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第六十四話 決着
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俺はアリシアに「あとは任せろ」と言い放ち、神火砲へと形状変化させた〈七星剣〉へさらに膨大な精気を集中させていく。
神火砲は〈七星剣〉の中でも最大最強の威力を誇る形状武器だ。
全長は約6.6尺(約2メートル)ほど。
砲身に仙字が刻印された、人間界では途方もない価値があるだろう黄金の大砲である。
加えて先端の発射口には、同じく黄金の竜頭が取り付けられていた。
重さも半端ではない。
少なくとも250斤(約150キロ)はあるのだ。
そんな神火砲を俺は右肩に全力で背負い、ふらつかないように全身の筋肉で踏ん張った。
もっと詳しく言えば右手で砲身を固定し、左手は引き金の付いた取っ手の部分を強く握っている。
「くっ……」
さすがの俺でも、このときばかりは苦痛で顔を歪めた。
武器自体の重さもさることながら、その力を使うための反動は凄まじいの一言に尽きる。
それこそ全身を剣でめった斬りにされ、その傷口から大量の血が噴出しているような感覚だった。
だが、それでも神火砲に精気を送るのをやめるわけにはいかない。
神火砲へと形状変化させた次は、砲弾の役割を果たす〝精気弾〟を装填する必要がある。
しかし、精気弾は普通の大砲で使用するような砲弾とは違う。
読んで字の如く、精気を圧縮した状態を砲弾の代わりとして発射するのだ。
なので1日にたった1発しか作れないし使用できない。
俺は両手で固定している神火砲に精気を送り続けながら、今まさにこの場から逃げ出さんとしている魔王を見据えた。
魔王は鞭のような状態となった〈五火神焔剣〉を肉体に巻きつけられ、凄まじい熱傷と黒煙を上げながらそれでも天井の窓から逃げ出そうとしている。
剣から鞭へと形状変化できた〈五火神焔剣〉にも驚いたが、それよりも驚いたのは魔王のしぶとさと生命力だ。
片方の蝙蝠の翼は半分ほども失っているため満足に飛行することも難しいだろうに、それでも魔王は懸命に蝙蝠の翼を動かしてどんどん上昇していく。
そして、このままではアリシアが危うい。
アリシアは〈五火神焔剣〉を魔王に巻きつけているため、一緒に天井へと浮き上がっているのだ。
あまりにも魔王が高く飛んでしまったら、〈五火神焔剣〉の効果が切れたときにアリシアは天井付近から身投げするような状態になってしまう。
そうなればアリシアは受け身を取れたとしても、あまりの高さからの落下に全身を強く打ちつけて最悪の場合は死にいたる可能性もある。
もう少し……もう少しだ!
俺は必死に神火砲の内部へ精気を送り、その精気を圧縮させて精気弾を一刻も早く作ろうと躍起になった。
せめてアリシアが受け身を取れる高さのときに精気弾を作るのだ。
などと思っていた矢先、ついに砲身の中に精気弾が完成したことを肌で感じた。
よし、と俺は再びアリシアに向かって声を上げる。
「アリシア、もういい! そこから飛び降りろ!」
そう言い放ったのと、アリシアが炎の鞭を手放したのはほぼ同時だった。
おそらく、もうすでに限界を迎えていたのだろう。
空中から床に飛び降りたアリシアだったが、激しく体力と精気を消費していたため着地したあとにそのまま倒れてしまった。
本来だったらすぐさま駆け寄って介抱するのだが、今はそれよりも確実にやるべきことがある。
アリシア、お前の思いは絶対に無駄にしないからな!
そうである。
今はアリシアの介抱よりも優先すべきことがあった。
魔王をこの場で必ず倒す。
それがアリシアの思いに報い入る最大の行動。
ゆえに俺は空中にいる魔王に砲口を合わせる。
すると精気弾が完成していたこともあってか、他の形状武器と同じく神火砲だけの機能の1つが発動した。
俺の右目に当たる良い位置に、砲身から半透明の小さくて四角い照準器が出てきたのだ。
その照準器越しに魔王を見ると、照準器には【標的完全補足】という文字が浮かび上がってくる。
食らえ!
俺は万感の思いを胸に、引き金に掛けていた左手の人差し指を引いた。
ドゴォンッ!
