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最終話 黄金色のざまぁ返し
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私は〈丹田〉に意識を集中させながら、両足を開いて腰を深く落とす。
続いて右拳を脇にまで引き、空いていた左手で右拳を包むような形を取った。
直後、私は再び息吹の呼吸法を行った。
全身を包んでいた〈気〉を右拳に集中させるイメージを高める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――…………。
私が〈気〉を練り上げていくごとに、悲鳴を上げるように地響きが鳴っていく。
やがて私の右拳が朝日のように眩く光り輝き出す。
そして私は練り上げた〈気〉とともに、魔人(ミーシャ+シグルド)に向かってその場での右正拳突きを繰り出した。
「――〈天覇・漸魔亜拳〉!」
私の右拳からは黄金色の巨大な奔流が大砲のように打ち出され、真正面から突っ込んできた魔人(ミーシャ+シグルド)へと飛んでいく。
アストラルさまや兵士たちに見守られている中、私の究極奥義・〈天覇・漸魔亜拳〉は魔人(ミーシャ+シグルド)に直撃した。
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!」」
耳をつんざくような悲鳴とともに、魔人(ミーシャ+シグルド)の肉体は巨大な爆発とともに木っ端微塵になった。
まるで浄化されたように全身が黄金色の光となって霧散していく。
そんな様子を見つめると、私は全身を覆い尽くしていた〈気〉を静かに解いた。
「正義は必ず勝つのよ」
そう言い放ったあと、私は最後に残心をして呼吸を整える。
同時に私は考えた。
こうして空手令嬢に目覚めた私のこれからのことを――。
「セラス・フィンドラル!」
やがて呼吸を整えたとき、アストラルさまが駆け寄ってきた。
「あのような魔人と化した奴らを倒せるなど凄すぎる」
どうやらアストラルさまは異様に興奮しているようだ。
顔を真っ赤に上気させ、にこやかな笑みを向けてくる。
「君はこの王都を救った英雄……いや、確固たる力を持った女傑。まさに俺が求めていた女性だ」
え? それはどういうことですか?
まさか、私の空手を見て求婚してくださるとか?
私がドキドキしていると、アストラルさまは「君に言いたいことがある」と真剣な表情になった。
間違いない。
これは面と向かって愛の告白をされるやつだわ。
「俺を君の弟子にしてほしい!」
…………………………………………はい?
私がキョトンとしていると、アストラルさまは「俺を弟子にほしい」と大きな声でもう一度繰り返した。
「実はミーシャ・フィンドラルが言っていたように、俺は学院内で君をずっと気にかけていた。人知れず武術の稽古に励む君を見たときから、ぜひとも君と武術の鍛錬を一緒にしたいと思っていた。なぜなら、俺は武術の鍛錬が三度の食事よりも大好きだからだ!」
興奮冷めやらぬアストラルさまの言葉は続く。
「だが、もっと好きなのは強い女性だ。そう、まさに今の君だよ! だから頼む、セラス・フィンドラル。君のその空手とやらを俺に教えてくれ! そのためなら俺は喜んで君の弟子となろう!」
ズッコオオオオオオオオオオオオ――――ッ!
アストラルさまの前でズッコケるわけにはいかなかったので、私は心中で激しくズッコケた。
まさか愛の告白ではなく、弟子入りを懇願されるとは思わなかった。
とはいえ、さすがに第1王子さまのお願いを断るわけにはいかない。
そうよ!
これはむしろチャンスだわ!
