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結局前世のことを聞けたのは、次の日の朝のことだった。
おなじみになった畑までの道、僕はどこまで話を聞いて良いのか分からないまま、話を切り出した。
「あの、前世の僕達は愛し合っていたんですか?」
「聞く気になってくれたのか! ああ、愛し合っていた。と言っても、それは身体を重ねるようになって二年半たった頃から半年の間だけだったが」
あれ……、僕は性奴隷になってからは二年間くらいの記憶しかない。記憶の抜けてる一年間に、何があったというのだろうか。
「半年間だけですか。随分短いですね」
「だけど、愛は本物だった。幸せだった。満たされていた。もっと続くはずだったんだ。お前が……シェイルが殺されなければ」
「殺された……!?」
「シェイルに嫉妬した臣下の女による毒殺で、解毒魔法が使えた俺のいない間を狙った計画的殺人だった。その女は極刑に処したが、今でも怒りの炎は消えぬままだ」
「そんなことがあったんですか……」
腹上死じゃなかったんだ……ってでも、半年間も親密に過ごしていたのか……想像出来ない。
臣下がいた事や極刑に処せる立場にあったことに触れた方がいいのか迷ったが、口に出す前に会長が話し出す。
「俺は憔悴したし、後悔もした。どうして解毒魔法を教えなかったんだろうと。だからユーリ、今日は解毒魔法を教えるから覚えてくれ」
「えっ!」
「何か予定があるのか? それとももう使えるのか?」
「ありませんし、使えませんけど……」
「なら決まりだ」
会長は何故かご機嫌である。僕は釈然としないものを抱えながら、会長に繋がれた手を引っ張られていた。
まあ、解毒魔法は使えた方がいっか。
◇
「雨だなんてついてないよね」
「外に隠れられないのは痛いよな」
「森の中に隠れようとしてたんだけどなあ。どうしよう」
「雨を気にせず、そのまま隠れるとか」
「風邪引くほうがツラい」
新入生歓迎会当日。一旦講堂に集められた全校生徒を前にシモン副会長が隠れんぼのルールを説明している。
僕は新入生に配られた目印になる赤いバンダナを腕に巻きながら、ルネとケネスと話していた。
見つけられたら、バンダナを上級生に渡して、この講堂に戻ってくることになる。
上級生がこのバンダナをいっぱい集めると、数に応じて賞品と交換出来るらしく、上級生も熱が入っている。
風紀委員は隠れんぼの間見回りをするので、腕章をつけて不参加になるらしい。
「ユーリはどこに隠れる?」
「人がいるところ」
「なんだそりゃ」
「職員室の机の下に隠れさせてもらおうかなって考えてる」
「おー。でも気をつけないと扉や窓から見えるぞ」
「最後まで隠れる気もないし、見つかったら見つかったで仕方ないかなって」
「そうか。俺はどうしようかな。狭くて暗い備品室に隠れるか、灯台下暗しで講堂に隠れるか」
「講堂は探す先輩多いかも? ケネスは身体が大きいから隠れるのは不利だね」
隣に座っているケネスの肩を叩く。
「お前ら二人は比較的小さいからいいよな。俺は俺で逃げながら隠れられる場所を探すさ」
「それでは今から二十分以内に隠れて下さい。よーい、スタート!」
「じゃ、健闘を祈る!」
「僕も!」
「お互い様にね!」
僕達はかけ声と同時に椅子から立ち、駆け出した。
身体を小さくして体育座りをしているせいか、あちこち固まってしまっている。伸びをしたいけど、狭い机の下なので、身動きが取れない。
無事に窓からも扉からも見えない位置の机に隠れられたものの、一時間半この体勢はキツいかもしれない。
たまに先生の足にぶつかりながら、早く見つかりたいと切実に思った。
「いないかなあ」
三十分くらい経った頃。ついに誰か上級生がやってきたようである。
鬼ごっこではないので、見つかったら終わりだ。やっと終われる。
「先生、ちょっと良いですか?」
「あ、ああ」
「見つけた!」
「見つかっちゃいました。先生、有り難うございました」
「残念だったね。何度か蹴ってしまって悪かったね」
「いえ、お気になさらずに」
僕は机の下から這い出て、隠してくれていた男性の先生と、知らない女の先輩の前に立った。
腕からバンダナを解いて先輩に渡す。
「どうぞ」
「有り難う」
「では、失礼します」
さ、僕は講堂に向かおう。
「~♪」
講堂に戻る途中。
「ユーリ」
「おわっ!? 会長、驚かさないで下さい!」
「お前、どこまで記憶が戻っているんだ? 今の歌も吟遊詩人に教わったとか言わないよな?」
「いえ、そうですよ! 旅の途中で我が家に滞在していたので、沢山の歌を教わりました」
また油断してこの間とは違う前世の歌を口ずさんでいたら、また後ろから肩を叩かれた。
この前世の歌は前世の僕の自作である。
性奴隷として監禁されていた時に作った歌だから、魔王しか知らないのだ。
「それで、その吟遊詩人は今どこにいるんだ?」
「……そんなことより、会長は探さなくていいんですか?」
「ずっと前からお前だけを探していたんだ」
「僕じゃないですよ」
「いや、お前だ。間違えるはずがない」
「会長の前世の人と愛し合った記憶なんてないですし」
あるのは魔王に凌辱された記憶だけ。
もし本当に愛し合えていたのなら、その記憶を取り戻したかった。
