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第1話 ???の悪夢、もしくは正夢
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私が夢を見るときは、決まって同じ夢だった。
死臭が漂う広大な大地に佇む一人の男。
その男を数万の屈強な兵士たちが取り囲んでいる
男の足元には、無数の屍が無造作に散乱していた。
辺りには怒号と悲鳴が鳴り響き、夥しい血臭が鼻腔に痛む。
そんな地獄絵図さながらの光景を、男は楽しんでいるようであった。
女神のように艶かしい黄金色に輝く長髪。
長くもなく短くもない整った鼻梁。
この世のすべてを見透かすような蒼色の双眸。
美しく鮮やかな朱色の唇。
一切の無駄がない鍛え抜かれた鋼の肉体。
そんな男から醸し出される精悍な雰囲気は、神話の世界から現れた人物さながらだった。
それだけではない。
男は凄まじく強かった。
男がその腕を振るえば、拳の衝撃波が荒れ狂う大河の如く兵士たちに襲いかかった。
人間が風に舞う花片のように吹き飛ばされ、その身から噴出した鮮血が雨と化し、大地に容赦なく降り注ぐ。
それは、絶対的強者による一方的な虐殺だった。
その中には玉砕を覚悟で男に挑む勇敢な兵士もいれば、子供のように泣き叫び命乞いをする兵士もいた。
それでも男の殺戮は止まらない。
一切の分け隔ても躊躇もなく、兵士たちはただの生命なき骸と化していく。
いつものことであった。
そう、いつもならこの場面で夢から覚める……はずであった。
が、その日の夢には続きがあった。
男は殺戮の余韻を十分に味わうと、傍らで傍観していた私の元に歩み寄ってきた。
無数の屍を掻き分け、男が私の目の前に現れる。
返り血で全身が真紅に染まっているその男は、戦いを好む闘神の姿そのものだった。
そんな闘神の朱唇が微かに動いた。
「もうすぐ、もうすぐだ……サクヤ」
この言葉の後に、私は悪夢から抜け出すことができた。
神経が異常に昂ぶり、汗腺からはとめどない汗が流れ出てくる。
意識が混乱し朦朧としている中で、私の頭の中にはっきりと刻まれた記憶があった。
闘神の左目が紅く染まっていたのだ。
夕陽のような赤でもなく、貴婦人の唇のような朱でもなかった。
それは、血のように深い色をした紅であった。
「狙うは、皇王の首級だ!」
ブリタニア城・皇宮内に、猛々しい兵士たちの怒号が響いていた。
何かを探索している屈強そうな兵士たちが身に着けている黒光りする鉄鎧は、夥しい返り血により真紅に染まっていた。
そんな兵士たちとは違い、場違いなほど清涼な雰囲気を醸し出す男の姿があった。
まるで病人のように青白く痩せ細った肌。
美丈夫と言う言葉がよく似合う整った顔立ち。
女性のように美しく輝く銀色の長髪。
また、その身には甲冑の類は一切纏わず、高級感が漂うゆったりとした紫服を着用している。
そして、肩口に掛けてある漆黒のマントがさらに全身を包み、左耳のイヤリングが怪しく光っていた。
そんな男の足元には、無数の人間の死体が散乱していた。
普通の人間が見たら、間違いなく即倒してしまう状況だろう。
しかし、男はまるで慣れ親しんだ街を歩くかのように、微塵の動揺もなかった。
しばらくすると、命の灯火を消された人間たちが横たわる空間に、生きた人間の荒々しい呼吸が聞こえてきた。
一人の兵士が息を切らせながら、男の前に足早に駆けてくる。
兵士は地面に片膝を付くと、自分の伝達すべき情報を男に報告した。
「カルマ様! 目標はこの先にある皇王の間に、護衛とともに立て籠っておりまする」
カルマと呼ばれた銀髪の男は、兵士たちの上官なのだろう。
兵士の緊張した態度からは、カルマに対する畏怖の念がひしひしと感じられる。
「……その中に皇女はいたか?」
容姿が美しいその男の声は、やはり美しかった。
「いえ、確認はできていません」
兵士はカルマにひれ伏した状態で答えた。
その報告を受けたカルマは何も答えず、皇王の間に向かい歩き出した。
兵士はハッと立ち上がると、目の前を通り過ぎていくカルマの前に踊り出る。
「カルマ様! もう少しで残りの兵が到着致します。それまで、お待ちください……」
兵士が困惑な顔でカルマの顔を覗き込んだ。
「!」
そこには、鬼のような形相で佇むカルマがいた。
「私一人でいい。 お前は残りの兵と合流し、皇女の探索に向かえ」
「りょ、了解しました!」
鋭い眼光で睨まれた兵士は直立不動の姿勢で敬礼をすると、足早にその場から走り去っていった。
いや、逃げ去ったというべきかもしれない。
「……さて」
一人になったカルマは、薄暗い笑みを浮かべながら皇王の間に向かい歩いていく。
