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第三章 辺境地域の異変の原因
第二十四話 野宿の中で思い出す記憶
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未発見の魔力水晶石の裏はやはり別の場所に続くようになっていて、さらに洞窟の奥に進めるようになっていた。
もしかすると、この洞窟にはまだ別の魔力水晶石があるのかもしれない。
そう思った私たちは洞窟の奥に進んでいったが、やがて入ってきた場所の反対側の外へと出てしまった。
要するに、魔力水晶石は先ほどの1つしかなかったのだ。
だとしたら、この洞窟にもう用はない。
とはいえ、また洞窟を通ってフタラへ戻るには少々億劫である。
なので私たちはこのままオクタへ向かうことにした。
ちょうど今いる場所が、オクタがある西の方角だったこともある。
そうして私たちは歩き出したのだが、森の中でも徐々に空が変わっていく様子は見て取れた。
私たちは立ち止まり、樹上の合間から空を見上げる。
時刻は夕方。
すでに日は落ち始めており、あと1時間もすれば完全に夜の帳は落ちるだろう。
となると、これ以上進むのは賢明ではない。
夜の森の中を歩くことは、猛獣の口の中に飛び込むことと同義だからだ。
こうなると、どこか開けた場所を見つけて野宿するしかない。
私たちは日暮れ前までに帰ることを考えていたため、野宿の用意はしていなかったが、その辺のことはリヒトの専売特許だったので何とでもなる。
リヒトはフィンドラル家の専属騎士になる前、郷里で短期間だが冒険者の仕事をしていたことがあったという。
一般的に冒険者ギルドの冒険者というと、野蛮で粗暴な荒くれ者の集団というイメージが強い。
しかし、リヒト曰く「本物の冒険者」は戦闘とサバイバルに特化したスペシャリストたちだという。
リヒトもその「本物の冒険者」の1人に数えられるほどの技術を持っていた。
なのでリヒトは森の中のやや開けた場所を見つけると、すぐに野宿の準備を開始した。
「少々お待ちください」
リヒトはそれだけ言うと、茂みの中に入ってススキや細い枯れ枝を拾ってくる。
野宿で大切な焚き火の準備だ。
一方の私とメリダはすることがなかった。
なぜなら、リヒトがかたくなに自分だけで野宿の準備をすると豪語したからだ。
それからはあっという間だった。
リヒトは火起こしの準備を整えると、近くにある木の中でも太めな枝と細めな枝を持ってくる。
私は昔に何度か見たことがあったので驚かなかったが、メリダはリヒトが何をするのか理解して驚いたのだろう。
「まさか、リヒトさんは火溝式で火を起こすつもりですか?」
そうよ、と私はあっけらかんと答えた。
火溝式とは、おおざっぱに言ってしまえば適当な棒と平らな板を何度も強くこすって火を起こす方法のことである。
だが、これは簡単なようで凄まじい力と根気を消費する。
けれども、発火方法の中では実にシンプルなのでリヒトは火溝式を選んだのだ。
ただし平らな板がないので、無理やり太い枝と細い枝をこすって火を起こそうとしたのだろう。
普通の人間はほぼ無理で、熟練の冒険者でも力と手間が要るので避けるという火溝式でだ。
だがリヒトは並みの人間ではない。
王宮騎士団と比肩するぐらいの実力を持ち、それこそサバイバル技術においては冒険者クラスに当てはめるとAランクに相当する技術を持っている。
事実、リヒトは鼻歌交じりで簡単に火を起こした。
何泊もするのならロープや枝葉を作ってシェルターを作るのが1番いいとリヒトは言ったが、明日にはオクラに着けるので私は焚き火だけでいいと返事した。
さて、あとは食事ね。
私がお腹をさすったとき、メリダのほうから「ぐうう」とお腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。
「す、すいません。お恥ずかしい音を聞かせてしまって」
「お腹が鳴るのは当然よ。私だってもうお腹ペコペコ」
「では、さっそく食事にしましょうか」
リヒトは背負っていた荷物入れから食事を出した。
食事といっても村を出るときにもらった鹿の干し肉だ。
もちろん、今の私には固い干し肉もご馳走である。
「お待ちください、お嬢さま。そのまま食べるよりも、少し火であぶりましょう」
リヒトは私からメリダへと視線を移すと、「メリダの肉も一緒にあぶっってやるよ」と言った。
メリダは顔を赤らめて「あ、ありがとうございます」と顔をうつむかせる。
そんなメリダには構わずリヒトは私とメリダ、そして自分の分の干し肉に細枝を刺すと、串焼きの要領で焚き火の前の土に刺した。
遠火によって香ばしく焼こうというつもりなのだろう。
相変わらず、こまめな従者である。
これで誰もが認めるほどの武術の腕前を持ち、しかも清々しいほどのイケメンだからタチが悪い。
今のメリダに対してもそうだ。
本人はついでのつもりで言ったのだろうが、リヒトを優しさの権化と認識したのかメリダはすっかりリヒトを意識しまっている。
私は3人分の干し肉をあぶっているリヒトをじっと見た。
