の視聴者がいる。
続いて俺は左手に持っていたスマホをちら見した。
俺のスマホの画面には【疾風迅雷】のリアルタイムの配信映像が流れている。
〈おお~、今回の新人探索配信者は若いな〉
〈ギリギリ10代ぐらい?〉
〈リーダーは中々に好青年じゃね?〉
〈金髪のギャルがキタ――(゜∀゜)――!!〉
〈武器は他の探索者たちと同じ日本刀がメインか〉
〈いっそFPSみたいにライフルやマシンガンで魔物を狩りまくってくれ〉
〈ダンジョンの魔物に銃器は効かんぞ。ダンジョン・ライブ視るの初めてか?〉
〈無双配信楽しみっす〉
〈ゴブリン100匹倒すまで配信続けるってマ?〉
などというコメントが滝のように流れ、気づけば同接数は1400人に達していた。
チャンネル登録が数十万のA級インフルエンサーたちの同接数には遠く及ばないが、今日が初配信のB級探索配信者の同接数としては多いほうではないだろうか。
いや、間違いなく多い。
サムネイルに書かれた『B級探索配信者となった【疾風迅雷】パーティー、草原エリアでメンバーの自己紹介をしながらゴブリン100匹相手に無双する』というタイトルに惹かれてきたのかもしれない。
どちらにせよここで重要なのは、この同接数が上昇するのか下降するのか俺たちの活躍によって大きく変わるということだ。
幸いなことに、今日は絶好の初配信日和だった。
天気は快晴。
頭上からは照りつけるような太陽の日差しが降り注いでいる。
しかし、あの太陽は本物ではない。
太陽の横に仲良く並んでいる月も偽物で、すべてはこのダンジョンという異質な空間が生み出している超常現象の1つに過ぎなかった。
ダンジョン1Fは地上世界と同じ時間が流れていて、その時間の流れに従って昼夜が訪れる。
どんな自然原理なのかは未だに解明されていない。
いや、解明されることはほぼ無理だろう。
探索配信者となったことで意識ががらりと変わったからか、俺は今まで疑問に思わなかったこのダンジョンという地下世界の不思議さをあらためて感じた。
日本の武蔵野市にダンジョンという不思議な地下世界が出現して約30年。
多くの学者や研究者がダンジョンの謎を解き明かそうと懸命になっているが、未だに2Fの入り口すら判明されていないのが現状だ。
要するに俺たち人間は30年もダンジョンの1Fでくすぶっていた。
これだけ聞くとダンジョンに疎い人間は「まだ2Fの入り口も探せてねえのかよ」とふざけたことを抜かすだろうが、実際にダンジョンに足を踏み入れて探索してみるとよくわかる。
ここは漫画やラノベでよく登場するような地下100階やら地下1000階といった真下に伸びているダンジョンではなく、地上世界のように果てしなく横に広がっている広大な地下世界なのだ。
あるダンジョン専門の学者によると、この〈武蔵野ダンジョン〉の広さは地上世界のすべての大陸を合体させたほどの面積を有しているという見解もある。
そんな地下世界でいつしか探索者たちには共通の目標ができた。
きっとどこかに2Fに通じる出入り口がある。
地上世界でもダンジョンが出現するまでは、地下世界について様々な都市伝説が生まれていたという。
地底人が住んでいるという地球空洞説などがその最たるものだ。
しかし日本の武蔵野市にダンジョンが出現してからというもの、年月が経ってダンジョン内の様子が少しづつ判明していくにつれ、探索者や学者たちの間である噂が流れ始めた。
〈武蔵野ダンジョン〉の2Fは地球とは別の世界に通じているのではないか。
要するに空想物語の最高峰である異世界に通じているのではないか、と。
当然ながら嘘か本当かはわからない。
異世界が本当にあるかどうかも疑わしいものだ。
けれども地上の動物たちとは一線を画す生態の魔物が存在している以上、〈武蔵野ダンジョン〉にはその可能性があるのではないかというのが有識者たちの意見だった。
俺は初配信をしながら考えていた。
もしも、俺がその2Fに通じる出入り口を見つけたらどうなるか?
