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第三十一話 本当の依頼
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ここはどこだろう?
目蓋をゆっくりと開けたオリビアはふとそう思った。
冷たい風が肌を撫でていくのに、身体だけは妙に暖かい。
まるで母親の手に抱かれているような心地良さだった。
「んん!」
だが次の瞬間、オリビアは目を丸くさせて跳ね起きた。
半ばほど開けた視界の中に、母親ではなく一人の少年の顔が飛び込んできたからだ。
「ようやく目覚めたか?」
目の前には片膝をついている四狼の姿があった。
薄汚れた外套は羽織っておらず、何やら小さな袋がたくさんついている奇妙な服を着ている。
確かポーなんとかベストと呼んでいた衣服だった。
「ここは……」
オリビアは軽い頭痛に襲われながらも、首を動かして周囲を見渡した。
辺りは青々と茂った雑草が絨毯のように敷き詰められており、少し離れた場所には黒い塊のような森が広がっていた。
それでここが遺跡の外だということは分かった。
続いてオリビアは空を仰いだ。
夜空には無数に散らばっている星たちと半分に割れたような月が浮かび、遠くには高い山々が連なって見えた。
呆然と遠くの景色を眺めていたオリビアだったが、しばらくすると眠っていた記憶がまざまざと蘇ってきた。
すぐに隣にいた四狼に詰め寄って尋ねる。
「四狼! あいつは、盗賊団の頭目はどうなった!」
そうである。
セシリアの死を見届けたオリビアは、すぐに金剛丸に頼んで四狼の場所に案内してもらった。
案内された場所は広々としたホールのような場所であり、そこでオリビアは四狼と盗賊団の頭目と思われる人間が死闘を演じている光景を目撃した。
オリビアはずきずきと痛む頭を押さえ、さらに記憶を蘇らせる。
頭目と思しき大男を見た瞬間、激昂しながらリボルバーに装填されていた弾丸をすべて発射したことは覚えている。
殺す気はもちろんあった。
すべての元凶である相手に情けをかけるつもりは毛頭なかった。
しかし不思議なことに、その後の記憶がぷっつりと切れている。
ただその中で確実に覚えているのは、頭目の大男が自分に向かって黒くて丸い物を投げつけてきたところまでであった。
目覚めるなり慌てふためいたオリビアを、四狼は笑顔を見せることで落ち着かせた。
「心配するな。あいつを含め、遺跡内をうろついていた残党どもはすべて始末した」
その言葉を聞いて安堵した反面、唐突に悲しみの波が押し寄せてきた。
「だったら見たのか? セシリア様の亡骸も……」
四狼は表情を曇らせ、こくりと頷いた。
「ああ、二階の一角で見つけた。どうやら〈変異体〉と化していたようだな。オリビア……お前の気持ちはよくわかるが、〈変異体〉と化した人間を元に戻す方法はない。アンタが取った行動は間違っちゃいない。それは断言できる」
四狼はまるであの場所にいたような口調でオリビアを励ました。
オリビアは何故、自分がセシリアを手にかけたことを四狼が知っているのか疑問に思ったが、よく考えればセシリアの死体を見たならばすぐに気がつく。
セシリアの心臓部分には、二つの銃痕がはっきりと残っているのである。
「そんな簡単には割り切れないさ」
オリビアは膝に手をついて立ち上がった。
尻や背中についていた土を両手で払う。
「あ、そう言えばお前に貸してもらった剣は」
立ち上がったオリビアは、腰帯に差していた〈忠吉〉がないことに気がついた。
「〈忠吉〉ならもう返してもらった。コルトパイソンもだ」
オリビアが四狼を見下ろすと、彼の後ろの地面に〈忠吉〉が置かれていた。
その隣には銀色に光るリボルバーも確認できた。
そして四狼が持っている武器の中でも最大の威力を誇るショットガンという武器は、荷物のように肩にかけられていた。
四狼も立ち上がった。
大きく伸びをして首を左右に動かす。
「さて、それでこれからどうするんだ?」
四狼の唐突な問いかけにオリビアは目をしばたたせた。
