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第一話 婚約破棄からの裏切り
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「セラス・フィンドラル! たった今、この僕――侯爵家子息であるシグルド・カスケードは君との婚約を破棄する!」
その言葉にセラス・フィンドラル男爵令嬢こと私は文字通り絶句した。
時刻は夜。
そしてここは大豪邸のカスケード家の大ホールである。
大ホールの中には多くの貴族たちの子息子女たちがいて、豪華なビッフェに舌鼓を打ったりダンスをして楽しんでいたのだが今は違う。
ほんのつい今しがたシグルドさまは一旦パーティーを中断し、大ホールの真ん中を空けるように皆に言った。
今日のパーティーはシグルドさまが主催したものだったため、他の貴族の子息子女たちはシグルドさまの指示に従って壁際へと移動したのである。
その後、シグルドさまは私を大ホールの中央へと招き呼んだ。
理由は前もって知らされてはいなかったが、きっとシグルドさまは皆の前であらためて私とのこれからについて堂々と宣言するためなのだろうと思った。
シグルド・カスケードはセラス・フィンドラルに永遠の愛を誓う、と。
ところがシグルドさまの口から出てきた言葉は違った。
シグルドさまは決してイケメンとは言えない普通の顔と中肉中背の方だったが、それでも根は真面目で優しい人だと思っていた。
そんなシグルドさまは、あろうことか公衆の面前で親同士が決めた婚約を高らかに破棄する宣言をしたのである。
貴族の子息とは思えない、自身どころか家名すらも貶めるようなあるまじき行為だった。
シグルドさま……私との婚約を破棄するとはどういうことなの?
などと私が呆然としていると、1人の少女が私の前にやってくる。
「あ、あなた……」
私は目の前に現れた少女を見てつぶやいた。
私と同じ栗色の髪の毛をしているが、背中まで伸びている私と違って髪の毛はうなじの辺りで綺麗に切り揃えられている。
身長も160センチの私よりも10センチは低い。
よく私は周囲から「セラスさまは目鼻立ちがすっきりとしていて、凛々しいお顔をしていらっしゃいますね。可愛いというよりは美人と呼ぶほうがしっくりときます」と言われているが、目の前の少女は圧倒的に可愛いと周囲に言われる部類に入る顔立ちだった。
他にも私はお屋敷を守る専属騎士たちからよく護身術を学んでいたため、17歳の同年代の子たちよりも少しばかり背筋が伸びて体格もしっかりしている。
でも、そんな私は筋骨隆々というわけではない。
健康と体型維持のための日頃の運動により、ちょっと同年代の子よりも良いプロポーションをしているだけだ。
でも、私の眼前にいる少女は違う。
幼少から身体が少し弱かったこともあって、私とは正反対に両親から蝶よ花よと過保護に育てられてきた。
なので体型は花の茎のように細く、とはいえガリガリとまではいかない体型をしている。
え? どうして私が目の前の少女のことに詳しいのかって?