決まっている。
バズりにバズりまくって大変なことになるだろう。
そうなったらA級に昇格するどころか、S級に飛び級することも夢ではない。
S級はダンジョン協会が定めたランクの中でも特別で、単純な魔物の討伐数よりもダンジョンについての新発見や稀少なアイテムを発見したりした探索者に与えられる称号だ。
当然ながら与えられるのはS級というランク以外にも、偉業に応じてダンジョン協会か関連企業から莫大すぎる報酬が与えられるという。
とはいえ、俺にはそんな偉業を目指す気などさらさらなかった。
俺の目指す目的はただ1つ。
さっさと配信で大金を稼いで、危険な探索者稼業から足を洗うことだ。
そのためには早いうちにA級やS級に昇格し、その知名度でずっと飯を食っていく必要がある。
この配信はその大いなる1歩だった。
配信が話題になってインフルエンサーになれば大金も舞い込んでくる。
やってやるぜ。
俺は絶対にインフルエンサーになって、一生遊んで暮らせる大金を数年で稼いでやる。
そう思ったとき、カメラマンを務めていた正嗣が俺に合図を出してきた。
俺の後方に向かって何度も人差し指を突きつけている。
俺は顔だけを振り返らせた。
すると遠くからゴブリンの群れが俺たちに向かっているのが見えた。
全部で12、3匹ほどか。
棍棒を手にした奴もいるが、ほとんどは素手の奴らで大半が占められている。
俺はすぐにカメラに顔を戻す。
「皆さん、見えますか? ちょうどゴブリンの群れがこっちに向かってきています。俺たちの自己紹介はこれぐらいにして、早速みなさんお待ちかねの無双配信を始めたいと思います」
〈おお~、がんばれよ!〉
〈雑魚のゴブリンの群れなんて瞬殺してくれ〉
〈ボロクソに負けるのだけは勘弁してくれよ〉
〈ゴブリンに負けるB級探索者なんて聞いたことねえよ〉
〈つうか、ゴブリンに勝てないような奴らはB級に昇格できるわけねえだろ〉
俺はコメントを見ながらほくそ笑んだ。
やはり視聴者は魔物相手の無双を楽しみにしている。
「よし、美咲。あんなゴブリンの群れなんて蹴散らしてやろうぜ」
「うん、ちゃちゃっと倒しちゃおうよ」
そうこうしている間にゴブリンの群れが目の前までやってくる。
ふん、クソ雑魚のゴブリンどもが。
俺の輝かしい将来の生贄になりやがれ!
俺はスマホをポケットに仕舞うと同時に、左腰のベルトに差していた日本刀を抜き放つ。
美咲も同様に日本刀を抜いてゴブリンに応戦する。
C級探索者のとき――特に拳児が正式にパーティーに加入するまでは苦戦を強いられていたゴブリンだったが、今では目をつむっていても倒せるほどに俺たちの実力は上がっていた。
ならば苦戦することなど万が一にもない。
俺と美咲は余裕の表情でゴブリンに対して斬撃を繰り出す。
このとき、俺の脳裏には明確に浮かんでいた。
ゴブリンたちが俺たちの斬撃であの世に逝く姿がである。
しかし――。
「へ?」
俺の斬撃はむなしく空を切った。
狙いを定めたゴブリンが俺の斬撃を簡単にかわしたのである。
それだけではない。
俺の斬撃をよけたゴブリンは、俺の腹部に向かって手にしていた棍棒での突きを繰り出してくる。
直後、俺の腹部に重い衝撃が走った。
「ゲハッ!」
俺は大量の吐瀉物を吐きながら後方に吹き飛ばされた。
何度も転がってようやく身体が止まる。
一体、何が起きたんだ?
