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第一章 音
王のお触れ
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彼は、一人、ただひたすらに地を耕していた。
優しく土をほぐし、そこに、新たな恵みを植えるのだ。
彼は、一人、音を聞いていた。
風により葉がすれて、心地よく耳に響き、やがて身体に染み入る。
彼は、一人、笑みを浮かべた
耕した地から出てきた恵みを眺め、彼は喜んだ。彼は人々を豊かにしてくれる自然の恵みを、人一倍に愛していたのだ。
彼は、自然に耳を傾けた。
彼は囁く。
「音がする」
昔々のその昔、スサという国があった。
スサの地は、自然に恵まれており。流れる川は、とても清く、沢山の魚の故郷となり、その川は大地に潤いをもたらし、その大地は稲をよく育たせ、民に恵みをもたらしていた。故に、他国の民により、その恵みをよく狙われていたという。
そのスサの国の王、アシナは頭を悩ませていた。
恵みをもたらしてくれるスサの川、その上流に向かって歩いていくと、大きな滝がある。その滝の上に住まう輩達、民たちはタキガミと呼んでいた。
タキガミは、山奥に住み着いていたが、畑を作ろうともすぐ獣達に荒らされ、魚を捕ろうとも滝に流され、住まうところは近いがスサに比べるとその暮らしは豊かとは言えないものだった。
だからこそタキガミは、非常にスサのことを羨ましく思ったことだろう。
「コメを差し出せ、差もなくばスサの大地を差し出せ」
タキガミは、アシナとその使いにそう言い放った。
スサの国はこの様なことには慣れていて、いつもなら堂々と追い返すのだが。今回ばかりは違っていた。
タキガミが銅の剣を突き出したのだ。
勇敢に立ち向かったアシナの使いは胸に傷を負った。
それは、木のこん棒で殴るよりも、石の矛で突くよりも、明らかに深い傷だった。
初めて見たそれを民たちは恐れ、タキガミには考えさせてくれと、一旦その場を凌いだ。アシナはタキガミを追い返す知恵を持ちあわせてはいなかったのである。
王でありながら非力な自分を悔いた。
アシナは、悩み果てて、スサの民にお触れを言い渡す。
「皆に告ぐ」
スサに響き渡る
「鍬をふり、このスサの国を大地を耕せ」
人から人へ
「この国を豊かにした者を」
口から耳へ
「次の王とする」
この時から、時代は大きな節目を迎えはじめた。
優しく土をほぐし、そこに、新たな恵みを植えるのだ。
彼は、一人、音を聞いていた。
風により葉がすれて、心地よく耳に響き、やがて身体に染み入る。
彼は、一人、笑みを浮かべた
耕した地から出てきた恵みを眺め、彼は喜んだ。彼は人々を豊かにしてくれる自然の恵みを、人一倍に愛していたのだ。
彼は、自然に耳を傾けた。
彼は囁く。
「音がする」
昔々のその昔、スサという国があった。
スサの地は、自然に恵まれており。流れる川は、とても清く、沢山の魚の故郷となり、その川は大地に潤いをもたらし、その大地は稲をよく育たせ、民に恵みをもたらしていた。故に、他国の民により、その恵みをよく狙われていたという。
そのスサの国の王、アシナは頭を悩ませていた。
恵みをもたらしてくれるスサの川、その上流に向かって歩いていくと、大きな滝がある。その滝の上に住まう輩達、民たちはタキガミと呼んでいた。
タキガミは、山奥に住み着いていたが、畑を作ろうともすぐ獣達に荒らされ、魚を捕ろうとも滝に流され、住まうところは近いがスサに比べるとその暮らしは豊かとは言えないものだった。
だからこそタキガミは、非常にスサのことを羨ましく思ったことだろう。
「コメを差し出せ、差もなくばスサの大地を差し出せ」
タキガミは、アシナとその使いにそう言い放った。
スサの国はこの様なことには慣れていて、いつもなら堂々と追い返すのだが。今回ばかりは違っていた。
タキガミが銅の剣を突き出したのだ。
勇敢に立ち向かったアシナの使いは胸に傷を負った。
それは、木のこん棒で殴るよりも、石の矛で突くよりも、明らかに深い傷だった。
初めて見たそれを民たちは恐れ、タキガミには考えさせてくれと、一旦その場を凌いだ。アシナはタキガミを追い返す知恵を持ちあわせてはいなかったのである。
王でありながら非力な自分を悔いた。
アシナは、悩み果てて、スサの民にお触れを言い渡す。
「皆に告ぐ」
スサに響き渡る
「鍬をふり、このスサの国を大地を耕せ」
人から人へ
「この国を豊かにした者を」
口から耳へ
「次の王とする」
この時から、時代は大きな節目を迎えはじめた。
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