空手令嬢に目覚めた私ことセラス・フィンドラルが、この王都に空手を普及させるにはアストラルさまの弟子入りを受けるのが1番いい。
それに確か聞くところによると、巷では貴族令嬢が相手の殿方から唐突に婚約破棄される出来事が続いているという。
正直なところ「そんなまさか」と疑っていたが、今日の自分の身に降り注いできたことを考えるとありえる話だった。
だとしたら、もう他人事ではない。
きっと不当に婚約破棄された令嬢の中には、相手に何の「ざまぁ」もできずに嘆き悲しんだ者も多くいただろう。
それこそ絶望の中で、自ら命を捨てた者もいたかもしれない。
ならば婚約破棄されて空手令嬢に目覚めた私の使命は、そんな可哀そうな令嬢たちに相手を「ざまぁ」する空手を教えるべきなのではないか。
うん、そうに違いない。
それこそ空手令嬢である私の天命に違いないわ。
私はアストラルさまに「認めます」と言った。
「アストラルさまは私の1番弟子です。世のため人のため、そして婚約破棄された令嬢たちのために王都に空手を広めましょう」
「最後のくだりはよくわからないが……まあ、弟子にしてくれるならば万事OKだ! これからよろしく頼むぞ、セラス師匠!」
「こちらこそ、アストラル弟子さま!」
私とアストラルさまは師弟の契りとして、互いの拳を「コツン」と軽くだけ突き合わせた。
聖国歴2022年。
こののち、アストラルを弟子にしたセラスは王都に空手の大道場を構えた。
道場の名前は〈セラス流空手道・漸魔亜館〉。
婚約破棄された令嬢を中心にセラスは着実に門下生を増やしていき、1年後には館長であるセラスの実力を聞きつけたS冒険者や兵士たちも弟子入りしてきて門下生の数は1000名を超えた。
もちろんその門下生が増えた陰には、副館長となったアストラルの尽力があったのは誰の目にも明らかだった。
だが、セラスとアストラルが師匠と弟子と言う関係だけで終わったかというとそうではない。
数年後――。
ヘルシング王国の国王となったアストラルの隣には、〈空手女王〉となったセラス・フィンドラルの姿があった。
「これからもずっとよろしくな、セラス師匠。いや、我が愛する妻よ……ところで今夜はどうだ? そろそろ世継ぎがほしいのだが」
「奇遇ですね、国王陛下。私も同じことを思っていました。それでは日課の正拳突き10000本を突き終えたらにいたしましょう」
国王の部屋には、2人の楽しそうな声がいつまでも聞こえていた。
〈Fin〉
続いて右拳を脇にまで引き、空いていた左手で右拳を包むような形を取った。
直後、私は再び息吹の呼吸法を行った。
全身を包んでいた〈気〉を右拳に集中させるイメージを高める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――…………。
私が〈気〉を練り上げていくごとに、悲鳴を上げるように地響きが鳴っていく。
やがて私の右拳が朝日のように眩く光り輝き出す。
そして私は練り上げた〈気〉とともに、魔人(ミーシャ+シグルド)に向かってその場での右正拳突きを繰り出した。
「――〈天覇・漸魔亜拳〉!」
私の右拳からは黄金色の巨大な奔流が大砲のように打ち出され、真正面から突っ込んできた魔人(ミーシャ+シグルド)へと飛んでいく。
アストラルさまや兵士たちに見守られている中、私の究極奥義・〈天覇・漸魔亜拳〉は魔人(ミーシャ+シグルド)に直撃した。
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!」」
耳をつんざくような悲鳴とともに、魔人(ミーシャ+シグルド)の肉体は巨大な爆発とともに木っ端微塵になった。
まるで浄化されたように全身が黄金色の光となって霧散していく。
そんな様子を見つめると、私は全身を覆い尽くしていた〈気〉を静かに解いた。
「正義は必ず勝つのよ」
そう言い放ったあと、私は最後に残心をして呼吸を整える。
同時に私は考えた。
こうして空手令嬢に目覚めた私のこれからのことを――。
「セラス・フィンドラル!」
やがて呼吸を整えたとき、アストラルさまが駆け寄ってきた。
「あのような魔人と化した奴らを倒せるなど凄すぎる」
どうやらアストラルさまは異様に興奮しているようだ。
顔を真っ赤に上気させ、にこやかな笑みを向けてくる。
「君はこの王都を救った英雄……いや、確固たる力を持った女傑。まさに俺が求めていた女性だ」
え? それはどういうことですか?
