【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔

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第五十三話  過去

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 俺は頭上に大きな疑問符を浮かべた。

 正直なところ、無明むみょうという男の言っている言葉を理解できない。

 俺があの男の大切な人間たちを殺した?

 無明むみょうの言い方からすると、女房や子供のことなのだろうか。

 俺は心中で首を左右に振る。

 そんなことは天地神明てんちしんめいちかって絶対にしていない。

 俺は相手を威嚇いかくするように破山剣はざんけんを中段に構えると、全身からどす黒い殺意を放射している無明むみょうたずねる。

「あんたは一体、何者なんだ?」

 本当に素朴そぼくな疑問だった。

 先ほどから必死に思い出そうと努力してみたが、やはり5けん(約9メートル)先にいる無明むみょうという男に関する記憶がまったくない。

 少なくとも俺が人間界に来てから仁翔じんしょうさまのお世話になっていた間に、魚鱗ぎょりんのような肌をした人間に出会ったことなど皆無かいむであった。

 では、笑山しょうざん孫家そんけから追放されたあとに出会った人間なのか?

 答えはいなである。

 俺はこの東安とうあんまでの道中どうちゅうで何人もの人間に出会ってきたが、やはりあのような妖魔と見間違えるほどの人間に会ったことなどない。

 けれども、無明むみょうは確かに俺のことを〝孫龍信そん・りゅうしん〟だと言った。

 つまり、誰かと俺を間違えている可能性はこれで消えたことになる。

 だとすると、余計に頭が混乱してしまう。

 無明むみょうから発せられている殺意には混じり気がなかった。

 無差別的に人を襲う快楽殺人者のそれではなく、明確に1人の相手を選んで放っていた意思のある殺意なのだ。

 要するに、無明むみょうは俺に対して激しいうらみをいだいている。

 それは無明むみょうが言っていたように、俺が無明むみょうの大切な人間たち――たとえば女房や子供を殺したと思われているからだろう。

 しかし、俺には無明むみょうからうらまれるような心当たりが毛ほどもない。

 そもそも無明むみょう自身と会ったこともないのに、無明むみょうの大切な人間たちを殺したなどということが信じられなかった。

 などと混乱しながら考えていたときである。

「まあ、お前が俺のことを忘れているのも無理はないか。あのときと今の俺を比べると実力も身体も……何もかもすべてが別人だからな」

 すると無明むみょうは、顔をおおい隠していた黒頭巾くろずきんを取った。

 俺は瞠目どうもくする。

 妖魔と見間違えるほどの、鱗状うろこじょうに硬質化した異様な肌。

 血色の悪いせこけたほほ

 ギラギラと怪しい輝きを放つ双眸そうぼう

 本当に人間なのか疑ってしまうような凄まじい風貌ふうぼうだ。

 だが、無明むみょうは間違いなく人間だった。

 人間にしか使えない、先ほどの〈精気練武せいきれんぶ〉がそれを如実にょじつに物語っている。

 一方の素顔をさらした無明むみょうは、爬虫類はちゅうるいのような冷酷れいこくな笑みを浮かべた。

 …………ん?

 このとき、俺は無明むみょうの素顔を見て眉根まゆねを寄せた。

 何だ……この腹の底から込み上げくる嫌悪感は?