「どうするとは?」
「決まってる。オリビアは王家の証とやらを手に入れたんだろう? だとすれば次の女王はアンタに決定だ」
「王家の証か……」
溜息をついたオリビアは、ズボンのポケットから黄金色に輝く円盤を取り出した。
息絶える寸前にセシリアから手渡された王家の証。
次代の王になる人間に受け継がれるバルセロナ公国の象徴の円盤は、月光を反射して神々しい輝きを発していた。
「私は女王になるべきなのだろうか?」
オリビアは四狼に訊くのではなく、独りごちるように呟いた。
「セシリア様は息絶える寸前、私に王家の証を渡されて女王になれと言われた。だが、私は自分が女王になる姿など想像できない」
オリビアの独白は続く。
「だってそうだろう? 寂しい山村の中で幼い頃から同年代の悪ガキたちと一緒に野山を駆け巡り、騎士を目指すと決めてからは剣一筋に生きてきた。こんなガサツな女が一国を担う女王になるなどおかしな話だ。それに生まれてこの方、私はドレスという煌びやかな服を着たこともないしな」
苦笑したオリビアは、王家の証を強く握り締めた。
(ですが、本当に私はこれからどうすればよろしいのですか? セシリア様)
オリビアは王家の証を一心に見つめながら、今は亡きセシリアに問いかけた。
セシリアは自分に女王になれと言ったが、二十年以上も身分を偽っていた人間を人々は女王と認めてくれるのだろうか。
それは民衆だけでなく、宮廷にいる大臣たちや仲間である近衛騎士団たちもそうである。
今まで一女性騎士だと思っていた人間が、実は王位継承権第二位の資格を持つオルセイアだと知ったらどんな反応を見せるのだろう。
もしかすると王家継承権を剥奪され、騎士団も退団させられて国外退去という結果に終るかもしれない。
それはもちろん恐ろしい。
だがそれ以上に、オリビアはセシリアの遺言を守れなかった場合が一番恐ろしかった。
セシリアはあんな姿になっても国のことを考えていた。
そして最後の力を振り絞って王家の証を自分に託したのである。
様々な葛藤に悩まされていたオリビアに、四狼は軽快な足取りで近づいた。
「オリビア、その答えは自分で見つけるしかない。しかし、これだけは言える。この国の危機はまだ終っていない」
オリビアは四狼の言っていることが分からず小首を傾げた。
「何を言う。この国の危機はすべて去った。これもお前と金剛丸が盗賊団を根こそぎ退治してくれたお陰だ」
そう感謝の言葉を四狼に告げたオリビアは、もう一人の功労者がこの場にいないことに気がついた。
周囲をぐるりと見渡したが、やっぱり見つからない。
「おい、金剛丸はどうした? 一緒じゃないのか?」
「……ああ、あいつはちょっと野暮用があってな」
四狼は低い声でそう答えながら、何故か鋭い視線をちらちらと森の方に向けていた。
その後、四狼はすっと手を出してきて、少しでいいから王家の証を見せて欲しいと頼んできた。
オリビアは「少しだけだぞ」と念を押してから手渡した。
王家の証を手渡したオリビアは、四狼に背中を向けて歩き出した。
少し歩いたオリビアの目の前には、底が見えないほどの断崖絶壁が存在していた。
うっかり足を踏み出せば奈落の底へ一直線だろう。
オリビアは足元に気をつけながら目の前に広がっている風景だけを眺めた。
街の明かりは見えなかったが、代わりに壮大な樹海がどこまでも続いていた。
その樹海は天上から降り注ぐ月光により青々と輝き、まだ一度も見たことのない海とはこのような風景なのかと感慨深い思いが溢れてくる。
(セシリア様はこの自然を守っていくつもりだったんだな)
政治に疎いオリビアだったが、セシリアがこの国のためを思って頑張っていたことは誰よりも知っていた。
他国では森林を大量に伐採して軍船を造ったりしているそうだが、セシリアはその考えには断固として反対だった。
自然を疎かに扱うものは、やがて自然に見放されて自滅する。
生前、セシリアは言っていた。必要以上に自然を破壊してはならない、と。
これは先代国王から直々に告げられた言葉であり、何でも初代バルセロナ国王が残した遺言でもあったらしい。