私が少女について詳しいのは当たり前だった。
少女の名前はミーシャ・フィンドラル。
私の1つ下の実妹に他ならなかったからだ。
「ミーシャ……どうしてあなたがここに?」
私はミーシャを見て頭上に疑問符を浮かべた。
今日は私とシグルドさまが主役のパーティーであり、ミーシャには参加の手紙など届いていないはずだ。
現に私が屋敷から馬車で出るとき、ミーシャは「色々と楽しんできてくださいね、お姉さま」と見送ってくれた。
「お姉さま、私がどうしてここにいるか理由を聞きたいですか?」
そう言ったミーシャは、ゾッとするほどの酷薄した笑みを浮かべた。
「それはこういうことですよ」
言うなりミーシャは隣にいたシグルドさまに抱き着き、自分の唇をシグルドさまに重ね合わせた。
どれぐらいキスをしていただろうか。
シグルドさまはミーシャからのキスを拒むどころか、むしろ受け入れているような感じがあった。
やがて互いに唇を離したあと、ミーシャは私に顔を向けてニヤリと笑った。
「お姉さま、本日をもって私――ミーシャ・フィンドラルはシグルド・カスケードさまと婚約いたします。お姉さまの代わりにね」
直後、全身の力が抜けた私は両膝から崩れ落ちた。
その言葉にセラス・フィンドラル男爵令嬢こと私は文字通り絶句した。
時刻は夜。
そしてここは大豪邸のカスケード家の大ホールである。
大ホールの中には多くの貴族たちの子息子女たちがいて、豪華なビッフェに舌鼓を打ったりダンスをして楽しんでいたのだが今は違う。
ほんのつい今しがたシグルドさまは一旦パーティーを中断し、大ホールの真ん中を空けるように皆に言った。
今日のパーティーはシグルドさまが主催したものだったため、他の貴族の子息子女たちはシグルドさまの指示に従って壁際へと移動したのである。
その後、シグルドさまは私を大ホールの中央へと招き呼んだ。
理由は前もって知らされてはいなかったが、きっとシグルドさまは皆の前であらためて私とのこれからについて堂々と宣言するためなのだろうと思った。
シグルド・カスケードはセラス・フィンドラルに永遠の愛を誓う、と。
ところがシグルドさまの口から出てきた言葉は違った。
シグルドさまは決してイケメンとは言えない普通の顔と中肉中背の方だったが、それでも根は真面目で優しい人だと思っていた。
そんなシグルドさまは、あろうことか公衆の面前で親同士が決めた婚約を高らかに破棄する宣言をしたのである。
貴族の子息とは思えない、自身どころか家名すらも貶めるようなあるまじき行為だった。
シグルドさま……私との婚約を破棄するとはどういうことなの?
などと私が呆然としていると、1人の少女が私の前にやってくる。
「あ、あなた……」
私は目の前に現れた少女を見てつぶやいた。
私と同じ栗色の髪の毛をしているが、背中まで伸びている私と違って髪の毛はうなじの辺りで綺麗に切り揃えられている。
身長も160センチの私よりも10センチは低い。
よく私は周囲から「セラスさまは目鼻立ちがすっきりとしていて、凛々しいお顔をしていらっしゃいますね。可愛いというよりは美人と呼ぶほうがしっくりときます」と言われているが、目の前の少女は圧倒的に可愛いと周囲に言われる部類に入る顔立ちだった。
他にも私はお屋敷を守る専属騎士たちからよく護身術を学んでいたため、17歳の同年代の子たちよりも少しばかり背筋が伸びて体格もしっかりしている。
でも、そんな私は筋骨隆々というわけではない。
健康と体型維持のための日頃の運動により、ちょっと同年代の子よりも良いプロポーションをしているだけだ。
でも、私の眼前にいる少女は違う。
幼少から身体が少し弱かったこともあって、私とは正反対に両親から蝶よ花よと過保護に育てられてきた。
なので体型は花の茎のように細く、とはいえガリガリとまではいかない体型をしている。
え? どうして私が目の前の少女のことに詳しいのかって?
私が少女について詳しいのは当たり前だった。
少女の名前はミーシャ・フィンドラル。
私の1つ下の実妹に他ならなかったからだ。
「ミーシャ……どうしてあなたがここに?」
私はミーシャを見て頭上に疑問符を浮かべた。
今日は私とシグルドさまが主役のパーティーであり、ミーシャには参加の手紙など届いていないはずだ。
現に私が屋敷から馬車で出るとき、ミーシャは「色々と楽しんできてくださいね、お姉さま」と見送ってくれた。
「お姉さま、私がどうしてここにいるか理由を聞きたいですか?」
そう言ったミーシャは、ゾッとするほどの酷薄した笑みを浮かべた。
「それはこういうことですよ」
言うなりミーシャは隣にいたシグルドさまに抱き着き、自分の唇をシグルドさまに重ね合わせた。
どれぐらいキスをしていただろうか。
シグルドさまはミーシャからのキスを拒むどころか、むしろ受け入れているような感じがあった。
やがて互いに唇を離したあと、ミーシャは私に顔を向けてニヤリと笑った。
「お姉さま、本日をもって私――ミーシャ・フィンドラルはシグルド・カスケードさまと婚約いたします。お姉さまの代わりにね」
直後、全身の力が抜けた私は両膝から崩れ落ちた。
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