 無明むみょうの肌が気持ち悪いからとかそういうことではない。

 初対面のはずの無明むみょうを見つめていると、なぜか魚の小骨がのどに引っ掛かっているような感じがしてくる。

「顔を見てもまだ思い出せんか」

 ならば、と無明むみょうは上半身に着ていた黒衣を脱ぎ捨てる。

「――――ッ!」

 俺はあまりの驚きに息をんだ。

 無明むみょうの細身だが鍛え抜かれていた上半身には、剣で袈裟斬けさぎりにされたような痕跡があった。

 特にその傷跡だけは鱗状うろこじょうに硬質化した肌ではなかったため、遠目からでも切れ目のような形で視認することができたのだ。

 そして、俺はその傷跡に心当たりがあった。

「まさか……」

 くくくっ、と無明むみょうは嬉しそうに笑う。

「ようやく思い出したか……俺は数年前、お前に部下たちを皆殺しにされた盗賊団の頭目とうもくよ」

 それは忘れたくても忘れられない。

 確かに俺は数年前、ある人間たちを皆殺しにした。

 そのある人間たちとは、仁翔じんしょうさまと優炎坊ゆうえんぼっちゃんを乗せた馬車を襲った盗賊団どもである。

 これはあとで知ったことなのだが、その盗賊団どもは役人たちも手を焼いていたほどの有名な盗賊団だったらしい。

 それこそ近隣きんりんの村々で、金品の強奪ごうだつや馬などを盗むなどは日常茶飯事にちじょうさはんじ

 狙われればどんなに命乞いのちごいをしても男は殺され、女は子供だろうと犯された上に殺されるか人買いに売られる。

 まさに悪逆非道あくぎゃくひどうの限りを尽くしていた外道どもだったという。

 どうりで嫌な感じがしたはずだ。

 あのときのことは今でも昨日のことのように思い出せる。

 14、5人ほどの盗賊団はどの人間もそれなりの実力を持ち、中でも頭目とうもくだった屈強くっきょうで長身の男は、並みの道士どうしでは及ばないほどの腕前を持っていた。

 なので、その頭目とうもくの男にはより強く力を込めて斬り捨てたのだが……。

「まさか、生きていたのか」

「いいや、盗賊団の頭目とうもくだった烈馬英れつ・ばえいという男はあの日に死んだ」

 無明むみょう酷薄こくはくな笑みから一転、苦虫にがむしみ潰したような顔になる。

「ここにいるのは冥界めいかいよりよみがえった亡者よ。大切な部下たちを殺し、俺の人生を狂わせたお前に復讐を果たすためにな」

 そう言うと無明むみょうは、自分の身体を忌々いまいましそうに見る。

「この身体はそのために作り上げたのだ。中農ちゅうのうの街で評判だった薬士くすしから薬毒法の秘伝書を盗み、それをもとに地獄の苦しみと痛みを耐え抜いて作り上げた。すべては孫龍信そん・りゅうしん……お前に俺が味わった以上の苦痛を与えて殺すためにな!」

 ちょっと待て。

 今、あいつは何て言った?

 俺は無明むみょうの聞き捨てならなかった告白に動揺したとき、どこからか「お前か!」という大声が聞こえてきた。

 声が聞こえたほうに目線を移すと、端にあった柱の陰から春花しゅんかが出てきた。

 おそらく、惨劇さんげきに巻き込まれないよう柱の物陰で息を殺していたのだろう。

「うちの親父おとんを殺して秘伝書を盗んだのはお前なんか!」

 そんな春花しゅんかは怒りに身を震わせ、無明むみょうに向かって勢いよくえる。

 無明むみょう春花しゅんかを見て小首をかしげた。

「あの薬士くすしの娘か? 俺が殺したそこの妖魔となった豚といい、つくづく今宵こよいは色々なことばかり起こるな」

 まあいい、と無明むみょうはニヤリと笑った。

「今日はようやく悲願だったかたきに出会えて気分が良いんだ。おい、薬士くすしの娘。そこで大人しくしていれば殺すのだけは勘弁しておいてやろう」

 と、無明むみょうつぶやいた直後である。

「嘘をつくな。あの小僧を殺したあかつきには、お前はここにいる全員も殺す気だろうが」

 無明むみょうの身体からまったく別人の声が聞こえてきた。

 厳密には血で真っ赤に染まっていた右手からである。

 これには無明むみょうも目を見開き、「な、何だ!」と驚愕きょうがくする。

 直後、異様なことが起こった。

 無明むみょうの右手の血がひとりでに動き、巣穴にもぐり込むへびのように無明むみょうの口内へと入っていく。

「ぐあああああああああああああ――――ッ!」

 魂をけずるほどの叫声きょうせいが周囲に響き渡り、無明むみょうは全身をガクガクと震わせながらもがき苦しんだ。

 どれぐらい経ったときだろうか。

 不意に無明むみょうの動きがピタリと止まった。

 そして――。

「次の宿主はあの小僧にしようかとも思ったが、この男の身体も中々良い……いや、この男の身体こそ私が求めていた至高の器かもしれん」

 無明むみょうは自分の身体を見回し、先ほどとは違って歓喜かんきの笑みを浮かべた。
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