【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔

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第五十話   魔王の眷属

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「ひいいいい――ッ!」

「きゃあああ――ッ!」

 俺とアリシアは異様な悲鳴を聞いて立ち止まる。

 2階へ続く階段を見つけ、これから上がろうとした寸前であった。

龍信りゅうしん……」

「ああ、おそらく大広間ホールのほうからだな」

 春花しゅんかからの伝言メッセージで建物の内部は把握している。

 自分たちが入ってきた場所から推測すると、大勢の男女の悲鳴が聞こえてきたのは大広間ホールのほうからだった。

 ただ事ではない。

 俺とアリシアは〈気殺けさつ〉の状態を維持いじしていたため何が起こったかは分からなかったが、尋常じんじょうではない事態が起こったことはその悲鳴を聞いただけでも知ることができた。

 俺とアリシアは互いに顔を見合わせてうなずいた。

気殺けさつ〉を解いて、代わりに〈聴勁ちょうけい〉を使う。

聴勁ちょうけい〉を使えば察知さっち能力が大幅に向上し、大広間ホールで何が起こっているか感覚的に把握はあくできるからだ。

「――――ッ!」

聴勁ちょうけい〉に使い分けた途端、大広間ホールのほうから力の塊が感じ取れた。

 間違いない。

 紅玉こうぎょくという妓女ぎじょ憑依ひょういしている魔王のものだ。

 しかも以前よりはるかに強大で凶悪な力をひしひしと感じる。

 それはアリシアも明確に察知さっちできたのだろう。

 となると、これから向かう場所は変わってくる。

 俺たちは2階へ続く階段から背を向け、急ぎ大広間ホールへと向かった。

 やがて大広間ホールへ到着すると、俺とアリシアは驚愕きょうがくした。

 そこには吐き気をもよおすほどの、凄惨せいさんな光景が存在していたからだ。

 死体である。

 男も女も関係なく、大広間ホールには大量の人間の死体が転がっていた。

 俺たちが死体を見渡していると、他の場所にいた客の男たちや妓女ぎじょたちが大広間ホールに来て絶叫する。

 中にはそのまま失神する妓女ぎじょや客の男もおり、何とか意識をたもてた客の男たちは出入り口へと慌てて逃げ出していく。

 一方の俺たちはここから逃げ出すわけにはいかなかった。

 ここで何が起こったんだ?

