ヤマタノオロチ外伝【表】

ぴっぴ

文字の大きさ
上 下
1 / 2
第一章 音

王のお触れ

しおりを挟む
 彼は、一人、ただひたすらに地を耕していた。
 優しく土をほぐし、そこに、新たな恵みを植えるのだ。

 彼は、一人、音を聞いていた。
 風により葉がすれて、心地よく耳に響き、やがて身体に染み入る。

 彼は、一人、笑みを浮かべた
 耕した地から出てきた恵みを眺め、彼は喜んだ。彼は人々を豊かにしてくれる自然の恵みを、人一倍に愛していたのだ。




 彼は、自然に耳を傾けた。
 



 彼は囁く。
 「音がする」






 昔々のその昔、スサという国があった。
 スサの地は、自然に恵まれており。流れる川は、とても清く、沢山の魚の故郷となり、その川は大地に潤いをもたらし、その大地は稲をよく育たせ、民に恵みをもたらしていた。故に、他国の民により、その恵みをよく狙われていたという。

 そのスサの国の王、アシナは頭を悩ませていた。

 恵みをもたらしてくれるスサの川、その上流に向かって歩いていくと、大きな滝がある。その滝の上に住まう輩達、民たちはタキガミと呼んでいた。

 タキガミは、山奥に住み着いていたが、畑を作ろうともすぐ獣達に荒らされ、魚を捕ろうとも滝に流され、住まうところは近いがスサに比べるとその暮らしは豊かとは言えないものだった。

 だからこそタキガミは、非常にスサのことを羨ましく思ったことだろう。


 「コメを差し出せ、差もなくばスサの大地を差し出せ」

 タキガミは、アシナとその使いにそう言い放った。
 スサの国はこの様なことには慣れていて、いつもなら堂々と追い返すのだが。今回ばかりは違っていた。






 タキガミが銅の剣を突き出したのだ。







 勇敢に立ち向かったアシナの使いは胸に傷を負った。

 それは、木のこん棒で殴るよりも、石の矛で突くよりも、明らかに深い傷だった。
 


 初めて見たそれを民たちは恐れ、タキガミには考えさせてくれと、一旦その場を凌いだ。アシナはタキガミを追い返す知恵を持ちあわせてはいなかったのである。

 王でありながら非力な自分を悔いた。

 アシナは、悩み果てて、スサの民にお触れを言い渡す。






 「皆に告ぐ」



 スサに響き渡る



 「鍬をふり、このスサの国を大地を耕せ」



 人から人へ



 「この国を豊かにした者を」



 口から耳へ



 「次の王とする」




 この時から、時代は大きな節目を迎えはじめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結R18】三度目の結婚~江にございまする

みなわなみ
歴史・時代
江(&α)の一人語りを恋愛中心の軽い物語に。恋愛好きの女性向き。R18には【閨】と表記しています。 歴史小説「照葉輝く~静物語」の御台所、江の若い頃のお話。 最後の夫は二代目将軍徳川秀忠、伯父は信長、養父は秀吉、舅は家康。 なにげに凄い人です。

月夜の華

のの(まゆたん)
歴史・時代
中華風の・・とある王国に妃となるべく 王女が嫁いできた 身体の弱い王女に伴い 侍妾の一人として付いてきた少女  そして・・

猿の内政官の息子

橋本洋一
歴史・時代
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~ の後日談です。雲之介が死んで葬儀を執り行う雨竜秀晴が主人公です。全三話です

戯れて朝顔咲きし江戸の夏

ささゆき細雪
歴史・時代
これは、お城を飛び出したじゃじゃ馬姫様が体験した、夏の、穏やかだけど特別な一日の物語。

流浪の太刀

石崎楢
歴史・時代
戦国、安土桃山時代を主君を変えながら生き残った一人の侍、高師直の末裔を自称する高師影。高屋又兵衛と名を変えて晩年、油問屋の御隠居となり孫たちに昔話を語る毎日。その口から語られる戦国の世の物語です。

紅花の煙

戸沢一平
歴史・時代
 江戸期、紅花の商いで大儲けした、実在の紅花商人の豪快な逸話を元にした物語である。  出羽尾花沢で「島田屋」の看板を掲げて紅花商をしている鈴木七右衛門は、地元で紅花を仕入れて江戸や京で売り利益を得ていた。七右衛門には心を寄せる女がいた。吉原の遊女で、高尾太夫を襲名したたかである。  花を仕入れて江戸に来た七右衛門は、競を行ったが問屋は一人も来なかった。  七右衛門が吉原で遊ぶことを快く思わない問屋達が嫌がらせをして、示し合わせて行かなかったのだ。  事情を知った七右衛門は怒り、持って来た紅花を品川の海岸で燃やすと宣言する。  

アメリカ本土防衛戦

オカリン
歴史・時代
1940年アメリカの都市ヒューストンで異世界の扉を開く為の研究が行われていたが事故を起きてしまい異世界の軍隊が侵攻を開始した。それに対しアメリカは反撃を開始した。この物語はアメリカがアメリカ本土に侵攻した異世界の侵略者達相手に奪われた土地を取り返す物語である。

壬生狼の戦姫

天羽ヒフミ
歴史・時代
──曰く、新撰組には「壬生狼の戦姫」と言われるほどの強い女性がいたと言う。 土方歳三には最期まで想いを告げられなかった許嫁がいた。名を君菊。幼馴染であり、歳三の良き理解者であった。だが彼女は喧嘩がとんでもなく強く美しい女性だった。そんな彼女にはある秘密があって──? 激動の時代、誠を貫いた新撰組の歴史と土方歳三の愛と人生、そして君菊の人生を描いたおはなし。 参考・引用文献 土方歳三 新撰組の組織者<増補新版>新撰組結成150年 図説 新撰組 横田淳 新撰組・池田屋事件顛末記 冨成博

処理中です...