悪役令息は未来を憂う

hina

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「殿下ー、甘いものはお好きですか? 僕マフィンを焼いてきたんです! ぜひ食べて下さい! あ、リュシアン様もどうぞ」
「すまないが、私達は立場上、検査をしていないものを口にしない。ダメになってしまうし、それは他の人とでも食べてくれ」

僕の怪我が治って学園に復帰して三日目。

結局、カミルには許してもらえなくて、またカミルとノアの三人でテーブルを囲んでいる。
カミルもノアも何を思ってこの席についているのだろう。

「残念ですー。せっかく作ってきたのになぁ」

持ってきた鞄に袋に包まれたマフィンをしまうノアを見ながら僕は肩を落とした。

「リュシアン、どうした? まだ身体が痛むか?」
「あ、ううん。そんなことない」
「だが、元気がないように見えるが」
「うーん。痛くはないけど、まだ違和感がある、かも……」

ギシギシ音を立てているのは、心の方だけど……。

「ならば、医務室に行こう。無理は良くない」
カミルが向かいの席で心配そうに僕を見つめる。

「そこまでじゃないよ」

僕は安心させるように微笑むけど、カミルの顔は曇ったままだ。

「リュシアン。私も付き添うから」
「でも……」
「何かあってからじゃ遅い。見てもらうだけでも違うだろう?」
「わかった……」

食事は終わっていたので、カミルが席を立つ。

「殿下、また明日会いましょうね!」
「ああ……。リュシアン、行こう」

ノアを一瞥したカミルの目が冷たくて、僕は思わず震えてしまう。


足早にその場を去るカミルに小走りでついて行きながら、僕はカミルが何を思っているのか、思い切って聞いてみることにした。


「カミル、カミルはどうしてノアを同席させるの?」
「え? リュシアンが連れてきてるんじゃなかったのか?」
「え? 僕は誘ってないけど……」
「ならば勝手に同席していたということか……」
「えぇ……」
思わぬ事実が発覚して、複雑な気持ちになる。
ノアは何を考えているんだろう。
王太子と公爵家次男の食事に勝手に同席するなんて、普通に不敬だし……。

「ディーン、明日から昼は特別室を使う。すまないが手配してくれ」
「かしこまりました。私はこの場を離れますので、殿下とリュシアン様は先に医務室へ」
「頼む」

後ろを歩いていたカミルの護衛騎士のディーンさんが礼をして、食堂の方へ戻っていく。
ディーンさんが離れても、姿を隠した影がカミルには付いている。
学園ではさすがに帯剣していないけど、カミル自身も剣も魔法も凄く使えるし……。


今までは大食堂の一角で食事をしていたけど、明日からは王族や高位貴族だけが使える特別室で食事するみたい。

僕はほっとして、息を吐き出した。

「ノアの同席が、カミルの意思じゃなくて良かった……」
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