 俺とアリシアは悲鳴と絶叫が交錯こうさくしている中、どこかにひそんでいる魔王を見つけるために周囲を見渡す。

 だが、やはり床に転がっている死体にどうしても目が行ってしまう。

 死体の中には客の男たちや妓女ぎじょたちだけではなく、俺とアリシアが相手をした用心棒たちの死体もそろっている。

 ただし、どの死体もまともに原型をとどめてはいなかった。

 ざっと大広間ホールの中を見渡しただけでも、何か鋭利な刃物で身体を切り裂かれたような死体が圧倒的に多い。

 中には生首だけの状態の死体もいくつもあった。

 そのせいで床にはおびただしいほど血の海が広がり、むせるような凄まじい異臭が大広間ホール全体に充満じゅうまんしている。

 地獄絵図じごくえずとはまさにこのことだな。

 客の男たちや妓女ぎじょたちが気を失うのも無理はない。

 さすがの俺でもこの光景には顔をしかめるしかなかった。

 一方のアリシアも気を失うことや吐くことはなかったが、濃厚な血の匂いと裂けた小腸の中から発している大便の匂いに顔をゆがめている。

 直後、俺とアリシアは同時にハッとした。

春花しゅんかッ!」

 俺たちはそろえて声を上げると、死体の中に春花しゅんかがいないか確認する。

 大広間ホールの中は血の海と化していたが、それでも死体が着ている服などは何となく確認することができた。

「…………」

 どうやら死体の中には春花しゅんかもそうだが、何かと協力してくれた景炎けいえんさんの死体もないようだ。

 良かった、と俺たちはひとまず安堵あんどの息を吐いた。

 それでも生身の状態を確認するまでは完全に安心できない。

 と、俺とアリシアが死体から他の場所へ視線をらそうとしたときだ。

 転がっていた死体の1つが動き始め、両手を床について起き上がったのである。

 その死体は肉体が損壊そんかいしている他の死体とは違い、きちんと胴体に手足がついている太った男の死体だった。

 まさか、と俺は思った。

 けれども、顔を確認したことで俺の疑いは確信へと変わる。

 孫笑山そん・しょうざん

 仁翔じんしょうさまと優炎坊ゆうえんぼっちゃんの後釜で孫家そんけの当主となり、俺を孫家そんけの屋敷から追放した張本人であった。

「ふひ……ふひひ……ふひひひ……」

 そんな笑山しょうざんは、俺の顔を見るなりニヤリと笑った。

「お、おお……だ、誰かと思えば……りゅ、りゅ、龍信りゅうしん……りゅ、りゅ、りゅ、龍信りゅうしんではないか……げ、げ、元気、げ、げ、げ、元気だったか?」

 いや、それは俺が知っている笑山しょうざんではなかった。

 なぜか裸だった笑山しょうざんは全身血まみれの状態で、気の弱い人間ならすくみ上がるほどの低い声で話しかけてくる。

「……僵屍キョンシー

 俺はぼそりとつぶやいた。

 僵屍キョンシーとは、何らかの理由で死後に妖魔となった死体のことだ。

 そして、まさに今の笑山しょうざんはどう見ても僵屍キョンシーになっていた。

 明らかに精気が抜け落ちた状態は死体のそれであり、人間とは思えない目つきや異様なしゃべり方が僵屍キョンシーであることを明確に示している。

 なので俺は瞬時に身構えた。

 僵屍キョンシーとなった者は、生前の体力や筋力などは一切関係なく凄まじい怪力を発揮はっきするようになる。

 それこそ、大木を両腕で抱きかかえて粉砕ふんさいするほどの腕力を得るのだ。

 ただ、気になることが1つだけあった。

 それは――。

龍信りゅうしん、あの吸血鬼ヴァンパイアの男とは知り合いなの?」

吸血鬼ヴァンパイア?」

 俺は隣にいたアリシアに顔だけを向ける。

「間違いない。あの男は魔王に眷属けんぞくにされた吸血鬼ヴァンパイアだわ」

 アリシアはごくりと生唾なまつばを飲み込んだ。

吸血鬼ヴァンパイアというのは、私たちの大陸でも最上級の強さを持つ魔物の総称よ」

 俺はアリシアから再び笑山しょうざんへ顔を戻していた。

「その吸血鬼ヴァンパイアとやらの特徴は?」

「すでに死んでいるのは当然だけど、生前の記憶を持っているから普通の魔物と違って少しはしゃべられるの。でも、それは眷属けんぞくにされた吸血鬼ヴァンパイアに限っての話よ。あとは獣のような特性が現れることが多いわ。生前の体力や筋力とは比べ物にならないほど強くなっているぐらいにね」

 なるほど、と俺は心中でうなずいた。

 華秦国かしんこく僵屍キョンシーは基本的に生前の記憶が無くしゃべられないはずなのに、どうして笑山しょうざんが記憶を持って口が聞けたのか納得できた。

 笑山しょうざんは西方の国の妖魔――吸血鬼ヴァンパイアとやらにされたのか。

「ちなみに、その吸血鬼ヴァンパイアはどうやって倒す?」

「武器で倒すのなら正確に心臓を一突きするしかない。でも吸血鬼ヴァンパイアにされた人間は身体が硬質化していて、よほどの技量と武器を持ってないと皮膚をつらぬけないの。だから1番確実なのは、太陽の光を浴びせるか火で焼くことね」

 聞く限りでは細かい点では違いがあるものの、僵屍キョンシーだろうと吸血鬼ヴァンパイアだろうと同じだった。

 華秦国かしんこく僵屍キョンシーの弱点も日光と火なのだ。

 妖魔だろうと西も東もないんだな。

 などと考えていると、アリシアは腰の長剣を抜いた。

「ああなったら、もうあの男を人間として助けるのは無理よ。もしも顔見知りだったら残念だけど……」

「分かっている」

 俺も〈七星剣しちせいけん〉のいち番目の形状武器――破山剣はざんけんを抜き放つ。

 1番の弱点は太陽の光を浴びせるか、もしくは火で焼く……か。

 あいにくと今は夜であり、この大広間ホールに火の類はまったくない。

 だが心臓を正確に突けば倒せるのなら、破山剣はざんけんでも通用するだろう。

「アリシア、お前は魔王がどこにいるのか探してくれ」

「あなたはどうするの?」

「どうするもこうするもないさ」

 俺は〈聴勁ちょうけい〉を解いて、今度は〈周天しゅうてん〉を使った。

 すると下丹田げたんでんの位置に、目をくらませるほどの黄金色の光球が出現する。

 その不可思議な光球からは火の粉を思わせる黄金色の燐光りんこう噴出ふんしゅつし、螺旋らせんを描きながら俺の全身を陽炎かげろうのようにおおっていく。

「あの男とは大きなえんがあってな。このまま妖魔としてのさばらせるわけにはいかない」

 だから、と俺は破山剣はざんけんの切っ先を笑山しょうざんに向けた。

「あの男は俺が倒す」
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