君が好き。

hina

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ペンダントを受け取ってからしばらく経った日の夕方。
僕は変わらずにウェイターとして働いていた。


「鴨肉のポワレ、柑橘ソース添えでございます」

「やっと見つけた。レイリア、今までどこに隠れていたんだい」

耳元でねっとりと囁かれ、全身が震えた。
鳥肌が立ち、寒気がする。

僕の好きな男とは異なる声と体温に身体が硬直した。


「お客様、こちらへどうぞ」

ロビンが僕に近付いた男─ダロムに声をかけるが、ダロムは軽く片腕をあげて手を振り、ロビンを下がらせた。

「私の家に行こう、レイリア」
「は、離してください! 僕は一緒に行きません!」

またあの時のように強い力で腕を掴まれて僕は慌てた。
掴まれていない方の手でペンダントを握り、魔導具を起動させる。
「レイリア?」とカイルの声がしたけれど、答える余裕はなくて、お客様の一人がダロムを窘める声がホールに響いた。
「君、その人を離しなさい。嫌がっているじゃないか」
「嫌がってる? 恥ずかしがってるだけだ」
「そうは見えないが……」
「黙れ」

「すぐに行く」とカイルが告げて、魔導具が静かになるけど、通信は続いているようだった。
ごく小さな音で物音が聞こえている。

ウェイターの一人が僕の肩を叩き、ダロムの手を引き剥がした。

「邪魔をするな! 私はレイリアを連れて帰る!」
「レイリア、裏へ」

手を引き剥がしてくれたウェイターの言葉に頷いて、僕はお店の裏へ走った。
ダロムはその人が引き止めてくれている。

僕は更衣室に行き、部屋の鍵を閉めるとカイルに語りかけた。

「カイル、取り敢えず安全な場所に避難したよ。お店の更衣室にいます。カイルが来るの待ってる」
「レイリア、今向かってる。ダロムは禁止薬物を輸入販売したの罪等で捕らえる事になったから安心して欲しい」
「そっか。もう不安になることはないんだね」
「だが危険はそこかしこに転がっているからな。レイリアは美しいんだ。気をつけなければダメだ」
「僕が美しいなんて……」
「事実だ。これから馬に乗るから通信を切るが、そこから動くなよ」
「分かった。気をつけてね、カイル」
「すぐに終わらせて、レイリアを抱き締めたい」
「えー」
「また後で、レイリア」
「うん」

そこで通信が途切れる。


馬で送り迎えをしてくれる時も、僕が前で後ろがカイルで密着したりするから、抱き締められるのは前よりも抵抗なく受け入れられる。
心臓はうるさいけれど。
でも前から抱き締められるのはまた違うかもしれない。

カイルを拒まないことに決めた僕は、少しの期待を滲ませながらカイルを待った。
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