大広間全体に巨大な爆発音が轟き、竜頭の形をしていた砲口からは黄金色に煌めく精気弾が発射される。
そんな神火砲から放たれた黄金色に輝く精気弾は、大気を震わせながら魔王へと一直線に放たれていく。
「グアアアアアアアアアアアアアアアア――――…………」
黄金色の奔流となった精気弾は、悲鳴を上げた魔王を跡形もなく粉砕した。
それだけではない。
精気弾はそのまま開いていた窓を突き抜け、漆黒の夜空に向かってどこまでも伸びていく。
このとき花街の人間たちはおろか、宮廷にいた皇帝を始めとした東安中の人間たちが一斉に夜空を見上げたという。
のちにこの出来事は、華秦国の民衆の間に長く語り継がれることになる。
魔王を跡形もなく消し飛ばした、神火砲の精気弾。
それは漆黒の夜空を駆け上る、黄金色の巨龍のようであったと――。
神火砲は〈七星剣〉の中でも最大最強の威力を誇る形状武器だ。
全長は約6.6尺(約2メートル)ほど。
砲身に仙字が刻印された、人間界では途方もない価値があるだろう黄金の大砲である。
加えて先端の発射口には、同じく黄金の竜頭が取り付けられていた。
重さも半端ではない。
少なくとも250斤(約150キロ)はあるのだ。
そんな神火砲を俺は右肩に全力で背負い、ふらつかないように全身の筋肉で踏ん張った。
もっと詳しく言えば右手で砲身を固定し、左手は引き金の付いた取っ手の部分を強く握っている。
「くっ……」
さすがの俺でも、このときばかりは苦痛で顔を歪めた。
武器自体の重さもさることながら、その力を使うための反動は凄まじいの一言に尽きる。
それこそ全身を剣でめった斬りにされ、その傷口から大量の血が噴出しているような感覚だった。
だが、それでも神火砲に精気を送るのをやめるわけにはいかない。
神火砲へと形状変化させた次は、砲弾の役割を果たす〝精気弾〟を装填する必要がある。
しかし、精気弾は普通の大砲で使用するような砲弾とは違う。
読んで字の如く、精気を圧縮した状態を砲弾の代わりとして発射するのだ。
なので1日にたった1発しか作れないし使用できない。
俺は両手で固定している神火砲に精気を送り続けながら、今まさにこの場から逃げ出さんとしている魔王を見据えた。
魔王は鞭のような状態となった〈五火神焔剣〉を肉体に巻きつけられ、凄まじい熱傷と黒煙を上げながらそれでも天井の窓から逃げ出そうとしている。
剣から鞭へと形状変化できた〈五火神焔剣〉にも驚いたが、それよりも驚いたのは魔王のしぶとさと生命力だ。
片方の蝙蝠の翼は半分ほども失っているため満足に飛行することも難しいだろうに、それでも魔王は懸命に蝙蝠の翼を動かしてどんどん上昇していく。
そして、このままではアリシアが危うい。
アリシアは〈五火神焔剣〉を魔王に巻きつけているため、一緒に天井へと浮き上がっているのだ。
あまりにも魔王が高く飛んでしまったら、〈五火神焔剣〉の効果が切れたときにアリシアは天井付近から身投げするような状態になってしまう。
そうなればアリシアは受け身を取れたとしても、あまりの高さからの落下に全身を強く打ちつけて最悪の場合は死にいたる可能性もある。
もう少し……もう少しだ!
俺は必死に神火砲の内部へ精気を送り、その精気を圧縮させて精気弾を一刻も早く作ろうと躍起になった。
せめてアリシアが受け身を取れる高さのときに精気弾を作るのだ。
などと思っていた矢先、ついに砲身の中に精気弾が完成したことを肌で感じた。
よし、と俺は再びアリシアに向かって声を上げる。
「アリシア、もういい! そこから飛び降りろ!」
そう言い放ったのと、アリシアが炎の鞭を手放したのはほぼ同時だった。
おそらく、もうすでに限界を迎えていたのだろう。
空中から床に飛び降りたアリシアだったが、激しく体力と精気を消費していたため着地したあとにそのまま倒れてしまった。
本来だったらすぐさま駆け寄って介抱するのだが、今はそれよりも確実にやるべきことがある。
アリシア、お前の思いは絶対に無駄にしないからな!
そうである。
今はアリシアの介抱よりも優先すべきことがあった。
魔王をこの場で必ず倒す。
それがアリシアの思いに報い入る最大の行動。
ゆえに俺は空中にいる魔王に砲口を合わせる。
すると精気弾が完成していたこともあってか、他の形状武器と同じく神火砲だけの機能の1つが発動した。
俺の右目に当たる良い位置に、砲身から半透明の小さくて四角い照準器が出てきたのだ。
その照準器越しに魔王を見ると、照準器には【標的完全補足】という文字が浮かび上がってくる。
食らえ!
俺は万感の思いを胸に、引き金に掛けていた左手の人差し指を引いた。
ドゴォンッ!
大広間全体に巨大な爆発音が轟き、竜頭の形をしていた砲口からは黄金色に煌めく精気弾が発射される。
そんな神火砲から放たれた黄金色に輝く精気弾は、大気を震わせながら魔王へと一直線に放たれていく。
「グアアアアアアアアアアアアアアアア――――…………」
黄金色の奔流となった精気弾は、悲鳴を上げた魔王を跡形もなく粉砕した。
それだけではない。
精気弾はそのまま開いていた窓を突き抜け、漆黒の夜空に向かってどこまでも伸びていく。
このとき花街の人間たちはおろか、宮廷にいた皇帝を始めとした東安中の人間たちが一斉に夜空を見上げたという。
のちにこの出来事は、華秦国の民衆の間に長く語り継がれることになる。
魔王を跡形もなく消し飛ばした、神火砲の精気弾。
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