【完結】ナチュラルキラー46 ~異世界転移から始まる、最強の強化少年と最硬の機人による復讐冒険譚~

岡崎 剛柔

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第三十五話   共闘

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 右手にショットガン、左手に〈忠吉〉を持った四狼は、まず機先を制するためにカルマ目掛けてショットガンを撃った。

 しかし、カルマは弾が当たる寸前のところで上空に飛翔してかわした。

 玉座の一角がスラグショットにより粉砕される。

 上空に飛翔したカルマだったが、ただ弾を避けるだけに飛翔したわけではなかった。

 玉座の後方の壁にはバルセロナ公国の紋章が描かれた盾が飾られており、その下には二メートルほどの長槍二本が×字に飾られていた。

 カルマはその長槍二本を壁から剥ぎ取ると、一本をオリエンタの目の前に落とし、もう一本は自分の武器として手に持った。

「金剛丸! お前はオリビアのサポートに回れ!」

『了解。命令ヲ実行シマス』

 脳内に直接響く金剛丸の返事を聞いた四狼は、その瞬間には床を蹴って移動していた。

 生体チップにより脳内に神経伝達物質が分泌され、常人を遥かに超える身体能力を発揮した四狼は、膝のバネを最大限に利用して空中に跳躍した。

 垂直跳びで五メートルほど跳躍した四狼は、空中にいるカルマ目掛けてショットガンを撃った。

 だが、空中はカルマの絶対領域であったのか、風に舞う木の葉のようにひらりとスラグショットはかわされた。

 四狼はすかさず第二射を撃とうとした。

 けれどもそれよりも速く、羽を撒き散らしながらカルマが間合いを詰めてきた。

 空中で満足に身動きが取れない四狼とは違い、カルマは手にしていた長槍の穂先を寸分の狂いもなく突き出してくる。

 四狼は顔面に向かって飛んできた穂先を〈忠吉〉で弾き返した。

 この場面をあらかじめ想定して〈忠吉〉を抜いていたのだが、それでもわずかに四狼の表情が曇った。
(こいつ、強い)