凄まじい激痛と吐き気に襲われながら、俺の脳内は大パニックを起こしていた。
どうしてゴブリンの攻撃がこんなに効くんだ?
どうして俺の攻撃が簡単に避けられたんだ?
大量の疑問符に脳内がパンクしかけたとき、美咲の「きゃあああああ」という悲鳴が聞こえてきた。
見れば美咲はゴブリンたちに組み敷かれ、レイプされる寸前まで追い込まれていた。
信じられない光景だった。
以前の美咲もゴブリン程度は簡単に倒せたはずなのに。
そこで俺はハッと思い出した。
マズイ、こんな無様な姿を配信で晒すわけにはいかない。
俺は呆然と立ち尽くす正嗣に言い放った。
「正嗣、配信を切れ! 今すぐ配信を――」
切るんだ、と叫ぼうとしたときだった。
「ギャギャギャ!」
俺の目の前に1匹のゴブリンが下卑た笑顔を浮かべて立っていた。
そのゴブリンは俺の顔面に向かってパンチを繰り出してくる。
すぐにグシャッという音が聞こえたあと、俺の視界は電灯をオフにしたように真っ暗になった。
そして俺の意識は暗闇の中に落ちていった。
微風によって草の絨毯が揺れている草原エリアの一角。
俺は正嗣が手にしているカメラに向かって小さく頭を下げた。
もちろん最大限の営業スマイルと、普段とは真反対の言葉遣いをすることも忘れない。
「はいは~い、うちは辻原美咲で~す。気軽にミーちゃんって呼んでね」
一方、俺の真横にいる美咲は普段どおりだった。
カメラに向かって何回もウインクしながら投げキッスをする。
ダンジョン協会で配信用の専用カメラを手にした俺たちは、そのまま最低限の装備だけを整えて草原エリアへとやってきた。
言わずもがな、無双配信を兼ねての初配信をするためだ。
俺は正嗣が持っているカメラに満面の笑みを向ける。
A級に昇格すればカメラマン不要の自動追尾型のドローンが手に入るが、B級探索配信者がダンジョン協会から与えられるのはハンディタイプのカメラだ。
ゆえに誰かがカメラマンを務めなくてはならない。
他のB級探索配信者たちは荷物持ちにやらせたり専用のカメラマンを雇ったりしているが、俺たちはそんな奴らを探すよりも早く初配信をしたかったため、今日だけは正嗣にカメラマンを頼んだ。
俺は専用カメラを何度も見る。
あの専用カメラの向こうには、俺たちの初配信を視聴しようと集まった大勢の視聴者がいる。
続いて俺は左手に持っていたスマホをちら見した。
俺のスマホの画面には【疾風迅雷】のリアルタイムの配信映像が流れている。
〈おお~、今回の新人探索配信者は若いな〉
〈ギリギリ10代ぐらい?〉
〈リーダーは中々に好青年じゃね?〉
〈金髪のギャルがキタ――(゜∀゜)――!!〉
〈武器は他の探索者たちと同じ日本刀がメインか〉
〈いっそFPSみたいにライフルやマシンガンで魔物を狩りまくってくれ〉
〈ダンジョンの魔物に銃器は効かんぞ。ダンジョン・ライブ視るの初めてか?〉
〈無双配信楽しみっす〉
〈ゴブリン100匹倒すまで配信続けるってマ?〉
などというコメントが滝のように流れ、気づけば同接数は1400人に達していた。