まさか、私の空手を見て求婚してくださるとか?
私がドキドキしていると、アストラルさまは「君に言いたいことがある」と真剣な表情になった。
間違いない。
これは面と向かって愛の告白をされるやつだわ。
「俺を君の弟子にしてほしい!」
…………………………………………はい?
私がキョトンとしていると、アストラルさまは「俺を弟子にほしい」と大きな声でもう一度繰り返した。
「実はミーシャ・フィンドラルが言っていたように、俺は学院内で君をずっと気にかけていた。人知れず武術の稽古に励む君を見たときから、ぜひとも君と武術の鍛錬を一緒にしたいと思っていた。なぜなら、俺は武術の鍛錬が三度の食事よりも大好きだからだ!」
興奮冷めやらぬアストラルさまの言葉は続く。
「だが、もっと好きなのは強い女性だ。そう、まさに今の君だよ! だから頼む、セラス・フィンドラル。君のその空手とやらを俺に教えてくれ! そのためなら俺は喜んで君の弟子となろう!」
ズッコオオオオオオオオオオオオ――――ッ!
アストラルさまの前でズッコケるわけにはいかなかったので、私は心中で激しくズッコケた。
まさか愛の告白ではなく、弟子入りを懇願されるとは思わなかった。
とはいえ、さすがに第1王子さまのお願いを断るわけにはいかない。
そうよ!
これはむしろチャンスだわ!
空手令嬢に目覚めた私ことセラス・フィンドラルが、この王都に空手を普及させるにはアストラルさまの弟子入りを受けるのが1番いい。
それに確か聞くところによると、巷では貴族令嬢が相手の殿方から唐突に婚約破棄される出来事が続いているという。
正直なところ「そんなまさか」と疑っていたが、今日の自分の身に降り注いできたことを考えるとありえる話だった。
だとしたら、もう他人事ではない。
きっと不当に婚約破棄された令嬢の中には、相手に何の「ざまぁ」もできずに嘆き悲しんだ者も多くいただろう。
それこそ絶望の中で、自ら命を捨てた者もいたかもしれない。
ならば婚約破棄されて空手令嬢に目覚めた私の使命は、そんな可哀そうな令嬢たちに相手を「ざまぁ」する空手を教えるべきなのではないか。
うん、そうに違いない。
それこそ空手令嬢である私の天命に違いないわ。
私はアストラルさまに「認めます」と言った。
「アストラルさまは私の1番弟子です。世のため人のため、そして婚約破棄された令嬢たちのために王都に空手を広めましょう」
「最後のくだりはよくわからないが……まあ、弟子にしてくれるならば万事OKだ! これからよろしく頼むぞ、セラス師匠!」
「こちらこそ、アストラル弟子さま!」
私とアストラルさまは師弟の契りとして、互いの拳を「コツン」と軽くだけ突き合わせた。
聖国歴2022年。
こののち、アストラルを弟子にしたセラスは王都に空手の大道場を構えた。
道場の名前は〈セラス流空手道・漸魔亜館〉。
婚約破棄された令嬢を中心にセラスは着実に門下生を増やしていき、1年後には館長であるセラスの実力を聞きつけたS冒険者や兵士たちも弟子入りしてきて門下生の数は1000名を超えた。
もちろんその門下生が増えた陰には、副館長となったアストラルの尽力があったのは誰の目にも明らかだった。
だが、セラスとアストラルが師匠と弟子と言う関係だけで終わったかというとそうではない。
数年後――。
ヘルシング王国の国王となったアストラルの隣には、〈空手女王〉となったセラス・フィンドラルの姿があった。
「これからもずっとよろしくな、セラス師匠。いや、我が愛する妻よ……ところで今夜はどうだ? そろそろ世継ぎがほしいのだが」
「奇遇ですね、国王陛下。私も同じことを思っていました。それでは日課の正拳突き10000本を突き終えたらにいたしましょう」
国王の部屋には、2人の楽しそうな声がいつまでも聞こえていた。
〈Fin〉
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