【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔

文字の大きさ
上 下
63 / 67

第六十三話  追撃

しおりを挟む
 私は龍信りゅうしんにすべてをたくすと、腹の底から気合を発して魔王へと疾走していく。

忌々いまいましい女め! どこまで私の邪魔をすれば気が済むんだ!」

 魔王は全身から邪悪な闘気を放出し、私に向かって猛進してくる。

 蝙蝠こうもりの翼の1枚を失っても重心の位置など関係ないのだろう。

 魔王はまたたく間に私の眼前へとせまってきた。

 だが、以前のような身が震えるほどの恐怖は感じない。

 私の両手には燃え盛る炎の刃が握られているからだ。

「セヤッ!」

 裂帛れっぱくの気合一閃。

 私は〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉を縦横無尽じゅうおうむじんに振るった。

 大気を切り裂く炎の刃を、あらゆる角度から魔王へと放つ。

「チッ!」

 魔王は舌打ちすると、私が繰り出した攻撃を黒狼こくろうの機動力で回避かいひしていく。

 さすがに〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉を生身で受けることは危険だと判断したのだろう。

 何撃目かの私の斬撃をかわした魔王は、後方に大きく後退して距離を取った。

 すると魔王は不可解な行動に出た。

 残っていた蝙蝠こうもりの翼で自分の肉体を傷つけたのだ。

 魔王の上半身には元からあった裂傷とは別に、同じぐらいの深さの傷が出来上がった。

 見方によっては魔王の肉体に「×」の字が浮かび上がっているように見える。

 もちろん人間の肉体に憑依ひょういしているため、その傷口からはドクドクと激しく出血していた。

 何をするつもりなの?

 そう私が思った直後だった。

 魔王は蝙蝠こうもりの翼の先端に、自分の身体から出ている血をべったりと付けたのだ。

 それだけではない。

 そのまま魔王は私に向かって蝙蝠こうもりの翼を薙ぎ払った。

 蝙蝠こうもりの翼に付着していた大量の血が私に飛んでくる。

「――――ッ!」

 身の危険を感じ取った私は、すかさず〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉を振るった。

 大量に飛んできた血の大半を空中で焼き切ることはできたが、それでも数滴の血だけは焼き入れずに私の衣服へ付着するのを許してしまった。

 すると――。

 ジュウッ、と音を立てて衣服の一部が焼け焦げたのだ。

 信じられなかった。

 今や魔王の血は普通の血ではなく、触れれば衣服や肉体を焼き切るような異形の力を持っている。

 では、なぜここにきて魔王はそのような攻撃に切り替えてきたのか。

 決まっている。

 間違いなく、私の〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉の対抗策だ。

 うかつに近づいて攻撃すれば逆に〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉で肉体を焼き切られる恐れがあるため、遠く離れた状態で私に攻撃する策に切り替えたのだろう。

 もしかすると、私の〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉が長く現出げんしゅつできないと本能で悟ったのかもしれない。

 こうなると闘いの優位性は明らかに魔王のほうが高くなってしまう。

 いくら私の〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉の威力が凄まじいとはいえ、遠距離にいる相手にはどうしようもできない。

 どうすればいいの。

 私は苦々しく歯噛はがみした。

 せめてこの〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉も龍信りゅうしんの〈宝貝パオペイ〉のように、魔王を一時的でも捕縛ほばくできるような形状の武器に変化できたら……。

 いいのに、と考えたときだった。

 私は手元にある〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉を見て驚愕きょうがくした。

 なぜなら火焔剣かえんけんと形容するのがぴったりだった〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉が、突如とつじょとして別の形状へと変化していったからだ。

 それはさながら炎のむちだった。

 両手で握っていたつかの部分はそのままで、そこから先の刀身の部分が異様に柔らかに伸び、あっという間に16.5しゃく(約5メートル)はあろうむちの形状へと変わったのである。

 まさか、と思ったのは私だけではない。

 魔王も明らかに私の武器の形状が変わったことに驚いている。

 でも、一体どうして?

