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第六話 魔人への変貌
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み、皆殺しですって……。
それは聞き間違いではなかった。
ミーシャは確実に、ここにいる全員を皆殺しにすると言ったのだ。
私は握った拳をブルブルと震わせた。
恐怖からの震えではない。
激しい怒りによる震えである。
「ミーシャッ!」
私はミーシャの前に毅然と立ちはだかる。
「自分勝手な欲望を満たすために私を陥れ、私の婚約者を奪っておきながら、さらにアルトラルさまの殺害計画までも企てた。しかもその罪を私に着せて処刑しようとしたこと……断じて許されない!」
私の怒声を浴びてもミーシャは不敵な笑みを崩さない。
「だったら、私をどうしますか?」
「ここであなたを倒す――私の空手でね!」
そう言うと私は、両足が「ハ」の字になるような独特な立ち方を取った。
背筋はまっすぐに保ちつつ、続いて拳を握った状態の両手の肘を曲げて中段内受けの形――三戦《さんちん》の構えを取る。
コオオオオオオオオオオオオ――――…………
そして私は〝息吹〟と呼ばれる呼吸法とともに、丹田を中心に全身が光り輝くイメージで〈気〉を練り上げていく。
すると丹田から全身へ凄まじいエネルギーが駆け巡った。
それだけではない。
直後、私の丹田から全身にかけて火の粉を思わせる黄金色の燐光が凄まじく噴出した。
その黄金色の燐光は、光の渦となって私の全身を覆い尽くしていく。
体感で通常の数十倍の力が溢れてくるようだ。
顕現化した〈気〉の力。
那覇手系の空手の基本にして奥義の型――三戦《さんちん》と〝息吹〟の呼吸法をある一定の段階まで練り上げると起こる現象の一つである。
「な、何という力強く神々しい姿だ……」
三戦《さんちん》により五感の働きも向上しているため、数メートル後方にいたアストラルさまのつぶやきも聞き取れることができた。
普段ならば「光栄の極みです」と礼を述べるところだが、今はそんなことをしている状況ではない。
国賊であるミーシャを倒すことのほうが先決だ。
などと私が思っていると、ミーシャは大きく口を開けて笑った。
「それこそ笑止ですわ、セラスお姉さま! 空手だが何だか知りませんが、お姉さま如きが【魔眼】の力を得た私を倒せると思っているのですか!」
もちろん、と私は高らかに答えた。
「空手の力は破邪の力でもある! むしろ魔に堕ちたあなたを倒せるのは、姉であり空手令嬢となった私を置いて他にいないわ!」
直後、私は三戦《さんちん》を解いて別の構えを取った。
左手は顔面の高さで相手を牽制するかのように前にかざし、右手は人体の急所の一つであるみぞおちを守る位置で固定させる。
そのさいは両手とも拳はしっかりと握り込まず、どんな対応もできるように緩く開いておく。
肩の力は抜いて姿勢はまっすぐ。
バランスを崩さないように腰を落として安定させ、左足を2歩分だけ前に出して後ろ足に7、前足に3の割合で重心を乗せた。
攻撃と防御の二面に優れた、空手の組手構えの1つである。
「面白い……面白いですわ、お姉さま!」
そんな私の構えを見ても、ミーシャは驚くどころか全身から邪悪なオーラを放出する。
「いいでしょう、だったら私も本当の姿になって殺してあげましょう」
ミーシャは隣にいたシグルドに顔を向けると、呆然としていたシグルドの頭部を両手で掴む。
そのままミーシャは額と額がくっつくほどシグルドに顔を近づけ、六芒星が浮かんでいる両目でシグルドを見つめた。
「ぐ……ぐあああああああああああ――――ッ!」
突如として響き渡った男性の苦痛の叫び。
その叫び声を上げたのはシグルドだった。
一体、ミーシャは何をしたの?