そしたら、会長の事も愛せていたかもしれないのに……。
おなじみになった畑までの道、僕はどこまで話を聞いて良いのか分からないまま、話を切り出した。
「あの、前世の僕達は愛し合っていたんですか?」
「聞く気になってくれたのか! ああ、愛し合っていた。と言っても、それは身体を重ねるようになって二年半たった頃から半年の間だけだったが」
あれ……、僕は性奴隷になってからは二年間くらいの記憶しかない。記憶の抜けてる一年間に、何があったというのだろうか。
「半年間だけですか。随分短いですね」
「だけど、愛は本物だった。幸せだった。満たされていた。もっと続くはずだったんだ。お前が……シェイルが殺されなければ」
「殺された……!?」
「シェイルに嫉妬した臣下の女による毒殺で、解毒魔法が使えた俺のいない間を狙った計画的殺人だった。その女は極刑に処したが、今でも怒りの炎は消えぬままだ」
「そんなことがあったんですか……」
腹上死じゃなかったんだ……ってでも、半年間も親密に過ごしていたのか……想像出来ない。
臣下がいた事や極刑に処せる立場にあったことに触れた方がいいのか迷ったが、口に出す前に会長が話し出す。
「俺は憔悴したし、後悔もした。どうして解毒魔法を教えなかったんだろうと。だからユーリ、今日は解毒魔法を教えるから覚えてくれ」
「えっ!」
「何か予定があるのか? それとももう使えるのか?」
「ありませんし、使えませんけど……」
「なら決まりだ」
会長は何故かご機嫌である。僕は釈然としないものを抱えながら、会長に繋がれた手を引っ張られていた。
まあ、解毒魔法は使えた方がいっか。
◇
「雨だなんてついてないよね」
「外に隠れられないのは痛いよな」
「森の中に隠れようとしてたんだけどなあ。どうしよう」
「雨を気にせず、そのまま隠れるとか」
「風邪引くほうがツラい」
新入生歓迎会当日。一旦講堂に集められた全校生徒を前にシモン副会長が隠れんぼのルールを説明している。
僕は新入生に配られた目印になる赤いバンダナを腕に巻きながら、ルネとケネスと話していた。
見つけられたら、バンダナを上級生に渡して、この講堂に戻ってくることになる。
上級生がこのバンダナをいっぱい集めると、数に応じて賞品と交換出来るらしく、上級生も熱が入っている。
風紀委員は隠れんぼの間見回りをするので、腕章をつけて不参加になるらしい。
「ユーリはどこに隠れる?」
「人がいるところ」
「なんだそりゃ」
「職員室の机の下に隠れさせてもらおうかなって考えてる」
「おー。でも気をつけないと扉や窓から見えるぞ」
「最後まで隠れる気もないし、見つかったら見つかったで仕方ないかなって」
「そうか。俺はどうしようかな。狭くて暗い備品室に隠れるか、灯台下暗しで講堂に隠れるか」
「講堂は探す先輩多いかも? ケネスは身体が大きいから隠れるのは不利だね」
隣に座っているケネスの肩を叩く。
「お前ら二人は比較的小さいからいいよな。俺は俺で逃げながら隠れられる場所を探すさ」
「それでは今から二十分以内に隠れて下さい。よーい、スタート!」
「じゃ、健闘を祈る!」
「僕も!」
「お互い様にね!」
僕達はかけ声と同時に椅子から立ち、駆け出した。
身体を小さくして体育座りをしているせいか、あちこち固まってしまっている。伸びをしたいけど、狭い机の下なので、身動きが取れない。
無事に窓からも扉からも見えない位置の机に隠れられたものの、一時間半この体勢はキツいかもしれない。
たまに先生の足にぶつかりながら、早く見つかりたいと切実に思った。
「いないかなあ」
三十分くらい経った頃。ついに誰か上級生がやってきたようである。
鬼ごっこではないので、見つかったら終わりだ。やっと終われる。
「先生、ちょっと良いですか?」
「あ、ああ」
「見つけた!」
「見つかっちゃいました。先生、有り難うございました」
「残念だったね。何度か蹴ってしまって悪かったね」
「いえ、お気になさらずに」
僕は机の下から這い出て、隠してくれていた男性の先生と、知らない女の先輩の前に立った。
腕からバンダナを解いて先輩に渡す。
「どうぞ」
「有り難う」
「では、失礼します」
さ、僕は講堂に向かおう。
「~♪」
講堂に戻る途中。
「ユーリ」
「おわっ!? 会長、驚かさないで下さい!」
「お前、どこまで記憶が戻っているんだ? 今の歌も吟遊詩人に教わったとか言わないよな?」
「いえ、そうですよ! 旅の途中で我が家に滞在していたので、沢山の歌を教わりました」
また油断してこの間とは違う前世の歌を口ずさんでいたら、また後ろから肩を叩かれた。
この前世の歌は前世の僕の自作である。
性奴隷として監禁されていた時に作った歌だから、魔王しか知らないのだ。
「それで、その吟遊詩人は今どこにいるんだ?」
「……そんなことより、会長は探さなくていいんですか?」
「ずっと前からお前だけを探していたんだ」
「僕じゃないですよ」
「いや、お前だ。間違えるはずがない」
「会長の前世の人と愛し合った記憶なんてないですし」
あるのは魔王に凌辱された記憶だけ。
もし本当に愛し合えていたのなら、その記憶を取り戻したかった。
そしたら、会長の事も愛せていたかもしれないのに……。
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