オリビアは壮大な風景を眺めながら思案した。
噂では次の女王に即位するはずのオリエンタは、セシリアの自然保護の考えに反発し、根底から大規模な改革を行うと仄めかしているという。
(そうなると、セシリア様を裏切ることになるのだろうか)
もし自分の身分を明かさず、オリエンタの女王即位を許せばセシリアが悲しむのではないかとオリビアは不安になった。
しかし、それとは別にセシリアが残した言葉が妙に気になった。
「なあ、四狼。お前に訊きたいことがあるのだが――」
と振り返った瞬間、オリビアは呆気に取られた。
四狼がショットガンを構えていた。
人間の身体を簡単に粉砕する武器の銃口は、寸分の狂いもなくオリビアに向けられている。
オリビアはしばし呆然としたあと、ふっと鼻で笑った。
「おい、冗談にしては度が過ぎ」
るぞ、と続けようとした直後、オリビアの耳が「ダァン!」という激しい音を拾った。
オリビアは訳が分からなかった。
ただ目の前にいた四狼の姿が遠ざかり、やがて視界には満天の星空が映り始めた。
しかしそんな夜空も徐々に遠ざかっていき、そこでようやく身体の感覚がなくなっていくことに気がついた。
やがてオリビアの身体は、地獄に通じているような奈落の底へと落ちていった。
四狼はゆっくりとした足取りで断崖絶壁の端に近づくと、
オリビアを飲み込んだ奈落の底へ視線を落とした。
「悪いな、オリビア」
このときばかりは四狼も申し訳なさそうな顔をしていた。
しかしすぐに視線を奈落の底から外し、肩にショットガンを担ぎながら歩き始める。
ヴェールの女性――オリエンタは四狼に二つの仕事を依頼していた。
その一つは、オリビアが同行した理由の一つであった盗賊団『ベヘモス』からセシリアを救出すること。
しかし、それはあくまでも表向きの仕事だった。
オリエンタは四狼だけを呼び寄せて、密かに本当の仕事を依頼していた。
四狼が依頼された本当の仕事とは、この件に関わった人間をすべて抹殺し、王家の証を見つけて取ってくること。
そしてこのとき、四狼に依頼された仕事はすべて完了した。
目蓋をゆっくりと開けたオリビアはふとそう思った。
冷たい風が肌を撫でていくのに、身体だけは妙に暖かい。
まるで母親の手に抱かれているような心地良さだった。
「んん!」
だが次の瞬間、オリビアは目を丸くさせて跳ね起きた。
半ばほど開けた視界の中に、母親ではなく一人の少年の顔が飛び込んできたからだ。
「ようやく目覚めたか?」
目の前には片膝をついている四狼の姿があった。
薄汚れた外套は羽織っておらず、何やら小さな袋がたくさんついている奇妙な服を着ている。
確かポーなんとかベストと呼んでいた衣服だった。
「ここは……」
オリビアは軽い頭痛に襲われながらも、首を動かして周囲を見渡した。
辺りは青々と茂った雑草が絨毯のように敷き詰められており、少し離れた場所には黒い塊のような森が広がっていた。
それでここが遺跡の外だということは分かった。
続いてオリビアは空を仰いだ。
夜空には無数に散らばっている星たちと半分に割れたような月が浮かび、遠くには高い山々が連なって見えた。
呆然と遠くの景色を眺めていたオリビアだったが、しばらくすると眠っていた記憶がまざまざと蘇ってきた。
すぐに隣にいた四狼に詰め寄って尋ねる。
「四狼! あいつは、盗賊団の頭目はどうなった!」
そうである。
セシリアの死を見届けたオリビアは、すぐに金剛丸に頼んで四狼の場所に案内してもらった。
案内された場所は広々としたホールのような場所であり、そこでオリビアは四狼と盗賊団の頭目と思われる人間が死闘を演じている光景を目撃した。
オリビアはずきずきと痛む頭を押さえ、さらに記憶を蘇らせる。
頭目と思しき大男を見た瞬間、激昂しながらリボルバーに装填されていた弾丸をすべて発射したことは覚えている。
殺す気はもちろんあった。
すべての元凶である相手に情けをかけるつもりは毛頭なかった。
しかし不思議なことに、その後の記憶がぷっつりと切れている。