私は構えを保ちながら戸惑っていると、ミーシャとシグルドがいた場所を中心に異変が起こった。
2人の足元から大量の黒い霧が発生し、瞬く間にミーシャとシグルドの2人を飲み込んだのだ。
私だけではなく、アストラルさまや他の兵士たちも固唾を呑んだだろう。
それほどミーシャとシグルドの身体を覆い隠してしまった黒い霧の正体がわからない。
しかし、その黒い霧もやがては晴れてきた。
時間にして10秒ほどだろうか。
黒い霧が完全に晴れたとき、兵士たちから悲鳴が沸き起こった。
私もあまりの驚きに絶句する。
黒い霧が晴れた場所にいたのは、身長3メートルを超える筋骨隆々の女巨人だったのである。
女巨人はミーシャだった。
そして服が破けているので肌は剥き出しになっていたのだが、その肉体の表面には異常に太い血管がいくつも浮かんであり、健康的な人間のような肌色ではなく死人のように青白かった。
だが異変はそれだけではなかった。
「あはははははははは――――ッ!」
ミーシャの股間の部分が盛り上がると、そこから人間の顔が出てきて背筋を凍らせるほどの笑い声を発したのだ。
股間の部分から迫り出してきたのはシグルドの顔である。
「ミーシャ、何という心地よさなんだ! 僕は君と一体化したことでまるで神にでもなったような気分だよ!」
「そうでしょう、シグルドさま。今、私たちは本当の意味で1つになったのです……ですが、今は喜んでいる場合ではありません」
ミーシャは私を見て口の端を吊り上げる。
もはや気持ち悪さを通り越して恐怖だった。
ミーシャとシグルドの肉体は不気味なほど1つになっていた。
その姿は断じて神などではない。
まるであの姿は……。
私がごくりと生唾を飲み込んだとき、ミーシャは私に向かって言い放った。
「さあ、セラスお姉さま! その空手とやらで私を倒してみてくださいよ! 魔人と化した私たちを倒せるものならばね!」
それは聞き間違いではなかった。
ミーシャは確実に、ここにいる全員を皆殺しにすると言ったのだ。
私は握った拳をブルブルと震わせた。
恐怖からの震えではない。
激しい怒りによる震えである。
「ミーシャッ!」
私はミーシャの前に毅然と立ちはだかる。
「自分勝手な欲望を満たすために私を陥れ、私の婚約者を奪っておきながら、さらにアルトラルさまの殺害計画までも企てた。しかもその罪を私に着せて処刑しようとしたこと……断じて許されない!」
私の怒声を浴びてもミーシャは不敵な笑みを崩さない。
「だったら、私をどうしますか?」
「ここであなたを倒す――私の空手でね!」
そう言うと私は、両足が「ハ」の字になるような独特な立ち方を取った。
背筋はまっすぐに保ちつつ、続いて拳を握った状態の両手の肘を曲げて中段内受けの形――三戦《さんちん》の構えを取る。
コオオオオオオオオオオオオ――――…………
そして私は〝息吹〟と呼ばれる呼吸法とともに、丹田を中心に全身が光り輝くイメージで〈気〉を練り上げていく。
すると丹田から全身へ凄まじいエネルギーが駆け巡った。
それだけではない。
直後、私の丹田から全身にかけて火の粉を思わせる黄金色の燐光が凄まじく噴出した。
その黄金色の燐光は、光の渦となって私の全身を覆い尽くしていく。
体感で通常の数十倍の力が溢れてくるようだ。
顕現化した〈気〉の力。
那覇手系の空手の基本にして奥義の型――三戦《さんちん》と〝息吹〟の呼吸法をある一定の段階まで練り上げると起こる現象の一つである。
「な、何という力強く神々しい姿だ……」
三戦《さんちん》により五感の働きも向上しているため、数メートル後方にいたアストラルさまのつぶやきも聞き取れることができた。
普段ならば「光栄の極みです」と礼を述べるところだが、今はそんなことをしている状況ではない。