 四狼は床に片膝をついて着地すると、まだ空中を飛翔しているカルマを睨む。

 たった一合だけ剣を交えた四狼は、カルマの力量を瞬時に看破した。

 第二形態に変貌した〈亜生物〉は例外なく身体能力が跳ね上がるのだが、カルマの利点は身体能力の向上以上に空中を自在に飛行できることであった。

 下手にショットガンを撃っても確実に無駄撃ちになる。

 そう思った四狼だったが、だからといって迂闊に近づくわけにはいかない。

 四狼の〈忠吉〉とカルマの長槍では間合いが全然違う。

 空中から長槍で襲われれば防戦一方になるのは目に見えている。

 そのとき、四狼が思考していた通りにカルマが空中から襲い掛かってきた。

 ほとんど真上から烈風のような連続突きを繰り出してくる。

「くっ!」

 床を転がりながら連続突きをかわし続けた四狼は、ショットガンを撃つ機会を虎視眈々と狙っていた。

 しかし、さすがにカルマも〈亜生物〉であった。

 ショットガンの銃口が向けられるや否や、照準を狂わすべく様々な方向に飛翔して逃げる。

「くそ、ちょこまかと飛びやがって」

 自在に空中を飛行していたカルマに注意を向けつつ、四狼は気がかりだったオリビアと金剛丸のほうに意識を向けた。

 四狼の視界にはオリエンタの長槍を金剛丸が摑み取り、その隙を狙ってオリビアがオリエンタの心臓に長剣を突き刺した光景が飛び込んできた。

 まさに一瞬であったが、四狼は見逃さなかった。

 長剣を突き刺したときにオリビアが沈痛な面持ちであったことに。

「オリビア……」

 四狼はオリビアの気持ちが痛いほどよくわかった。

 いくら二人とも〈変異体〉だったとはいえ、姉のセシリアだけでなく妹のオリエンタも手にかけてしまったことは、オリビアの心に深い傷が残すに違いない。

 だが、〈変異体〉と化した人間は誰かが殺してやらなければならないのも事実である。

 四狼は誰よりも今のオリビアに共感できる。

 それは自分もオリビアと同じく、心に深い傷を負っている人間なのだから。

 オリビアはオリエンタの胸元から長剣を引き抜くと、すぐに四狼に顔を向けて駆け寄ってきた。

 その身体には多量の返り血を浴びていたが、着ていた朱色のドレスのお陰であまり目立っていない。

「四狼、私も加勢するぞ!」

 オリビアは今まさに肉親を斬ったというのに、必死に気丈な振る舞いを見せた。

 さすがだな、と四狼は心底感心した。

 オリビアは現在の状況をよく理解していた。人外の化け物に限らず、相手に気弱な態度を見せては戦闘に勝利することはできない。

 それこそ自分の魂と肉体を奮い立たせ、絶対に相手に屈しないという気概を持った人間こそ最終的には勝利する。

 これはどんな勝負事にも通じる真理であった。

 四狼は大きく頷いて見せた。

「ああ、頼む!」

 と、二人が意気投合したときだった。

「いたぞ! あいつだ!」

 入り口のほうから耳朶を叩く怒声が響くと、玉座の間にはロングボウを携えた数十人の近衛騎士団たちが雪崩れ込んできた。

 横一列に綺麗に並び、空中に飛翔しているカルマを標的に矢を番え始める。

「おお、その手があったか」

 声を上げたのはマルコシアスであった。

 たわわな顎を揺らして弓を持った近衛騎士団の到着に喜びの表情を浮かべた。

「小賢しい!」

 カルマは背中から生えている二枚の翼で身体を包むような格好になると、空中で竜巻のように高速回転していく。

 その光景を見た四狼はすぐに理解した。

 カルマが次にどのような攻撃に打って出るかを。

「金剛丸! オリビアの盾になれ!」

 四狼は金剛丸に指示を出した瞬間、その場に残像を残すほどの速度で移動した。

 刹那、準備が整ったカルマが攻撃を仕掛けた。

「くたばれ!」

 空中で高速回転していたカルマは、丸めていた翼を一気に広げた。

 するとその翼からは幾百幾千の羽が発射され、玉座の間全体に飛び散った。

 玉座の間に広がる近衛騎士団たちの嗚咽や悲鳴。

 カルマの翼から放たれた羽はさながら弾丸のような威力があり、石壁や硝子窓はもちろん、甲冑を着込んできた近衛騎士団の身体を貫いていく。

 惨劇は一瞬であった。

 入り口方面には数十人の騎士団たちの死体が無残に転がり、むせ返るような血臭が漂い始める。

 それでもわずかに生き残った騎士たちもいたが、死ななかったというだけで重傷を負っていることは嫌でもわかった。

 甲冑に食い込んでいる羽が痛ましく、鈍色だった甲冑が今では赤一色に染まっている。

 その中でオリビアは掠り傷一つ負わなかった。

 運がよかったわけではない。

 オリビアの目の前には両手を広げた金剛丸が佇んでおり、カルマの攻撃が一枚たりとも当たらないように盾になっていたのだ。

 一方、四狼は四狼で近くにいた人間を助けていた。

 マルコシアスである。

 オリビアは絶対的な防御力を誇る金剛丸に任せ、四狼はマルコシアスの身体を抱いて壁際まで飛んでいた。

 まさに間一髪であった。

 カルマの攻撃が近衛騎士団に集中していたせいか、壁際まで飛んだ四狼とマルコシアスには羽が当たらなかった。

 多少、マルコシアスを床に伏せたときに身体の一部を強く打ちつけたかもしれないが、弾丸並みの威力があった羽を食らうよりは遥かにマシであろう。

「大丈夫か?」

 四狼はマルコシアスの身体を揺らしながら声をかけた。

「は、はい……」

 やはり身体の一部を打ったのか、マルコシアスは苦痛の表情を浮かべながら右肩を押さえていた。

 そんなマルコシアスに四狼は円柱の後ろに隠れていろと言付けると、視線を空中にいるカルマに向けた。

(どうする。何か策はないか)

 四狼は脳を高速回転させて現状を打破する秘策を模索した。

 しかし空中に浮いている敵を仕留めるとなると、やはり遠距離の武器を使っての狙撃しかない。

 だがショットガンを使っても弾に限度があるし、確実に当たるとは限らない。

 何かないか。

 カルマを見上げながら四狼が唇を噛み締めた。とそのとき、四狼はあることを思いついた。

 この室内において、空中にいるカルマを倒せるかもしれない秘策が。

 そう思った瞬間、四狼は素早くその場を離れてオリビアの元へ駆け戻っていく。

「オリビア、怪我はないか?」

「平気だ。ただ、かなり驚いたがな」

 金剛丸に守られていたオリビアは、本当に傷一つ負ってはいなかった。

 しかし何故か顔面は青ざめ、額には薄っすらと油汗が浮き出ている。

「まさか……肩の傷が痛み出したか?」

 オリビアは何も答えなかったが、左手を右肩の付け根に当てていたことが何よりの証拠であった。

 半日以上前、オリビアは遺跡に行く途中で負傷した。

〈変異体〉が放った矢が右肩の付け根に突き刺さり、流れが急になっていた川に落ちたのである。

 四狼はすぐにオリビアを救出して傷の治療を行ったが、たった一日やそこらでは完治するはずがない。

 それでも解熱剤と鎮痛剤を飲ませ、苦痛を緩和させていた。

 今日も城に来る前に二つの薬を飲ませたが、ここに来て鎮痛剤の効果が切れたのであろう。

 四狼は歯噛みした。

 折角、カルマを倒せる作戦を思いついたというのに、オリビアがこの調子では成功するかどうか分からない。

 そのとき、顔をうつむかせていた四狼の顎をオリビアは摑んだ。

 ぐいっと強制的に顔を上げさせ、真っ直ぐ瞳を見つめてくる。

「私は平気だと言っただろう。それよりも何か策はないのか? このままでは全員殺されるぞ」

 オリビアは強靭な精神力で込み上げてくる痛みを抑えつけ、何とかこの状況を打破できないか尋ねてきた。

 額に浮き出てきた汗の量からして、もしかすると解熱剤の効果も切れかかっているのかもしれない。

 それでもオリビアは微塵も戦う気概を失っていない。

「策は……ある。だが、それにはオリビアの協力が絶対不可欠だ」

 四狼は真剣な表情で話を続けた。

「しかし、かなり身体に負担をかけるぞ。それでもいいのか?」

 そう、四狼の脳裏には確かに現状を打破する秘策が浮かんでいた。

 剣や槍では届かない空中にいるカルマを倒すためには、おそらくこれしかないという秘策が。

 だからこそ四狼はオリビアに同意を求めた。

 成功の鍵を握っているのが他でもないオリビアだからである。

 オリビアは四狼に向かって不適な笑みを見せた。

「私の身体を気遣ってくれるのは嬉しいが、今はそんなことを言っている場合ではないだろう? 構わん、何でも言ってくれ。どんなことでもやり遂げてみせる」

 その力強い言葉を聞いた四狼は、オリビアの覚悟を無駄にしないよう自分も覚悟を決めた。

 そして手に持っていたショットガンをオリビアに手渡す。

「わかった。じゃあ、これから言うことをよく聞いてくれ――」

 四狼はオリビアに策を話した。

 それは――。
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