チャンネル登録が数十万のA級インフルエンサーたちの同接数には遠く及ばないが、今日が初配信のB級探索配信者の同接数としては多いほうではないだろうか。
いや、間違いなく多い。
サムネイルに書かれた『B級探索配信者となった【疾風迅雷】パーティー、草原エリアでメンバーの自己紹介をしながらゴブリン100匹相手に無双する』というタイトルに惹かれてきたのかもしれない。
どちらにせよここで重要なのは、この同接数が上昇するのか下降するのか俺たちの活躍によって大きく変わるということだ。
幸いなことに、今日は絶好の初配信日和だった。
天気は快晴。
頭上からは照りつけるような太陽の日差しが降り注いでいる。
しかし、あの太陽は本物ではない。
太陽の横に仲良く並んでいる月も偽物で、すべてはこのダンジョンという異質な空間が生み出している超常現象の1つに過ぎなかった。
ダンジョン1Fは地上世界と同じ時間が流れていて、その時間の流れに従って昼夜が訪れる。
どんな自然原理なのかは未だに解明されていない。
いや、解明されることはほぼ無理だろう。
探索配信者となったことで意識ががらりと変わったからか、俺は今まで疑問に思わなかったこのダンジョンという地下世界の不思議さをあらためて感じた。
日本の武蔵野市にダンジョンという不思議な地下世界が出現して約30年。
多くの学者や研究者がダンジョンの謎を解き明かそうと懸命になっているが、未だに2Fの入り口すら判明されていないのが現状だ。
要するに俺たち人間は30年もダンジョンの1Fでくすぶっていた。
これだけ聞くとダンジョンに疎い人間は「まだ2Fの入り口も探せてねえのかよ」とふざけたことを抜かすだろうが、実際にダンジョンに足を踏み入れて探索してみるとよくわかる。
ここは漫画やラノベでよく登場するような地下100階やら地下1000階といった真下に伸びているダンジョンではなく、地上世界のように果てしなく横に広がっている広大な地下世界なのだ。
あるダンジョン専門の学者によると、この〈武蔵野ダンジョン〉の広さは地上世界のすべての大陸を合体させたほどの面積を有しているという見解もある。
そんな地下世界でいつしか探索者たちには共通の目標ができた。
きっとどこかに2Fに通じる出入り口がある。
地上世界でもダンジョンが出現するまでは、地下世界について様々な都市伝説が生まれていたという。
地底人が住んでいるという地球空洞説などがその最たるものだ。
しかし日本の武蔵野市にダンジョンが出現してからというもの、年月が経ってダンジョン内の様子が少しづつ判明していくにつれ、探索者や学者たちの間である噂が流れ始めた。
〈武蔵野ダンジョン〉の2Fは地球とは別の世界に通じているのではないか。
要するに空想物語の最高峰である異世界に通じているのではないか、と。
当然ながら嘘か本当かはわからない。
異世界が本当にあるかどうかも疑わしいものだ。
けれども地上の動物たちとは一線を画す生態の魔物が存在している以上、〈武蔵野ダンジョン〉にはその可能性があるのではないかというのが有識者たちの意見だった。
俺は初配信をしながら考えていた。
もしも、俺がその2Fに通じる出入り口を見つけたらどうなるか?