ただその中で確実に覚えているのは、頭目の大男が自分に向かって黒くて丸い物を投げつけてきたところまでであった。
目覚めるなり慌てふためいたオリビアを、四狼は笑顔を見せることで落ち着かせた。
「心配するな。あいつを含め、遺跡内をうろついていた残党どもはすべて始末した」
その言葉を聞いて安堵した反面、唐突に悲しみの波が押し寄せてきた。
「だったら見たのか? セシリア様の亡骸も……」
四狼は表情を曇らせ、こくりと頷いた。
「ああ、二階の一角で見つけた。どうやら〈変異体〉と化していたようだな。オリビア……お前の気持ちはよくわかるが、〈変異体〉と化した人間を元に戻す方法はない。アンタが取った行動は間違っちゃいない。それは断言できる」
四狼はまるであの場所にいたような口調でオリビアを励ました。
オリビアは何故、自分がセシリアを手にかけたことを四狼が知っているのか疑問に思ったが、よく考えればセシリアの死体を見たならばすぐに気がつく。
セシリアの心臓部分には、二つの銃痕がはっきりと残っているのである。
「そんな簡単には割り切れないさ」
オリビアは膝に手をついて立ち上がった。
尻や背中についていた土を両手で払う。
「あ、そう言えばお前に貸してもらった剣は」
立ち上がったオリビアは、腰帯に差していた〈忠吉〉がないことに気がついた。
「〈忠吉〉ならもう返してもらった。コルトパイソンもだ」
オリビアが四狼を見下ろすと、彼の後ろの地面に〈忠吉〉が置かれていた。
その隣には銀色に光るリボルバーも確認できた。
そして四狼が持っている武器の中でも最大の威力を誇るショットガンという武器は、荷物のように肩にかけられていた。
四狼も立ち上がった。
大きく伸びをして首を左右に動かす。
「さて、それでこれからどうするんだ?」
四狼の唐突な問いかけにオリビアは目をしばたたせた。
「どうするとは?」
「決まってる。オリビアは王家の証とやらを手に入れたんだろう? だとすれば次の女王はアンタに決定だ」
「王家の証か……」
溜息をついたオリビアは、ズボンのポケットから黄金色に輝く円盤を取り出した。
息絶える寸前にセシリアから手渡された王家の証。
次代の王になる人間に受け継がれるバルセロナ公国の象徴の円盤は、月光を反射して神々しい輝きを発していた。
「私は女王になるべきなのだろうか?」
オリビアは四狼に訊くのではなく、独りごちるように呟いた。
「セシリア様は息絶える寸前、私に王家の証を渡されて女王になれと言われた。だが、私は自分が女王になる姿など想像できない」
オリビアの独白は続く。
「だってそうだろう? 寂しい山村の中で幼い頃から同年代の悪ガキたちと一緒に野山を駆け巡り、騎士を目指すと決めてからは剣一筋に生きてきた。こんなガサツな女が一国を担う女王になるなどおかしな話だ。それに生まれてこの方、私はドレスという煌びやかな服を着たこともないしな」
苦笑したオリビアは、王家の証を強く握り締めた。
(ですが、本当に私はこれからどうすればよろしいのですか? セシリア様)
オリビアは王家の証を一心に見つめながら、今は亡きセシリアに問いかけた。
セシリアは自分に女王になれと言ったが、二十年以上も身分を偽っていた人間を人々は女王と認めてくれるのだろうか。
それは民衆だけでなく、宮廷にいる大臣たちや仲間である近衛騎士団たちもそうである。
今まで一女性騎士だと思っていた人間が、実は王位継承権第二位の資格を持つオルセイアだと知ったらどんな反応を見せるのだろう。
もしかすると王家継承権を剥奪され、騎士団も退団させられて国外退去という結果に終るかもしれない。
それはもちろん恐ろしい。
だがそれ以上に、オリビアはセシリアの遺言を守れなかった場合が一番恐ろしかった。
セシリアはあんな姿になっても国のことを考えていた。
そして最後の力を振り絞って王家の証を自分に託したのである。
様々な葛藤に悩まされていたオリビアに、四狼は軽快な足取りで近づいた。
「オリビア、その答えは自分で見つけるしかない。しかし、これだけは言える。この国の危機はまだ終っていない」
