君との距離。

hina

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「樹、ご機嫌だね。良い事でもあった?」
「え、聞く? 聞いちゃう?」
「何だよー。勿体ぶってないで話せ話せ」
「実はFTOですっごい綺麗な人と知り合ってさ」
「へー。どんな人?」
駅から学校までの通学路を歩きながら、同じくオメガの翼と盛り上がる。
オメガだからって肩身が狭い思いをせずに遊べるVRのFTOはオメガからの支持が高いらしい。

「俺と同じソロプレイヤーで、アランって名前の腰くらいまである長いプラチナブロンドの二十歳くらいのお兄さん」
「え、アラン様!? ヤバいな。俺にも紹介して!」
「アラン様? 知り合いじゃないのに知ってるってなんで?」
「FTOのソロプレイヤーで凄く美しくてアランって名前の人と言ったら、あちこちから誘われてるのに、ソロを貫く孤高の人のあの人しか思い浮かばない」
あの人、有名な人だったのか。でも言われると納得してしまう。

「多分その人だと思うけど、俺も知り合ったばっかりだから紹介するのはまた今度な。それにお前、海辺の丘の白い街よりも先に進んでるだろ?」
「よくご存知で。アラン様って海外の人らしいよ。自動通訳発動してた?」
「え、そうなの? 違和感なかったから気が付かなかった。今まで知り合った人にも海外の人いたのかな」
「いたかもねー。俺にもいたかもだし、いるかもだし、これから知り合うかもだし」
「ま、でもゲーム内だけならどこの人でも関係ないけどな」
「確かに。言葉が通じるなら楽しく遊べるからなあ。何にせよ良かったな。新しい出会いがあって」
「うん。仲良く出来たらなって思ってる」

気ままなソロプレイは続けるつもりだけど、誰かと一緒に遊ぶのもまた楽しい。









「極海鳥の卵スープめちゃうまですね。でも高いからあんまり食べられない……」
アランさんと海辺の丘の白い街の高級レストランで食事をしている。
目も舌もこれ以上ないほど至福です……。

「現実にない味をVRで味わえるって不思議な感覚だよね。ヘッドセットの口に含む部分だけでそれが可能なんだからテクノロジーは凄い」
「難しいことはわからないですけどね。恩恵を受けられるのは素直に嬉しいです」

俺は小さな器に入ったスープを残さずスプーンですくった。

「極海鳥の卵を取ってくるクエストもあるらしいよ。報酬も良いし、余ったらレストランに持ち込んで料理してもらう事も可能らしい。極海鳥の巣は断崖絶壁の上にあるらしいけど行ってみる?」
「え、うーん。高所恐怖症なんですよね。どうしよう」

ロッククライミングはハードルが高い。

「じゃあさ、ツーの風魔法で、僕を断崖絶壁の上まで飛ばしてもらうのはどうかな。それならツーが上に行く必要も、絶壁を登る苦行も避けられるし」
「飛ばせるかな……」
「ものは試しだ。食事が終わったら行ってみよう」
「は、はい」


アランさんは行動で示すタイプみたいだ。









〈無事到着。卵も発見。でも下には自力で降りるしかないみたいだね。失念してたよ。卵はインベントリに入れたから心配しないでね。じゃあ今から降ります〉
〈気をつけて!〉

メッセージ機能でもちゃんと翻訳されてるらしく、俺でも読めている。
でもアランさんは本当に外国人らしい。欧州の人らしいけど、詳しいことは教えてくれないので、俺からも聞いていない。
関係が壊れることが怖いので、今のままでいいかなとも思っている。

本音はちょっと寂しいけど、。


俺は崖を見上げて、アランさんが降りてくるのを待つ。

まだアランさんと行動したのは海辺の丘の白い街周辺だけだけど、アランさんはその美しさからどこでも目を引いていた。
百九十近くある長身もサラサラの髪も端正な顔立ちも均整の取れたしなやかなモデルのような身体も、華やかなのに透明感がある雰囲気も、優しい眼差しも、たまに見せる冷たさにも惹かれていた。
近付きたいのに、今以上近付いたらいけないような、神聖さともどかしさがあった。



「俺のことどう思ってるんだろう……」

知りたいけど、知るのは怖い。


アランさんがもし上から落ちて来ても、風によって衝撃を吸収出来るようにと、いつでも魔術が発動出来るように目を凝らして上を見上げる。
アランさんはそんなヘマなんてしないかな。


アランさんも一応魔法が使えるから心配し過ぎるのも失礼な気がするけど、出来るサポートはしたい。

魔術は魔法よりも強力だし。


「無事に降りて来てくれますように」


今日の空も快晴なので、雨で手や足が滑るなんてことも無さそうだし、そこは、安心かな。
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