【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔

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第四十五話  二度目の潜入

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 今日の彩花さいかは、街全体が異様な熱気と活気に満ちていた。

 普段は花街はなまちと無縁な人間たちも大通りにあふれ返っており、旧正月でもないのに祝い事の爆竹ばくちくがあちこちで鳴り響いている。

 理由は1つ。

 翡翠館ひすいかん紅玉こうぎょく身請みうけされる、という話が東安とうあんに広まったからだ。

 そのため今日から翡翠館ひすいかんを中心に、花街はなまち全体がお祭り騒ぎと化している。

 景炎けいえんさんの話によると、翡翠館ひすいかんでは身請みうけが決まった日の夜から豪勢なうたげが始まったらしい。

 好都合とはまさにことだった。

 この騒ぎに乗じてなら、翡翠館ひすいかんまでは簡単に近づけるはずだ。

 時刻は夜――。

 現在、俺はアリシアと一緒に馬車の荷台の奥に隠れている。

 そんな荷台全体には大きな布がかぶせられていて、その布の下には食糧や酒、それに妓女ぎじょが好みそうな衣服の他に薬などもめ込まれていた。

 その商品の間に、俺とアリシアを身を隠しているのだ。

 ちなみに馬車の馭者ぎょしゃ景炎けいえんさんであり、その景炎けいえんさんの隣には薬士くすしとしての春花しゅんかが乗っている。

 やがて馬車は人混みをき分けながら、目的地である翡翠館ひすいかんへと到着した。

 厳密には翡翠館ひすいかんの裏口に当たる場所にだろう。

 それぐらいは布越しとはいえ、気配と音で余裕で分かる。

 俺とアリシアは馬車が止まるなり、外から聞こえてくる音と声に耳をかたむけた。

「何だお前らは?」

「はい、私どもは旅の行商人でございます」

 などと演技している景炎けいえんさんと、翡翠館ひすいかんの人間との会話が聞こえてくる。

 直後、俺たちの姿が見えない部分の布ががされた。

「ご覧の通り、食料や衣服の他に薬などもありますよ。聞いたところによると、こちらではしばらく盛大なうたげが開かれるとか……それで、もしよろしければ色々と私どもの商品を買っていただけないかと思いましてね」

「それにしても、普通は朝か昼間に来るものだろう?」

「申し訳ありません……ですが、私どもは昨日今日この東安とうあんに来た流れ者です。まともな時間に来ても断られるかもと思い、うたげがもっとも楽しくなる時刻に来れば何かと買っていただけるかと思った次第でして」

「ふん、商売上手だな。確かに思ったよりも客が来て、この時刻には食材や酒が少なくなっていたんだ」

「おお、それは好都合。それに私の隣にいる娘は薬士くすしでしてね。どうですか? ここらでは手に入らない珍しい薬もありますので、他の商品を買っていただけるのなら格安で薬を処方しますよ」

「ほう、それはうちの女どもが喜ぶな……いいだろう、ざっと見たところ商品も良さげだ。とりあえず、上に掛け合ってみるからここで待ってろ」

「ありがとうございます」

 と、景炎けいえんさんが言ってしばらくしたあとである。

 バンバンバン。

 荷台のふちを正確に3度叩く音がした。

 出て来るなら今だ、という前もって決めていた合図だ。

 その合図を聞いた俺とアリシアは、素早く布をめくって荷台から飛び降りた。

 景炎けいえんさんが知らせてくれたように、今の翡翠館ひすいかんの裏口には誰もいない。

「よし、今の内だ」

 俺は用意していた細縄のたばを肩にかつぐと、翡翠館ひすいかんの周囲をぐるりと囲んでいる2けん(約3.6メートル)の高いへいを見上げた。

 同時に下丹田げたんでんで精気を練り上げ、その精気を全身にまとわせる。

 次の瞬間、俺は壁に向かって猛進もうしんした。

 そして一定の距離で壁めがけて跳躍ちょうやくすると、そのまま壁を足がかりに一気にへいの上まで駆け上げる。

 いや、今の俺を見た人間の目には〝飛翔ひしょう〟したように映っただろう。

 それほど垂直の高いへいを駆け上がった俺の身体は、風に乗って飛ぶ綿毛わたげのような身軽さでへいを登り切ったのだ。

軽身功けいしんこう〉。

 全身にまとわせた精気自体に、常識では考えられないほどの浮力ふりょくを持たせる〈精気練武せいきれんぶ〉の1つ。

 この〈軽身功けいしんこう〉が使える人間は今の俺のように高いへいも難なく登れることも可能であり、その浮力ふりょくをもっと上手く利用すれば水面みなもに浮いている1枚の葉の上にも立つことができる。

 そんな〈軽身功けいしんこう〉でへいの上に立った俺は、自分の身体に細縄を巻きつけると、その先端を地面へと投げ落とした。

 真下にいたアリシアがその細縄をつかむと、俺は全身にぐっと力を入れた。

龍信りゅうしん、行くわよ」

 アリシアは両腕の筋肉と、壁にかけた足を上手く使って登ってくる。

 普通の女にはできない芸当だ。

「ひとまず第一関門は突破だな」

 俺はへいを登り切ったアリシアに言うと、身体に巻きつけていた細縄を今度は景炎けいえんさんに向かって投げ放った。

 景炎けいえんさんは細縄を素早く回収して荷台に隠す。

 実に鮮やかな手際だった。

 これまでに景炎けいえんさんは似たような仕事をしたことがあるのかもしれない。

 それはともかく。

 しばらくすると、裏口の扉が開いて体格の良い男が現れた。

「喜びな。上からの許可が下りたぞ」

 男は荷台にかぶせていた布をすべてぎ取った。

「今、荷下ろしする奴らが来るからお前らも一緒に商品を中に運んでくれ。そっちの嬢ちゃんは薬士くすしだったよな。ちょうど一昨日にゴタゴタがあって色々と薬が欲しかったんだ」

 そう言うと男は景炎けいえんさんたちに背中を見せた。

 直後、俺は翡翠館ひすいかんへと潜入する前に春花しゅんかを見た。

 春花しゅんかは男のすきうかがいつつ、両手を大きく使って「〇」と俺に向けてくる。

 頼んだぞ、春花しゅんか

 ここまで来るために馬車や商品をそろえてくれた景炎けいえんさん以上に、春花しゅんかは俺たちと違って堂々と翡翠館ひすいかんに入ってをしてもらわなければならない。

 これも何かと危険なことなのだが、春花しゅんかこころよく承知してくれた。

 かなり危ない橋だったが「龍信りゅうしんには仙丹房せんたんぼうでの恩もあるしな」と、俺たちが目的を果たすために大事なを引き受けてくれたのだ。

 だったら、あとは俺たちも魔王を倒すために動くのみ。

 俺はアリシアに顔を向けた。

「アリシア、いよいよ次は第二関門だ。これまでに教えてきた〈精気練武せいきれんぶ〉を発揮はっきするときだぞ」

 小声で言った俺に、アリシアは無言でうなずき返してくる。

 よし、行くぞ。

 すべてはアリシアとともに、魔王という巨悪な妖魔を倒すため――。

 俺とアリシアは翡翠館ひすいかんの敷地の中へと飛び降りた。
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