オリビアは四狼の言っていることが分からず小首を傾げた。
「何を言う。この国の危機はすべて去った。これもお前と金剛丸が盗賊団を根こそぎ退治してくれたお陰だ」
そう感謝の言葉を四狼に告げたオリビアは、もう一人の功労者がこの場にいないことに気がついた。
周囲をぐるりと見渡したが、やっぱり見つからない。
「おい、金剛丸はどうした? 一緒じゃないのか?」
「……ああ、あいつはちょっと野暮用があってな」
四狼は低い声でそう答えながら、何故か鋭い視線をちらちらと森の方に向けていた。
その後、四狼はすっと手を出してきて、少しでいいから王家の証を見せて欲しいと頼んできた。
オリビアは「少しだけだぞ」と念を押してから手渡した。
王家の証を手渡したオリビアは、四狼に背中を向けて歩き出した。
少し歩いたオリビアの目の前には、底が見えないほどの断崖絶壁が存在していた。
うっかり足を踏み出せば奈落の底へ一直線だろう。
オリビアは足元に気をつけながら目の前に広がっている風景だけを眺めた。
街の明かりは見えなかったが、代わりに壮大な樹海がどこまでも続いていた。
その樹海は天上から降り注ぐ月光により青々と輝き、まだ一度も見たことのない海とはこのような風景なのかと感慨深い思いが溢れてくる。
(セシリア様はこの自然を守っていくつもりだったんだな)
政治に疎いオリビアだったが、セシリアがこの国のためを思って頑張っていたことは誰よりも知っていた。
他国では森林を大量に伐採して軍船を造ったりしているそうだが、セシリアはその考えには断固として反対だった。
自然を疎かに扱うものは、やがて自然に見放されて自滅する。
生前、セシリアは言っていた。必要以上に自然を破壊してはならない、と。
これは先代国王から直々に告げられた言葉であり、何でも初代バルセロナ国王が残した遺言でもあったらしい。
オリビアは壮大な風景を眺めながら思案した。
噂では次の女王に即位するはずのオリエンタは、セシリアの自然保護の考えに反発し、根底から大規模な改革を行うと仄めかしているという。
(そうなると、セシリア様を裏切ることになるのだろうか)
もし自分の身分を明かさず、オリエンタの女王即位を許せばセシリアが悲しむのではないかとオリビアは不安になった。
しかし、それとは別にセシリアが残した言葉が妙に気になった。
「なあ、四狼。お前に訊きたいことがあるのだが――」
と振り返った瞬間、オリビアは呆気に取られた。
四狼がショットガンを構えていた。
人間の身体を簡単に粉砕する武器の銃口は、寸分の狂いもなくオリビアに向けられている。
オリビアはしばし呆然としたあと、ふっと鼻で笑った。
「おい、冗談にしては度が過ぎ」
るぞ、と続けようとした直後、オリビアの耳が「ダァン!」という激しい音を拾った。
オリビアは訳が分からなかった。
ただ目の前にいた四狼の姿が遠ざかり、やがて視界には満天の星空が映り始めた。
しかしそんな夜空も徐々に遠ざかっていき、そこでようやく身体の感覚がなくなっていくことに気がついた。
やがてオリビアの身体は、地獄に通じているような奈落の底へと落ちていった。
四狼はゆっくりとした足取りで断崖絶壁の端に近づくと、
オリビアを飲み込んだ奈落の底へ視線を落とした。
「悪いな、オリビア」
このときばかりは四狼も申し訳なさそうな顔をしていた。
しかしすぐに視線を奈落の底から外し、肩にショットガンを担ぎながら歩き始める。
ヴェールの女性――オリエンタは四狼に二つの仕事を依頼していた。
その一つは、オリビアが同行した理由の一つであった盗賊団『ベヘモス』からセシリアを救出すること。
しかし、それはあくまでも表向きの仕事だった。
オリエンタは四狼だけを呼び寄せて、密かに本当の仕事を依頼していた。
四狼が依頼された本当の仕事とは、この件に関わった人間をすべて抹殺し、王家の証を見つけて取ってくること。
そしてこのとき、四狼に依頼された仕事はすべて完了した。
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