そういえば、こいつと出会ってもうずいぶんと経つのよね……。
私はふとリヒトと初めて出会ったときのことを思い出した。
もしかすると、この洞窟にはまだ別の魔力水晶石があるのかもしれない。
そう思った私たちは洞窟の奥に進んでいったが、やがて入ってきた場所の反対側の外へと出てしまった。
要するに、魔力水晶石は先ほどの1つしかなかったのだ。
だとしたら、この洞窟にもう用はない。
とはいえ、また洞窟を通ってフタラへ戻るには少々億劫である。
なので私たちはこのままオクタへ向かうことにした。
ちょうど今いる場所が、オクタがある西の方角だったこともある。
そうして私たちは歩き出したのだが、森の中でも徐々に空が変わっていく様子は見て取れた。
私たちは立ち止まり、樹上の合間から空を見上げる。
時刻は夕方。
すでに日は落ち始めており、あと1時間もすれば完全に夜の帳は落ちるだろう。
となると、これ以上進むのは賢明ではない。
夜の森の中を歩くことは、猛獣の口の中に飛び込むことと同義だからだ。
こうなると、どこか開けた場所を見つけて野宿するしかない。
私たちは日暮れ前までに帰ることを考えていたため、野宿の用意はしていなかったが、その辺のことはリヒトの専売特許だったので何とでもなる。
リヒトはフィンドラル家の専属騎士になる前、郷里で短期間だが冒険者の仕事をしていたことがあったという。
一般的に冒険者ギルドの冒険者というと、野蛮で粗暴な荒くれ者の集団というイメージが強い。
しかし、リヒト曰く「本物の冒険者」は戦闘とサバイバルに特化したスペシャリストたちだという。
リヒトもその「本物の冒険者」の1人に数えられるほどの技術を持っていた。
なのでリヒトは森の中のやや開けた場所を見つけると、すぐに野宿の準備を開始した。
「少々お待ちください」
リヒトはそれだけ言うと、茂みの中に入ってススキや細い枯れ枝を拾ってくる。
野宿で大切な焚き火の準備だ。
一方の私とメリダはすることがなかった。
なぜなら、リヒトがかたくなに自分だけで野宿の準備をすると豪語したからだ。
それからはあっという間だった。
リヒトは火起こしの準備を整えると、近くにある木の中でも太めな枝と細めな枝を持ってくる。
私は昔に何度か見たことがあったので驚かなかったが、メリダはリヒトが何をするのか理解して驚いたのだろう。
「まさか、リヒトさんは火溝式で火を起こすつもりですか?」
そうよ、と私はあっけらかんと答えた。
火溝式とは、おおざっぱに言ってしまえば適当な棒と平らな板を何度も強くこすって火を起こす方法のことである。
だが、これは簡単なようで凄まじい力と根気を消費する。
けれども、発火方法の中では実にシンプルなのでリヒトは火溝式を選んだのだ。
ただし平らな板がないので、無理やり太い枝と細い枝をこすって火を起こそうとしたのだろう。
普通の人間はほぼ無理で、熟練の冒険者でも力と手間が要るので避けるという火溝式でだ。
だがリヒトは並みの人間ではない。
王宮騎士団と比肩するぐらいの実力を持ち、それこそサバイバル技術においては冒険者クラスに当てはめるとAランクに相当する技術を持っている。
事実、リヒトは鼻歌交じりで簡単に火を起こした。
何泊もするのならロープや枝葉を作ってシェルターを作るのが1番いいとリヒトは言ったが、明日にはオクラに着けるので私は焚き火だけでいいと返事した。
さて、あとは食事ね。
私がお腹をさすったとき、メリダのほうから「ぐうう」とお腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。
「す、すいません。お恥ずかしい音を聞かせてしまって」
「お腹が鳴るのは当然よ。私だってもうお腹ペコペコ」
「では、さっそく食事にしましょうか」
リヒトは背負っていた荷物入れから食事を出した。
食事といっても村を出るときにもらった鹿の干し肉だ。
もちろん、今の私には固い干し肉もご馳走である。
「お待ちください、お嬢さま。そのまま食べるよりも、少し火であぶりましょう」
リヒトは私からメリダへと視線を移すと、「メリダの肉も一緒にあぶっってやるよ」と言った。
メリダは顔を赤らめて「あ、ありがとうございます」と顔をうつむかせる。
そんなメリダには構わずリヒトは私とメリダ、そして自分の分の干し肉に細枝を刺すと、串焼きの要領で焚き火の前の土に刺した。
遠火によって香ばしく焼こうというつもりなのだろう。
相変わらず、こまめな従者である。
これで誰もが認めるほどの武術の腕前を持ち、しかも清々しいほどのイケメンだからタチが悪い。
今のメリダに対してもそうだ。
本人はついでのつもりで言ったのだろうが、リヒトを優しさの権化と認識したのかメリダはすっかりリヒトを意識しまっている。
私は3人分の干し肉をあぶっているリヒトをじっと見た。
そういえば、こいつと出会ってもうずいぶんと経つのよね……。
私はふとリヒトと初めて出会ったときのことを思い出した。
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