決まっている。
バズりにバズりまくって大変なことになるだろう。
そうなったらA級に昇格するどころか、S級に飛び級することも夢ではない。
S級はダンジョン協会が定めたランクの中でも特別で、単純な魔物の討伐数よりもダンジョンについての新発見や稀少なアイテムを発見したりした探索者に与えられる称号だ。
当然ながら与えられるのはS級というランク以外にも、偉業に応じてダンジョン協会か関連企業から莫大すぎる報酬が与えられるという。
とはいえ、俺にはそんな偉業を目指す気などさらさらなかった。
俺の目指す目的はただ1つ。
さっさと配信で大金を稼いで、危険な探索者稼業から足を洗うことだ。
そのためには早いうちにA級やS級に昇格し、その知名度でずっと飯を食っていく必要がある。
この配信はその大いなる1歩だった。
配信が話題になってインフルエンサーになれば大金も舞い込んでくる。
やってやるぜ。
俺は絶対にインフルエンサーになって、一生遊んで暮らせる大金を数年で稼いでやる。
そう思ったとき、カメラマンを務めていた正嗣が俺に合図を出してきた。
俺の後方に向かって何度も人差し指を突きつけている。
俺は顔だけを振り返らせた。
すると遠くからゴブリンの群れが俺たちに向かっているのが見えた。
全部で12、3匹ほどか。
棍棒を手にした奴もいるが、ほとんどは素手の奴らで大半が占められている。
俺はすぐにカメラに顔を戻す。
「皆さん、見えますか? ちょうどゴブリンの群れがこっちに向かってきています。俺たちの自己紹介はこれぐらいにして、早速みなさんお待ちかねの無双配信を始めたいと思います」
〈おお~、がんばれよ!〉
〈雑魚のゴブリンの群れなんて瞬殺してくれ〉
〈ボロクソに負けるのだけは勘弁してくれよ〉
〈ゴブリンに負けるB級探索者なんて聞いたことねえよ〉
〈つうか、ゴブリンに勝てないような奴らはB級に昇格できるわけねえだろ〉
俺はコメントを見ながらほくそ笑んだ。
やはり視聴者は魔物相手の無双を楽しみにしている。
「よし、美咲。あんなゴブリンの群れなんて蹴散らしてやろうぜ」
「うん、ちゃちゃっと倒しちゃおうよ」
そうこうしている間にゴブリンの群れが目の前までやってくる。
ふん、クソ雑魚のゴブリンどもが。
俺の輝かしい将来の生贄になりやがれ!
俺はスマホをポケットに仕舞うと同時に、左腰のベルトに差していた日本刀を抜き放つ。
美咲も同様に日本刀を抜いてゴブリンに応戦する。
C級探索者のとき――特に拳児が正式にパーティーに加入するまでは苦戦を強いられていたゴブリンだったが、今では目をつむっていても倒せるほどに俺たちの実力は上がっていた。
ならば苦戦することなど万が一にもない。
俺と美咲は余裕の表情でゴブリンに対して斬撃を繰り出す。
このとき、俺の脳裏には明確に浮かんでいた。
ゴブリンたちが俺たちの斬撃であの世に逝く姿がである。
しかし――。
「へ?」
俺の斬撃はむなしく空を切った。
狙いを定めたゴブリンが俺の斬撃を簡単にかわしたのである。
それだけではない。
俺の斬撃をよけたゴブリンは、俺の腹部に向かって手にしていた棍棒での突きを繰り出してくる。
直後、俺の腹部に重い衝撃が走った。
「ゲハッ!」
俺は大量の吐瀉物を吐きながら後方に吹き飛ばされた。
何度も転がってようやく身体が止まる。
一体、何が起きたんだ?
凄まじい激痛と吐き気に襲われながら、俺の脳内は大パニックを起こしていた。
どうしてゴブリンの攻撃がこんなに効くんだ?
どうして俺の攻撃が簡単に避けられたんだ?
大量の疑問符に脳内がパンクしかけたとき、美咲の「きゃあああああ」という悲鳴が聞こえてきた。
見れば美咲はゴブリンたちに組み敷かれ、レイプされる寸前まで追い込まれていた。
信じられない光景だった。
以前の美咲もゴブリン程度は簡単に倒せたはずなのに。
そこで俺はハッと思い出した。
マズイ、こんな無様な姿を配信で晒すわけにはいかない。
俺は呆然と立ち尽くす正嗣に言い放った。
「正嗣、配信を切れ! 今すぐ配信を――」
切るんだ、と叫ぼうとしたときだった。
「ギャギャギャ!」
俺の目の前に1匹のゴブリンが下卑た笑顔を浮かべて立っていた。
そのゴブリンは俺の顔面に向かってパンチを繰り出してくる。
すぐにグシャッという音が聞こえたあと、俺の視界は電灯をオフにしたように真っ暗になった。
そして俺の意識は暗闇の中に落ちていった。
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