銀色の長髪と羽織っているマントを風になびかせながら、カルマは闇に消えていった。
死臭が漂う広大な大地に佇む一人の男。
その男を数万の屈強な兵士たちが取り囲んでいる
男の足元には、無数の屍が無造作に散乱していた。
辺りには怒号と悲鳴が鳴り響き、夥しい血臭が鼻腔に痛む。
そんな地獄絵図さながらの光景を、男は楽しんでいるようであった。
女神のように艶かしい黄金色に輝く長髪。
長くもなく短くもない整った鼻梁。
この世のすべてを見透かすような蒼色の双眸。
美しく鮮やかな朱色の唇。
一切の無駄がない鍛え抜かれた鋼の肉体。
そんな男から醸し出される精悍な雰囲気は、神話の世界から現れた人物さながらだった。
それだけではない。
男は凄まじく強かった。
男がその腕を振るえば、拳の衝撃波が荒れ狂う大河の如く兵士たちに襲いかかった。
人間が風に舞う花片のように吹き飛ばされ、その身から噴出した鮮血が雨と化し、大地に容赦なく降り注ぐ。
それは、絶対的強者による一方的な虐殺だった。
その中には玉砕を覚悟で男に挑む勇敢な兵士もいれば、子供のように泣き叫び命乞いをする兵士もいた。
それでも男の殺戮は止まらない。
一切の分け隔ても躊躇もなく、兵士たちはただの生命なき骸と化していく。
いつものことであった。
そう、いつもならこの場面で夢から覚める……はずであった。
が、その日の夢には続きがあった。
男は殺戮の余韻を十分に味わうと、傍らで傍観していた私の元に歩み寄ってきた。
無数の屍を掻き分け、男が私の目の前に現れる。
返り血で全身が真紅に染まっているその男は、戦いを好む闘神の姿そのものだった。
そんな闘神の朱唇が微かに動いた。
「もうすぐ、もうすぐだ……サクヤ」
この言葉の後に、私は悪夢から抜け出すことができた。
神経が異常に昂ぶり、汗腺からはとめどない汗が流れ出てくる。
意識が混乱し朦朧としている中で、私の頭の中にはっきりと刻まれた記憶があった。
闘神の左目が紅く染まっていたのだ。
夕陽のような赤でもなく、貴婦人の唇のような朱でもなかった。
それは、血のように深い色をした紅であった。
「狙うは、皇王の首級だ!」
ブリタニア城・皇宮内に、猛々しい兵士たちの怒号が響いていた。
何かを探索している屈強そうな兵士たちが身に着けている黒光りする鉄鎧は、夥しい返り血により真紅に染まっていた。
そんな兵士たちとは違い、場違いなほど清涼な雰囲気を醸し出す男の姿があった。
まるで病人のように青白く痩せ細った肌。
美丈夫と言う言葉がよく似合う整った顔立ち。
女性のように美しく輝く銀色の長髪。
また、その身には甲冑の類は一切纏わず、高級感が漂うゆったりとした紫服を着用している。
そして、肩口に掛けてある漆黒のマントがさらに全身を包み、左耳のイヤリングが怪しく光っていた。
そんな男の足元には、無数の人間の死体が散乱していた。
普通の人間が見たら、間違いなく即倒してしまう状況だろう。
しかし、男はまるで慣れ親しんだ街を歩くかのように、微塵の動揺もなかった。
しばらくすると、命の灯火を消された人間たちが横たわる空間に、生きた人間の荒々しい呼吸が聞こえてきた。
一人の兵士が息を切らせながら、男の前に足早に駆けてくる。
兵士は地面に片膝を付くと、自分の伝達すべき情報を男に報告した。
「カルマ様! 目標はこの先にある皇王の間に、護衛とともに立て籠っておりまする」
カルマと呼ばれた銀髪の男は、兵士たちの上官なのだろう。
兵士の緊張した態度からは、カルマに対する畏怖の念がひしひしと感じられる。
「……その中に皇女はいたか?」
容姿が美しいその男の声は、やはり美しかった。
「いえ、確認はできていません」
兵士はカルマにひれ伏した状態で答えた。
その報告を受けたカルマは何も答えず、皇王の間に向かい歩き出した。
兵士はハッと立ち上がると、目の前を通り過ぎていくカルマの前に踊り出る。
「カルマ様! もう少しで残りの兵が到着致します。それまで、お待ちください……」
兵士が困惑な顔でカルマの顔を覗き込んだ。
「!」
そこには、鬼のような形相で佇むカルマがいた。
「私一人でいい。 お前は残りの兵と合流し、皇女の探索に向かえ」
「りょ、了解しました!」
鋭い眼光で睨まれた兵士は直立不動の姿勢で敬礼をすると、足早にその場から走り去っていった。
いや、逃げ去ったというべきかもしれない。
「……さて」
一人になったカルマは、薄暗い笑みを浮かべながら皇王の間に向かい歩いていく。
銀色の長髪と羽織っているマントを風になびかせながら、カルマは闇に消えていった。
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