2 / 15
2
しおりを挟む
◇
「失礼する。リュシアン、大丈夫か? 全身を打ったんだろう? 抱きしめるのは……まだ無理か」
「カミル……」
部屋の扉がノックされ、返事をするとカミルが入ってきた。
僕が目を覚ました翌日、カミルは公爵家までお見舞いにやってきた。
「僕は大丈夫だよ。身体は痛いけど、昨日も魔法師に治癒魔法をかけてもらったんだ。今日も治療してもらう予定だし」
公の場ではない時は敬語を使わないでいいと言われているので、親しげに話す僕は、合わせた顔に泣きそうになる。
「そうか。今はゆっくり休もうな。顔を見るまで気が気じゃなかった……」
「カミル、お願いがあるんだ」
「お願いか……。何でも言って」
百八十を超すバランスのとれた長身に、白銀に輝く背中まである長い髪。切長の淡い紫の瞳。鼻筋はすっとしていて、薄すぎず厚すぎない形の良い唇は柔らかに微笑んでいる。
「学園でのお昼のことなんだけど……これからはカミルとじゃなくて僕の友人達と一緒に食べることを許して欲しいんだ」
「なぜ?」
カミルが笑顔から険しい顔になる。
「え?」
「なぜそんなことを言うんだ。私と共にいるのは嫌なのか? ただでさえ、放課後や休みの日も王太子の仕事が忙しくてリュシアンとの時間がなかなか取れないし、私はリュシアン不足なのに」
「僕不足って……」
いつまでその好意を僕に持っていてくれるのか、びくびくしながら過ごすのが嫌なんだ。
「カミルには、ノアがいるし……」
「ノア? ああ、あの子爵家の」
主人公のノアは僕と同じΩの可愛い系男子だ。
甘い花の香りのフェロモンが漂う魅力的な人……。
「リュシアンが彼に遠慮する事はない。私の婚約者はリュシアンだけだ」
そう言ってくれるのも今のうちだけかと思うと、心が痛い。
「なっ、泣かないでくれ、リュシアン。今は抱きしめられないのに」
気が付けば僕の瞳からポロリと涙がこぼれ、自覚した途端、次から次へと止まらなくなってしまった。
「違、違う、僕は、カミルが嫌なんじゃなくてっ……」
「そうだな。悪かった……友人達と親睦を深めたいんだよな。でも私との時間がなくなってしまうのは容認出来ないよ」
頭では分かっていても、感情は思う通りにならなくて、でも嫉妬する権利も僕にはないような気がして、途方に暮れてしまう。
「頭には触れてもいい?」
カミルに聞かれて、小さく頷く。
カミルは仕方ないなと呟いて、緩く僕の頭を撫でた。
その動作がとても優しくて、僕はもっと泣いてしまったのだった。
「失礼する。リュシアン、大丈夫か? 全身を打ったんだろう? 抱きしめるのは……まだ無理か」
「カミル……」
部屋の扉がノックされ、返事をするとカミルが入ってきた。
僕が目を覚ました翌日、カミルは公爵家までお見舞いにやってきた。
「僕は大丈夫だよ。身体は痛いけど、昨日も魔法師に治癒魔法をかけてもらったんだ。今日も治療してもらう予定だし」
公の場ではない時は敬語を使わないでいいと言われているので、親しげに話す僕は、合わせた顔に泣きそうになる。
「そうか。今はゆっくり休もうな。顔を見るまで気が気じゃなかった……」
「カミル、お願いがあるんだ」
「お願いか……。何でも言って」
百八十を超すバランスのとれた長身に、白銀に輝く背中まである長い髪。切長の淡い紫の瞳。鼻筋はすっとしていて、薄すぎず厚すぎない形の良い唇は柔らかに微笑んでいる。
「学園でのお昼のことなんだけど……これからはカミルとじゃなくて僕の友人達と一緒に食べることを許して欲しいんだ」
「なぜ?」
カミルが笑顔から険しい顔になる。
「え?」
「なぜそんなことを言うんだ。私と共にいるのは嫌なのか? ただでさえ、放課後や休みの日も王太子の仕事が忙しくてリュシアンとの時間がなかなか取れないし、私はリュシアン不足なのに」
「僕不足って……」
いつまでその好意を僕に持っていてくれるのか、びくびくしながら過ごすのが嫌なんだ。
「カミルには、ノアがいるし……」
「ノア? ああ、あの子爵家の」
主人公のノアは僕と同じΩの可愛い系男子だ。
甘い花の香りのフェロモンが漂う魅力的な人……。
「リュシアンが彼に遠慮する事はない。私の婚約者はリュシアンだけだ」
そう言ってくれるのも今のうちだけかと思うと、心が痛い。
「なっ、泣かないでくれ、リュシアン。今は抱きしめられないのに」
気が付けば僕の瞳からポロリと涙がこぼれ、自覚した途端、次から次へと止まらなくなってしまった。
「違、違う、僕は、カミルが嫌なんじゃなくてっ……」
「そうだな。悪かった……友人達と親睦を深めたいんだよな。でも私との時間がなくなってしまうのは容認出来ないよ」
頭では分かっていても、感情は思う通りにならなくて、でも嫉妬する権利も僕にはないような気がして、途方に暮れてしまう。
「頭には触れてもいい?」
カミルに聞かれて、小さく頷く。
カミルは仕方ないなと呟いて、緩く僕の頭を撫でた。
その動作がとても優しくて、僕はもっと泣いてしまったのだった。
111
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。


婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる