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第十八話 雨闘 二
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残り六体の〈変異体〉は、淀んだ双眸で四狼を見据えたまま動かない。
人間だったときに活動していた盗賊の本能が少しだけ滲み出ているのかもしれない。
四狼はじりじりと摺り足で横に移動しながら〈忠吉〉を正眼に構えた。
そのときである。
雨音に混じり、後方からこちらに足早に駆けてくる足音があった。
まさか、と思った瞬間、四狼は振り返ることなく金剛丸に問いかけた。
「おい、金剛丸」
すぐに頭の中に声が聞こえてくる。
『オリビアガ半径五メートル圏内カラ離脱。ソチラニ向カッテイマス』
「何だと!」
声を荒げたと同時に、後ろからオリビアの声が聞こえた。
「四狼、加勢するぞ!」
長い黒髪を雨で濡らしたオリビアが、長剣を構えながら四狼の隣に陣取った。
「何でこっちに来た?」
「向こうは金剛丸一人で事足りる。それに、子供一人に先陣を切らせたのでは近衛騎士団の名誉に傷がつく」
そう答え返すオリビアだったが、痩せ我慢をしていたことはすぐにわかった。
剣先が微妙に震えている。
身体に冷えからくる震えではなく、恐怖からくる震えであろう。
四狼はオリビアの前にずいっと歩み出た。
そして顔だけをちらりと向けて言い放つ。
「震えている騎士に名誉も何もないだろう。いいからここは俺に任せろ」
無理をしていることを看破されたオリビアの表情が瞬く間に紅潮した。
「ふ、震えてなどいない! 少々長雨に打たれて身体が冷えているだけだ! お前のほうこそ自分の力を過信すると思わぬことに足元を掬われるぞ!」
とオリビアが言った瞬間、正面にいた盗賊の一人が長柄の槍を持って突進してきた。
鈍く光る白銀の穂先は四狼に向けられている。
「おい――」とオリビアが声を出したが、すでに四狼はその場から移動していた。
真っ直ぐ突いてくる槍をひらりと身体を半身にしてかわした四狼は、しっかりと槍の柄を握って固定する。
そのまま四狼はさらに踏み込んで心臓を突き刺そうとしたのだが、相手もまだ攻撃する意思を持っていた。
槍を固定された盗賊は腰帯に差していた短剣を抜くと、踏み込んでくる四狼に交差気味に突き刺してくる。
しかし、下手な小細工など四狼には通用しない。
固定していた槍を躊躇なく手放し、四狼は短剣を握っていた盗賊の腕を斬り飛ばした。
そして返す刀で突きを繰り出す。
電光石火の四狼の攻撃を〈変異体〉如きがかわせるはずもなく、〈忠吉〉の切っ先は盗賊の胸元に突き刺さり内部の心臓に到達した。
ズブリ、という不快な感触が柄にまで伝わってくる。
盗賊の胸元から切っ先を引き抜くと、四狼は後方にいるオリビアに振り向いた。
「これでわかっただろう。俺のことはいいから、早くこの場から――」
移動しろ、という言葉は続けられなかった。四狼は大きく目を見開き驚愕する。
オリビアの右肩の付け根に一本の矢が突き刺さっていた。
本人も信じられないという顔のまま、自分の身体から伸びている矢を呆然と見つめている。
四狼はオリビアから盗賊のほうへと視線を移した。
残った五人の中で一番後方にいた盗賊の手には、木製の弓矢が握られていた。
いちいち矢を番えて放つロングボウではなく、台座に矢を水平に固定して放つクロスボウである。
迂闊だった。
クロスボウの存在に気づかなかったとは。
「オリビア!」
四狼は急いでオリビアの元へ向かったが、あと一歩遅かった。
苦痛に顔を歪めたオリビアは端のほうに向かってふらつき、あろうことかそのまま流れが急な川に落ちてしまったのである。
「くっ」
四狼はすぐにオリビアを助け出そうと行動に移った。
手にしていた〈忠吉〉を橋の上に突き刺すと、ベルトに差していた鞘を抜いて〈忠吉〉の近くに投げ捨てた。
続いて背中に腕を回してショットガンを取り出し、照準を盗賊たちに向ける。
すかさず発砲。
銃口から迸ったマズルフラッシュとともにバックショットが放たれ、近くに固まっていた盗賊二人を吹き飛ばした。
銃撃はまだ終らない。
フォアエンドを素早く上下に動かして空薬莢の排出と次弾装填を行った四狼は、最後に残る盗賊たちの胸元目掛けてトリガーを引いた。
バックショットの直撃を食らった盗賊たちの身体はくの字に折れ曲がり、後方に激しく吹き飛ぶ。
一瞬で四体の〈変異体〉を葬った四狼は、そのままの姿勢で金剛丸に指示を出した。
「金剛丸、〈忠吉〉と鞘をここに置いていくから拾ってこい! いいな!」
四狼はショットガンを背中に回すと、金剛丸の返事も聞かずに川に飛び込んだ。
人間だったときに活動していた盗賊の本能が少しだけ滲み出ているのかもしれない。
四狼はじりじりと摺り足で横に移動しながら〈忠吉〉を正眼に構えた。
そのときである。
雨音に混じり、後方からこちらに足早に駆けてくる足音があった。
まさか、と思った瞬間、四狼は振り返ることなく金剛丸に問いかけた。
「おい、金剛丸」
すぐに頭の中に声が聞こえてくる。
『オリビアガ半径五メートル圏内カラ離脱。ソチラニ向カッテイマス』
「何だと!」
声を荒げたと同時に、後ろからオリビアの声が聞こえた。
「四狼、加勢するぞ!」
長い黒髪を雨で濡らしたオリビアが、長剣を構えながら四狼の隣に陣取った。
「何でこっちに来た?」
「向こうは金剛丸一人で事足りる。それに、子供一人に先陣を切らせたのでは近衛騎士団の名誉に傷がつく」
そう答え返すオリビアだったが、痩せ我慢をしていたことはすぐにわかった。
剣先が微妙に震えている。
身体に冷えからくる震えではなく、恐怖からくる震えであろう。
四狼はオリビアの前にずいっと歩み出た。
そして顔だけをちらりと向けて言い放つ。
「震えている騎士に名誉も何もないだろう。いいからここは俺に任せろ」
無理をしていることを看破されたオリビアの表情が瞬く間に紅潮した。
「ふ、震えてなどいない! 少々長雨に打たれて身体が冷えているだけだ! お前のほうこそ自分の力を過信すると思わぬことに足元を掬われるぞ!」
とオリビアが言った瞬間、正面にいた盗賊の一人が長柄の槍を持って突進してきた。
鈍く光る白銀の穂先は四狼に向けられている。
「おい――」とオリビアが声を出したが、すでに四狼はその場から移動していた。
真っ直ぐ突いてくる槍をひらりと身体を半身にしてかわした四狼は、しっかりと槍の柄を握って固定する。
そのまま四狼はさらに踏み込んで心臓を突き刺そうとしたのだが、相手もまだ攻撃する意思を持っていた。
槍を固定された盗賊は腰帯に差していた短剣を抜くと、踏み込んでくる四狼に交差気味に突き刺してくる。
しかし、下手な小細工など四狼には通用しない。
固定していた槍を躊躇なく手放し、四狼は短剣を握っていた盗賊の腕を斬り飛ばした。
そして返す刀で突きを繰り出す。
電光石火の四狼の攻撃を〈変異体〉如きがかわせるはずもなく、〈忠吉〉の切っ先は盗賊の胸元に突き刺さり内部の心臓に到達した。
ズブリ、という不快な感触が柄にまで伝わってくる。
盗賊の胸元から切っ先を引き抜くと、四狼は後方にいるオリビアに振り向いた。
「これでわかっただろう。俺のことはいいから、早くこの場から――」
移動しろ、という言葉は続けられなかった。四狼は大きく目を見開き驚愕する。
オリビアの右肩の付け根に一本の矢が突き刺さっていた。
本人も信じられないという顔のまま、自分の身体から伸びている矢を呆然と見つめている。
四狼はオリビアから盗賊のほうへと視線を移した。
残った五人の中で一番後方にいた盗賊の手には、木製の弓矢が握られていた。
いちいち矢を番えて放つロングボウではなく、台座に矢を水平に固定して放つクロスボウである。
迂闊だった。
クロスボウの存在に気づかなかったとは。
「オリビア!」
四狼は急いでオリビアの元へ向かったが、あと一歩遅かった。
苦痛に顔を歪めたオリビアは端のほうに向かってふらつき、あろうことかそのまま流れが急な川に落ちてしまったのである。
「くっ」
四狼はすぐにオリビアを助け出そうと行動に移った。
手にしていた〈忠吉〉を橋の上に突き刺すと、ベルトに差していた鞘を抜いて〈忠吉〉の近くに投げ捨てた。
続いて背中に腕を回してショットガンを取り出し、照準を盗賊たちに向ける。
すかさず発砲。
銃口から迸ったマズルフラッシュとともにバックショットが放たれ、近くに固まっていた盗賊二人を吹き飛ばした。
銃撃はまだ終らない。
フォアエンドを素早く上下に動かして空薬莢の排出と次弾装填を行った四狼は、最後に残る盗賊たちの胸元目掛けてトリガーを引いた。
バックショットの直撃を食らった盗賊たちの身体はくの字に折れ曲がり、後方に激しく吹き飛ぶ。
一瞬で四体の〈変異体〉を葬った四狼は、そのままの姿勢で金剛丸に指示を出した。
「金剛丸、〈忠吉〉と鞘をここに置いていくから拾ってこい! いいな!」
四狼はショットガンを背中に回すと、金剛丸の返事も聞かずに川に飛び込んだ。
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