【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔

文字の大きさ
上 下
56 / 67

第五十六話  紅蓮水晶

しおりを挟む
「小僧、何をする気だ!」

 魔王は破山剣はざんけんに集中させた膨大な精気に危険を感じたのだろう。

 下半身の黒狼こくろうが遠吠えを発するやいなや、死体を踏みつぶしながら疾風しっぷうの如き速度で俺に襲い掛かってくる。

 ――変化する時間まで残り8呼吸分(約40秒)。

 俺は魔王からの攻撃をけるため、その場から素早く移動した。

 それでも魔王の機動力は凄まじく、あっという間に俺の間合いの近くにまで接近してくる。

 ――変化する時間まで残り6呼吸分(約30秒)。

 次の瞬間、一陣いちじんの黒い風が横薙よこなぎに飛んできた。

 蝙蝠こうもりの翼による攻撃だ。

 俺は凄まじい速度で向かってきた翼による攻撃を、間一髪のところで身をかがめることで回避する。

 しかし、魔王の追撃は終わらない。

 続けざま黒狼こくろうによる口撃こうげきが襲い掛かってくる。

 ――変化する時間まで残り4呼吸分(約20秒)。

 俺は口撃こうげき時機タイミングを冷静に見計みはからうと、助走も無しに跳躍ちょうやくして黒狼こくろうの額に飛び膝蹴ひざげりを食らわせた。

 そして俺は飛び膝蹴ひざげりを放った直後、そのまま黒狼こくろうの額を足場にして魔王が憑依ひょういしている無明むみょうの肉体に連続蹴れんぞくげりを見舞っていく。

 当然のことながら、一蹴いっしゅうごとに〈発勁はっけい〉を加えることは忘れない。

 ――変化する時間まで残り2呼吸分(約10秒)。

 そのまま俺は相手の肉体をけ上がりながらりを繰り出し、最後に脳天へと蹴り込んだ反動を利用して天高く跳躍ちょうやくする。

 いや、それは跳躍ちょうやくと言うよりも浮遊ふゆうだった。

 精気練武せいきれんぶの1つ――精気に浮力ふりょくを持たせる〈軽身功けいしんこう〉である。

 この重力を半ば無視した動きが可能な〈軽身功けいしんこう〉によって、俺は通常よりも長い滞空時間を維持いじしようとしたのだ。

 すべては遁龍錘とんりゅうすいに変化させる時間をかせぐため。

 やがて俺が天井近くまで〈軽身功けいしんこう〉により飛び上がると、条件を満たした破山剣はざんけんろく番目の形状武器――遁龍錘とんりゅうすいへと姿を変えた。

 よし、と俺は遁龍錘とんりゅうすいを持つ手に力を込める。

 食らえッ!

 そして俺は真下にいる魔王に向かって、このときを待っていたとばかりに遁龍錘とんりゅうすいを勢いよく投げ放った。
 
 遁龍錘とんりゅうすいは重力に従いながら魔王へと落下していく。

 そんな遁龍錘とんりゅうすいは空中で本来の効力を発揮はっきした。

 遁龍錘とんりゅうすいの先端についていた3つの金の輪が弾け飛び、魔王を取り囲むように空中で静止したのだ。

 それだけではない。

 急激に伸びたくさりが3つの金の輪の中に走り抜け、魔王の身体を完全に包囲ほういする3角形の結界へと形成されていく。

 もちろん、遁龍錘とんりゅうすいの力はこれだけではなかった。

 魔王の身体を空中で包囲ほういした直後、遁龍錘とんりゅうすいくさりは一気にちぢんで魔王の肉体を蝙蝠のこうもり翼と黒狼こくろうごと締め付けたのだ。

「な、何だこれは!」

 魔王の口から狼狽ろうばいした声がれる。

 当たり前だ。

 遁龍錘とんりゅうすいは相手を完全に包囲できれば、それこそ本物の龍さえも捕獲ほかくできる形状武器である。

 いくら西方の魔王とはいえ、そう簡単に脱出することは不可能なはず。

 俺は〈軽身功けいしんこう〉によってゆっくりと下降していく中、遁龍錘とんりゅうすい捕獲ほかくされた魔王の動向を視認する。

「おのれえええええ――――ッ!」

 魔王は自分の身体を締め付けている遁龍錘とんりゅうすい困惑こんわくしていた。

 力任せに引き千切ろうと身体をもだえさせるが、魔王が抵抗すればするほど遁龍錘とんりゅうすいはその力を外へ外へとがしていく。

 もはや魔王は完全に遁龍錘とんりゅうすいによって動きを封じられていた。

 ここだ!

 俺はカッと目を見開き、〈軽身功けいしんこう〉を解いた。

 すると俺の身体は本来の重力に従って急速に落下する。

 その最中、俺はふところから魔道具を取り出して体勢を整えた。

 すぐに俺の身体は2呼吸分(約10秒)も掛からずに、遁龍錘とんりゅうすいから脱出しようと足掻あがいている魔王の肩へと降り立つ。

「小僧!」

 魔王は凄まじい殺意を乗せてえるが、俺はそんなものは無視して装飾部分から赤い石――紅蓮水晶ぐれんすいしょうぎ取った。

 10……9……8……7……

 同時に頭の中で10から1へと数を逆に数えていく。

 俺は平衡バランスを保ちながら5まで数を数えたとき、筋肉で盛り上がっていた魔王の肩を足場にして再び〈軽身功けいしんこう〉を使って飛んだ。

 ……4……3……2……

 そして俺は空中で魔王を凝視しながら2まで数を数えたとき、魔王の頭部に向かって紅蓮水晶ぐれんすいしょうを投げつけた。

 ……1……

 俺は床に着地したと同時に、さらに床を強く蹴って魔王から遠ざかる。

 その直後だった。

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 けたたましい音とともに紅蓮水晶ぐれんすいしょうが爆発し、大広間ホール全体を激しく揺れ動かすほどの衝撃波が周囲に広がったのだ。

 俺やアリシアを始めとした、爆心地の中心に近かった人間はその爆風によって吹き飛ばされた。

 けれども、吹き飛ばされたのは生きている人間たちだけではない。

 床に散乱していた大勢の死体も四方八方に吹き飛ばされたのである。

 どれぐらいの時が経っただろうか。

 床に這いつくばっていた俺は、キーンとする耳鳴りを無視して周囲を見渡す。

 すぐ近くにはアリシアが俺と同じく地面に這いつくばっていた。

 どうやら意識は失ってはいないようだ。

 爆発する寸前に亀のように身体を丸め、爆風と衝撃波から自分の身を守ったのだろう。

 続いて俺はアリシアから魔王へと顔を向けた。

「――――ッ!」

 俺は口を半開きにして唖然あぜんとした。

 何と魔王は大広間ホール全体を揺るがすほどの爆発を受けながら、依然いぜんとして肉体の原型をとどめていたのだ。

 しかし、やはり無傷とはいかなかったのだろう。

 無明むみょうの肉体、蝙蝠こうもりの翼、黒狼こくろうにいたるすべてが黒焦げの状態になっていた。

 半死半生はんしはんしょうとはまさにこのことを言うに違いない。

 などと俺が思ったとき、魔王の肉体を拘束していた遁龍錘とんりゅうすいがバラバラに砕け散った。

 壊れたわけではない。

七星剣しちせいけん〉を使う際の条件を満たしたので、再びいち番目の形状武器である破山剣はざんけんへと戻ったのだ。

 そして破山剣はざんけんは再び俺の手元へと飛んで戻ってきた。

 これで終わりか?

 俺は黒焦げとなった魔王をただひたすらに見つめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...