 このとき、私は自分の〈宝貝パオペイ〉の名前にハッとした。

五火ごか神焔剣しんえんけん〉というのは私が付けた名前ではない。
 
 神仙界しんせんかいで〈宝貝パオペイ〉の実を食べたときに、おのずと心の中に浮かんできた名前である。

 だとすると、名前自体が〈宝貝パオペイ〉の特性を表しているのではないだろうか。

 龍信りゅうしんが使っている〈宝貝パオペイ〉――〈七星剣しちせいけん〉がその良い例だ。

 この華秦国かしんこくの数字である〝七〟が付いており、その特性は7に形状変化できるという。

 そして私の〈宝貝パオペイ〉――〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉には、この華秦国かしんこくの数字である〝五〟が付いている。

 ……つまり、この〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉は名前の通り、5に形状変化できるということなの?

 私の予想が合っているかどうかは分からない。

 実際に5つの武器に形状変化させたわけではないからだ。

 だが、そうとしか考えられないような現象が起こったのも事実である。

 剣の状態だった〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉が、魔王を遠くからでも捕縛ほばくできるようなむちに似た武器に変化したのだから。

 どちらにせよ、こうなったらやってみるしかない。

 私は魔王を捕縛ほばくするようなイメージを強く抱き、むちのような形状になった〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉を振るった。

 するとどうだろう。

五火ごか神焔剣しんえんけん〉は獲物に飛び掛かる大蛇のように動き、その場で固まっていた魔王の肉体に巻きついたのだ。

「ギャアアアアアアアアアアア――――ッ!」

 これには魔王ものどが張り裂けんばかりに絶叫した。

 肉の焼け焦げる匂いと、大量の黒煙が魔王の肉体から立ちのぼっていく。

 さすがの魔王も生命の危機を如実にょじつに感じ取ったのだろう。

 私の〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉で半分だけ焼き切られていた蝙蝠こうもりの翼を使ってまで、この場から逃げるように天高く飛翔し始めたのだ。

 やがて魔王が天井に飛翔していくにつれ、〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉を握っていた私の身体も浮き上がった。

 一瞬、〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉を手放そうかとも考えた。

 しかし、つかの部分から手を離したと同時に〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉の効果が消えてしまうことを懸念した。

 それゆえに私の身体は、半ば魔王に連れ去られるような感じで浮き上がったのである。

 絶対に手放さない!

 おそらく魔王はこの場から逃走しようとしている。

 大広間ホールの天井の一部は硝子ガラス製になっていたのだが、先ほどの紅蓮水晶ぐれんすいしょうの爆発で粉々になっていた。

 そこから魔王は外へと逃げ出そうとしてるのだ。

 だとしたら、絶対に逃がすわけにはいかない。

 この場から逃がしてしまえば、魔王は今回の教訓を最大限に生かして完全に表舞台から姿を消すだろう。

 そして、次からは絶対に自分の正体がバレないように苦心するはずだ。

 そうなれば完全に打つ手が無くなる可能性が高い。

 ここで魔王を倒すんだ!

 ここで私の勇者としての役目を終わらせるんだ!

 私は力の限り体内に残っていた精気を、〈五火ごか神焔剣しんえんけん〉へと送り続けた。

「お、おのれえええええ! 離せ、離せええええええええ――――ッ!」

 魔王は全力で私を振り解こうとする。

 その力は凄まじく、さすがの私でも長時間耐えられるものではなかった。

 やがて私の体内からは精気が、両手からはみるみると握力が失われていく。

 も、もう駄目……。

 と、抵抗を諦めかけたそのとき。

「アリシア!」

 私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「あとは俺に任せろ!」

 このとき、私の視界にはっきりと飛び込んできた。

 巨大な大砲のような武器をかついでいる龍信りゅうしんの姿が――。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...