国賊であるミーシャを倒すことのほうが先決だ。
などと私が思っていると、ミーシャは大きく口を開けて笑った。
「それこそ笑止ですわ、セラスお姉さま! 空手だが何だか知りませんが、お姉さま如きが【魔眼】の力を得た私を倒せると思っているのですか!」
もちろん、と私は高らかに答えた。
「空手の力は破邪の力でもある! むしろ魔に堕ちたあなたを倒せるのは、姉であり空手令嬢となった私を置いて他にいないわ!」
直後、私は三戦《さんちん》を解いて別の構えを取った。
左手は顔面の高さで相手を牽制するかのように前にかざし、右手は人体の急所の一つであるみぞおちを守る位置で固定させる。
そのさいは両手とも拳はしっかりと握り込まず、どんな対応もできるように緩く開いておく。
肩の力は抜いて姿勢はまっすぐ。
バランスを崩さないように腰を落として安定させ、左足を2歩分だけ前に出して後ろ足に7、前足に3の割合で重心を乗せた。
攻撃と防御の二面に優れた、空手の組手構えの1つである。
「面白い……面白いですわ、お姉さま!」
そんな私の構えを見ても、ミーシャは驚くどころか全身から邪悪なオーラを放出する。
「いいでしょう、だったら私も本当の姿になって殺してあげましょう」
ミーシャは隣にいたシグルドに顔を向けると、呆然としていたシグルドの頭部を両手で掴む。
そのままミーシャは額と額がくっつくほどシグルドに顔を近づけ、六芒星が浮かんでいる両目でシグルドを見つめた。
「ぐ……ぐあああああああああああ――――ッ!」
突如として響き渡った男性の苦痛の叫び。
その叫び声を上げたのはシグルドだった。
一体、ミーシャは何をしたの?
私は構えを保ちながら戸惑っていると、ミーシャとシグルドがいた場所を中心に異変が起こった。
2人の足元から大量の黒い霧が発生し、瞬く間にミーシャとシグルドの2人を飲み込んだのだ。
私だけではなく、アストラルさまや他の兵士たちも固唾を呑んだだろう。
それほどミーシャとシグルドの身体を覆い隠してしまった黒い霧の正体がわからない。
しかし、その黒い霧もやがては晴れてきた。
時間にして10秒ほどだろうか。
黒い霧が完全に晴れたとき、兵士たちから悲鳴が沸き起こった。
私もあまりの驚きに絶句する。
黒い霧が晴れた場所にいたのは、身長3メートルを超える筋骨隆々の女巨人だったのである。
女巨人はミーシャだった。
そして服が破けているので肌は剥き出しになっていたのだが、その肉体の表面には異常に太い血管がいくつも浮かんであり、健康的な人間のような肌色ではなく死人のように青白かった。
だが異変はそれだけではなかった。
「あはははははははは――――ッ!」
ミーシャの股間の部分が盛り上がると、そこから人間の顔が出てきて背筋を凍らせるほどの笑い声を発したのだ。
股間の部分から迫り出してきたのはシグルドの顔である。
「ミーシャ、何という心地よさなんだ! 僕は君と一体化したことでまるで神にでもなったような気分だよ!」
「そうでしょう、シグルドさま。今、私たちは本当の意味で1つになったのです……ですが、今は喜んでいる場合ではありません」
ミーシャは私を見て口の端を吊り上げる。
もはや気持ち悪さを通り越して恐怖だった。
ミーシャとシグルドの肉体は不気味なほど1つになっていた。
その姿は断じて神などではない。
まるであの姿は……。
私がごくりと生唾を飲み込んだとき、ミーシャは私に向かって言い放った。
「さあ、セラスお姉さま! その空手とやらで私を倒してみてくださいよ! 魔人と化した私たちを倒せるものならばね!」
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